第十七話

 どうやらシオンさんの目の前にいるのは、エルフのさと長老ちょうろうらしい。もちろんシオンさんもこの長老は、ニセモノだと分かっているだろう。


 でも同じ姿と同じ声で、まよっているんだろう。僕はさらに、直道なおみちを見た。すると直道は、女性と話していた。


「お、お母さん! どうしてこんなところに?!」

「それはおまえを、止めるためよ」

「止める? どうして?!」

「それはこの先は、危険きけんだからよ。自分の子供が危険なところに行かないように、親が止めるのは当然とうぜんでしょう?」

「でも、お母さん……」


 なるほど。このニセモノたちは、僕たちをこの先に行かせないためにあらわれたようだ。でも僕たちは、迷っている場合じゃない。僕たちはドラゴン・ロードが復活ふっかつしたのかどうかを、調べなければならい。でも……。


 すると由姫ゆきちゃんのニセモノは、再び僕をさそった。

「ねえ、遊ぼうよ、純貴じゅんき君。あぶないところなんかに行かないで、ここでずっと遊んでいようよ?……」


 くっ、ダメだ。僕が今一番、気になっている女の子の由姫ちゃんに誘われると、ことわれない。しかも本物じゃなくても姿や声まで一緒いっしょの由姫ちゃんなら、このままここにいても良いかなと思い始めていた。


 くっ、ダメだ。このままではダメだ! 僕はシオンさんに助けてもらおうと思って、シオンさんを見た。するとシオンさんも、長老のニセモノと話していた。


「この先に進むなって、どういうことですか長老?!」

わしはお前を、心配しんぱいしてるのじゃ。この先には、進むんじゃない」

「しかしそれでは、ドラゴン・ロードのことを調べることができません! それでも良いんですか?!」

「ああ、かまわない」


「しかしもしドラゴン・ロードが復活ふっかつしていたら、さとみんなが危険です!」

「そんなことは、かまわん。里の皆のことは、どうでもいい。儂は、お前が心配なのじゃ……」


 それを聞いたシオンさんは、覚悟かくごを決めた表情ひょうじょうになった。

「私が知っている長老は、決してそんなことは言わない!」


 そしてレイピアをろし、長老のニセモノをぷたつにした。するとニセモノは金色きんいろのドロドロとした物体ぶったいになって、消滅しょうめつした。


 そうだ。この由姫ちゃんもニセモノなんだ。僕をこの先に進ませないための、ワナなんだ。でも僕はやっぱり、姿も声も同じ由姫ちゃんに攻撃することはできなかった。だから僕は、シオンさんにたのんだ。

「シオンさん、お願いします! 僕の目の前にいるニセモノも、たおしてください!」


 すると直道も、さけんだ。

「僕も、お願いします! 目の前にいるお母さんのニセモノを、倒してください!」


 それを聞いたシオンさんは、うなづいた。そして由姫ちゃんのニセモノと直道のお母さんのニセモノを、真っ二つにした。シオンさんは、つぶやいた。

「心の中にいる一番大切な人に姿を変えて、この先に行かせないようにするなんて、おそろしい魔法だわ……。やっぱりエレメント・モンスターの中で最強さいきょうと言われる、アモカチの魔法ね……」


 でも僕は、言ってやった。

「聞いたか、直道。やっぱりあいつは、最強とばれるモンスターらしいぞ。でもそんなの、かんけーねえよな!」

あたまえだよ! 僕のお母さんのニセモノに変身するなんて、ゆるせないよ!」


 するとそれを聞いたシオンさんも、頷いた。

「そうよね、許せないよね。一番大切な人を利用りようするなんて……」


 そしてレイピアをかまえてアモカチに攻撃しようとしたが、先にアモカチが攻撃してきた。アモカチが大きな口をひらいてえると、この部屋の天井てんじょうから無数むすうかみなりが落ちてきた。それをらった僕たちは、大ダメージを受けた。


 でも僕たちは、そんなことは気にしなかった。こんな卑怯ひきょうな魔法を使うモンスターを、許せなかったからだ。僕と直道は目を合わせて、同時に頷いた。僕は皆に攻撃魔法などのダメージをらす、魔法をかけた。


 バリア! バリア! バリア!


 そして直道はけんの攻撃力をげる魔法を、シオンさんが持っているレイピアに三回かけた。


 パワー・ソード! パワー・ソード! パワー・ソード!


 それが終わると、僕と直道は叫んだ。

「がんばってください、シオンさん! あんな卑怯なやつ、倒してください!」

「今ならレイピアの攻撃力は、四倍になっています! あんな許せない魔法を使う奴なんか、倒してください!」


 するとシオンさんは、真剣しんけんな表情で頷いた。そしてレイピアをかまえて、アモカチに向かって走り出した。アモカチに近づくと前方ぜんぽうにジャンプして、回転した。そしてそのままのいきおいで、アモカチをった。


 ローリング・スラッシュ!


 大ダメージを受けたんだろうアモカチは、そのまま消滅した。それを見た直道は、微笑ほほえんで軽く右手を上げた。なので僕はその右手に、思いっきり自分の右手をぶつけてハイタッチした。


 その様子ようすをシオンさんは、微笑んで見守みまもっていた。でも次の瞬間しゅんかん、シオンさんは僕たち二人を、思い切りきしめていた。

「ありがとう、君たち! あのアモカチに勝てたのは、君たちのおかげだよ!」


 そうしてしばらくしてから、僕たちは向かった。地下五階にりる、階段に。

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