第59話 遺跡

 街の東門を出で、ケドラの後に続きひたすらに草原を走る。

 しばらくすると、大きな岩山が見え始めた。


「ケドラ、もしかしてあそこに遺跡があるのか?」

「はい! 記憶が正しければ、スーロの近くにある遺跡はここだけです」


 そして、見えていた岩山に辿り着く。

 岩肌の一部に自然に出来たとは思えない、綺麗な円形の穴が開いている。

 これが遺跡の入り口か。


 地面には、入り口の方へ向かう足跡が残されている。

 この足跡の大きさ的に、ミラの足跡っぽいな。となると、こっちはカレンのだろう。

 足跡の数的には、あの二人がここに入っていった可能性は高い。確証はないが、行くしかない。

 なんにせよ、直近で誰かが中に入っていったのは間違いないだろうしな。


 足跡を確認して、斜め後ろに居たケドラに中へ入る事を伝えようと振り返る。

 すると、ケドラの後方で横向きに倒れた馬車が残されているのが見えた。

 幌は破け、荷台からは積み荷が転がり落ちている。


 なぜ、こんな所に馬車が?

 誰か居るのか?

 

 近くに行き、馬車の周りを確認する。

 御者台には誰も居なかった。荷台を確認しても、積み荷の木箱が無造作に散らばっているだけで誰も居ない。

 積み荷の木箱を開くと、中には腐った果実が敷き詰められている。


 ぐっ、これは匂いがキツイな。

 思わず、指で鼻をつまむ。


 この腐り具合からして、今日や昨日からここにある訳じゃなさそうだな。

 少なくとも、一週間くらい前ってところか?

 

 念のため、馬車の付近も捜索をするが誰も見つからない。

 この馬車を使っていた商人は、恐らく遺跡の中に居る。

 だが、馬車の状況的に入ったのは間違いないだろうが、自主的に入ったわけじゃなさそうだな。

 商人にとって大事な移動手段である、馬車をこんな風に放置する訳が無い。


 だとすると、誰かに遺跡の中に連れていかれた可能性が高い。

 盗賊か? 山賊か? それとも魔物か?

 ここで考えても仕方がない、今はとりあえず中に入るしかないだろ。

 ミラとカレンはこの中に入った可能性があるんだ。

 俺たちの目的は彼女たちを無事に街に戻すことだ、そのついでにこの馬車の持ち主の事も探すとしよう。

 

「行くぞ、ケドラ」

「はい!」





 遺跡の中へと入る。

 中の構造は、まっすぐ奥に続く一本道。

 周りはゴツゴツとした岩で、湿り気がある。

 横幅は大人二人で並んで歩くには狭い。天井は低く、手を伸ばせば届くほどの高さ。


 ここまで走っていた事も関係しているだろうが、中はとても涼しく感じた。

 

 最初は、外の明かりで辛うじて足元が見えていたが、奥に進むにつれ暗闇が視界を奪う。

 前に進むのに、明かりが無いと何か起きた時に危ないな。

 

「ケドラ、光魔法をお願いできるか?」

「はい! 任せてください!」

 

「光よ、照らせ」


 彼の声と共に、白く発光する光の玉が宙に上ると、辺りを明るく照らす。

 明かりは確保できた、これで前に進める。

 

 本当は走って奥に進みたいところだが、入り口の状況を考えると、敵が居てもおかしくない。

 ここは慎重に前に進もう。


 前に進むにつれて、周りの壁の間隔が広くなっていった。

 結構進んでいるつもりだが、まだ最奥には着かないのか。

 

 その後も、ケドラの魔法の明かりを頼りに前に進むと、開けた空間に出た。

 

 もしかして、ここが最奥か?

 小さな明かりでは、この広い空間全体を照らすことは出来ないか。


「ケドラ、もう少し明かりを強くできたりするか?」

「出来ると思います!」


 ケドラが返事をすると同時に、宙に浮いた光の玉は今までより大きくなり、強く発光する。

 明るさを増した事で、空間全体の状況を把握できる。


 壁は相変わらず、ゴツゴツとした岩で、天井は見上げる程遠くにある。

 こんなに広い空間があるなんてな、しかし遺跡という割には何も無いな。

 それに、よく見るとまだ奥の方に道が続いている。

 ここが最奥では無いか。まだ、奥があるって、どれだけ広いんだこの遺跡は……。


「グレイさん! これ見てください!」


 ケドラの声が開けた空間にこだまする。

 彼の方へ行くと、そこには誰かに斬られたであろう、ゴブリンの死骸がある。

 死骸は上半身と下半身に綺麗に両断されており、壁にはゴブリンの血が飛び散っている。


 この飛び散った血、まだ固まっていない。

 という事は、こいつを斬ったのはついさっきって事か。

 

 ミラかカレンがやったのか? カレンは分からないが、ミラならこのくらい朝飯前だろう。

 ますます、ここに彼女たちが居る可能性が上がった。

 それと同時に、この先に魔物が潜んでいる可能性も出て来た。

 戦闘となれば、俺はほとんど役に立たない。

 ケドラも剣士としてならば、役に立たないと言っても過言ではない。

 どうする……。ここまで来て、引き返すなんて出来る訳ない。


「グレイさん、この先、敵が居るかもしれないですね」

「ん? あぁ、そうだな」

「もしもの時は、俺に任せてください! グレイさんは戦えないですし」


 彼は自身の胸に拳を当て、自信満々な表情を見せる。


「だが、お前。剣だとゴブリン相手にも負けるだろ」

「え? 分かってますよ、そんな事。魔法使うに決まってるじゃないですか」

「けどお前、いつも剣で戦いたがってるだろ」

「俺、このパーティーに入る時言いましたよね。仲間の役に立つなら魔法を使うって。そんなに馬鹿だと思ってるんですか? 俺の事」

「悪いが、そうだ」

「酷いですよ! あんまりです!」


 彼は顔を真っ赤にしながら、地団太を踏む。

 敵が居るかもしれないという緊張感が、彼の行動で薄れてきた。


「そう怒るな。そういう事なら、頼んだぜ、ケドラ」

「はい! 任せてください!」


 ケドラが魔法を使ってくれるのであればこの先、魔物と出くわしても恐らく大丈夫だろう。

 今まで見たことがある魔法は、ミラとの決闘の時だけだが、あの防御魔法があればゴブリンの攻撃なんぞは余裕だ。

 きっと、攻撃魔法だってそれなりに強いはずだしな。


「それじゃあ、先に進むか」

「行きましょう!」


 ミラたちを見つける為、遺跡の最奥に向かって再び歩き出す――。


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