第40話 パーティーメンバー募集

 次の日、ギルドに向かうと入り口の前で、ミラが眠たそうにあくびをして俺達を待っている。


 今日も朝早くから来てるな。

 ついに今日、パーティーを継続するのか決まるんだな。

 そう思うとなんだか、緊張してきたな。

 どうか頼む――。


「おじさん、シロ、おはよう」

「ミラお姉ちゃん、おはよう!」

「おはよう」


 俺達に気が付いたミラは、いつも通り変わらない様子で挨拶をしてきた。


 思いのほか、普段通りだな。

 

「それじゃあ、大事な話があるから中に入るわよ」

「お、おう。分かった」


 明るい表情でギルドに入っていくミラに、逆に不安を覚える。


 あんなに笑っていると、何だか嫌な予感がする。

 昔、リリアの剣を酔って売った時、似たような表情で怒られた事がある。

 ミラはリリアの子供だし、ありえなくも無いんだよな……。


 そんな心配を胸に、ミラに続いてギルドの中に入る。


 ギルドの中は、朝早いというのに大勢の冒険者で溢れていた。

 

 何でこんなに人が多いんだ?

 それに、この辺では見たことのない奴も沢山いるな。

 あの剣士なんて、如何にも貴族の息子といった感じで、金の装飾のあしらわれた、高そうな防具を装備している。

 あっちは、大きな帽子に古い大きな杖、白く長い髪に編み込まれた長い髭を蓄えた年老いた魔導士。

 他にも、明らかに高ランクそうな冒険者が多くいた。

 

 何か大きな依頼でも舞い込んできたのだろうか。

 だが、そんな話はリリアから聞いていないけどな。


「おじさん、こっちよ!」


 ギルドの隅のテーブルに座ったミラが、大きな声で呼びかけ手招きする。

 

「シロは、リリアさんの所に行ってるね」

「あぁ、分かった」


 俺とミラに気を使ってか、シロはリリアの元へと走って行った。


 はぁ、なぜギルドがこんなに盛り上がっているのか分からないが、俺は俺の問題に向き合うとしよう。

 

 ため息を付きながらミラの対面に座る。


「おじさん、そっちじゃなくて私の隣に」


 なんだ? 何故、ミラの隣に座る必要があるんだ。

 ますます、分からなくなった。

 断るつもりならば、隣に座らせる必要なんて無いだろう。


 断った後に落ち込む俺を慰めやすいように、隣に座らせるという事か?

 それとも、……いや、これだけはあり得ないな。


 色々な憶測が頭の中で駆け巡る。


 ひとまず、確認しておこう。

 俺が勝手にパーティーの事だと思っているが、実は違うのかもしれないからな。


「これから、何をするつもりなんだ?」

「言ってなかった? パーティーメンバーの募集よ」


 ――パーティーメンバー募集?!


 ちょっと待て、色々と混乱してきた。

 パーティーメンバーを募集するなんて、今初めて聞いた。

 

 そもそも、俺はどういった立ち位置なんだ?

 パーティーメンバーに含まれているのか? 継続しているという事か?

 今まで一人で依頼をこなしていた、ミラがメンバーを募集するなんて、どういう心境の変化があったんだ?


「聞いてないぞ」

「あら、そうだった? でもまぁ、今言ったから大丈夫よね!」

「お前なぁ……。それで、募集するのは分かったが、俺の事はどうなったんだ」

「おじさんの事? あぁ、これからもパーティーメンバーとして居てもらうわ」


 彼女はあっさりとした表情で、パーティー継続を伝えて来た。


 決まっていた事かの様に話す彼女に、安堵よりも先に呆れが勝る。

 俺の心配は何だったんだよ。

 今後の事を考えると、不安で少ししか眠れなかってのに。損した気分だ。

 

 だが、これで家賃の事を心配する必要も無くなった事だし、今は喜ぶべきだろうな。


「本当か、そいつは助かる。よろしくな」

「えぇ、よろしく頼むわ。……あ、そうだ。私の足を引っ張らないように頑張ってね」

「分かった、分かった」


 彼女は、ウインクをすると思い出したかのように嫌味を吐き捨てる。

 余計な一言を付け足さなければ、良い奴なんだけどな。


「それで、何で他のメンバーを募集するんだ?」

「ほら、昨日の相手、運よく勝てたんでしょ? 昨日ママから色々聞かされたのよ」


 ミラが言うには、昨晩帰ってからリリアにミストリーパーの事を詳しく聞かされたらしい。

 本来であれば、浄化でなければ物理無効化を解除出来ないという事。

 リリアは、以前から一人で依頼を受ける危険性をミラに指摘していたらしい。


 昨日、リリアに報告した時は冷静に見えたが、ミラと二人きりになったとたん涙を流していたそうだ。

 自分の事を心配して涙を流す母の姿を見て、メンバーの募集を決めたとの事だった。

 

 

 昨晩、一緒に食事をしていた時は楽しそうに振る舞っていたが、無理をしていたんだろうな。

 昨日は運が良かっただけで、本来であれば二人とも死んでいてもおかしくなかった。

 だから、メンバーを募集するという決断は、俺も賛成だ。


「そんな事があったんだな」

「だから、ママを心配させないためにも、張り切って募集するわよ!」

「そうだな。それで、募集の張り紙はしたのか?」

「えぇ、今朝貼っておいたわ! 私とパーティーが組めるのよ、きっと、たくさん志願者が来るはずよ!」


 ミラは鼻を高くして、自信満々にふんぞり返る。


 随分と自信満々だが本当に来るんだろうな?

 今日は普段と違い、見知らぬ冒険者たちも沢山居るが、ミラの募集を知って集まったのか?

 

 元勇者パーティーメンバーのリリアの娘だから、知名度があるのだろうか。

 だが、今朝貼ったって言ってたし、そんな噂がすぐに広まるだろうか?

 まぁ、ひとまず待ってみるとするか。


 

 

 ――それから、しばらくテーブルで志願者を待つが、一向に現れる気配が無い。


 いくら待っても、誰も俺達の前に現れぬ中、隣のテーブルでは驚くほどの長蛇の列が出来ていた。

 長蛇の列の先には、藍色の短い髪、端麗でシュッとした鼻筋、黄色で大きな瞳の女性が座っている。

 動きやすさを重視しているのか、彼女の服装は軽装で、白を基調とした綺麗な上着に赤色の短いスカート。

 靴は革製で、冒険者とは思えない程、綺麗に磨かれていて、どこか気品を感じられる。

 彼女の後ろには、黒服の執事のような恰好の男が二人静かに立っている。


 彼女の前に並ぶ冒険者の話声で分かった事だが、彼女はスーロ出身の有名な貴族の娘らしい。

 どうやら、彼女の我儘で冒険者をやりたいと言い出したらしく、募集が行われているそうだ。

 

 冒険者ってのは危険な仕事だ、低ランクであれば危険は少ないが、それでも普通の仕事よりは死に近い。

 彼女の父親は、その事をよく知っているのだろう。

 今回、彼女のパーティーメンバーになる者は、依頼料の他に護衛料も彼女の父親から貰えるとの事。

 冒険者をやっていて、そんな旨い話を見過ごす奴なんて居ないだろう。

 

 それで、見知らぬ冒険者が多くいたのか。

 ミラはこの事を知らなかったんだろうな、知っていたら今日は避けるだろう。

 

「誰も、来ないな」

「まったくよ! 何であんな弱そうな女の方に行って、私の方には来ないのよ!」


 彼女は隣のテーブルに聞こえないように小声で怒ると、拗ねた彼女が俺の靴を軽く蹴りつける。


 今朝、募集の張り紙を張ったんだ、来ないのも仕方がないだろう。

 それに貴族の娘の募集と重なってしまった、タイミングが悪かっただけだ。


「その内、誰か募集を見て来てくれるさ。それと、そろそろ蹴るのを辞めてくれ」


 ミラは、ちらちらと隣を見る度に怒り、俺の足を蹴り続けていた。


「もういいわ! 今日はもう辞めよ!」


 拗ねた彼女は立ち上がり、何処かへ行こうとする。


「おーい! 拗ねるなよ、ミラ」

「うるさい!」


 彼女を引き留めようとしていると、テーブルの前に一人の青年がやって来た。

 


 

「あの、募集の張り紙を見て来たんですけど……」


 

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