第13話 花火

 なんだ? やけに人が多くないか?


 最初の男の子に焼きそばを売った後、沢山の人が店に押し寄せて列を成している。

 ひっきりなしに押し寄せる人に、塩焼きそばを提供するので大忙しだった。


 そんなに忙しくならないだろうと思っていたのに、こんなに来るなんて……。

 でも、やるって決めたんだ捌ききって見せるぞ。


 無我夢中で塩焼きそばを作っては、並んでいる客に提供し続けた。


 そして、行列を成していた客を捌き切り、少し落ち着きを見せ始めた。

 ある程度、落ち着いてきたな。思ってたより大変だったな。


「あんたがグレイか? 本当に助かったぜ」

 店の後ろから男が声を掛けて来た。


 声を掛けて来た男は食材などが入った紙袋を持っていた。

 この人が、ここの店の店主か。

 客足が落ち着いてきたとはいえ、少し疲れてきていたから助かった。


「あぁ、俺がグレイだ。後は任せていいのか?」

「勿論だ! 本当に助かったぜ!」

 

 感謝している彼と握手をして、その場を後にした。




 いきなり手伝うことになった事で、シロに伝える暇が無かったな。

 とりあえずシロを探すとしよう。

 ロブに聞けばどこに行ったか分かるはずだよな。

 店の事を伝える必要もあるし、まずはロブの元に行くとするか。


 そして、ロブの元に急いで向かった。



「ロブ! 店主が戻って来たから、引き継いできたぞ」

「おう、ありがとなグレイ! 本当に助かったぜ」

 彼は笑いながら背中を叩いてくる。

「大変だったけどな……。そうだ、それよりシロは何処に行ったのか分かるか?」

「あの2人なら、射的をやるって言ってたから、そこに居ると思うぞ」

 

「そうか、ありがとな! ちょっと行ってくるぜ」

 急いでシロの元に向かおうとする。

「グレイちょっと待て! これを持っていけ」

 彼は銀貨を2枚、俺に手渡す。


 銀貨2枚ってこんなに貰って大丈夫なのか?

 これだけで、1月分の家賃を払える額だ。

 泊めてもらったお礼をするつもりで、引き受けたのにな……。

 

「こんなに貰って大丈夫なのか?」

「この金は俺からじゃない、貰っておけ。友人からこの金額を渡しておいてくれって頼まれてたんだ」

「そうだったんだな。それなら、ありがたく貰っておくか」


 そして、ロブから金を受け取った俺はシロの元に急ぐ――。




「シロ! 急に居なくなって、すまなかったな。それと、ティアナもありがとな」

「シーっ! 今集中してるの!」

 シロは景品に銃を向けて集中している。

「す、すまん……」


 俺の言葉が聞こえないくらい集中したシロはウサギのぬいぐるみに向かって魔法の弾を放った――。

 しかし、弾は景品とは全く違う方向に飛んでいく。

 その後もなかなか弾が当たらず、そのまま挑戦できる魔力が無くなった。


 風の魔法で弾の役割を担ってるのか、回数は注いだ魔力量で調整されてる。うまく出来てるもんだな。

 射的の仕組みに感心する俺の前で、全弾外してしまったシロが落ち込んでいる。


 ここは俺が景品を獲ってシロに格好いい所を見せるとするか。


「シロ、俺に任せろ! 必ず獲ってやるからな」


 そして、店主に金を払い、意気揚々と景品めがけて銃弾を放つ――。

 銃弾は景品は愚か、真下に向かって勢いよく飛んでいった。


 おい! 真っ直ぐ飛ばないのはどう考えてもおかしいだろうが!

 何かの間違いだろ、もう1回だ!

 しかし何度やっても、真下に向かって弾が飛んでいく。

 そして、回数制限がやって来た。


 シロは俺の近くにやってくると、慰めるように背中をさすった。

 惨めすぎるな……。


「あの、今度は私がやってみますね!」

 と言うと、ティアナは景品に向かって弾を撃つ。


 弾は一直線に景品に向かって飛んで行き、あっさりと獲得した。


 あまりの上手さに開いた口が閉まらない。

 一発で決めるなんて……。


「シロちゃん、これどうぞ」

 と言うと、ティアナは獲得したウサギのぬいぐるみを渡す。

「貰っていいの?」

「もちろん!」

「ありがとう!」


 シロはティアナからぬいぐるみを受け取り、飛び跳ねるように喜んでいる。


「良かったな、シロ」

 悔しさに涙ぐみながら、シロの頭を撫でる。


 

 


 それから、かき氷や、たこ焼きなど様々な屋台を3人で回った。

 気づけば辺りはすっかり夜になっていた。


「そろそろこの祭りの、一大イベントが始まるので移動しましょうか」


 ティアナの案内で、川の近くへやって来た。

 

「何があるの?」

 シロがティアナに質問をする。

「もうすぐ分かるよ」


 ティアナが返事をすると、川の向こうから火の玉のような物が空に向かって飛んでいく。


 こいつはもしかして……。


 空高く上がった火の玉は、爆発すると大きな音と共に鮮やかな色で夜空に火の花を咲かせる。


 なんとなく予想は出来ていたが、こっちの世界で花火を見ることが出来るなんてな。


「すごい! ねぇ、すごいね!」

 シロは隣で大喜びしている。

「本当だな……」


 その後も、丸い形以外にも四角や蝶々の形など、様々な形で花火が夜空を彩った。

 そして、最後にひときわ大きな花火が上がり、祭りの終わりを知らせた。


「本当に凄かったね!」

「そうだな」


 こうして、祭りは終わりを迎えた――。


 

 

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