第39話 報酬
「依頼、お疲れ様です。身分を証明できる物と荷物の確認させて下さい」
出発する時に会った、女兵士がねぎらいの言葉を掛け、俺たちを出迎える。
沢山の人がこの街を行き来してるってのに、俺たちの事を覚えているなんて凄いな。
彼女の記憶力に感心しつつ、冒険者カードと手荷物を彼女に見せる。
「これ、どうしたんですか?」
彼女は俺のマジックバッグから霧の魔石を取り出すと、疑いの目を向けてくる。
パーティーの件を考えてたせいで、完全に忘れていた。
依頼主には、余計な不安を与えまいと、真実を隠したが兵士達には話しても問題ないだろう。
彼女に、魔石を拾った経緯を全て説明した。
彼女達の役目は、あくまでこの街を守る事だ。
兵士達に、この事を伝えてもギルドに対して、村の警護依頼が来るだけだ。
国はこういった事案を、ギルドに依頼として丸投げしてくる。
魔族の脅威が去った事で、兵士を辞めて冒険者に転身する者が多い事が原因なのだろう。
冒険者にとっては、受ける依頼が増えていい事なのだろうが、本来は兵士が担う役割だと思うんだがな。
「そうだったのですね。では、こちらの魔石は私達が預かります」
「よろしく頼む」
「他に問題も無さそうなので、通って頂いて大丈夫です」
そうして、魔石を引き渡した俺達はギルドに戻る。
「二人とも、おかえり。依頼はどうだった?」
「色々と予想外の事が起きたが、何とかなった」
相変わらず、忙しそうに事務作業を続けていたリリアに、ブラックボアの牙を渡す。
「うん。これは、間違いなくブラックボアの牙ね。ご苦労様」
彼女は牙を丁寧に確認すると、裏の部屋へ向かい何かを持って戻って来た。
「はい、報酬の銀貨五枚よ」
彼女から報酬を受け取り、お互いの取り分についてミラと話し合う。
「報酬はどうする?」
「おじさんが二枚で、私が三枚でどう?」
ミストリーパーを倒したのはミラだし、二枚も貰っていいのだろうか。
ここは遠慮して一枚と言って好感度を上げるという手も……。
いや、そうすると今後も少なくなりかねないな、ミラの提案を受ける方が良いか。
「それで大丈夫だ。それじゃあ、これを」
俺はミラに銀貨三枚を手渡した。
「それで、予想外の事って何が起きたの?」
リリアは事務作業が一区切り着いたのか、コーヒー片手に質問をしてきた。
そういえば、その話がまだだったな。
「それがだな……」
そこから、村で起きた出来事について、事細かく説明をした。
俺の話を黙って聞いたリリアは、以外にも冷静に返事をする。
「ひとまず、二人に何もなくて良かったわ。最近、他の冒険者からも似たような報告が上がっていたの」
「そうなのか?」
「えぇ、それですでにギルドの方で調査を進めてる段階なの」
どうりで、俺達の報告に驚かなかった訳か。
ギルドが調査を進めているのなら、近い内に原因が判明するだろう。
こういった事案は、ランクの高い冒険者をギルドが直々に依頼をして調査することが多い。
昔、似たような事が起きた時、キースやリリア達と調査をしに行った事がある。
その時は、街や村に、魔族が魔物達を誘導していた事が判明した。
俺達が原因となっていた魔族を撃退する事で、事件を解決する事が出来た。
もしかして、今回も魔族達が?
いや、考えても仕方ない。俺が考えたところで、原因が判明する訳じゃないしな。
――そんな事より、シロだ!
ギルドに戻って来てから、すぐに辺りを見渡してシロを探したが居なかった。
「リリア、シロはどこに居るんだ?」
「シロちゃんなら、もうすぐ出てくると思うけど……」
リリアの返事と同時に、裏の部屋からトレイの上に乗った料理を溢さないように、ゆっくりと歩きながらシロが出て来た。
思わず声を掛けそうになったが、真剣な表情で運ぶ姿を見て、口を噤んだ。
せめて、客に届けきるまで待つとしよう。
気が散って溢してしまったら、落ち込んでしまうだろうしな。
シロは、冒険者達が座る席に料理を溢すことなく運びきる。
冒険者達は、シロに対して嬉しそうにお礼を言って笑いかける。
シロも嬉しそうに笑い返すと、トレイをカウンターへ戻しに行った。
「おじさん、顔が緩みっぱなしで気持ち悪いわね」
「気持ち悪い顔で悪かったな」
冷ややかな視線を送るミラに返事をしていると、シロは俺達が帰ってきている事に気が付き、駆け寄って来た。
「二人とも、おかえり!」
「シロ、ただいま!」
「ただいま。楽しそうだったな」
「うん! すごく楽しい!」
満面の笑みで、俺達の帰りを迎えてくれたシロの頭を撫でる。
「シロちゃん、グレイも帰って来た事だし、今日はもう終わりでいいわよ」
「うん、分かった!」
と言うと、シロはカウンターの裏の部屋へと、服を着替えに向かった。
「そうだ、リリア。お前も、そろそろ仕事は終わりそうか?」
「えぇ、ちょうど全部終わったところよ。どうして?」
「ブラックボアの肉があるんだが、俺の家で食ってかないか?」
「ママ、一緒に行きましょう! おじさんの料理、意外と美味しいのよ!」
「知ってる。昔から上手だったからね。そういう事なら、私も急いで着替えてくるわ」
リリアは席を立つと、シロが入って行った部屋に向かった。
しばらくすると、服を着替え終えた二人が出て来た。
「それじゃあ、行きましょうか」
「肉! 早く行くわよ!」
相当楽しみにしていたのか、ミラは駆け足で特別居住区を目指す。
ブラックボアの肉は焼く以外の調理法を知らないし、正直あまり期待されると困るんだがな。
まぁ、ただ塩を振って焼くだけでも旨いし、どうにかなるか。
それから、俺たち四人は特別居住区の門の前に辿り着いた。
いつも通り、衛兵に通行許可証を見せ、中に入る。
「へぇ、中はこんな風になってるのね」
「俺達も初めは驚いた」
リリアは、初めて特別居住区の中に入ったらしく、中の光景に驚く。
そして、ミラとシロが中の事をリリアに教えながら歩く。
「これが、グレイ達の住んでる家なのね。実物は思ったより大きいわね」
「中も広いし、部屋も凄く多いわ!」
中に入ると、ミラとシロはリリアを連れ、部屋を案内する。
シロは分かるが、何でミラも俺の家を案内してるんだ?
まぁ、別に二人とも楽しそうだし良いか。
彼女達が家の中を歩き回っている間に、ブラックボアの肉を調理する。
あらかじめ回収の際に切っておいたから、後は味付けをして焼くだけだ。
肉だけだと味が濃すぎるだろうし、新鮮な野菜も切っておこう。
ある程度、料理が完成したところで、彼女達が二階から降りて来た。
「んー! いい匂いだわ!」
「美味しそうな匂いだね」
肉の匂いにつられるように、ミラとシロが俺の方へと近づいてきた。
「もう出来るから、二人とも座って待っていてくれ」
「「はーい」」
それから、完成した料理を三人の待つテーブルへと運ぶ。
「何これ、めちゃくちゃ美味しそうだわ……」
ミラは料理を見て、溢れ出るよだれを拭く。
「ブラックボアの肉なんて、いつ以来だろうね」
「凄く美味しそうだね」
三人は俺の作った料理を見て、喜んでくれているようだ。
「もう我慢できないわ、早く食べましょう!」
「そうだな。それじゃあ、いただきます」
「「「いただきます」」」
それから、俺達は談笑をして、食事を楽しんだ。
食事を終えると、リリアとミラは満足した様子で家に帰る準備を始めた。
二人とも満足してくれたみたいで良かった。
「料理、ありがとうね。とても美味しかった」
「本当に最高だったわ! そうだ、おじさん明日もギルドに来て!」
「お、おう。分かった」
「それじゃあ、また明日!」
「またね、シロちゃん」
「またね!」
俺とシロは、手を振り彼女らを見送った。
明日もギルドに来て、か。
という事は、パーティー継続って事か?
いや、その逆だってあり得る。
どっちだ? なんだか、緊張するな。
まぁ、いま考えても仕方ないか。
明日ギルドに行ったら分かる事だし、今日はもう寝るとしよう。
そうして、期待と不安を胸に、眠りに就く――。
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