第14話 またね

 花火を見終わった俺たちは、ロブの元へと戻って来た。


「どうだ、楽しめたか?」

 彼は店の後片付けを始めていた。

「うん! すごい綺麗だったよ! それに楽しかった!」

 シロは嬉しそうに返事をする。


「ロブ。後片付け、俺も手伝うぞ」

 

 そして、皆で店の後片付けをした。




「お前ら、ありがとな。それじゃあ、皆で家に帰るか」

「ロブ、本当に世話になったな。それじゃシロ……」

「何を言ってるんだ? お前らも帰るんだぞ」

 彼は不思議そうな顔をすると、急げと言わんばかりに荷物を持ち始める。


「良いのか?」

「こんな夜遅い時間に帰れなんて言う訳ないだろ。ましてや、子供も居るんだ」

「悪いな、助かるぜ」

「おう! それじゃあ、帰るぞ」


 そして、再び彼らの家に戻って来た。




「いやー、本当に疲れたな」

 ロブは荷物を置くと、腰に手を当て体を伸ばす。

「そうだな……」


「私たち、お風呂に入ってくるね」

 と言うと、ティアナはシロを連れてお風呂へと向かって行った。


「そしたらグレイ、俺たちはこいつで乾杯するとするか」

 彼は満面の笑みで右手に酒瓶を持っていた。

「そいつは良いな!」


 彼女らがお風呂に入っている間に、酒を呑み交わす。


「しかし、お前に娘が居たなんてな」

「娘と言っていいのか、俺には分からないけどな……」

「どういう事だ?」


 ロブにシロとの出会った経緯などを話した。


「そうか、でもお前らは親子にしか見えねぇけどな」

「俺自身、シロの親代わりになれているのか分からないんだけどな」

「なれてるさ。そうじゃなきゃ、あんなに笑ったりしねぇよ」

「そう言ってくれて、ありがとな」


 そして、2人でお互いの娘の事を自慢しあいながら酒を呑み続けた。


 


「何の話してるのー?」

 お風呂から上がって来たシロたちが、近寄ってくる。

「シロが最高に可愛いって話をしてたんだよ」

 シロの頭を撫でる。

「もー。ボサボサになっちゃうよ!」


「ティアナ、お前も最高に可愛いぞー!」

 と言うと、ロブはティアナの頭を撫でようとするが、華麗に避けられる。

 

「はぁ、2人とも呑みすぎよ。早くお風呂入って、寝なさい!」

 ティアナは酒瓶を没収すると、俺たちを部屋から追い出す。


「今日は、風呂入って寝るか」

「あぁ、そうだな……」

 そして、俺たちは入れ替わりで風呂に入り、それぞれの部屋に戻った。



 今日は本当に色々あったが、最高の一日だったな。

 まさか転生して花火が見れるなんて思っていなかったし、何よりシロが楽しそうにしてたのが良かったな……。

 来年も、また祭りに行くとしよう。


 そして、ソファの上で眠りに就いた――。





 カーテンの隙間から差す光で目が覚める。

 

 もう朝か……、名残惜しいが今日は自分の家に帰る日だ。

 シロを起こして、あいつらに礼を言ったら帰るとするか。


「シロ、朝だぞー!」


 ベッドに向かい、薄手の毛布を捲るが、そこにはシロの姿が無かった。

 もう起きてるのか……? いつも俺よりも起きるのが早いからな。

 

 そして、下の階に向かうとそこにはロブしか居なかった。


「シロたちは居ないのか?」

「シロちゃんならティアナの部屋で寝てるぞ」

「そうなのか?」

「まぁ、起きてくるまでお前もゆっくりして行け」

 彼はそう言うと、コーヒーをカップに注いで渡してきた。


 コーヒーを飲みながら、シロたちが起きてくるのを待つ。




 それから少しすると、2人が起きて来た。


「おはよう」

「おはようございます。2人ともあれだけ呑んでたのに、起きるの早いですね」

 

「俺たちは、酒には強いからな」

 ロブは笑いながら自慢げに返事をする。


「だったら、あんな風にはならないと思うんだけどね……」

 ティアナは呆れた表情で台所に向かう。

「あんな風って、どんな状態だったんだ? なぁ、ティアナ」

 

 ロブは昨日の夜の事を覚えてないらしい。

 覚えてないんだったら、確かに強いとは言えないかもな。


 

 ――そして、ティアナは朝食を用意してくれた。


「いただきます」

 俺たちは声を揃えて挨拶をして、朝食を食べた。





「よし、そろそろ帰りの準備をするか」

「あっ! ちょっと待ってもらっていいですか?」

 俺の言葉を聞いたティアナはそう言うと、急いで上の階へ向かった。


 そして、何かを入れた袋を持って戻って来た。


「これ、私が小さい頃に着ていた服なんですけど、良かったら貰ってください」

「良いのか?」

「もちろんですよ! 私はもう着られないですし、何よりシロちゃんに似合うと思うので」

 彼女は、微笑みながら服の入った袋を渡してきた。

「ありがとな」


「ありがとう、お姉ちゃん!」

 と言うと、シロはティアナに駆け寄る。

「どういたしまして」

 彼女は中腰になると、シロの頭を優しく撫でる。


「そうだ、グレイ。馬車を手配しておいたから、帰りはそいつに乗って帰れ」

「なんだって? そこまでする義理は無いだろ」

「俺たちもお前らが来たことで、いつもより楽しい祭りを過ごせたんだ。だから、その礼だ」

 彼は笑いながら俺の背中を叩く。


「そうか、今回は色々とありがとな」

「おう! 俺は仕事で見送り出来ねぇが、馬車まではティアナが案内する」

「おじさん、ありがとう!」

 シロはロブに礼をする。

「おう! シロちゃんも元気でな」

「うん!」


 そして、ロブは仕事へ向かった。


「それじゃ、俺たちも帰るとするか」

「うん」



 

 

 帰りの支度を終えた俺たちは、ティアナの案内で街の入り口にやって来た――。

 

「あれです! あの馬車が手配したものです」

 ティアナは馬車を指さすと、その場で立ち止まった。

「ティアナ、シロの事も含めて本当に世話になったな」

「いえ! 父も言ってましたが、私も本当に楽しかったので!」


 礼を伝えた俺は馬車の方へと向かう。


 ん? シロの付いて来ている足音が聞こえない。

 後ろを振り返ると、ティアナの横で俯くシロの姿がある。


「お姉ちゃん、また会える?」

 シロは涙ぐみ震える声でティアナに質問する。

「もちろんだよ! 寂しくて、逆にお姉ちゃんが会いに行っちゃうかも」

 ティアナは優しく微笑む。

「本当?」

「うん! 約束するよ」


 2人は抱き合うと別れの挨拶をする。


「またね! お姉ちゃん!」

「うん! またね、シロちゃん!」



 

 そして、シロと2人で馬車に乗り込み、帰路に就く――。




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