第七話

 ポーションを飲んでみると、少しにがい味がした。でも、すぐに気づいた。左腕ひだりうできずが、治っていることを。僕は、おどろいた。

「すごい、ポーションって、すごいんですね!」


 するとシオンさんは、微笑ほほえんだ。

「うん。ポーションが無いと、モンスターと戦い続けることは出来ないの。体力が減ったり傷を治す時に必要だから。私は剣士けんしだから、回復かいふく魔法は使えない。でも純貴じゅんき君は神官しんかんだからレベルが上がると、ポーションのような役目やくめをする回復魔法をおぼえるわ。だから、期待きたいしてるわ」


 そう言われて僕は、やる気になった。レベルを上げて回復魔法を覚えて、シオンさんの役に立とうと。そうしてシオンさんを見ていると、また疑問ぎもんかんだ。シオンさんの頭上ずじょうで光っている、小さなたまのことだ。これって、何だろう? そう思ってシオンさんに聞いてみると、説明してくれた。


 これは、光の玉。魔法で作られた、道具なの。ダンジョンの中は暗いから、こういう道具が必要なの、と。


 なるほどと納得なっとくした僕たちは、再び歩き出した。するとまた、左に曲がっているところまできた。僕は、警戒けいかいした。また、ゴブリンが出てくるんじゃないかと。でも、行くしかなかった。だから先に左に曲がったシオンさんに、ついて行った。


 すると右側のかべに、変化が起こった。ボコボコと、ふくらんだ。そして次の瞬間しゅんかん三体さんたいのゴブリンが出現した! くっ、モンスターは、こうやってあらわれるのか! するとシオンさんは、言いはなった。

「君たち、ちょっとはなれていて……」


 それを聞いてシオンさんのそばにいた直道なおみちも一歩、後ろに下がった。あとは、あっという間の出来事できごとだった。シオンさんがレイピアを左から右になぎはらうと、『ズシャ、ズシャ、ズシャ!』という音とともに、三体のゴブリンは仰向あおむけにたおれて消滅しょうめつした。


 つ、強い……。ゴブリンはモンスターの中で一番弱いらしいけど、それでも三体のゴブリンをこんなにあっさりと倒すなんて……。そして僕は、理解した。さっきもこうやって、僕たちのことを助けてくれたんだと。するとシオンさんは、振り向いて笑顔を見せた。

「さあ、先は長い。ドンドン行こう!」


 シオンさんの強さを見て、シオンさんと一緒いっしょにいれば良いと安心したのか直道は、「おー!」と右手をり上げた。


 そして僕たちは、ダンジョンを進んだ。途中とちゅう、何度も三体のゴブリンが出現したが、やはりシオンさんは、あっという間に倒した。そしてそのたびに直道は、元気になった。


 しばらくそうして進んでいると、また三体のゴブリンを倒したシオンさんは、振り返った。

「さあ、君たちのレベルは、上がったかな?」


 そして背負せおっているリュックのようなモノから、ステータス・ペーパーを取り出した。僕は、疑問ぎもんに思った。僕と直道は、何もしていない。でもシオンさんの言い方だと、僕たちのレベルは上がっているらしい。なので、聞いてみた。

「あの、シオンさん。僕たちは何もしていないんですけど、それでもレベルは上がるんですか?」


 するとシオンさんは、笑顔で答えた。

「うん、上がるよ。純貴君は何もしていないって言うけど、私が戦うところを見てたでしょう? そしてゴブリンの倒し方が分かったと思うけど、どう?」


 僕は少し考えてから、答えた。

「えーと、ゴブリンを倒すには、とにかくダメージを与えればいいんだと思います。シオンさんはレイピアでダメージを与えていたけど多分たぶん、僕が持っているつえなぐればダメージを与えることができると思います」


 するとシオンさんは、微笑んだ。

「そう、その通り。モンスターを実際に倒さなくても、戦闘に参加しただけでも経験けいけんになるのよ。戦い方を見ているだけでも、それは経験になるの。だからレベルは、上がるの」


 なるほど。そういえばゲームでも、そうだな。ロールプレイングゲームでは、数人のパーティーを作る。そして戦士だけが戦って敵を倒した場合でも、戦闘に参加しなかった魔法使いなども経験値を得る。そしてレベルは上がる場合がある。それと、同じことかも知れない……。


 だから僕はシオンさんから、ステータス・ペーパーを受け取ってひろげてみた。もしかしたら、レベルが上がっているかも知れないからだ。するとステータス・ペーパーに、文字が浮かび上がった。それは、『神官 レベル3 プロテクション』という文字だった。


 プロテクション? どこかで聞いたことがあるような……。あ、ロールプレイングゲームで、見たことがある! 確かこの魔法をかけると防御力ぼうぎょりょくが上がって、敵からのダメージをらす魔法だ! シオンさんに確認してみると、その通りだった。

「うんうん、そうよ。よく知ってるわねー」


 なので僕は、説明した。地球にはモンスターを倒して遊ぶ、ゲームがあることを。でもシオンさんは、疑問の表情だった。

「ゲーム? ふうん、よく分からないけど、地球にはそういうのがあるんだ……」


 そして僕は、決心した。シオンさんが強いモンスターと戦う時は、まよわずにプロテクションの魔法を使おうと。そうしてシオンさんの、役に立とうと。するとシオンさんから、言われた。

「さ、ステータス・ペーパーを、直道君に渡して。直道君もレベルが、上がっているかも知れないから」


 僕が直道にステータス・ペーパーを差し出すと、直道はそれを無言むごんった。まだ僕を、きらっているのか……。でも気になったので、僕はシオンさんと一緒にステータス・ペーパーをのぞんだ。それには、『魔法使い レベル3 ファイア』という文字が浮かんでいた。

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