第十六話

 なるほど。そんなにこのハイ・リカバリーとパワー・ソードという魔法は、強力なのかと僕は思った。そしてもちろん、直道なおみちのレベルが10に上がったことに注目ちゅうもくした。やっぱり強いオークをたくさんたおしたから、直道のレベルも一気いっきがったんだろう。


 これで直道の体力と魔力も、上がったはずだ。そしてやっぱりモンスターとの戦いが有利ゆうりになるはずだ。そう思っていると、直道が話しかけてきた。

「どうやら僕たちは、強力な魔法をおぼえたようだね」

「うん、そうみたいだな」

「これで僕たちはさらに、シオンさんの役に立てるよね?」


 僕は今、考えていることを直道にげた。

「うん、当然とうぜん、そうだろう。そしてシオンさんが言ったとおり、もしかしたらドラゴン・ロードを倒す時にも、僕たちは役に立てるかも知れない」


 すると直道のテンションも、上がったようだ。

「ドラゴン・ロードかあ。そいつを倒せば、僕たちは地球に帰れるんだよね!」

「うん、きっとそうだ。ドラゴン・ロードと戦うのはおもに、シオンさんやエルフのさとみんなだと思うけど、僕たちもきっと役に立てるはずだ。だから、がんばろう。がんばってドラゴン・ロードを倒そう!」


 僕がそう言うと直道は、希望きぼうにあふれた笑顔を見せた。

「うん、そうだよね。がんばろう!」


 そして僕たち三人は、まずこの地下四階の先に進んだ。やはり出てきたモンスターは三体さんたいのオークだったが、僕と直道のレベルが上がったせいか今までよりも楽に倒せた。


 直道はシオンさんの武器であるレイピアにパワー・ソードの魔法をかけて攻撃力を上げて、僕はシオンさんの体力がった時にはハイ・リカバリーの魔法をかけて体力を回復させたからだ。そして僕たちはこの地下四階を、ドンドン進んだ。


 するとやはりしたりる階段がある、大きな部屋についた。皆、もう分かっていた。この部屋にはこの地下四階の、ボスがいることを。でも僕たちには、自信じしんがあった。僕と直道のレベルが上がって僕たちは相当そうとう、強くなったからだ。


 だから僕たちはどんなボスがあらわれても、勝てる自信があった。現れたボスを見た、シオンさんのつぶやきを聞くまでは。


 そいつは、大きなトラに見えた。ただトラと違うのは、体の模様もようが金色と白色だった。


 僕は、思った。何だこいつ、弱そうなやつじゃん。ただの、トラじゃん。こんな奴、今の僕たちのてきじゃないぜ! と。でもそいつを見たシオンさんの顔色かおいろは、悪かった。おびえた表情ひょうじょうをしていた。そして、呟いた。

「ま、まさかアモカチ?……。エレメント・モンスターの中でも最強さいきょうと言われる、雷獣らいじゅうアモカチ?……」


 僕は、おどろいた。え? こんな弱そうな奴が、最強なの? いやいや、でも勝てるでしょう、今の僕たちなら。そう思って僕は、シオンさんをはげました。

「戦いましょうよ、シオンさん! 今の僕たちなら、きっとどんなモンスターでも倒せますよ!」


 するとシオンさんは、いつもの表情にもどった。

「そうね……。いくら最強のエレメント・モンスターって言っても、こいつを倒せないようじゃドラゴン・ロードを倒せないものね……。ありがとう、純貴じゅんき君。私ちょっと、弱気よわきになっていたわ……。戦いましょう、行くわよ、純貴君、直道君!」

「「はい!」」


 そして僕たちは、アモカチに攻撃しようとした。でも僕たちの動きは、止まった。僕たちが攻撃する前に、アモカチが攻撃してきたからだ。


 アモカチはその大きな口から、つばのようなモノを三回、き出した。すると僕たち三人の前に、金色のドロリとした物体ぶったいが現れた。僕は注意深ちゅういぶかく、それを見た。


 するとその物体に、二つの目のようなモノが現れた。何だろうと思っていると、その目があやしく光った。そしてその物体は少しづつ、人の形になっていった。


 なるほど、この金色の物体は人型ひとがたのモンスターに変身へんしんするのか。でも僕にはやはり、自信があった。今の僕たちなら、どんなモンスターが相手あいてでも倒せると! 


 するとそいつは、とんでもないモノに変身した。去年きょねんまで同じクラスで、僕がちょっと気になっていた由姫ゆきちゃんの姿に変身した! 僕は思わず、話しかけた。

「ゆ、由姫ちゃん、どうしてこんなところに?……」


 いや、頭では分かっている。僕の目の前にいるのは、本物の由姫ちゃんじゃないことを。だってさっき、見たから。金色の物体が変身するところを。


 でもかたまで伸ばした髪とながの目などその姿は、まぎれもなく由姫ちゃんそのものだった。するとその由姫ちゃんは、僕に話しかけてきた。

「ねえ、純貴君。私と一緒いっしょにここで、遊ぼうよ?」


 ダメだ、声まで由姫ちゃんそのものだ……。僕は一応いちおう、聞いてみた。

「ど、どうして僕と遊びたいの?」

「だって、この先はあぶないから。そんなところに行かないで、私と遊ぼうよ?」


 なるほど。このニセモノの由姫ちゃんはどうやら、僕をこの先に行かせたくないようだ……。でも、ダメだ。僕はアモカチを倒して、このダンジョンのさらおくに行かなければならない。


 そう考えて頭を振ると、シオンさんの姿が見えた。シオンさんは目の前にいる老人と話していた。

「ちょ、長老ちょうろう。なぜ、こんなところに?……」

わしはおまえを、止めにきたのじゃ」

「私を止めに?」

「そうじゃ。この先は危険きけんじゃ。だからこの先には、進むんじゃない」

「し、しかし……」

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