地下二階

第九話

 地下二階に下りて最初に感じたのは、熱気ねっきだった。そして、あつさを感じた。かべを見てみると、ところどころから湯気ゆげが出ていた。多分たぶん、壁からこの熱気が出ているんだろう。


 直道なおみちはシオンさんとならんで、楽しそうに話をしながら歩いている。まあ、元気なので僕は安心した。そうして歩いていると、壁がボコボコとふくらんだ。これはモンスターが出るのか? と僕は警戒けいかいした。


 すると予想通よそうどおりに、モンスターがあらわれた。現れたモンスターは、真っ黒なよろいを着てまた真っ黒なけんを持っていた。そして、三体さんたいいた。僕は、これはマズイと直感ちょっかんした。こいつらは、あきらかにゴブリンよりも強そうだ。


 もしかしたらシオンさんが、苦戦くせんするかも知れない。だから僕は、すぐに防御力ぼうぎょりょくげる魔法をシオンさんにかけた。


 プロテクション!


 そのころには直道はシオンさんから一歩、後ろに下がってはなれて、シオンさんはレイピアでモンスターにりかかっていた。でもモンスターも黒い剣を頭上ずじょうまでげて、そしてろした。見るとシオンさんはそれを、余裕よゆうの動きで右によけてレイピアでモンスターを斬った。


 そしてシオンさんは何と、一撃いちげきでモンスターの一体をたおした。そして二体目、三体目もモンスターの剣の攻撃をかわしてやはり一撃で倒した。僕はあらためてシオンさんの強さを、見せつけられた。


 ゴブリンのように一撃で三体を倒せなくても、一体を一撃で倒したから。三体目のモンスターも消滅しょうめつすると、シオンさんは振り返った。

「あ、一応いちおう、プロテクションをかけてくれてありがとう。でもまだ、黒騎士くろきし相手あいてならプロテクションはいらないかな」


 そうか、さっきのモンスターは、黒騎士っていうのか。そしてシオンさんが言った通り、プロテクションは必要なかったようだ。そう考えていると、シオンさんは聞いてきた。

純貴じゅんき君、大丈夫だいじょうぶ? つかれてない?」


 え? どういうことだろう? 僕は別に疲れてなんか……。あ、あれ?  

そう言えば少し、疲れてるかも。疑問ぎもんに思った僕は、聞いてみた。

「確かにちょっと、疲れたような気がします。でも、どうして分かったんですか?」


 するとシオンさんは、説明してくれた。魔法を使うと、魔力がるの。そうするとその分、疲れを感じるの。まあこれは、モンスターに攻撃されて体力が少なくなった時も同じ。やっぱり疲れを感じるの、と。


 僕は、納得なっとくした。なるほど、そうなのか。だから僕は魔法は、いざという時にだけ使おうと思った。


 そして僕たちはダンジョンの中をドンドン進んだが、僕がプロテクションを使う必要は無かった。何度もダンジョンの壁から三体の黒騎士が出現したが、シオンさんは一体づつだが一撃で倒したからだ。


 すると僕は、考えた。この地下二階のいわゆるザコキャラは、シオンさんの敵ではない。でもここにも地下一階のように、ボスがいるだろう。それは多分、地下一階のボスのジャイアント・バットよりも強いだろう。


 だからどんなボスがいるか分からないが、僕がプロテクションを使うのは、その時だろう。そう考えながらシオンさんと直道の後ろを歩いていると、シオンさんのさけび声がした。

あぶない、直道君!」


 その声で僕は、二人を見た。見るとシオンさんは直道をダンジョンの通路つうろの、左側にき飛ばしていた。何がこったんだ?! さらによく見てみるとシオンさんは、緑色のきりつつまれていた。


 それはダンジョンの通路の右側から発生はっせいしたようで、まだ少し緑色の霧がただよっていた。僕は思わずシオンさんに、った。

「大丈夫ですか、シオンさん?!」


 するとシオンさんの、顔色かおいろが悪かった。青ざめていた。

「くっ、まさかどくのワナがあるとは、油断ゆだんしたわ……」


 そして、指示しじを出してくれた。

「私が背負せおっているバックパックに、緑色のびんがあるから取り出してくれない?……」


 そうか、シオンさんが背負っているリュックのようなモノは、バックパックというのか。とにかく僕はそれから、緑色の瓶を取り出した。


 それはポーションと同じく、500mlのペットボトルくらいの大きさだった。僕はそれを、シオンさんに見せて聞いた。

「取り出しました! どうすればいいんですか?!」

「大丈夫、自分で飲めるから……」


 と答えてシオンさんは僕から緑色の瓶を受け取ると一口ひとくち、飲んだ。少しするとシオンさんの表情は、おだやかになった。

「ふうー……」と一息ひといきついて、シオンさんは説明してくれた。私はさっきワナにかかって、毒状態になってしまった。毒状態というのはほうっておくと、ドンドン体力が無くなっていくの。


 でもさっき私が飲んだ解毒剤げどくざいを飲めば、なおるの。どうやらこの壁は動くモノを見つけると、毒霧どくきりを出すみたい。私はとっさに直道君を突き飛ばして、直道君が毒状態になるのをふせぐことができて良かった。


 それを聞いた直道は、シオンさんにきついた。

「ごめんなさい、ごめんなさい、シオンさん。ごめんなさい……」


 するとシオンさんは、穏やかな表情で答えた。

「私は、大丈夫。私は体力がたくさんあるから、少しくらい体力が減っても大丈夫なの。でも直道君は体力が少ないから、毒状態になると危険だったわ……」


 それを聞いた直道は、何かを決心した表情になった。

「今度は、僕がシオンさんをまもります……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る