第8話 危うく火事に

 音が聞こえてきて、目が覚める。


 んあ……? 一体何の音だ?

 それに、何だか焦げ臭いような気が。


 匂いの元を辿り目線を移すと、台所に立つ少女の姿があった。

 シロ……? まさか、料理してんのか?


「おはよう、シロ。もしかして、朝食作ってるのか?」

「ご、ごめんなさい。うまく出来なかったみたい」

 彼女は、今にも泣きだしそうな表情でこちらを見る。


 彼女の前にあるフライパンを見ると、真っ黒に焦げた何かがあった。

 おそらく卵なんだろうけど、これはすごいな……。

 まぁでも、みんな最初はこんなもんだ。落ち込まなくていいと、励ましてやろう。

 

「誰だって最初から上手に出来たりしない。俺も昔は、よく卵を真っ黒にしたもんだ」

 そう言って、彼女の頭を優しく撫でる。


「……そうなの?」

「あぁ、そうだ。俺も手伝うから、一緒に作ろうか」

「うん!」


 それから、彼女と共に朝食を作り始める。


「それじゃ、失敗した原因を知るためにも、もう一度やってみてもらおうかな」

 

 とは言ったものの、黒焦げになっている、この卵を見たら原因は明らかだけどな。

 ……って、待て。そういや、どうやって火の魔石を使ったんだ?

 この世界で生まれたからには、魔力を持っている事は不思議じゃないが。

 普通は、扱い方を教わらないと使えないはずだ。

 まさか見様見真似で使えたってのか?

 

「なぁ、シロ。火はどうやって付けたんだ?」

「んーとね、この石に手をかざしてお願いしたら、ボワって火が出たの」

「もう一度やってみてもらえるか?」

 彼女は頷き、魔石に手をかざした。


 すると、途端に魔石からものすごい勢いで火が昇る。


 ――なんだこれは!?

 

 魔石に魔力を込めて、火を付けるだけでも驚いたが、火炎魔術のような勢いに驚愕する。

 そりゃ、卵なんてひとたまりも無いはずだ。

 下手したら卵じゃなくて、この家が丸焦げになってたかもな。


 こんだけ火が出るって事は、おそらく魔力の込めすぎが原因だろうな。

 しかし、この幼さでこれだけの威力ってことは、それだけ魔力量が多いって事だろうか。

 これはしっかり教えてやらないと、そのうち家が無くなりかねん。

 とりあえず魔力の扱い方から教えるとするか。


 シロに魔力が原因だという事を伝えた。

 魔力の扱いに関しては、一朝一夕で覚えられるものではない。

 だからひとまず、火の調節は俺が行い朝食を作り上げた。


 


 そして、朝食を食べ終えると同時に大家が家にやって来た。


「嬢ちゃん、約束通り来たぞ」

 扉の向こう側から大家の声が聞こえてくる。


 すると、彼女は勢いよく扉を開け大家を歓迎する。


 昨日初めて会ったんだよな……? やっぱり俺より懐いてないか?

 

「嬢ちゃんと遊んでくるからの。お前はポーションをしっかり作っておくんだぞ」

 2人は遊ぶ約束をしていたらしく、仲良く遊びに出かけて行った。


 あの爺さん、俺に何も言わずに勝手にシロと約束をしていただと?

 シロも遊びに行くのなら言ってくれればよかったのに……。寂しいもんだ。

 家賃の事は、自分で蒔いた種だ。悔しいが、おとなしくポーションを作るか。


 そこから、1人で作業に使う道具を運び出し、職人のように黙々とポーションを作る。

 

 




 そして、次の日からも大家の爺さんは家にやって来ては、シロと遊びに出かけて行った。

 そんな日々が続き、早くも1週間が経った。


 ふぅ。ようやく必要な量を作り上げることが出来た。

 これでやっと、ポーションを売りに行ける。

 早くこれを売って、シロの心をあの爺さんから引き剥がさなければ!

 このままだと、本当に俺と引っ越すのなんて嫌と言い出しかねない。


「ただいま!」

「今日も楽しかったのう」

 2人は今日も楽しそうに帰って来た。


「おかえり! ようやく出来たぞ! 明日は街に行くからな!」

 うっぷんを晴らすかのように、声を張り上げる。

「なんじゃ、お前。そんな大きな声を出さんでも聞こえとるわい」

 彼は呆れた様子で、両手で耳を押さえる。

 

「それは……、悪かった」

「お、おう。やけに素直に謝るのう。それよりお前、そのポーションたちは、もしや作り終わったんか?」

 彼は作業台の上にある、大量のポーションを見て作り終えたことに気づいたようだ。


「ようやくな……。だから明日も、遊ぶ約束をしてるなら悪いが、明日は街にポーションを売りに出かけるから無しだ」

「そっか……」

 彼女は落ち込んだ様子でポツリと呟く。


 あれ? もしかして俺より爺さんと遊ぶ方がいいのか?

 そうか、いやそうだよな。遊んでるほうがいいよな……。

 俺と出かけるなんて、つまらないもんな。


 落ち込み肩を落としていると、シロが俺の横に来て声を掛ける。


「嫌な訳じゃないよ! ただ、もう少し時間が欲しかっただけ。でも大丈夫、間に合うと思うから」

 焦った様子で嫌がっていた訳じゃないと、必死に訴えかけてくる。


「……そうなの?」

「うん。だから落ち込まないで」


 シロが俺と居るのが、嫌じゃないと分かっただけでも良かった。

 本当に嫌われてしまったんじゃないかと不安になった。


 それから大家の爺さんは、いつも通り満足した様子で帰っていった。

 そして、道具を片付けてから家に戻る。

 


 明日は久しぶりに、シロと2人でお出かけが出来る。

 まぁお出かけとは言っても、ポーションの買取をしてもらいに行く訳だが。

 けどスムーズに交渉が進めば、観光して帰る時間もあるだろうし、明日の交渉は気合を入れて行くとするか。

 街を観光することで、きっとシロも喜ぶに違いない! 明日が楽しみだ。


 


 期待に胸を膨らませながら、眠りにつく――。


 

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