第二十話

 すると、しんじられないことがこった。そいつが、しゃべった!

「ふむ。いかにもわれは、ドラゴン・ロードだ……」


 その声は威厳いげんすらも感じられたが、僕にはそんなこと、どーでもよかった。僕はドラゴン・ロードを一目ひとめ見かて、その強さを感じた。


 そして、思った。ダメだ。こいつには勝てない。今までのダンジョンのボスとは、くらべものにならない威圧感いあつかん。僕はそれを感じ取って指一本ゆびいっぽん、動かせなかった。


 でも僕は、素早すばやく考えた。この絶望的ぜつぼうてき状況じょうきょうを、どうにかしようと。すぐに思いついたのは、このドラゴン・ロードから逃げることだ。こんなバケモノと戦うくらいなら、この部屋を出て三体さんたいのドラゴンと戦う方が絶対にマシだ。


 でも僕には、イメージがかんだ。ドラゴン・ロードから逃げるために背中せなkを向けた瞬間しゅんかん一撃いちげきでドラゴン・ロードにやられるイメージが。ダ、ダメか。やっぱり逃げることもダメか……。するとドラゴン・ロードは、大きな声で笑った。

「グハハハハ! まんまとワナにかかってくれたな! 地下四階に戻る階段付近にドラゴンを出現しゅつげんさせ、この部屋におびき出すワナに!」


 くっ、そうか、ワナだったのか。僕たちはそのワナに、まんまとかかってしまった……。


 するとシオンさんは、ドラゴン・ロードに話しかけた。精一杯せいいっぱいの勇気を出した、という表情で。


「話ができるとは、さすがはドラゴン・ロード。それじゃあ答えてもらうわ。これから私たちを、どうするつもり?」

「決まっているだろう。お前たちを、たおす……」

「そう。そして次は、どうするつもり?」

「それも決まっている。ダンジョンのモンスターをれて、エルフのさとおそう。今度こそエルフの里を、ほろぼしてやる! グハハハハ!」


 そうして高笑たかわらいをしているドラゴン・ロードを無視むしして、シオンさんはり返り僕たちにあやまった。

「ごめんね、純貴じゅんき君、直道なおみち君。こんなことになっちゃって。私たちはもう、わりだわ……」


 弱気よわきになっているシオンさんを、僕ははげました。

「何、言ってるんですか、シオンさん! 僕たちは終わりじゃないですよ! 簡単なことですよ! あのドラゴン・ロードを倒せばいいんですよ! それだけの話ですよ!」


 でもシオンさんは、表情をくもらせた。

「でもドラゴン・ロードは、エルフの里のみんなで戦ってやっと倒せる相手。私たちだけじゃ、とても……」


 でも僕は、勇気を出した。さっきシオンさんが、勇気を出したように。

「シオンさんは、言ってくれたじゃないですか! 僕と直道は、強いって! シオンさんもいれば、ドラゴン・ロードも倒せるかも知れないって! 僕はあの言葉、忘れてませんよ!」


 すると直道も、話し出した。銀縁ぎんぶちメガネのブリッジを右手の中指で押し上げて。

「そうですよ、シオンさん。おそかれはやかれ、ドラゴン・ロードは倒さなきゃならないんです。それが今だという、ことです……」


 するとシオンさんの表情は、やわらいだ。

「そうね、そうだったわね……。よし、私たちは強い! きっとあの、ドラゴン・ロードを倒せるくらい!」


 シオンさんが元気を出してくれて、僕は安心した。でも僕は、ドラゴン・ロードに疑問ぎもんを聞いてみた。

「お、おい! ドラゴン・ロード! お、お前、どうしてエルフの里を襲うんだ?!」


 するとドラゴン・ロードは、答えた。表情が分からないので、どんな気持ちなのかは分からないけど。

「ふん、人間の小僧こぞうか……。いいだろう、教えてやろう。それはな、ヒマだからだ!」


 は? 今、何て言った、こいつ。ヒマだからエルフの里を襲う? どういうことだ? だから僕はもう一度、聞いてみた。

「お、おい! ヒ、ヒマだからって、一体どういうことだよ?!」

「ふん、人間の小僧にも分かるように教えてやろう。我の寿命じゅみょうは、とてつもなく長い。人間はもちろん、エルフよりもな。だから、ヒマなんだ。だから退屈たいくつしのぎに、エルフの里を襲っているんだ……」


 プッチーン! 僕の中の、何かが切れた。僕は、言ってやった。

「お、お前もしかして、友だちがいないだろう?!」

「は? 何を言っている、人間の小僧?」

「ヒマだったら、友だちと遊べばいいんだよ! 僕にはいるよ、友だちが。僕のせいでこんな世界にきちゃって地球に帰れなくなっちゃたけど、それでも一緒いっしょに地球に帰ろうって言ってくれる友だちが。そんな優しい友だちが僕にはいるんだ!」


 そして僕は、直道を見た。直道は笑顔で、右手の親指を立てた。それを見た僕は、調子ちょうしった。

「やーい、友だちがいない、一人ぼっちー!」


 さらに僕はドラゴン・ロードにおしりを向けて、右手でたたいた。

「お尻、ペンペン」


 やっぱり表情は分からないけど、ドラゴン・ロードはキレたようだ。

「何か知らんけど、ムカつくー!」


 あ、ヤバイ。メチャクチャ、怒ってる。でもシオンさんは僕を振り向いて、右手の親指を立てた。そしてドラゴン・ロードに、宣言せんげんした。

「エルフの里をまもるため、純貴君と直道君を地球に帰すため、私たちはあなたを倒すわ!」

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