第10話 ロブとティアナ

「お前さんら、到着したぞ!」

 

「本当に助かったぜ、ありがとな!」

「ありがとう! おじさん」


 商人に礼を済ませ、馬車から降りる。




 以前来た時よりも人が多い事に驚く。


 この街、こんなにも人で溢れかえってたか?

 2か月前に来たときは、そこまで人が多かった印象は無かったが。

 俺の知らない間に何かがあったんだろうか。


「人がたくさん! すごいね! それに、お家もたくさん」

 彼女は、初めて見る街の光景にとても興奮している。

「あぁ、凄いな。俺も久々に来て人の多さに驚いた」


 そして、普段からポーションの取引をしてくれている店に向かう。


 店に向かう道中、多種多様な露店にシロは目を輝かせていた。


「ねぇ、見て! これ、とっても美味しそう!」

 彼女は大はしゃぎで、果物を豊富に使ったスイーツを指さす。


 これは、ケーキか? こんなに暑いのに平気なのか?

 スイーツを陳列してある棚をよく見ると、端の方で青色に光る魔石があった。

 そういう事か、氷の魔石で温度を低く保ってるって事か。


 あんなにも目を輝かせているシロは初めて見た、相当食べてみたいんだろうな。


「シロ、すまないな。俺には、そいつを買ってあげられる金が今無いんだ」

「大丈夫だよ! 初めて見たからすごいと思っただけだよ!」

 

 笑顔で返事をしてくれたが、俺に気を使ってくれている事が分かる。

 

 シロが本気で喜んでる姿を見る為にも、店主と値段を交渉してみるか。

 もしかすると、ポーションが以前より高騰してるなんて事があるかもしれないしな。

 想定よりも売値が良かったならば、帰りに買って食べさせてやれる。

 最悪、このマジックバッグを売ってでも……。

 だから今は、我慢してくれ。すまん。




 

 そこから露店の並ぶ道を進み、目的の店に辿り着いた。


 よし、シロの為にも気合入れて行くとするか。


 勢いよく扉を開け、店の中に入る。


「いらっしゃいませ!」


 店に入ると、聞き馴染みのない女性の声が店内に響く。


 入る店を間違えたか?

 ここの店主は、男性だったはずだが……。

 でも、店の中は俺の知ってる物が並んでる。


「えーっと。この店は最近、店主が変わったりしたのか?」

「あ、すみません! 私は、ここの店主の娘のティアナって言います! 今日は父が忙しいので、私が代わりに」

 彼女は慌てた様子で頭を下げる。


「そうだったのか。こちらこそいきなり変なこと聞いてしまって、すまない」

「もしかして、父に用事があったのですか?」

「いや、今日はポーションを売るために来たんだ」


 すると彼女は、困った表情で頭を悩ませる。


 彼女に再び声を掛けようとした時、再び店の扉が開く音がする。


「おーい、ちゃんと店番やってるか?」

 

 聞き覚えのある声が耳に入ってくる。


「お父さん! お客さんが来てるよ!」

 彼女は、助かったと言わんばかりに大きな声を出す。


「お、グレイじゃねぇか! 久しぶりだな!」

 彼はこちらに近寄ると、背中を軽く叩いてきた。

「ロブ、久しぶりだな。ところで、今日は忙しかったんじゃ無かったのか?」

「そうなんだよ! ちょうど休憩しようと思って戻ってきたとこだ。休憩し終わったら、また出なきゃならん」

「そうか。なら手短に終わらせるとしよう。今日は大量にポーションを持って来たんだ、買い取ってもらえるか?」

 

 マジックバッグを開き、中から大量のポーションを台の上に並べる。

 今この瞬間まで全部買い取ってもらえると勝手に思っていたが、これだけの量を果たして買い取ってもらえるだろうか。

 量が多い事を理由に安値で買い叩かれても困る。


「おぉ! 助かるぜ。ちょうど在庫が無くなりかけてた所だったんだ。それに相変わらずいい品質だな」

 彼は台の上に並べられたポーションを隅々まで見て回る。

「そうか! それなら全部買い取ってもらえるのか?」

「勿論だ。お前が来ない間に、売りに来る奴は居たが、どれも粗悪品ばっかりだったからな」


 ポーションは注ぐ魔力量が重要だ。

 だが作り方が簡単故に、ポーションに必要な魔力を少なくして売ろうとする輩が多い。


「それで、値段は幾らぐらいになりそうだ?」

「品質も良いしな、大体こんなもんでどうだ?」

 と言うと、彼は紙に値段を書いて提示してくる。


 想定していたよりも少し多い金額に驚く。足りなかったら、交渉するつもりでいたから助かった。

 これだけあれば家賃も払えるし、シロにあのスイーツをご馳走することも出来そうだな。


「充分だ! だけど、こんなにもらっていいのか? 相場より少し多いぞ」

「あぁ、構わねぇよ。何に使うかは知らねぇが、そこの嬢ちゃんに何か買ってやれ」

 彼は、俺の後ろに隠れるように立っているシロに気づいていた。


 緊張しているのか、シロはロブが帰ってきてからずっと俺の影に隠れるように立っている。

 街中では平気そうだったが、意外と人見知りなのか?

 

 

「ありがとう。本当に助かる」


 ズボンの裾が引っ張られる感覚がする。

 ふと見るとシロが俺のズボンにしがみつきながら、顔だけを出して頭を下げる。


「そうだ、お前今日帰るのか?」

「そのつもりだ。今は、流石に酒には付き合ってやれねぇぞ」

「酒に付き合えって言ってるんじゃねぇよ」

 彼は大きな声で笑うと、誘っているわけではないと否定する。

「明日、この街で祭りをやるんだよ。だから聞いてみたまでだ」


 どおりで人が多かった訳か。

 しかし、祭りなんてやってたんだな。ポーションを売るとき以外に、この街に行くことが少なかった事もあり知らなかった。

 どんな祭りなのかは分からねぇが、シロを連れて行ってやればきっと喜ぶだろうけど、流石に宿代までは確保できていないしな。


「すまん、お前が提示してくれた、その金が俺の全財産になるんだ。宿代も無いから帰るわ」

「宿なんて探さなくても、俺の家に泊まっていけばいいだろ。ティアナ、別に構わねぇだろ?」

 と彼は自身の娘に確認をする。

「私は別に大丈夫だよ!」

「てな訳だ。どうする?」


 俺はどちらでも構わないというのが本音だが、シロはどうしたいだろう。

 人見知りをしているかもしれないし、流石に嫌だろうか。


「シロはどうだ? 明日の祭りとやらに行ってみたいか?」


 彼女は俺を見上げると、黙って頷く。


「だとすると、この人たちの家に泊めてらう事になるけど大丈夫か?」


 ……少し間をおいて、再び頷く。


「そうか、分かった。ロブ、お前の言葉に甘えさせてもらうとするよ」

 

 シロは少し悩んでいたし、もしも帰りたいって言い出したら、家賃を削って宿をとればいいか。

 そうなれば、マジックバッグを手放せばいいだけの話だしな。


「おう! 歓迎するぜ! ティアナ、後でこの2人を家に案内してやってくれ」

「はーい」


 そして、ロブからポーション代を受け取った。

 彼は金を渡し終えると、急いで再び何処かへ戻っていった。


「それじゃあ、さっそく家に向かいましょうか」

 ティアナはそう言うと、店を閉める準備を始めた。

「店閉めちまって大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。今日来たお客さんはあなた達だけですし、みんな祭りの準備で忙しいみたいだから」

「そうなんだな」


 そして、ティアナの案内で彼女らの住む家に着いた。



 

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