第五話

 それと、もう一つ気づいた。どうして僕は、お姉さんと話ができるのか。トラニバ語っていうの? それを話せるのか。


 お姉さんによると、やはり人間がこの惑星わくせいで生きびるためにジョブちになった時に、トラニバ語を話せる能力のうりょくも同時ににつくらしい。ふーん。そう考えていると、お姉さんは思い出したように自己紹介じこしょうかいした。

「あ、そういえば自己紹介がまだだったわね。私はエルフのさとに住んでいる、シオン。ジョブは剣士けんし。よろしく!」


 そう言って右手を差し出してきたので、僕も右手を出して握手あくしゅした。

「僕は、桜井さくらい純貴じゅんきです。十歳です。よろしくお願いします」


 そして僕は、直道なおみち指差ゆびさした。

「こっちは、仲野なかの直道。同じく十歳です」


 すると直道はおびえた表情をしながらも、ペコリと頭を下げた。シオンさんはその直道に、ステータス・ペーパーを渡すように僕につたえた。なるほど、これはステータス・ペーパーっていうのか。


 そして僕は直道に、それを渡した。直道は、おそるおそるそれを受け取った。僕も気になっていたがシオンさんも気になっていたんだろう、二人で直道が広げたステータス・ペーパーをのぞんだ。


 それには、『魔法使い レベル1』という文字がかび上がっていた。するとシオンさんは、直道が着ている黒いコートのような服を見ながら言った。

「やっぱりねー。その服なら、魔法使いだって思ってたわー」


 そして魔法使いならレベルが上がると、攻撃こうげき魔法を使えるようになるわ、と付けくわえた。どうやらジョブには、決まった服装ふくそうがあるらしい。なるほど、と思っているとシオンさんは僕たちにたのんできた。

「私は、魔法を使えない剣士。でも君たちはレベルが上がると、回復かいふく魔法をおぼえる神官しんかんと攻撃魔法を覚える魔法使い。この三人なら、すごくバランスがいいパーティーになるんだ。だから、お願い。私の仕事を手伝てつだって、ね?」


 うーん、どうやら僕と直道はシオンさんに相当そうとう期待きたいされているようだ。でもなあ、このダンジョンにはさっきみたいな変な生き物がいて、こわいしなあとしぶっているとシオンさんは再び頼み込んできた。

「ああ、このダンジョンに生息せいそくしている、モンスターが怖いんだね。でも、大丈夫だいじょうぶ。前に出て戦うのは、剣士である私だから。君たちは安全な私の後ろにいて、魔法で援護えんごしてくれればいいから。だからお願い、ね?」


 うーん……。シオンさんにはさっき助けてもらったから、そのおれいとして仕事を手伝ってあげたいという気持ちはある。その時、ふと気づいた。シオンさんの具体的な仕事って、何だろう? そう聞いてみるとシオンさんは、真剣しんけんな表情になって答えた。

「このダンジョンで、ドラゴン・ロードが復活ふっかつしたかどうかを調べるのが私の仕事なの」


 え? ドラゴン・ロード? 名前からしてすごく怖そうだけど、それってどういうモンスターなんだろう? と疑問ぎもんに思った僕は、聞いてみた。するとシオンさんは、説明してくれた。


 ドラゴン・ロードというのは、このあたりのモンスターの親玉おやだまのような存在そんざい。そしてドラゴン・ロードは今まで何度もモンスターを引きれて、エルフのさとおそった。


 もちろんそのたびに里の剣士、戦士、神官、魔法使いなどが力を合わせて、たおしてきた。でもやっかいなことにドラゴン・ロードは、倒しても数百年すると、復活する。その理由は、分からない。


 そして昨日きのう、大きな地震じしんがあった。里に伝わる古い記録きろくによると、ドラゴン・ロードが里を襲う前には必ず大きな地震があった。だからもしかするとドラゴン・ロードが復活したのではないか、と里のみんな予想よそうした。それで私は里の長老ちょうろうに頼まれて、その調査をしにきたの、と。


 うーん、なるほど。話は大体だいたい、分かった。でも僕は、疑問を感じた。それならどうして、シオンさん一人できたんだろう? 里の戦士とかと一緒いっしょにきた方が、良かったんじゃないかと。そう聞いてみると、シオンさんは答えた。

「それは、このダンジョンが大きくないからよ」


 え? どういうこと? と思っているとさらに説明してくれた。ドラゴン・ロードを倒すには、里の皆の力が必要。でもこのダンジョンは、大きくない。つまり、里の皆が入ることはできない。それに今、里ではドラゴン・ロードが復活した場合にそなえて、戦う準備じゅんびをしている、と。そしてシオンさんは、胸をった。

「それに私は、エルフの里で一番強い剣士なの! だから私一人でダンジョンに入っても大丈夫だろうと、里の長老に頼まれたの!」


 なるほど、そういうことか。でも僕には、もう一つ疑問があった。シオンさんが里で一番強い剣士なら、どうして僕たちに協力きょうりょくしてほしいと思っているのか。そう聞くとシオンさんは、真剣しんけんな表情になった。


「それはここがまだダンジョンの地下一階なのに、強いモンスターの気配けはいを感じたから。まあ今はまだ、モンスターの中で一番弱いと言われるゴブリンしか見てないけど。ドラゴン・ロードが復活したかどうかを調べるためには、このダンジョンのもっと下まで行かなければならないの。そうすると私一人じゃ勝てない、強いモンスターが出てくる可能性かのうせいがあるから……」


 なるほど、と僕はまた納得した。そして、思い出した。僕たちを襲ったモンスターは、ゴブリンだったのか。そういえばロールプレイングゲームとかで、見たことがあるな。


 でも僕は、やっぱりシオンさんの仕事の手伝う気にはならなかった。なぜなら、僕は今すぐにでも地球に帰りたいと思っていたから。


 ふと見ると、直道はやっぱり怯えているようだ。当然だろう、ゴブリンに襲われて怖い目にあったから。そしてそれは、僕の責任せきにんだ。僕が直道を連れて、無理やりあの穴に入ったからだ。


 だから僕には、直道を無事ぶじに地球に帰らせる責任がある。そう考えて僕は、シオンさんにあやまった。

「ごめんなさい、シオンさん。せっかく助けてもらったんだけど、僕が本当にしたいのは地球に帰ることなんです。だからシオンさんの、仕事の手伝いはできません。ごめんなさい……」


 するとシオンさんは、ちょっと考えた表情で聞いてきた。

「でもね、純貴君。地球に帰る方法を、知ってるの?」

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