第46話 黒猫の捕獲

 急遽参加する事になったシロの準備を待つ間、ミラに再度確認をする。


「本当に来なくていいのか?」

「えぇ、あんた達で勝手にやるといいわ」

「せっかく三人で集まったんだから、お前も手伝えよ」

「シロが行くんだからいいでしょ! もう、帰るわ!」


 と言うと、彼女は拗ねた様子でギルドを出て行った。

 

 まぁ、いつも強い魔物との戦闘を望んでいる事も関係あるだろうが、何より俺たちの初陣だったからな。

 俺はともかく、ケドラに自分の実力を見せつけるいい機会だ。

 Eランクの依頼で実力を見せつけるとしても、たかがEランク、彼女はそう思っているのだろうか。

 何はともあれ、それが出来ないと分かった以上、ああなってしまうのも仕方ないか。


「おまたせ!」


 ギルドの受付服から着替えたシロが、カウンター裏の部屋から出て来た。


「それじゃあ、行くとするか」

「うん!」

「行きましょう!」

「いってらっしゃい、頑張ってね」


 リリアに見送られ、俺たち三人はギルドを出て迷い猫の捜索に向かう。

 

 ひとまず、出てきたがどこから探せばいいんだろうな。

 情報によれば、黒猫で首元に赤い碑石の付いた首輪をしているとの事だが。

 これまで、この街を歩いていて一度もそのような黒猫を見た記憶は無い。

 とりあえず、黒猫の隠れていそうな路地とかを探してみるか。


「ひとまず、歩き回って探してみるか」

「そうですね!」

「うん! 行こう!」


 何の手掛かりも無い中、俺たちはひとまず街の西側へと歩き始め、捜索を開始する。


 黒猫が居ないか注意しながら、歩みを進めていると娼館近くの道に辿り着いていた。

 

 そういえば、この辺りには娼館があったんだったな。

 完全に忘れていた。もしこんな所に居たら、この二人を連れて行く訳には……。

 ケドラはギリギリ大丈夫かもしれないが、シロは駄目だ。

 もしも、見つからなかったら最後に来るとしよう。

 その時はシロには悪いが、俺とケドラで行くとするか。


 そのまま、娼館近くの道を抜け、教会方面へと歩みを進めた。

 そして、黒猫は見つからないまま教会の前まで来た。


 教会の前には前回同様、カレンが道の清掃をしていた。

 ちょうどいい、カレンに黒猫の事を知らないか聞いてみるか。


 そうして、鼻歌を歌いながら清掃をしているカレンに話しかける。


「久しぶりだな、カレン。今、いいか?」

「ひゃ! 急に話しかけんなって言ってんだろ、くそしんぷ……」

 可愛らしい悲鳴を上げ驚いた後、俺の事を神父と勘違いしているのか怒った表情でこちらを振り返る。

「え? グレイさんにシロちゃんでしたか。あと、知らない少年。大丈夫ですよ」

 

 振り返り、神父でない事が分かると、彼女は何事も無かったかの様に笑顔を見せる。


 先程のカレンの言葉を恐れてか、シロは俺の足の裏に隠れる。

 相変わらず、威圧感のある声だな。シロが怯えるのも仕方ない。

 ケドラは、彼女の豹変ぶりに驚いているのか、目を見開き、顎が外れたように大きな口を開けていた。

 こいつ、凄い顔してるな。もしこの世界にスマホがあったなら、写真を撮りたいくらいだ。

 

「今、依頼で迷い猫を探してるんだ、黒猫で赤い碑石の付いた首輪を付けてるやつだ。見てないか?」

「間違っているかもしれませんが、南の市場の方で見かけたような気がします」

「そうか! ありがとな!」

「いえ、お役に立てて何よりです」

 彼女は腰の前で手を繋ぎ、柔和な表情を見せる。


 南の市場か、一度ギルドの方に戻ってから向かうとするか。

 少し遠回りではあるが、娼館のある場所を突っ切って行く訳にはいかないしな。


「せっかくだし、神父の爺さんにも挨拶していこうと思うんだが、中に居るか?」

「あのくそ、……神父様は、3日前から出かけていて、今は居りません」

「そうなのか。なら、また挨拶に来るよ」

「はい。お待ちしております」


 こうして、カレンから黒猫の情報を聞いた俺たちは、教会を後にする。


 さっき、くそ神父って言いかけてたよな。

 二人の関係が気になるし、今度神父の爺さんに聞いてみるか。




 

 それから、来た道を引き返し、再びギルドに戻って来た。

 ギルドの前までくると、見覚えのある人影が立っている。


「何? もう諦めて帰って来たの?」

「ミラ、お前、帰ったはずじゃ……。 もしかして、本当は俺たちと行きたかったのか?」

「暇だったから、他の依頼が無いか確認しに来ただけよ!」


 図星だったのだろう、彼女は恥ずかしそうに顔を背ける。

 嘘が下手くそだな。一緒に行きたいなら、素直にそういえば良かったのにな。

 仕方ない、誘ってやるとするか。


「なかなか見つからないんだ、手伝ってくれないか?」

「嫌よ! そんな簡単な依頼なんて!」


 本当に素直になれない奴だな。

 

「ミラお姉ちゃん! 一緒に探してくれる?」

「シロの頼みなら、仕方ないわね!」


 彼女は嬉しそうにシロの頼みを引き受ける。


「なんだ、お前。本当は行きたかったんだろ?」

「うるさいわね! そんな訳ないでしょ!」


 ケドラの一言に、ミラが怒ると、再び喧嘩を始めた。

 その二人の様子を見て、シロは楽しそうに笑う。


 全く、こいつらは……。

 

 それから、いがみ合う二人の後に続き、南の市場へと向かった――。



 

 市場に着いた俺たちは、しばらく全員で固まって捜索をしたが、なかなか見つからない。


「このまま、皆で探しても見つからないわ。別れて探すわよ」

「そうだな。俺とシロはこっちを探す」

「分かったわ。私はこっちを探すわ」

「それなら俺は、こっちを探します」


 こうして、俺たちは三手に別れ、黒猫の捜索範囲を広げた。


 俺とシロは市場の裏手の路地に入り、黒猫の捜索を続けた。

 建物と建物の間で、日の光が入ってこず、なかなか探しにくいな。

 黒猫って事だし、日陰のせいで余計に分かりにくいだろうしな。


 そうして、路地を探し続けていると、シロが大きな声で叫ぶ。


「――見つけた!」

「本当か? どこに居る?」


 シロの元へ、急いで駆け寄ると壁の出っ張りを足場にしている、黒猫が居た。

 俺が華麗に捕まえて、シロにかっこいい所を見せてやる。


 そう心の中で意気込みながら、忍び足で黒猫の方へと近づく。

 手が届きそうな距離まで行くと、勢いよく飛びあがり黒猫を捕まえようとする。

 しかし、黒猫は俺に気が付くと、伸ばした俺の手を難なく避けると、俺の頭を踏み越え逃亡する。


「逃がすか!」


 慌てて、俺とシロは黒猫の後を追う。

 少しすると黒猫は立ち止まり、こちらを振り返り前足で自分の頭を掻き、あざ笑うように寝転がる。


 くそ! この黒猫、俺たちをからかってやがる。

 むきになった俺は、全力で走りだし、黒猫を捕まえようとする。

 しかし、黒猫の動きは俊敏で華麗に俺の手をすり抜け、再び逃亡する。


 また逃げられたと思ったその時、黒猫の進行方向からケドラとミラの姿が現れる。


「二人とも、黒猫がそっちに行った! 捕まえろ!」

「分かりました! 俺に任せてください!」

「ちょっと、ばかケドラ! あんたじゃ……」


 ケドラは向かってくる黒猫に対して、勢いよく頭から飛び込み捕まえようとする。

 しかし、いとも簡単に黒猫はケドラを飛び越え避ける。

 取り逃がしたケドラは、勢いそのまま、ごみの山に頭から突っ込む。


「ケドラ、大丈夫か?」

「は、はい……。大丈夫です」


「本当に役に立たない奴ね。私が捕まえてやるわ」

 と言うと、ミラは向かってくる黒猫を待ち構える。

 

 黒猫は、左方向に進むと見せかけ、壁を使い急に右方向へと進路を変える。

 だが、それを分かっていたかのように、ミラは反応すると、黒猫に手を伸ばす。

 しかし、惜しくも捉えることが出来ず、ミラの右手は黒猫の尻尾を掠める。


「ちっ! このまま逃がしたりしないわ!」

 と言うと、ミラは黒猫の方へ振り返り、いつもの戦闘の様に腰を低く落とし踏み込む。


 流石の速さと行ったところか、あっという間に黒猫との距離を縮めると黒猫に手を伸ばす。

 黒猫はミラの方を振り返り、ミラの速さに驚いたのか、真上に飛び上がる。

 それが黒猫の敗因となった。

 飛び上がった事で、勢いが死に、まんまとミラの手に収まる。

 

 そして、ようやく黒猫を捕まえることが出来た――。


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