第十三話

 僕はこれだ! とひらめいた。きっとこの『月』か『太陽』のどちらかの玉を、あなに入れればいいんだ! 


 僕は早速さっそく『太陽』という文字がられた玉を、左側の穴に入れてみた。この彫刻ちょうこくはきっと、朝の風景ふうけいだと思ったからだ。でも何も、起きなかった。なので今度は、右の穴に入れてみた。でもやっぱり、何も起きなかった。


 それでも僕は、めげなかった。なるほど。『太陽』の玉じゃなくて、『月』の玉を入れればいいことに気づいたからだ。なるほどこの彫刻は、夜の風景だったのか。でもやっぱり、何も起きなかった。『月』の玉を左の穴に入れても右の穴に入れても、何も起きなかった。うーん、これはこまった……。


 すると直道なおみちは、シオンさんに聞いた。

「ねえ、シオンさん。この世界にも、『太陽』はあるの?」

「ええ、あるわよ。この惑星わくせいトラニバは太陽のまわりを、グルグルまわってるわ」

「それじゃあ、『月』もあるんですか?」

「ええ。この惑星トラニバの周りを、グルグル回ってるわ」


 それを聞いた直道は何のまよいもなく『太陽』の玉を右の穴に、『月』の玉を左の穴に入れた。すると扉は、ギィィィィという音を立てて開いた。僕には、わけが分からなかった。だから直道に、聞いてみた。

「な、何で? どうなってんの、直道? 説明してよ!」


 すると直道に、聞かれた。

「っていうか、僕も疑問だよ。どうして『太陽』の玉と『月』の玉を、同時に入れなかったの?」


 は? と思いながら、僕は答えた。

「いやいや、この扉に彫られているのは、自然の風景じゃん! でも『太陽』が出ている朝か『月』が出ている夜か分からなかったから、どっちもためしてみたんだよ!」


 すると直道は、「ああ、なるほど」とつぶやいて説明した。僕たちがんでいる地球でも、『太陽』と『月』が同時に出ることはあるんだ。一応いちおうシオンさんに確認かくにんしたら、この世界にも『太陽』と『月』があるって分かったんだ。


 それじゃあきっとこの世界にも『太陽』と『月』が同時に出ることもあるはずだと思って、『太陽』と『月』の玉を同時に入れてみたっていう訳だよ。 


 僕はもちろん、おどろいた。地球でも『太陽』と『月』が同時に出ることがある?! だから僕は、必死に思い出してみた。すると、思い出した。そういえば夕方に、白い『月』のようなモノを見たことがある。


 明らかに『太陽』とは違って不思議ふしぎに思ったけど、その時は遊ぶのに夢中むちゅうで、それが何なのか深く考えなかった。そうか、あれは『月』だったのか……。


 とにかく、これでダンジョンの先に進むことができる! 僕は興奮こうふんして直道の背中を、バシバシとたたいた。

「いやー、すげえ、直道! やっぱお前、頭いいなー!」


 すると直道は、れた表情になった。

「え、いやー。それほどでも……」


 でもやっぱり活躍かつやくして、気分は良いようだ。直道は右手を、高々たかだかげた。

「よーし! それじゃあ、ダンジョンの先に進もう!」


 僕も思わず、右手を高々と上げた。

「おー!」


 そして何度か三体さんたい魔導士まどうしたおしながらダンジョンを進むと、シオンさんはステータス・ペーパーを出した。僕はまたレベルが上がっているかなと、ワクワクしながらそれをひろげて、かび上がった文字を見た。


 それは、『神官しんかん レベル7 プロテクション リカバリー バリア』だった。あれ? 新しくおぼえた魔法が無いぞ。なので僕は、シオンさんに聞いてみた。

「あの、シオンさん。僕のレベルは上がったんですけど、新しい魔法を覚えてないんですけど?」


 するとシオンさんは、微笑ほほんで答えた。ああ、そういうこともあるわよ。多分たぶん純貴じゅんき君は地下二階で新しい魔法を二つ覚えたから、今回は覚えなかったんじゃないかしら。


 でもレベルが上がったんなら、体力と魔力が上がっているはずよ。モンスターに攻撃されても、そう簡単にはつかれないし魔法もたくさん使えるはずよ、と。


 うーん、なるほど。そういえばロールプレイングゲームでも、レベルが上がっても新しい魔法を覚えない時がある。それと同じかな、と僕は納得なっとくした。


 そして次は、直道がステータス・ペーパーを見た。浮かび上がった文字は、『魔法使い レベル7 ファイア アイス サンダー』という文字だった。直道は、よろこんだ。

「やった、新しい魔法を覚えたよ! サンダーってきっと、かみなりの魔法のことだよね。雷でモンスターを、攻撃する魔法だよね?」


 するとシオンさんは、微笑んだ。

「そう、その通りよ。期待きたいしてるわよ、直道君」


 シオンさんに期待されていると聞いて、直道は喜んだ。

「はい! 期待しててください!」


 それから僕たちは、ダンジョンの中を更に進んだ。そうするとしたりる階段がある、広い部屋に入った。


 でも僕たちは、何も言わなかった。言わなくても、分かっている。これから何が起こるのか。そうして身構みがまえていると天井てんじょうから、この地下三階のボスが現れた。


 こしまで伸びた銀色ぎんいろの髪と白いドレスが特徴とくちょうの、女性の姿をしていた。更に背中せなかには、トンボのような四枚の羽根はねえているようだった。


 でも、ただの女性じゃないことはすぐに分かった。この女性が現れただけで、僕は寒さを感じたからだ。するとシオンさんは、呟いた。

「やはり、エレメント・モンスターか……。今度はこおり妖精ようせい、ジョノリか……」


 僕たちの目の前に現れたジョノリは、右腕みぎうでるった。すると三つの大きなツララが出現して、僕たちがけて飛んできた。


 速いスピードで飛んできたので、僕たちはそれをよけることができなかった。くっ、これは大ダメージを受けてしまった……。


 するとジョノリは再び、右腕を振るった。ヤバイ! 何とかしないと! と思った次の瞬間しゅんかん、直道は行動こうどうしていた。ほのおの魔法を三回、はなっていた。


 ファイア! ファイア! ファイア!


 すると直道が持っていたつえから三つの炎のかたまり出現しゅつげんして、三つの大きなツララとぶつかってそれらを消滅しょうめつさせた。僕は驚き、そして喜んだ。

「やるじゃねえか、直道! さすがだぜ!」

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