第三話 

 僕は両腕りょううで交差こうささせて、顔をかくした。でもナイフのようなモノで、僕の左腕はられた。痛みを感じたので見てみると、切りきずから血が流れていた。い、痛い。でも、痛がっている場合じゃない。早くここから、逃げないと。僕は、さけんだ。

「逃げるぞ、直道なおみち! 早くこの洞窟どうくつから出るんだ!」


 そして僕は、今きた道を走ってもどり出した。心配しんぱいになって後ろを振り返ると、直道も必死ひっしの表情で走ってきた。よし、これで良い。もちろん洞窟の探検たんけんなんて、言ってられない。この危険な洞窟から、早く出るんだ!


 でも僕は、走るのをやめた。穴がある場所が、行きまりだったからだ。僕の顔から、血のが引くのが分かった。僕は、パニックになった。おかしい、確かにここに穴があったはずなのに! 穴から安全な、元の場所に戻れるはずなのに!


 僕はスマホのライトで、行き止まりをらしてみた。すると、見つけた。小さくなってしまった、穴を! のぞいてみると、確かに神社じんじゃがある森が見える。


 そうか、この穴は時間がつと小さくなるんだ! でも、どうしよう。穴は小さすぎてもう、僕が入ることはできない。どうしよう、どうしようと考えていると、穴は完全に消えた。もう、ダメだ。僕は思わずその場に、へたりんだ。すると、直道の叫び声が聞こえた。

「何やってるの、純貴じゅんき君! 早く穴に入らないと!」


 僕は力なく、つぶやいた。

「穴は、消えた……」

「え? どうしたって?!」


 僕は今度は振り返って、直道に向かって叫んだ。

「穴が消えちゃったんだよ!」

「え? そ、そんな……」


 そして僕のとなりにきた直道も、スマホのライトで行き止まりを照らして穴をさがし始めた。でも、叫んだ。

「え? ウソ? どこにも無い! 穴が無い!」


 僕は思わず、怒鳴どなってしまった。

「だから、そう言ってるだろう! 穴は消えちゃったんだ!」


 すると直道も、怒鳴った。

「それじゃあ、どうするんだよ?! 僕たち、元の場所に帰れないのか?!」

「ああ、そうだよ! ちくしょー!」


 だが僕たちは、怒鳴りあっている場合じゃなかった。さっきのナイフのようなモノを持った三体さんたいやつらが、僕たちに近づいてきたからだ。三体は「ゲッ、ゲッ、ゲッ……」と、不気味ぶきみに笑いながら僕たちにジリジリと近づいてきた。もう、ダメだ。僕たちはこいつらに、殺されるんだ……。そう思ったら、僕は叫んでいた。

「た、助けて! だれか、助けてー!」


 でもやっぱり、誰もこなかった。それでも僕は、叫び続けた。今の僕には、それしかできないから。

「た、助けてよー! 誰でもいいから、助けてよー!」


 でも三体の奴らは、ナイフのようなモノをりかざした。もうダメだ! 僕は思わず、目をじた。すると、変な音がした。

『ズシャ、ズシャ、ズシャ!』


 何だろうと思って僕は、おそるおそる目をけてみた。すると、おどろいた。三体とも、うつせにたおれていたからだ。そして「グエエェェ……」という不気味な声を残して、三体は消滅しょうめつした。な、何があったんだ?……。すると三体がいた後ろあたりに、人が立っていた。


 よく見てみると、背が高いから大人おとなのようだ。かたまで伸びた金色の髪に、ながの目をしていた。どうやら、女の人のようだ。しかも、美人だ。ちょっと去年きょねん、同じクラスだった由姫ゆきちゃんに似ていて、僕はドキドキした。


 ふと頭の上を見ると、明るい光を放つ小さなたまかんでいた。だから僕はこのお姉さんは、天使てんしかも知れないと思った。


 そして真っ白でうすい、よろいのようなモノを着ていた。僕は思わず安心して、「はああああ……」と息をいた。助かった。どこの誰かは分からないけど、この人が僕たちを助けてくれた。


 そして僕はもう一度、安心した。この洞窟に、人がいたからだ。この人に聞けば、この洞窟から出る方法が分かるはずだ。そう思って僕はそのお姉さんに、話しかけた。

「あ、あの、すみません。ちょっと聞きたいことが……、って、え? ええ?!」


 僕は話しかけている途中とちゅうに、気付きづいた。この人も、人間じゃないことを。だって耳が普通の人間よりも長くて、とがっていたから! でも僕は、考え始めた。こういう人、どっかで見たことあるなあ……。するとお姉さんは、ニッコリと微笑ほほえみながら聞いてきた。

「君たち、人間だね。まだ小さいから、子供かな?」


 しゃ、しゃべった?! 僕は当然、驚いた。でも、安心した。だってちゃんと、話ができるようだから。僕は取りあえず、おれいを言った。

「あ、あの。さっきは助けてくれて、ありがとうございました……」


 するとお姉さんは、右手をヒラヒラと振った。

「いいの、いいの。こまった時は、おたがさまよ。と、言いたいところだけど……」


 そう言ってお姉さんは、僕と直道をジロジロと見た。僕はちょっと不安になって、聞いてみた。

「あ、あの。僕たちが、どうかしましたか?……」


 するとお姉さんは突然とつぜん、悪い人の表情になった。

「ふっふっふっ、君たち。早速さっそくなんだけど、さっき助けたお礼をしてくれないかなあ?」

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