第二十二話

 すると直道なおみちは、立ち上がった。

「え? どうして僕の体力を回復させたの? シオンさんの体力を回復させないの?」


 僕は、必死ひっしうったえた。

「い、いや。シオンさんの攻撃は、今のドラゴン・ロードにはつうじない。だから、かけたんだ。お前がおぼえた、新しい魔法に……」


 それを聞いた直道は、うなづいた。

「うん、分かったよ。僕、やってみるよ!」


 そうして直道は両手をき出して、魔法をとなえた。


 フレア!


 すると直道の両手から、三メートルくらいの太陽のような光がドラゴン・ロードに向けて発射はっしゃされた。だがドラゴン・ロードは真っ赤で大きな火の玉を口から出して、それをふせいだ。


 直道とドラゴン・ロードの間で、フレアと火の玉がぶつかり合っていた。僕には、予感よかんがあった。フレアをドラゴン・ロードにぶつければ、必ず勝てると。


 だから僕は必死に歩いて、直道の後ろに立った。直道も、必死だった。フレアをかえされないように、必死に両手を伸ばしていた。


 がんばれ、直道。そのフレアをドラゴン・ロードにぶつければ、きっと勝てる。僕は直道の背中せなかに、両手をてた。こんなことをしても、意味いみは無いかも知れない。でも僕は、そうしていた。いけ、勝て、直道。僕は、さけんだ。

「僕がついてるぞ、直道。いけええええ!」

「うわああああ!」


 するとフレアは火の玉を消滅しょうめつさせて、ドラゴン・ロードに直撃ちょくげきした。


「ギャアアアアー!」という悲鳴ひめいをあげて、ドラゴン・ロードはたおれた。そして、消滅した。

「くっ、人間の小僧こぞうども。貴様きさまらのことは、決して忘れん。決してなあ!」という言葉を残して。


 か、勝ったのか、あのドラゴン・ロードに……。少ししてそれを実感じっかんすると、安心あんしんして体中から力がけた。そしてヘナヘナとその場に、へたりこんだ。すると突然とつぜん、直道が僕にきついてきた。

「やったよ、純貴じゅんき君! 僕たち、あのドラゴン・ロードに勝ったんだよ! やったー!」


 でも僕は、正直に言った。

「いや、うん。うれしいのは、僕も同じだよ。でも、ちょっとはなれてくれないかな。僕の体力はもう、ほとんど残ってないんだ……」


 すると直道は、離れてくれた。

「あ、そうだったの。ごめん、ごめん」


 そして僕は、自分とシオンさんにリカバリーの魔法をかけた。少ししか体力は回復しなけど、それでいい。もう、戦う相手はいないんだから。もう戦いは、終わったんだから。するとシオンさんは、僕たちに近づいてきた。


「よくやったわね、君たち。君たちと一緒いっしょにこのダンジョンに入ったことを、私はほこりに思うわ。そして、エルフのさとまもってくれた。エルフを代表だいひょうして、おれいを言うわ、ありがとう」


 とシオンさんは、僕たちに頭を下げた。僕は何だか、ずかしくなった。

「ちょっと、れますよ、シオンさん。いつものシオンさんに、もどってくださいよ」


 するとその言葉を待っていたかのように、シオンさんは満面まんめんみをかべて僕たちに抱きついてきた。

「君たちは、本当にすごい! えらい! よくやった! バンザーイ!」


 そのシオンさんの様子ようすを見て、僕と直道は微笑ほほえんだ。でも次の瞬間しゅんかん、直道はさけんだ。

「あ、あれを見て! あのあながあるよ、純貴じゅんき君!」


 見るとドラゴン・ロードが消滅した場所に、この惑星わくせいトラニバにくるきっかけになった穴があった。ドラゴン・ロードが消滅したので、その影響えいきょうで穴ができたんだろう。すると直道は、かした。

「早く入ろうよ、純貴君! じゃないとまた、穴が消えちゃうよ!」


 それもそうだな。じゃなきゃここまでのガンバリがムダになるなと思い、僕も穴に近づいた。直道はすでに、穴に入ろうとしていた。僕も入ろうかと思ったが、シオンさんに最後の挨拶あいさつをした。

「それじゃあ、さよならシオンさん。エルフの里のみんなと、仲良なかよくしてください」


 するとシオンさんは、このわかれがかなしそうに手をってつぶやいた。

「ありがとう、小さな勇者ゆうしゃたち……」


 そして僕も、穴に入った。

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