第十九話

 僕は、納得なっとくしてしまった。たしかにここのドラゴンと戦いながら、おくに進むのは無理むりだ。ドラゴンにやられてしまったら、もちろん地球にも帰れなくなる。


 シオンさんがこのダンジョンから出ようと言っているのは、当然とうぜんだ。でも僕は、聞いてみた。

「それじゃあシオンさんは、エルフのさと長老ちょうろうにどうつたえるんですか?」


 するとシオンさんは、少し考えてから答えた。

「長老には、ドラゴン・ロードは復活している可能性が高いと伝えるわ。君たちも感じたでしょう、この地下五階の異様いような空気を。こんな空気にできるモンスターは、そういない。それにここのドラゴンの強さからして、やっぱりドラゴン・ロードが復活している可能性が高いわ……」


 なるほど、確かにそうかも知れない。でも僕は、一つ聞いてみた。

「それじゃあ僕たちは、どうやって地球に帰るんですか?」


 僕の必死ひっしの表情を見て、シオンさんは僕を安心させる笑顔を見せて答えた。

「それは大丈夫だいじょぶよ。私が長老にドラゴン・ロードは復活している可能性が高いと伝えれば、エルフの里のみんなは戦ってくれる。おそらくドラゴン・ロードは里をおそいにくるでしょうけど、大丈夫。皆で戦えば、勝てるわ。今までも、そうしてきたから……」


 そしてシオンさんは、再び笑顔を見せた。

純貴じゅんき君、直道なおみち君。その時は、二人の力をしてくれないかな? 君たちは、強い。君たちならドラゴン・ロードをたおすための、貴重きちょう戦力せんりょくになるから」


 それを聞いた僕は、直道の顔を見た。でも直道も、同じことを考えているようだ。まず、僕がシオンさんに伝えた。

「もちろんですよ、シオンさん! 僕も戦いますよ! エルフの里をまもるために、地球に帰るために!」


 直道も、キッパリとシオンさんに伝えた。

「僕もです、戦います! エルフの里を襲うドラゴン・ロードをゆるせないし、そして僕たちが地球に帰るために!」


 それを聞いたシオンさんは、ニッコリと微笑ほほえんだ。

「ありがとう、二人とも。それじゃあこのダンジョンを出て、エルフの里でドラゴン・ロードをむかちましょう!」

「「はい!」」


 そうして僕たちは地下四階に戻る、階段に向かった。その途中とちゅう、僕は色々なことを考えた。あ~、結局けっきょく、ドラゴン・ロードが復活しているかどうかは確実かくじつには分からなかったか。実は僕は、期待きたいしていた。ドラゴン・ロードを見ることを。どうせ戦わないんだし、見るだけなら。


 でもまあ、いいか。エルフの里の皆と、ドラゴン・ロードと戦うことになったんだから。だからドラゴン・ロードの姿はその時、見ればいい。それにしてもエルフの里か、一体どんなところだろう。


 僕はすごく、興味きょうみがわいた。そこにはどんな、エルフたちがいるんだろう。まずは、長老さんに会ってみたい。そして、エルフの戦士にも。どんなエルフなのかな? そう考えるとこんな状況じょうきょうなのに、僕はワクワクした。


 だがそんな僕たちの前に、ドラゴンがあらわれた。シオンさんはもちろん、さけんだ。

「このドラゴンとは、戦わないわ! 私たちが目指めざすのは、地下四階にもどる階段だけ!」


 そうして僕たちは、このドラゴンをけようとした。でもここで、予想外よそうがいのことがきた。避けようとした先に、もう一体いったいのドラゴンが現れて僕たちの道をふさいだ!


 僕たちはしばらくの間、動けなくなった。これは、どうすればいい?! 

一体のドラゴンを倒すのも大変たいへんなのに、二体にたい同時どうじに戦うなんて! 


 そう僕が考えていると、さら絶望的ぜつぼうてき状態じょうたいになった。三体目さんたいめのドラゴンが、現れたのだ。それを見たシオンさんは、素早すばや判断はんだんしたようだ。

「逃げるしかない! 地下四階に戻る階段はあきらめて、いったん奥に逃げるしかない!」


 そしてシオンさんは、奥に向かって走り出した。当然、僕と直道も走り出した。走りながら僕は、絶望を感じていた。奥まで逃げて、どうする? 

地下四階に戻る階段に向かうには結局けっきょく、あの三体のドラゴンを倒すしかない。でもそれは、無理むりだ! どうする、どうする? と考えながら僕は走っていた。


 すると更に、絶望が待っていた。目の前の通路に、あたりがあった。つまりもう、逃げられない! でもよく見るとその突き辺りは、大きなとびらだった。


 しかもその扉からはこの地下五階に下りてきた時に感じたプレッシャー、エネルギー、そして恐怖きょうふを感じた。少し考えた後、シオンさんは叫んだ。

「くっ、いや予感よかんしかしないけど、入るしかないわ! 二人とも、扉をけるから力を貸して!」


 そして僕たちは全力ぜんりょくで、重い扉を開けた。シオンさんの嫌な予感が当たらないように、いのりながら。ギギギギィィという音と共に開いた扉の先に、部屋が見えた。僕たちはすぐにそこに飛び込んで、扉をめた。僕たちは一瞬いっしゅんだけだが、安心した。あの三体のドラゴンと、戦わなくてもいいからだ。


 その部屋は、とても大きかった。高さは、三十メートルくらい? とにかく、高かった。そして、広かった。先が見えないほど。すると僕たちに、希望きぼうがわいてきた。この部屋を調べたらもしかすると、このダンジョンから出る方法が見つかるかも知れないという希望だ。


 そして僕たちは、この部屋を調べ始めた。するとこのダンジョンから出る方法が見つかるかも知れないという希望は、消えてしまった。目の前に、巨大きょだいなドラゴン現れたからだ。


 高さは十メートルくらい。色は黒。するどい足のつめと手の爪。そして長く太いシッポがあって、大きなつばさを広げていた。僕たちはおそるおそる、その顔を見上げた。


 大きく開いた口に、長いきば、そして凶暴きょうぼうそうな、大きな目をしていた。更に頭にはツノが一本、えていた。シオンさんはおどろきの表情で、つぶやいた。

「ま、まさかこいつが、ドラゴン・ロード?……」

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