第3話 ストーカー?

「まだ一ヶ月は経っていない」


 とはいえ、激しい運動を禁止されるのは暇だなぁ。


「大切にされている。それはわかる」


 そう、大切にされているのだ。

 俺だけじゃない。戦士になれる人材は貴重だ。

 新人類として遺伝子操作を受けて生まれてくる子供……彼ら彼女らは、生まれる前の検査によって適性があるかを判断されて執り行うかを決めるのだが、やはり希少な人材だ。

 旧人類の戦士の数も彼らよりは大分多いとはいえやはり少ない。


 消耗品じゃないのだ。したくてもするわけにはいかないし、もはや地位が築かれている。

 被差別階級である下階級の人たちであっても、戦士になれば、少なくとも一般人からは敬われるんだからな。

 大事に扱われている。少なくともこんなところで焦って訓練させて無惨に散らすことは許されない。


「でも、することがない」


 俺は今まで、暇さえあれば剣を振るか怪物どもの生態などを調べていた。

 生態なんかはもう調べ尽くした。

 この宿舎に来てからは特に調べた。することもないのでタブレットで飽きるほど読みまくった。


 だから、もうすることがない。

 これまではとにかく生きるため足掻いていたから暇がなかったが、それをする必要がなくなれば今度は暇を嘆く。なんとも贅沢だ。


 ……となると、何をする?

 この一ヶ月の差は大きい。成り上がるために同期と差をつけるための機会になる。

 だけど、直接的な力をつけることはできない。


 ……とりあえず、アーカイブで戦闘指南を見まくろうか。

 基礎編と基本編はとりあえず理解した。

 応用編、発展編、そして秘奥義編も頭に入れた。

 親からの英才教育もあるからな。スッと頭に入ってくるのよ。


 でも、わかってないのに理解した気になるのが一番危ないとかよく物語の師匠キャラたちも言ってたからな。

 うん、見まくろうか。


 あとは、大先輩に話を聞かせてもらおうかな。

 強すぎるから逆に、敗北してほしくないという願望が生まれたのだろう。

 あの人は今はあまり戦わせてもらえないようだ。


 どうしようもなく危険な怪物が現れたときだけ最終手段で戦うことになっている。


 戦闘映像のアーカイブや公開されている範囲のデータを見た限りでも、中型種やそこらの大型種相手ならば素手に素っ裸で立ち向かわせても絶対死なないと断言できるくらいにはぶっ飛んで強いと思うんだけど……それでも不安になるのが人間心理かな。


 暇してるだろうから、明日にでも遊びに行こうか。

 今日はとりあえず戦闘指南を見よう。見まくろう。


「……ふむ。なるほど、そんな戦い方もアリなのね」


 そうして一日が終わる。


 そして次の日……大先輩を昨日唐突に誘ったのだが、普通にオーケーしてくれた。

 暇しているとはいえめっちゃ偉い立場であろうにフットワークが軽いと思った。


 そんなこんなで、部屋に招いている。


「……うーん、殺風景だね。もっと可愛いお部屋を想像してたよ。契約金として結構なお金が渡されていると思うけど、使わないの?」


「しばらくは武装にお金をかけたい。今は見た目を繕っている暇はないわ」


 そもそも、俺は元男なわけだから可愛い部屋とかにすることは……多分ないと思う。

 脳も女になったようだから断言はできないけど、趣味嗜好はそこまで変わっていないように思える。全く変わってないとは言わないけど。

 女の子らしい特徴としては……甘味にはたしかに目がないけど、それはもともと大好きだからだし。近頃はなかなかありつけなかったのに選ばれてからはかなりの頻度で食べられるようになったのも大きい。

 他にはそれらしいところはないと思う。


 せいぜい、己の身だしなみが気になるようになったくらいか。

 それは単に社会の底辺層から抜け出したから余裕が出ただけかもしれないし、衣食が足りるようになったからできるようになったことでもある。


 ……わからんな。



「もったいないわよ。しかも服もジャージって!それはそれで可愛いけど、もうちょっと可愛い服を着ようよ!」


 それは流石に抵抗があるというか……。

 あと女物のデザインの凝った服は単純にバカ高いんだよ。

 武装に金をかけたいんだ俺は。


 生き残るためだからいいだろう!?


「別に、ジャージで事足りてる。機能性はお気に入り。もう同じのが10着はある。式典には礼服着ていけばいいだけよ」


「……はぁ、せっかく美少女として生まれた……いや、美少女になったんだからおしゃれくらい楽しみなさい!」


 ……俺の元の性別を知っていたのか?ならば、あのときの反応はどういうことだったのだろうか。まるで俺が元男だということを知らないようだったが……。


「知っていたの?」


「あなたがあまりにも異質な雰囲気をしていたからね。興味が尽きなくて、思わず調べ抜いちゃったわ。その結果、すぐにわかった。特別強く隠蔽されているわけでもないしね。なんなら一般層でも知ろうと思えば知れたでしょうし」


「なるほど。ならわかったと思うけど、私は可愛い服に興味なんてないわ」


「……ふーん?へ〜?その割には自室の鏡の前で満足気にしているところを良く見たけど?」


 大先輩がニヤニヤしながら俺を見ていた。

 ……ストーカーかよ!?

 いや、そんなわけはないだろうけど……なぜそんなことを?


「なぜ?」


 思ったときには口に出てしまっていた。


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