地下五階

第十八話

 地下五階の壁は岩のようにゴツゴツしていて、今までと同じだった。でも、雰囲気ふんいきが違った。おくの方から、今まで感じたことが無いプレッシャー、エネルギー、そして恐怖きょうふを感じた。 


 なので僕は、予想よそうした。この地下五階の奥に、復活したドラゴン・ロードがいるかも知れないと。そう予想しているのは、僕だけだはないようだ。シオンさんも直道も、今まで見たことが無い緊張きんちょうした表情をしていたからだ。するとシオンさんは、話し出した。

「二人とも感じているようね、この異様いような空気を」


 そして深呼吸しんこきゅうをして、続けた。

あらためて確認しておくけど私たちがやるべきことは、ドラゴン・ロードが復活ふっかつしているかどうかを調べること。たおすことが目的じゃない。ドラゴン・ロードを倒すには、エルフのさとみんなの力が必要だから。分かった?」


 僕と直道なおみちは、素直すなおうなづいた。まだ姿を見せていないのに、こんな異様な空気をただよわせるモンスターを倒せる自信がなかったからだ。そして僕たちは、慎重しんちょうに奥に向かって進み始めた。


 すると壁から、モンスターがあらわれた。僕は最初、緑色の大きなトカゲだと思ったが違った。その口から、ほのおき出したからだ。炎をあびた僕たちは、ダメージを受けた。それを見たシオンさんは、さけんだ。

「くっ、ドラゴンか! 二人とも気を付けて、こいつは強いから!」


 そしてシオンさんはドラゴンに、りかかった。だがダメージは、あまり与えられなかったようだ。すると直道は、かみなりの魔法をとなえた。


 サンダー!


 ダンジョンの天井てんじょうから発生した雷は、ドラゴンに直撃ちょくげきした。するとドラゴンは、一瞬いっしゅんひるんだ。どうやらドラゴンに、ダメージを与えたようだ。でも倒すことはできなかった。それを見たシオンさんは、叫んだ。

「いくらドラゴンといっても、ちゃんとダメージは与えられる! 直道君、パワー・ソードの魔法をかけて!」


 直道はけん攻撃力こうげきりょくを上げる魔法を、シオンさんが持っているレイピアにかけた。


 パワー・ソード!


 するとシオンさんは前方ぜんぽうにジャンプして回転し、そのいきおいでドラゴンを斬った。


 ローリング・スラッシュ!


 その攻撃をらったドラゴンは、消滅しょうめつした。だがシオンさんの呼吸こきゅうは、あらくなっていた。

「はあ、はあ……。さすがにドラゴンは、強いわね。一体いったいを倒すために、『スラッシュ』を使わなければならないなんて……」


 シオンさんの説明によると『スラッシュ』は、敵に大ダメージを与える必殺技だ。でもその分、体力を多く使うそうだ。僕は体力が少なくなったシオンさんに、体力を多く回復させる魔法をかけた。


 ハイ・リカバリー!


 するとシオンさんの体力は、だいぶ回復したようだ。シオンさんは笑顔でげた。

「ありがとう、純貴じゅんき君。さあそれじゃあ、奥に進むわよ!」


 そうして奥に向かって進む僕たちの前に、またドラゴンが現れた。直道は雷の魔法と剣の攻撃力を上げる魔法を使い、シオンさんは『スラッシュ』をはなって、やっとドラゴンを倒した。僕は多く体力を回復させる魔法を、シオンさんにかけた。


 そうやってドラゴンを倒しながら奥に進んでいたが、やはり僕たちの体力と魔力は確実かくじつっていた。なので僕たちはここで、休むことにした。


 シオンさんはバックパックからぬのを出してひろげて、そのまわりに聖水せいすいりまいた。これでモンスターは近づいてこないので、僕たちは布によこになって休もうとした。


 しかしそんな僕たちに、ドラゴンはおそいかかってきた。シオンさんは、あせった表情になった。

「くっ、ドラゴンには聖水の力はかないのか?!」


 そして布をバックアップにもどしたシオンさんは、叫んだ。

「今、ドラゴンと戦うことはしないわ! いったん逃げるわよ、二人とも!」


 そうして何とかドラゴンから逃げ切った僕たちは、壁にりかかっていた。少しでも体力と魔力を回復させるために。するとシオンさんは、真剣しんけんな表情で告げた。

「二人とも、このダンジョンから出るわよ……」


 僕は当然とうぜん、聞いた。

「どうしてですか?! まだドラゴン・ロードが復活しているかどうか、調べていませんよ!」


 シオンさんは、くやしそうな表情で答えた。

「私も悔しい。私だって、それを調べたい。私がこのダンジョンに入った理由は、それだから。でも、もう無理むり。ここのドラゴンは、強すぎる。休むこともできない私たちは、いつかやられる……」

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