第43話 パーティー結成

「こんなに恐ろしい受付の人が、あのリリアさんなんですか!?」

「ふふっ。面白いこと言うわね、君」


 リリアは、驚いた表情のケドラの頭を掴み、笑いかける。


 ミラと言い、何でこう余計な一言を付け加えるんだ。

 わざわざ口にしなければ、面倒な事にならないで済むってのにな。


「分かるわ……、ママって本当に鬼みたいよね」

 ミラは腕を組み、頭を縦に振る。

「ミラも、どうやら私を怒らせたいみたいね」

「え? 違うわ! 誤解よ!」


「「ギャー!」」


 リリアの鉄拳制裁を受けた、二人の悲鳴がギルド中に響き渡る。

 

「もう、掃除は終わってるみたいだし、この辺りで充分よ」

「分かった。なんか、色々とすまんな……」

「この子達の事、頼んだわよ、グレイ」

「あぁ、頑張るよ」


 リリアは、くぎを刺すように鋭い目線を向けてくると、仕事に戻っていった。


 昔の冷たい目線とは違って、今回のはより恐ろしく感じた。

 頑張って、こいつらを制御しておかないとな。



 

 

 そして、掃除を終えた俺達は、ギルド端のテーブルに戻り、一休みする。


「はぁー、もう本当に疲れたわ」

「本当だよ」


 二人はテーブルに肘を置き、ぐったりと倒れこむ。

 

「それで、どうするんだ? パーティーの話がまだ終わってないだろ」

「うーん。採用でいいんじゃない? 一応、魔法は凄かったし」


 疲れ切った様子のミラが、投げやりに返事を返す。


 確かに、魔法は凄かった。

 まだ、ほんの一回魔法を見ただけだが、それでもケドラの魔法の素質が伝わった。


 それに、ケドラが加入したら俺達の欠点である、魔法を補う事が出来る。

 もし、採用するのであれば、ケドラの能力を知っておきたいところだな。

 

「なぁ、もし見せられるのであれば、能力値を確認させてくれるか?」

「あ、勿論です! はい、どうぞ!」


 ケドラは、上着から冒険者カードを取り出して、手渡してきた。


 どれどれ、能力値はどうだ?

 手渡された、冒険者カードの裏面を確認する。


 

 名:ケドラ・アインライト

 冒険者ランク:E

 

 筋力:D

 魔力量:S

 属性:火・土・光

 耐性:なし

 運:D

 知力:E



 予想は出来ていたが、やっぱり魔法適正が異常に高いな。

 魔力量で言えば、エリンと同じS。それに、属性も3属性持ちと来た。

 筋力は俺と同じDか、これだとどれだけ努力しても、剣士でやっていくには厳しいだろう。


 稀に、能力が成長する人間も居るが、そういった事例は本当に少ない。

 俺の知っている範囲で言うならば、キースがその事例に当てはまる。

 だが、あいつは勇者になるべくして生まれて来たような男だ。

 とてもじゃないが、努力だけでキースのようになるのは無理だろう。


 剣士ではなく、魔導士としてやっていくのであれば、すぐに高ランクになれるだろうに。

 Aランク、いやSランクだってなれるかもしれない。


「ありがとな」

「どうです? 俺、パーティーに入れて貰えますかね?」


 冒険者カードを返すと、ケドラは立ち上がり期待の眼差しを向けてくる。


「まぁ、落ち着け。ひとつ質問しても良いか?」

「はい! 勿論です!」

「仮に入るとして、職業はどうするつもりだ?」

「勿論、剣士です!」


 彼は胸を張り、自信満々な表情で即答する。


 やっぱり、剣士なんだな。

 正直言って、剣士はミラ一人で足りているし、今欲しいのはどちらかと言えば魔導士だ。

 彼にはその才能があるというのに、そこを活かすつもりが無いらしい。


 昨日のミストリーパー戦も、仮にケドラが居たとしたなら簡単に倒せていたはずだ。

 今後、そういった敵と相対した時に、ケドラが味方に居てくれれば助かる。

 本音を言えば、今の俺達にとってはとても欲しい人材だ。


 だが、無理に魔導士になれと言うのも、あまりに勝手が過ぎるしな。

 

「魔法を使う気は無いのか?」

「いえ、仲間の役に立つのであれば、魔法も使いますよ!」


 そういう事であれば、特に問題はなさそうだな。

 キースに憧れていると言っていて、あれだけ熱弁していたから、剣士でやっていくのだと思っていた。

 

「そうか。なら、ミラも許可しているし……」

「――入れるって事ですか!?」

「……あぁ、そうだ」

「――よっしゃあ!」


 彼は、両手の拳を上にあげると大きな声で喜ぶ。


「うるさいわね……」

 疲れて倒れこむようにぐったりしているミラが、小声で苦言を呈す。

「お、すまん、すまん」


 彼は頭を掻きながら、小さな声で謝罪をすると、静かに席に座る。


「それじゃあ、改めて、よろしくな」

「はい! よろしくお願いします!」

「よろしくー」


 こうして俺たち三人は正式にパーティーを結成する事になった。


 ひとまず、仕事も決まったし、才能ある仲間も増えた。

 これでとりあえず家の事も心配なくなるし、シロの為にしてやれる事が増えるな。

 その為にも、これから頑張るとしよう。



 

 頭の中でひとり決意を固めていると、俺達のテーブルにシロが料理を運んできた。


「はい! どうぞ!」

「美味しそうな匂い!」


 シロが運んできた料理を見て、ぐったりしていたミラが飛び起きる。

 そして、無言で料理に手を付け始める。

 

「シロ、俺たち料理なんか頼んでないぞ?」

「リリアさんがね、なんとか祝いだって、言ってたよ」


 シロの言葉を聞いて、カウンターの方へと目を向けると、リリアは何も知らないと言わんばかりに仕事に熱中していた。

 

 あいつ……、ありがとな。


「そうだったんだな、ありがとな、シロ」

「うん! それじゃあ、ごゆっくりどうぞ!」


 シロは可愛らしい笑顔で、お辞儀をするとカウンターへと戻っていった。


 こうしてみると、シロはとても楽しそうにやってるな。

 それに、随分と様になっている。

 このギルド内で、人気が出るのも頷けるな。


「よし、一人すでに食ってるが、俺たちも頂くとするか」

「はい!」

「ちょっと、これは私のよ! 誰にも、あげないわ!」

「食い意地が悪いぞ、ミラ」

「そうだぞ! 肉を寄こせ!」


 

 こうして、俺たちは仲良く食事をした――。

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