第45話 Eランクの依頼
次の日、俺はいつも通りギルドに来ていた。
ギルドの中は、昨日の見た異様な光景は無く、いつも通りにの光景に戻っていた。
1つ違いがあるとすれば、昨日ギルドに居た貴族の娘がパーティーを引き連れてボードの前に立っているところだ。
とても屈強そうな体つきで大きな斧を担いだ短髪の男。
木製の使い古された弓を担ぎ、緑色のマントを羽織った、耳が長く尖ったエルフ族の男。
そして、腰に短剣を刺し、とても綺麗な黒と白のメイド服を着た女性。
この三人が貴族の娘と何やら相談しながら、ボードの前を占拠している。
あの斧を持った男とエルフの男、二人とも相当の手練れに見えるが、その二人よりもあのメイドが一番強そうだな。
あんなにも強そうな奴らに囲まれるんだったら、あの娘がどれだけ弱かろうと問題ないだろうな。
そう思いながら、貴族の娘の方へと目を向ける。
貴族の娘は、明らかに自分の力量に見合わない装備を着ている。
着ているというよりは、着られているというのが正しいと思うが。
彼女が身に着けている、あの細い杖は、王都の高級武具店で見たことがある、高級な魔法の杖だ。
噂によれば、むかし賢者と呼ばれた老人が使っていたとされる杖。
まぁ、使い手によって力を発揮できるかどうかが決まる以上、どれだけ高かろうが関係無いんだけどな。
防具も同様に、Aランクの魔物の素材を使用した、高級防具。
あれも王都で売られている物だ、装備は軽くて動きやすく、様々な耐性を付与された防具。
実に貴族らしい装いで、馬子にも衣装ってやつだ。
昔から貴族の子供は、冒険者というものに憧れる奴が多かった。
彼女同様に、親が大金を叩き高級装備を与える。
だが、そういう奴らは大抵、強い魔物と戦い、その戦闘の恐怖で冒険者を辞めていく。
彼女も恐らく、そういった類だろう。
まぁ、頑張って冒険者を楽しんでくれ。
そんな彼女らを横目に、ギルド端のテーブルに座り、ミラとケドラを待つ。
それにしても、あいつら遅いな。
ケドラは分からないが、ミラはいつも早く来ては、ボードの前で依頼を吟味してるってのに。
「退屈だ……」
やる事が無さ過ぎる俺は、テーブルの上で銀貨を回しながら暇を潰す。
そうして、暇を持て余していると、貴族の娘のパーティーがギルドから出ていくのが見える。
彼女らとすれ違う形で、ミラとケドラが何やら言い合いをしながら、ギルドに入ってくる。
「私の横を歩くなってのよ!」
「お前が歩く速度を変えればいいだろ!」
何が起きたのかは分からないが、二人は今日も仲良くいがみ合っていた。
本当に、こいつらは喧嘩するのが好きなんだな。
最近の子供は血の気が多くて、元気な奴が多いのかな。
きっとシロが大人しくて、特殊なだけなのだろう。
「待たせたわね、おじさん」
「すみません、お待たせしました」
「いや、俺もさっき来たばかりだ、気にするな」
この二人、ここに来るまでに一体何があったんだ。
まぁ、ここで蒸し返すと面倒そうだし、触れないでおくか。
「それじゃあ、早速受ける依頼を決めるわよ!」
立ち上がり、ミラたちとボードの方へ向かう。
「ちょっと、何よこれ!」
ミラはボードを見て、大きな声で叫ぶ。
騒ぐ彼女の後ろからボードを覗き込む。
確かに、依頼の紙がいつもより少ないな。
詳しくボードを確認すると、Cランク以下の依頼しか残っていなかった。
高ランクの依頼が軒並み全て無くなっている。
スーロの街には結構な数の依頼が舞い込んでくる、こんな事は珍しい。
昨日あれだけ冒険者が集まっていたし、その影響だろうか。
「何も残ってないですね」
「そうだな」
ボードに残されている依頼は、ゴブリン退治や街の中の依頼だけだった。
討伐系の依頼はゴブリンのみか、これはミラにとっては嫌だろうな。
俺とケドラは、Eランクだからゴブリン退治の依頼は受けられないしな。
受けられそうなのは、迷いネコを探して欲しいという、Eランクの依頼くらいだろう。
「ちょっと、ママの所に行って確認するわよ!」
俺たちは、コーヒー片手に事務作業をしているリリアの元へ向かう。
「ママ、依頼が全然ないわ!」
「何を騒いでいるのやらと思ってたけど、その事ね。依頼なら貴族の娘さんが、討伐系の依頼を殆ど受けて行ったわよ」
「なっ! あんな、装備に着られてるような女が、大量に受けられるわけないわ!」
ミラはリリアの言葉に驚きながら、貴族の娘を馬鹿にしたような事を言う。
怖さを知らない若者は、どこに行っても無敵だな。
確かに俺も思っていた事だが、声に出したりは出来ないな。
それにしても、討伐系の依頼を殆ど受けて行ったって、あの娘にそんな実力がある様には思えない。
となると、あのパーティーの中にSランクの冒険者が居るという事か?
Sランクであれば、自分のランクより下位のランクの依頼を大量に受注する事が可能だ。
俺たちが冒険者を始めた頃は、高ランクの冒険者が不足していて、高ランク依頼を受けられる人間が居なかった。
それを理由に、Sランクであれば大量に依頼を受けられるという特権があった。
「もしかして、Sランクが居たって事か?」
「えぇ、あのメイドの格好をした彼女がSランクだったわ」
リリアは返事の直後、自分が失言した事に気が付き、慌てて訂正し始める。
「今のは、無し! 聞かなかった事にしておいて!」
「聞いた俺も悪かった、すまんな」
ギルドの規則として、他人のランクを勝手に口外してはいけないという決まりがある。
リリアは、うっかり口を滑らせてしまったという訳だ。
しかし、あのメイドやっぱり高ランク冒険者だったか。
特権で受けた以上、正式な受注という事になるし、ミラがどれだけ喚こうがどうしようもないな。
「ミラ、どうする?」
「ゴブリン退治なんて興味ないわ! あんなのやるくらいなら、帰って寝るわ!」
「だよな」
案の定、ミラはCランク以下の依頼を受けるつもりが無いらしい。
相手が強くない以上、やる気が出るはずも無いか。
だが、せっかく集まったんだし、せめてケドラと二人で何か受けるか?
「ケドラはどうしたい?」
「俺は受けられる依頼があるなら、やりたいですね!」
「それじゃあ、やってみるか」
「はい!」
俺たちは、ボードから唯一受けられる、Eランクの依頼書を持ってリリアの元に持っていく。
「これなら、俺達二人でも受けられるだろ?」
「えぇ、大丈夫よ。結構長い間達成されてないから、大変だと思うけど頑張って」
「――それ、私も付いて行っていい?」
話し声が聞こえていたのか、突然カウンターの裏からシロが出て来た。
付いてくるって、一応ギルドの正式な依頼だしな。
危険は無いとはいえ、流石に無理だろう。
「シロ、わる……」
「――行ってみたいの?」
「うん!」
リリアが俺の言葉を遮るように、シロに確認をする。
「そっか。別に危険な依頼でもないし、グレイが一緒に行動すればいい訳だし。……いいわよ、私が許可してあげる」
「本当? やったー!」
「おい、お前なぁ」
「別に危険じゃないし、シロちゃんも連れて行ってあげなさいよ」
思わぬ返事に、頭を抱える。
「だめ?」
シロが子犬のような目で訴えかけてくる。
くそ! そんな表情で言われたら、断れないだろう!
こうなったら仕方がない、連れて行くか……。
「分かった。ただし、俺から離れちゃだめだぞ?」
「うん! 分かった!」
こうして、シロとケドラと共に、猫探しの依頼を受ける事となった――。
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