第49話 獣人族と魔族
姫様一行を引き連れ、特別居住区の門の前までやって来た。
大所帯を引き連れてやって来た事に、驚きの表情を見せる衛兵たち。
「グレイさん、これは一体?」
「彼女らは、俺の連れで今日から二日間、泊めることになったんだ」
「そうですか、しかし……」
困惑する衛兵に、リリアから預かっていた紙を手渡す。
この紙は、今回の事を受け、リリアがギルド本部に掛け合い、用意してくれた証書だ。
証書には、彼女達の特別居住区への立ち入りの許可が記されているらしい。
シロの頼みで気軽に泊めることを決めたが、こういう問題があるよな普通は。
本来、こういう事例は国に話を通す必要があると思っていたが、ギルドの許可だけで済んだ。
国の管轄域にまで、干渉することが出来るギルドは凄いな。
国外の物の立ち入りを許可させるほどの力がギルドにはあると考えると、改めてギルドの力を実感する。
「なるほど、許可が下りているのですね。分かりました、通行を許可します」
証書を確認した衛兵の男は、扉を開き、俺たちの通行を許してくれた。
「こんな簡単に通れるなんて、ギルドってのは凄いな」
「うむ。連中はかなりの力を持っておるからの」
「そうなのか」
「そうじゃ。ギルドを敵に回したがる奴等、この世におらぬじゃろう」
その後も、姫様はギルドについて話をしてくれていたが、俺が知っても仕方がない内容だった。
国の政治にも、影響を及ぼすことが出来る程の権力を持っているだとか。
姫様の話す、その殆どが政に関する話が多かった。
ただの一般人である俺たちには、関係のない話だ。
ただ、彼女の話から分かったのは、ギルドが相当の影響力を持っているという事だ。
それだけの影響力があるのは、俺たち冒険者の存在が大きのだろう。
冒険者がいる事で、この世界の魔物という脅威が減らされている事は事実だ。
その大元であるギルドが、魔物討伐などの依頼を発注しなくなれば、困るのは冒険者たちだけでなく、国も同じだ。
この世界は、そうしてバランスを取っているのだろう。
そんな姫様の長い話を聞きながら歩みを進めていると、魔族たちの住んでいる家が見えて来た。
それと同時に、姫様はシロの腕からするりと降りると、獣人族の姿に変身をした。
「なぁ、話の途中に悪いが姫様よ。一応、ここに来る前にも話したと思うが、今ここに居る魔族たちは敵対するつもりは無いと思う。だから……」
「分かっておる。むやみに攻撃したりなどせぬ。それに、我の前に姿を現したりなどすまい」
「それなら良いが」
魔族は獣人族とも、戦争をしていた過去がある。
その戦争では、獣人族の土地に攻め入った魔族軍をいとも簡単に返り討ちにしたという。
姫様の言葉は、その戦争があっての事なのだろう。
そうして、魔族の家の近くにやって来た。
姫様の言葉通り、普段であれば家の外で農作業などをしているはずの魔族たちの姿が見えない。
本当に、魔族は獣人族を恐れているのか?
だとすると、彼女らはどれだけ強いんだよ。
そう思いながら、誰も居ない家々を眺め歩いていると、一人の魔族がこちらに向かって歩いてきた。
あれは、ガディエラか? しかし、浮かない表情だな。
「ふむ。我の前に現れる者がおるとはな……」
「姫様、覚えてるだろうな?」
「分かっておる! いいか、お主らも手を出すでないぞ」
「「「「「はい!」」」」」
俺たちはその場で立ち止まり、ガディエラがこちらに来るのを待つ。
ガディエラは俺たちの前に来ると、顔を上げ、姫様に対し頭を下げると口を開いた。
「初めましてとは少し違いますが、まずはご挨拶を、私はガディエラと申します」
「我と面識があるのか? 我はお前を始めて見たのじゃが」
「あの時は、このような出会い方では無かったので、私が一方的に覚えているだけだと思います」
「ふむ、そうか」
姫様の返事の後、しばらく沈黙が続いた。
何故、会話が途中で途切れたのか理解できなかった。
この沈黙の間、ふと姫様の方を見ると、姫様の目は明らかに敵を見ているような目つきをしていた。
それは、姫様の後ろに居る、兵士たちも同様だった。
口ではああいっていたが、やはり捨てきれぬ因縁があるのだろうか。
魔族たちは人間との戦争に負け、今は戦争をするような力は残されていないとはいえ、一度は国を襲った相手だ。
敵対する心配は無いと言われても、そう簡単には割り切れないか。
重たい空気が張り詰める中、ガディエラが沈黙を破り、口を開いた。
「差し出がましい事を言う事を、許していただけますでしょうか?」
「別に構わぬ。が、発言には気を付ける事じゃ」
「では、1つだけ。貴殿の放つ殺気を抑えてもらえないでしょうか?」
殺気? 俺たちには全く感じ取れないが。
「この城壁に入ってくる前から、貴殿の殺気を感じ取った他の者たちが外に出ることを怖がってしまっております」
この姫様が、城壁の中に入る前から、気が付くほどの殺気を放っているって事か?
だが、この様子からして本当にそうなのだろう。
ガディエラの額からは冷や汗が流れでている。
それに、ガディエラ以外の魔族たちは外に出てきていない。
ガディエラの発言を受け、姫様の発言に合点がいった。
彼らの住む家に入る前に姫様の言っていた、あの言葉はそういう事だったのか。
「姫様よ、俺からも頼む。彼らに敵対の意思は無いんだ」
「私からも、お願いします!」
ガディエラら魔族を心配してか、シロが俺の後に続き援護をする。
「分かった、分かった。お主らがそこまで言うのであれば、本当なのじゃろう」
と言うと、彼女の睨みつけるような鋭い目つきは消え、普段の目つきに戻った。
殺気が消えたのか、ほっと一息つくと、ガディエラは安堵の表情を浮かべる。
「ありがとうございます」
「礼ならこの二人に言うのじゃ」
「グレイさん、シロさん、改めてお礼を」
ガディエラは深々と頭を下げ、俺たちに感謝を伝える。
それから、シロと共に姫様たちには先に家の方へと向かわせた。
俺はその場に残り、ガディエラにこれから二日間、姫様たちが滞在する事を伝えた。
彼は、心配そうな表情で話しを聞いていた。
彼らに安心してもらうために、姫様には注意を促しておくと伝えた。
俺たちの勝手で、彼らに迷惑を掛けるわけにもいかないからな。
そうして、ガディエラと別れ家に戻る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます