第11話 街巡り

「着きましたよ。少し狭いかもしれないですけど、中は綺麗なので安心して下さい!」

 

 彼女は謙遜してそう言ったのだろうが、俺が住んでいる家より数倍大きい家だった。

 辺りを見渡しても、他の家より大きめだ。


 これだけの家を構えられるなんて、さぞ稼いでるんだろうな。

 

「それじゃ、さっそく中に入っちゃいましょうか」

 彼女は玄関の扉を開けると、俺たちを中に招待してくれた。


「お邪魔します!」


「お、おじゃまします……」


 俺の後に続きシロが小さな声で囁く。


 するとティアナはシロの前に行くと、目線を合わせるためにしゃがむ。


「いらっしゃいませ」

 と言うと、彼女は優しく微笑む。


 それから、俺とシロが使う部屋へ案内される。

 

 部屋1つで俺の家位無いか?

 それに隅々まで手入れが行き届いていて、とても綺麗だ。

 白を基調とした、清潔感溢れる部屋。そして、馬車位あるだろう大きなベッド。

 まさに豪華絢爛というやつだ。


 とんでもない家に招待されたものだ。

 ロブのやつ、実はこの街の領主だったなんてことないだろうな。


 シロも俺の後ろで、目を輝かせていた。

 こんな家に一泊したら、自分の家に戻った時、あまりの落差にシロが嫌がらないか心配になる。


「こんなに広い部屋、使っていいのか?」

「勿論ですよ! 客人用の部屋なので好きに使ってもらっていいですよ」


 まぁこれだけ広い家だったら、そういう部屋の1つくらいあるものなのか。

 

「ねぇ、こっちにおいで」

 ティアナはベッドの横で、シロに手招きをする。


 シロは静かに頷くと、ティアナの方へと向かう。


「このベッドね、とってもふかふかなの。ほら、こんなに跳ねるんだよ」

 と言うと、彼女はベッドに飛び乗る。

「小さい頃はよくこうして遊んでたんだ。楽しいよ、やってみない?」

 彼女は一緒にやろうとシロを誘う。


 そして、シロは思い切ってベッドに飛び込んだ。

 

「……すごい! 楽しいね!」

 シロは緊張が解けたのか、いつものように楽しそう笑った。

「えへへ、そうでしょ!」

 

 2人は楽しそうにベッドの上で遊び、すっかり打ち解けあっているように見える。


 ロブの娘、凄いな……。


 それからも、ティアナがシロの髪を編んであげたりと、男の俺には入る隙のない展開が続いた――。

 

 


「ねぇ、ねぇ! どう?」

 シロが、ソファで寛いでいる俺の方へと駆け寄って来た。

 そして、先程編んでもらっていた髪を見せる。


「似合ってるな! 凄い可愛いぞ」

 

 彼女は嬉しそうに笑った。


 

「まだ、父が帰ってくるまで時間がある事ですし、せっかくなら街に出かけて来てみたらどうです?」

 

 彼女の提案を聞き、露店の事を思い出した。

 そういや、シロがスイーツを食べたそうにしてたな。

 予定より多めに売上があったし、連れて行ってやらないとな。

 ロブに、この金でシロに何か買ってやれって事だしな。


「そうだな。シロ、あのスイーツ食べに行くか?」

「うん!」

 彼女は嬉しそうに返事をすると、ティアナの方へ行くと彼女の手を引っ張る。

「お姉ちゃんも一緒に行こ?」

「え? 私も? でも……」

 ふと、ティアナは俺の方を見る。


 この感じは、付いて行っても大丈夫か俺に聞いてるような視線だな。

 シロが付いて来て欲しいと言ってるんだ、俺に断る事なんて出来る訳ない。


 俺は、構わないぞと黙って頷く。


「分かった。一緒に行こうか」

「やった!」


 そうして、3人で露店に向かった――。





 目当ての露店に着き、シロが食べたそうにしていたスイーツを注文した。

 そして、近くのテーブルに3人で腰かける。


「あの、グレイさんは食べなくてよかったんですか?」

 ティアナは、何も注文していない俺を気に掛ける。

「あぁ、大丈夫だ。2人とも気にせず食べると良い」


 別に甘い食べ物が好きと言う訳でもないし、どちらかと言えば酒が呑みたい。

 ここ最近は、シロの事やポーションと大忙しだったから全然呑めてない。

 ゆっくりできる時間が出来たら、呑みたいもんだ。


「これ! あげる!」

 シロはそう言うと、スプーンにスイーツを乗せ、こちらに差し出す。

「くれるのか?」

「うん」


 シロから貰った一口のスイーツは、これまで食べたどのスイーツよりもおいしく感じる。


「これ、旨いな……。シロ、全部くれないか?」

「えー、やだよ」

 シロは、俺に食われまいと両手を伸ばしスイーツを守る。

 

「――2人とも本当に仲良しですね」

 ティアナは俺たち2人を見て微笑む。

「そ、そうか?」

 彼女の言葉に少し照れ臭くなる。


 そして、スイーツを食べ終えた俺たちは、ティアナの提案で他の店を回ってから彼女の家に戻ることにした。


 シロは初めて見るものに大興奮で楽しそうにしていた。

 次はあそこに行きたい、そう言ってはティアナの手を引き、綺麗な色の石を加工して作ったアクセサリー、冒険者用の武具など様々な店を回った。

 

 そして、一通り見て回った俺たちは噴水のある広場の椅子で休憩をしていた。

 時間を忘れる程楽しく過ごしていた事もあり、辺りは夕焼けに染まり始めていた。

 

「眠たくなっちゃったのかな」

 ティアナが優しく囁く。


 隣に座っているシロが、ティアナの肩に寄り掛かる様に眠っていた。


「そうみたいだな」

「そろそろ、戻りましょうか」

「そうだな。シロは俺が背負って行くよ」

 

 そして、眠っているシロを背負い、彼女の家に戻る。





「おう! 戻って来たか! 今日は飯を買って来たぞ!」

 家に戻り玄関を開けると、ロブが待っていた。

「お父さん。静かに。」

 ティアナはロブに向かって静かにしてくれと、立てた人差し指を口元に当てる。

「お、これはすまん……」

 ロブは囁くように謝る。


 それから、シロを部屋のベッドに運び寝かせ、ロブたちの居る部屋に向かった。

 戻るとテーブルの上には、買って来たであろう料理があった。


「こんなに用意して貰ったのに、すまないな」

「構わんさ。嬢ちゃんの分は取っておいて、明日にでも食ってもらえばいいだろう」

「何から何まで、本当にありがとな」

「どういたしまして! さぁ、冷めないうちに食っちまおう」


 それから、俺たち3人は夕食を食べ始めた。

 

 ロブと俺は酒を呑み交わす。

 久しぶりに呑む酒は格別な味だった。

 ――うまい!やっぱりこれだな。

 アルコールが全身に染み渡る。


 

 そして、酔いが回って来たのか、ロブは娘のティアナの自慢話を永遠と繰り返し始めた。

 ティアナは、とても恥ずかしそうにロブを叩いていた。


 お前らだって随分と仲がいいじゃないか。

 俺とシロも傍から見たら親子のように見えるのかもな……。


 そして、完全に酔っぱらったロブをティアナが寝室へと運ぶ。

 戻って来たティアナと、料理の後片付けをした俺たちはそれぞれの部屋に戻る。



 久々の酒で程よく気持ちよくなった俺は、ソファーで横になるとそのまま眠りについた。


 

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