第9話 いざ街へ
今日は、朝日が昇る前に目が覚めた。
まだ外が暗いな。楽しみすぎて早く起きちまったな。
シロは、流石にまだ眠っているか。
よし、まずはポーションを売りに行く為の準備をしておくか。
いつも使っていた鞄は何処に置いたんだっけか。確かこの辺に……。
お、あった! しかし、これ1つだと流石に入りきらないか。
押し入れの中から、山積みになった物を掻き分け使えそうな物を探す。
――これは!
押し入れの奥の方から、古びた鞄を見つける。
こいつは冒険者をしていた頃に、大枚を叩いて買ったマジックバッグじゃねぇか!
ここに住み始めた頃は、何もやる気が起きなかったせいで、使わないだろうと押し入れに仕舞った事を完全に忘れていた。
覚えてれば、わざわざ以前まで使ってた鞄より楽に運べたのにな。
物だって大量に入るし、何より中に入れた物の重量が軽くなる優れものだ。
こいつがあれば、ポーションの持ち運びも楽になるな。
それに、ポーションの売上だけじゃ足りなかった場合に、高値で買い取ってもらえるかもしれないしな。
当時、俺が2年間必死に依頼をこなして稼いだ金を全て投げ打ってようやく買えたんだ。
いくら古いものだと言っても、機能自体はそこまで劣っていないはずだ。
家賃どころか、新築まで立てられたりしてな。
妄想に期待を膨らまし、暗い押し入れの中で静かに笑みを浮かべる。
それから、マジックバッグに大量のポーションを詰めこんだ。
よしこれで、準備は出来たな。
準備を終えた頃には、太陽が顔を出し始めていた。
そろそろシロも起きてくる頃合いだろうな。
朝食の準備でもするか。
そして、朝食を作り終えると同時にシロが起きてきた。
「……おはよう」
彼女は、眠たそうに目を擦りながら体を起こす。
「おはよう! 朝食、出来てるぞ」
「うん、ありがとう! いただきます」
朝食を食べ終えると、さっそく街へ行く為に荷物を確認する。
もし入れ忘れなんてあったら怖いからな、バッグの中身を確認しとくか。
ポーションはと……、よし大丈夫だな。あとは水と食料。念のため、魔物除けの護石も持っていくか。
ほぼ心配いらないとは思うが街に向かう道中で、魔物に出くわしたら大変だからな。
ひとまず、必要そうなものは確認できたな。
シロの準備はそろそろ終わっただろうか?
「シロ。俺の方は準備万端だ、そっちはどうだ?」
「うん! 私も準備万端だよ!」
彼女は元気よく返事をして、この時を待ち焦がれていたかのように足踏みをしていた。
随分楽しみにしていたみたいだな。
昨日は嫌がっているのかと思ったから良かった。
「それじゃ、街に向かって出発だ!」
「出発ー!」
家から出て少し進むと、石で綺麗に舗装された道に出た。
この道を通るのも2ヵ月ぶりか、いつも思うが綺麗に整備されてるな。
まぁ商人たちもこの道をよく使うから、これだけ綺麗に舗装されてるんだろうな。
俺とシロは道を真っ直ぐに歩いて進む。
しかし、今日も暑いな……。
雨が降るよりは良いが、こうも雲ひとつ無い晴天だと日差しがきついな。
こまめに水分補給しておかないと、倒れてしまいそうだ。
家を出てから、結構歩いたな。
ここらで一旦、休憩しておくか。
「結構歩いたことだし、そこの木陰で休憩するか」
「うん! わかった」
道のすぐ横にあった大きな木の下で、持参していたご飯を食べる。
「どうだ、疲れてないか? もし足が痛くなったりしたらすぐに言うんだぞ。俺が背負って行くからな」
「大丈夫! 疲れてないよ! 見たこと無い景色が見られてすごい楽しい!」
彼女は口元にソースを付けたまま、満面の笑みを見せる。
「そうか! それは良かった。でも、無茶だけはするなよ。それと、ソース付いてるぞ」
そう言って、彼女の口元のソースを布で拭った。
昼食を食べ終えた俺たちは再び街に向かって歩き出す。
しかし、随分と辺鄙な場所に移り住んだせいで、街まで距離があるな。
そんな事を考えながら歩き続けていると、後方から音が聞こえてくる。
後ろに振り返ると、馬車がこちらに向かって走って来た。
そして俺たちの横で馬車を止めると、中年くらいの商人の男が話しかけてきた。
「お前さんら、何処から来たんだい?」
「ユヘア村からだ」
「そうか、ユヘア村からか。それでどこに向かってるんだ?」
「この先にある街へ向かってる」
「ちょうど俺もその街に向かってんだ、荷台は少し狭いが乗ってくか?」
俺がひとりなら喜んで乗せて貰ったが、今はシロも居る事だし、ここは慎重になる必要があるな。
一見怪しさは感じられないが、念には念をだ。
「乗せて貰いたいが、念のため荷台を確認してもいいか?」
「あぁ、もちろんだ! 見てくれて構わねぇぜ」
彼は心置きなく、俺の申し出を快諾してくれた。
それから馬車の荷台を確認する。中には大量の食材が乗っていた。一抹の不安も残さない為、隅々まで見て回る。
とりあえず、怪しそうな物は無いな。これなら大丈夫だろう。
「疑って、すまなかったな。あんたが良ければ、乗せて行ってもらえるか?」
「構わねぇぜ! 謝る必要はねぇ、旨い話ってのは裏がある事が多い、疑いから入るのは当然の事だ」
彼はそう言って馬車から降りると、俺たちの座るスペースを作ってくれた。
こいつは幸運だったぜ。まさか、馬車に乗せて貰えるなんてな。
歩きだともう少し時間がかかっていただろうし、何よりシロが足を痛めたりしないかが心配だった。
それにしても本当に快適だな。最高だ!
シロもきっと、初めての馬車に喜んでるだろうな。
彼女に目を向けると、なぜか難しい表情をしていた。
「シロどうした? 気分でも悪くなったか?」
馬車に乗ったのは、初めてだろうし乗り物酔いでもしたんだろうか?
「私は大丈夫だよ!」
彼女は元気そうに返事をする。
「もし、気分が悪くなったりしたら、すぐに言うんだぞ」
「うん! わかった」
それから商人の男と談笑をしながら、俺たちは順調に目的地に進んで行った。
そして、目的の街に着いた――。
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