第二話

 僕は、うれしくなった。直道なおみちが、きてくれて。その嬉しさはウソをついた罪悪感ざいあくかんを、き飛ばした。

「う、うん、今は大丈夫だいじょうぶ。あんまり痛くない。それよりも直道がきてくれて、僕は嬉しいよ!」


 でもやっぱり、直道は心配しんぱいそうな表情をしていた。

一応いちおう、病院に行った方がいいんじゃない? 死にそうなほど、痛かったんでしょう?」

「え? い、いや、大丈夫。本当に大丈夫だから……」


 僕には直道が、本当に僕を心配してくれているとこが分かった。だからウソをついたことを、少し後悔こうかいした。でもやっぱり、その後悔は吹き飛んでいた。ひさしぶりに直道と遊びたいという気持ちの方が、強かったから。だから僕は、言ってみた。

「それよりさ、遊ぼうよ。去年きょねんまでみたいに、遊ぼうよ!」


 でも直道は、銀縁ぎんぶちメガネのブリッジを右手の中指なかゆびで押し上げて表情をくもらせた。

「いや、それはできないよ。純貴じゅんき君と遊んでいる、時間は無いよ。僕はじゅくに行かなきゃ、いけないから……」


 そ、そんな。せっかく直道が、きてくれたのに。僕は何とか直道を引きめる方法を、必死ひっしに考えた。でもそんな方法は、思いつかなかった。すると直道は、つぶやいた。

「それじゃあ僕は、塾に行くね。純貴君は、大丈夫そうだし……」


 そうして振り向いて、僕に背中を見せた。そして直道は、歩き始めた。僕は思わず、強く願った。何でもいい。何でもいいから、何か起きてくれ! 直道を引き止める、何かが! すると次の瞬間しゅんかん神社じんじゃがあるこの一帯いったいに大きな音がひびいた。

『ドオオン!』


 何かと思って神社の方を振り返ってみると、神社の右側に大きなあなができていた。大きさは二メートルくらいで、穴の輪郭りんかくには小さな火花ひばなのようなモノがパチパチとっていた。


 何だろう、これ? 僕は当然、この穴に興味きょうみを持った。穴の前に立ってみると、穴のおくが見えた。穴の奥には何と、洞窟どうくつがあるようだ。でも、不思議ふしぎだった。穴の後ろに回ってみると、穴は見えない。穴の前に立った時だけ、穴が見えたからだ。そして奥には、洞窟があるようだ。うーん、不思議だ……。


 すると僕は、ひらめいた。そうだ、この穴に入って洞窟を探検たんけんしよう!  それも直道と二人で! 僕は直道の左手をつかむと、強引ごういんに穴に向かった。

「この洞窟を、探検しようよ直道! 直道もワクワクするだろ?!」


 でも直道は、いやがった。

「いやいや、こんなわけの分からないところなんかに、入りたくないよ! 誰か大人おとなを連れてきた方が良いよ!」


 でも僕は、やっぱり直道の左手を強引に引っった。

「大人なんかに知られたら、この穴をじちゃうかも知れないだろ? そうなったら洞窟を、探検できないぞ? つまんないぞ?」

「で、でも……」

「それに直道もこの洞窟に、興味あるだろ?」


 すると直道は、小さな声で答えた。

「そ、それは確かにあるけど……」


 僕はこのチャンスを、逃がさなかった。僕はもう、直道と一緒にこの洞窟を探検することを決めていた。

「それじゃあ、ちょっとだけ入ってみようぜ! な?」

「う、うん。ちょっとだけなら……」


 そして僕は直道の左手をつかんだまま、穴に入った。するとその瞬間、僕たちはまぶしい光につつまれた。ゆっくりと目をけてみると予想通よそうどおり、洞窟に入っていた。


 でも右手に、違和感いわかんを感じた。何かをにぎっているようだ。右手を持ち上げて見てみるとそれは、つえだった。先端せんたんに長方形のいたが付いている、杖だった。何だろう、これ? と思ってふと見ると、服も変わっていた。青色で円や長方形の模様もようが入った、上着とズボンを身にけていた。


 当然とうぜん、僕がおどろいていると、となりにいた直道も「あれ?」と驚いた声を出した。見てみると右手に、先端に球体きゅうたいが付いた杖を持っていて、黒くてかたからひざまでの長さがあるコートのような服を着ていた。僕と直道は顔を見合みあわせて、さけんだ。

「「な、何だこれーー!!」」


 でも僕たちのテンションは、一気いっきに上がった。僕たちは何かに、変身へんしんしたようだ。それは何か分からないが、僕たちは洞窟を探検することにした。僕は直道とそうすることができて嬉しかったし、直道の顔を見てみると嬉しそうな表情をしていた。こんな表情の直道は、ひさしぶりに見た。


 そして嬉しくなってワクワクした僕は、思わず叫んだ。

「よーし、探検の始まりだー!」


 ただ、暗かったのでスマホを取り出して、ライトを付けた。そして洞窟のかべをライトでらしてみると、ゴツゴツとした岩のようだった。ところどころから水が流れていて湿度しつどが高いせいか、洞窟の中はムシムシとしていた。


 それでも洞窟を真っすぐに進んでいると、道が左に曲がっていたので左に曲がった。すると僕は、とんでもないモノを見た。僕たちよりも少し背が低い、人間のような生き物だ。三体さんたい、いた。いや、違う。人間じゃない。よく見ると目がするどく、口が耳までけていた。ボロボロの、服のようなぬのを着ていた。


 そして、「ゲッ、ゲッ、ゲッ……」と気持ち悪く笑っていたからだ。さらに右手には、ナイフのようなモノを持っていた。


 僕はものすごく、いや予感よかんがした。さっきまでの嬉しさが、き飛んでしまうほど。直道を見るとやはり、不安そうな表情をしていた。僕が、これはどうしたらいいんだ?……、と考えていると、そいつらは僕におそいかかってきた。

「ギャアー!」と叫びながら。

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