第十話

 するとシオンさんは、直道なおみちの頭を優しくなでた。

「そう、ありがとう。直道君、期待きたいしてるわ……」


 そうして少し時間がつと、シオンさんは元の明るい表情になった。

「さあ、毒状態どくじょうたいは完全になおったわ! ダンジョンのおくに進みましょう!」


 それから僕たちは、歩き出した。だがまた、毒状態にはならなかった。ダンジョンのかべをよく見てみると、普通は湯気ゆげが出ていた。


 でもたまに、緑色のきりただよっている壁があった。そういうところはワナで、毒が出ることが分かったから僕たちは全力で走りけた。すると僕たちが通過つうかした後で、毒の霧が出ていた。僕たちはもちろん、毒状態にはならなかった。


 そして、黒騎士くろきしとも戦った。今までのようにシオンさんは黒騎士を一体いったいづつ、だが一撃いちげきたおした。


 そうしてこの地下二階もだいぶ進んだところで、シオンさんはバックパックからステータス・ペーパーを取り出した。そろそろ僕と直道のレベルが、上がっているかも知れないからと。


 まず僕が、ステータス・ペーパーを広げた。すると文字がかび上がった。『神官しんかん レベル5 プロテクション リカバリー バリア』と。僕はそれを見て、喜んだ。使える魔法が、増えたからだ。


 でもそれが、どういう魔法かは分からなかった。するとシオンさんが、教えてくれた。リカバリーはった体力を少し回復させたり、攻撃されてできたきずを少し治す魔法。バリアは攻撃魔法のなどのダメージを、減らす魔法。そしてシオンさんは、よろこんだ表情になった。


純貴じゅんき君がリカバリーの魔法をおぼえてくれて、助かるわー。私はもちろん、リカバリーの魔法は使えない。私が体力を回復させる方法は、ポーションを飲むだけだから。でも持ってきたポーションの数は、多くない。それにモンスターと戦っている最中さいちゅうは、ポーションを飲みづらいから!」


 それを聞いた直道は、僕をにらんだ。

「僕にもステータス・ペーパーを、してよ!」


 そして僕からステータス・ペーパーを、うばった。どうやら僕がシオンさんから期待されていることが、気に入らないらしい。僕に、負けたくないようだ。やはりまだ直道は、僕のことをきらっているようだ。


 そして直道は、ステータス・ペーパーをひろげた。のぞんだシオンさんが言うには、『魔法使い レベル5 ファイア アイス』という文字が浮かんだらしい。シオンさんによると、やはりアイスとう魔法はこおりで敵を攻撃する魔法らしい。すると直道は、喜んだ表情になった。

「やった! 新しい攻撃魔法を覚えたよ! これでシオンさんを、助けてあげるから!」


 シオンさんはやはり、微笑ほほえんで直道の頭をなでた。

「ありがとう、期待してるわ」


 それから僕たちはまた、ダンジョンの奥に進みだした。やはり三体の黒騎士が何度か出現したが、僕と直道は魔法を使わなかった。僕たちの魔法が無くても、シオンさんは黒騎士を倒せるからだ。そしてこの地下二階にもきっとボスがいるだろうからその時に使うように、シオンさんから言われたからだ。


 そうして進んでいると、大きな部屋に入った。そして、したりる階段を見つけた。でも僕たちは、喜ばなかった。この状況じょうきょうは、地下一階でジャイアント・バットが出てきた時と同じだからだ。


 だから僕たちは、ボスを警戒けいかいした。するとやはりこの部屋の天井てんじょうから、巨大きょだいなモンスターが現れた。


 まず、赤いあしが現れた。そして胴体どうたい、胸、頭も現れて全身が現れた。腕組うでぐみをして僕たちを見下ろしているのは、巨人だった。そして全身は炎に、つつまれていた。更に両肘りょうひじ両膝りょうひざには、黒いトゲがえていた。するとシオンさんは、おどろきの声を出した。

「ま、まさかほのお魔人まじんホーン・ノマー?! 地下二階に、エレメント・モンスターが現れるなんて?!」


 エレメント・モンスター?! よく分からないけれど、いやな予感がした。ホーン・ノマーと呼ばれたモンスターは、明らかに強そうだからだ。


 するとホーン・ノマーはシオンさんに、右手でパンチをした。シオンさんはレイピアを立ててふせいだが、パンチの威力いりょく予想以上よそういじょうだった。シオンさんはき飛ばされて、部屋の壁にたたきつけられたから。


「うう……」とシオンさんは何とか立っていたが、僕はマズイと思った。だから、回復魔法をシオンさんにかけた。


 リカバリー!


 するとシオンさんは少し、元気になったようだ。そして、「ありがとう!」と言い残してホーン・ノマーに向かって走り出した。シオンさんはレイピアを左から右になぎはらって、ホーン・ノマーの右脚をった。だがホーン・ノマーは、あまりダメージを受けていないようだ。


 するとシオンさんはジャンプをして、今度はホーン・ノマーのはらを斬った。その攻撃を受けてホーン・ノマーは、少し後ろにのけぞった。そうか、ホーン・ノマーの弱点は腹か!


 それはシオンさんも気づいたようで、もう一度ジャンプしようとした。だがホーン・ノマーは、右腕みぎうでき上げた。


 次の瞬間しゅんかん床全体ゆかぜんたいから大きな炎がのぼった。くっ、熱い! そして僕は大きなつかれを感じて、前かがみになった。僕は、大ダメージを受けたようだ。


 くっ、どうする?! 自分に回復魔法をかけるか? でもふと見ると直道も、前かがみになっている。直道も、大ダメージを受けたんだ。シオンさんは立っていたが、明らかにこの戦いに苦戦くせんしている。ダメだ。このままだとみんな、やられる!


 すると僕は、ひらめいた。ホーン・ノマーは炎をあやつる、モンスターだ。それなら直道が使える、氷の魔法が効くんじゃないか?! 僕は、直道に向かって叫んだ。

「直道! あいつを氷の魔法で攻撃しろ!」

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