第6話 仕事完了

 ドワーフのみなさんは八名だが、念信という念じる事で、遠くの誰かを連絡を取る事が出来る。

 人数不足のため、この力を使ってセルが仲間を呼んだ。

 結果、まず近くにいたらしいドワーフたちが二十人程やってきて、セルから事情を聞くと作業を始めた。

「なに、これからもっと集まってくるぞ。少なくとも、百人は集まるはずだ。ドワーフの集落には転送魔法が付与された石像があってな。もう一時間もあれば集まるはずだ。報酬のミスリル原石が、さっそく役にたったな」

 セルが笑った。

「百人って…。まあ、そういうのは専門外だから任せるよ」

 あたしは苦笑した。

「ああ、任せろ。ほれ、どんどんくるぞ」

 セルが笑い、地面に次々と魔法陣…いや、召喚術に使うサモンサークルが描かれ、中からドバドバとドワーフたちが現れた。

「おう、セル。どうした?」

 筋骨隆々としたドワーフの一人が、セルに声をかけた。

「ああ、ちっとトンネルを掘らなきゃならん。作業は任せた。俺は多人数の指揮は苦手だからな」

 セルが笑った。

「全く、相変わらずだな。よし、まずは試掘しようか。あとは任せろ」

 そのドワーフは笑い、みんなが集まっている場所に向かっていった。

「なんか、凄い事になったね」

 あたしは苦笑した。

「はい、ただの護衛だったのに、お祭り騒ぎになってしまいました」

 イースが笑った。


 都合二百名ほど集まったドワーフのみなさんの作業は圧倒的に早く、馬車がギリギリすれ違えられる幅の立派なトンネルが、どんどん出来上がっていった。

 外に吐き出される土砂がドンドン山になり、ただ見ているだけでは申し訳ないが、あたしたちに出来る事はないので、イースと一緒にたき出しをしたり、地下水脈から組み上げた水を魔法で温めて、簡易的なシャワールームを作ったりして、サポート作業に徹した。

「よく分からないけど、五十人づつ交代しているみたいだね」

 あたしは坑道から出てくるドワーフたちの様子を見ながら、誰ともなく呟いた。

「そうですね。シャワーではなく、お風呂が良かったのですが…やります?」

 イースが笑った。

「そうだね。イースがやれっていうからやる」

 あたしは地下に向けて探査魔法を使った。

「ちょっと、なんで私なんですか。さりげなく、責任転嫁しないで下さい!」

 イースがボコっと、あたしの頭にゲンコツを落とした。

「ん?  よくいうじゃん。自分の責任は相手のもの相手の責任は相手のものって」

 あたしが笑みを浮かべると、今度はイースのグーパンチがあたしの右頬にめり込んだ。

「どこの誰ですか!」

「うん、あたし!」

 あたしがニコニコ笑顔で答えると、今度はエルボーがとんできたので、さっと避けた。

「避けましたね。いいでしょう。これなら、どうですか…」

 ブチッとキレたイースの呪文は、構文からして攻撃魔法。

 ほぼ全自動で、あたし防御魔法を使った。

 イースが放った爆発系攻撃魔がもろに自分に跳ね返り、イースが爆音と共にぶっ飛んでいった。

「甘いな。魔法であたしに勝とうなんてね」

 あたしは笑い、地下の探索に戻った。


 ズタボロイースが戻ってきた頃には、あたしの地下探索は終了していた。

「イース、湯船作って。さすがに温泉はなくてただの水だから、給湯器もつくらないと」

 あたしが笑うと、なんだかしょんぼりしながらイースがブツブツ呪文を唱え、巨大な湯船を作った。

「…くそ、やっぱりリズには勝てない」

 イースがやはりブツブツいいながら、炎の魔法を使って水を温める仕組みを作りあげ、ついでに大きな脱衣所と柵も作った。

「はい、お疲れ!」

「はいはい、なんであの反応速度で防御魔法を使えるのですか…ブツブツ」

 イースがブチブチいいながら、あたしの頭をコツンとした。

「イースの攻撃魔法は丁寧過ぎて発動が遅いんだよ。コンマ数秒の差がこの結果。勉強しなさい」

 あたしは笑った。

「おっ、気が利くな。使っていいか?」

 ちょうど交代したらしく、エルフの一団がやってきた。

「うん、そのために作ったから。湯加減は念じれば調整出来るから、試してみて」

 あたしは笑った。

「そうか、ではさっそく使わせてもらうぞ。みんな、風呂だ」

 ドワーフのみなさんから歓声があがった。

「さて、これで少し疲労が抜けるかな。あとは、作業を見守ろう」

 あたしは笑みを浮かべた。


 セルがいうには風呂があったかららしいが、結局三日でトンネルが完成してした。

 数ヶ月かかるなと思っていたが、あまりの速さに驚いた。

「なに、ドワーフの手に掛かれば、この程度造作もない。全員に報酬のミスリル原石を渡して元いた場所に戻ってもらうから、少し待ってくれ」

 セルが笑い、集まっていたドワーフのみなさんに挨拶をしてミスリル原石を手渡し、そのそばから、すでに地面に描いてあるサモンサークルを使って帰っていった。

「三日の遅れか。まあ、許容範囲なのかな」

 あたしは笑った。

「笑っている場合ですか。あんなところで、無駄にオメガ・ブラストなんて」

 イースがため息を吐いた。

 ちなみに、オメガ・ブラストは、あたしが開発した自身最強の攻撃魔法だ。

 ドラゴンだってなんだって蒸発させることが可能だが、収束モードにしても効果範囲が広すぎるのが難点だった。

「いいじゃん。大は小を兼ねるっていうじゃん!」

 笑顔のあたしに、イースは額に指を当ててため息を吐いた。

 結局、一時間くらい掛かって全員が帰ると、セルはコキコキと首を鳴らした。

「うむ、なんとかなったな。ところで、この風呂はどうするのだ?」

 セルが巨大な風呂を指さした。

「うん、当然埋める。なるべく道の端に寄せたけど、邪魔になっちゃうからね」

 あたしは笑った。

「そうか、もったいないな。このままでよくないか。どのみち、ここを通るのはこの辺りの者だけだろうからな」

 セルが笑った。

「まあ、そういうならそうするよ。じゃあ、行こうか」

 こうして、あたしたちは本来の目的地であるアルデに向かって歩きはじめた。


 どんなものかと思ったが、トンネルはきちんと整備され、壁には松明で明かりが点されていて、湿気っぽかったがそれなりにいい環境だった。

「うむ、急いだわりにはそれなりのものが出来たな。じっくり時間をかければ、もっとよく出来たが、及第点だろう」

 セルが唸った。

「これで十分だと思うけど、気に入らないの?」

 あたしは苦笑した。

「うむ。まあ、いいだろう。そろそろ抜けるぞ」

 トンネルの向こうから光が見えてきて、あたしたちは無事に反対側に抜けた。

「よし、先を急ごう。我々先遣隊が調査しないと、本格的な採掘が出来ないからな。もし当たりなら村との交渉もある。そこまでは仕事に入っていない。あくまでも、村への護衛だけだからな」

 セルが笑みを浮かべた。

「分かった。この先は変な輩も少ないし、比較的楽だと思うよ」

 あたしは笑みを浮かべた。

「うむ。よろしく頼む」

 セルが笑みを浮かべ、あたしは軽く頷いた。

 トンネルを抜けた先は、大雨でも降ったのか泥濘地になっていた。

「これは酷いね。まあ、元々汚れているからいいけどね」

 あたしは笑った。

「これは、普通に歩くだけでも大変ですよ。とりあえず、板を敷きましょう」

 イースが呪文を唱え、半透明の板が次々に伸びていった。

「さすが、イース。こういうの得意だね」

 あたしは笑みを浮かべた。

「はい、補助系は任せて下さい」

 イースが笑った。

「うむ、魔法は便利だな。よし、進もう」

 セルが笑い、あたしたちはやや坂になっている道を登っていった。

「今のところ異常はないね。イース、こういう時ほどなにかあるよ。気を付けて」

 あたしは殿のイースに声をかけた。

「はい、分かっていますよ。これでも、ちゃんと警戒していますから」

 イースが笑った。

「まあ、一応確認ね。さっさといこう」

 あたしは笑い、もちろん警戒しながら先頭を進んだ。

 しばらく進んだところで、イースが声を上げた。

「敵襲。魔物です!」

 その声に反応して、あたしは肩から提げていたAK-47を構えた。

「詳細分かる?」

「はい、ゴブリンですね。数は二十。九時方向、崖を登っています」

 イースが返した時、ちょうどゴブリンたちが道を塞いだ。

「ふん、大した事はないか」

 ゴブリンは一体一体は大した事はないが、集団になると手強い。

 幸い、二十体程度なら問題なかった。

 あたしは構えていたAK-47のトリガーを引いた。

 連射モードで発射されたあたしの弾丸は、悲鳴を上げて逃げ惑うゴブリンたちを次々倒し、戦闘ともいえない戦闘は終わった。

「イース、他は?」

「はい、問題ありません。行きましょう」

 あたしの問いに、イースが答えた。

「さて、いくか。この辺りは魔物も少ないから、出遭う方が珍しいよ」

 あたしは笑った。

「はい、そうですね。一応、周辺探査魔法の精度を上げておきます。これで、問題ないでしょう」

 イースが笑った。


 途中何ごともなく、二度ほど野営して進んで行くと、目的地であるアルデ村に到着した。

「うむ、お陰で無事に着いた。これは、依頼完遂証明だ。あとは、我々の仕事だ。帰路も気を付けてな」

 笑みを浮かべたセルと握手を交わし、あたしとイースは、まず村の外れにある長距離バスの停留場に向かった。

「えっと、フロッグ方面は三時間後か」

 停留場の時刻表を見て、あたしは一息吐いた。

 なにせ、ここは山間の小さな村で、バスも午前便と午後便が一本づつあるだけだ。

 どうやら午後便に間に合い、あたしはホッとした。

「はい、間に合いましたね。まだ時間があるので、簡単な昼食を作りましょう」

 イースが空間ポケットから色々と調理器具や食材を取りだし、鼻歌交じりに調理をはじめた。

 ちなみに、毎回こうして公共交通機関を使うわけではない。

 そういうものがない地域ばかりだし、今回はたまたまあったから使うだけだ。

「あと十分待って下さいね。シチューにしました」

 ニコニコ笑顔のイースに笑みを返し、あたしは簡素なベンチに腰を下ろした。

 なお、あたしは料理が出来ない。食材に謝れというレベルだ。

 これはイースの仕事で、あたしは食べるだけだ。

「シチューね。よく食材が保ったね」

 あたしは笑みを浮かべた。

 事前の準備で買い込む食料の中に、肉などの生鮮食品も含まれるが、これはすぐに消費してしまう。

 あとは干し肉生活が待っているので、せめてそれまではという感じである。

「はい、少し強めに塩を振ってもらい、私の空間ポケットにある冷蔵ボックスに入れているという感じです。この前、改良したんですよ」

 イースが笑った。

「また器用な…。どうりで、ずっと干し肉が出ないわけだよ」

 あたしは笑った。

「はい、そういうわけです。さて、出来ました、食べましょう」


 昼メシを済ませ、待つ事二時間ほど。

 停留場に大形バスが滑りこんでくると、終点フロッグまでの料金を支払って席に座ると、派手なエンジン音と共にバスが発車した。

 車内はガラガラでほぼ貸切状態。

 ここには寄らない王都とフロッグを結ぶ高速便が主流なので、これは当然といえば当然だった。

「さて、今回は無駄に疲れたけど、なんとか終わったね」

 あたしは窓際に座っているイースに声をかけた。

「はい、エルフの集落はともかく、誰かさんが道を消滅させてしまいましたからね」

 イースがジト目であたしをみた。

「いいじゃん。崖沿いの危険な道から、安全なトンネルに切り替えできたんだから」

 あたしは笑った。

「結果論です。全く…」

 イースが苦笑した。

「まあ、いいじゃん。さて、ゆっくりしよう。ローカル便だから、フロッグに着くのは二日後だよ」

 長距離バスだけあって、座席はそれなりにしっかりしたもので、リクライニングの角度も大きい。

 その背もたれに身を預け、あたしはそっと目を閉じたのだった。

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