【完結済】え、ここってダンジョンだったの?!

久坂裕介

地下一階

第一話

「あ、あわわわわ……」と僕は、なさけない声を出してしまった。あしもガクガクと、ふるえている。だって目の前にいるモンスターが、大きすぎるから。見た目は、コウモリだ。でも大きさは全然、違う。


 羽を広げて空中をはばばたいているが、その大きさは三メートルくらいだ。こ、こんな大きなモンスター、どうやってたおすの……。するとエルフのシオンさんがさけんだ。

「あのジャイアント・バットは、おそらくこの地下一階のボス。倒さなきゃ、先に進めないわ! 私が戦うから純貴じゅんき君と直道なおみち君は、援護えんごをお願い!」


 そして細身ほそみの剣のレイピアで、ジャイアント・バットにりかかった。たった一人で。それを見て僕は、決心けっしんした。そうだ、あのモンスターも、倒さなきゃならない。


 そしてこのダンジョンの一番深くにいるかも知れない、ドラゴン・ロードのことを調べなきゃいけない。そうすることが僕たちが地球に帰ることができる、たった一つの方法だろうから。


 シオンさんのすぐ後ろにいる直道を見てみると、直道もガクガクと震えている。顔色かおいろも悪い。ごめん、直道。僕のせいで、こんなことになっちゃって。直道、何が何でも僕が地球に帰してあげるから。いや、僕たちは絶対、地球に帰るんだ! 


 そして僕はシオンさんに、防御力ぼうぎょりょくを上げる魔法をかけた。


 プロテクション!


 ●


 あーあ、一人で、つまんないな。だれかと一緒いっしょに、遊びたいなあ……。僕は今、東京の西の森の中にある神社じんじゃにいる。今日の学校の授業じゅぎょうは終わったが、することが無い。


 もちろん宿題は出ていたが、やる気は出ない。家に帰っても、誰もいない。お父さんもお母さんも、仕事だからだ。だから取りあえず家の近くにある、神社にきた。ひょっとしたら、誰かいるかも知れないと思って。でもやっぱり、誰もいなかった。

「はあ……」


 ダメだ、ヒマすぎる。栗林くりばやしみなの『君の中の英雄えいゆう』はスマホで、何度もいた。最近ユーチューブで見つけて、気に入っている歌だ。でも何度も聴くと、やっぱりきる。僕はもう一度ため息をつくと、去年きょねんのことを思い出した。


 去年の僕は、小学四年生だった。そして小学一年生から同じクラスだった直道と、学校が終わるといつもこの神社で遊んでいた。小型のゲーム機で一緒に遊んだり、スーパーでお菓子かしを買って食べたり、同じクラスの由姫ゆきちゃん、どう思う? などの話をしていた。


 でも五年生になってからはほとんど、いや全然、遊ばなくなった。直道の話によると、学校が終わるとじゅくに行かなければならないからだそうだ。


 これは直道のお母さんから、言われたそうだ。人生で成功するには、良い会社に入らなければならない。そのためには良い中学、良い高校、そして良い大学に入らなければならないそうだ。だから良い中学に行けるように、今から塾で勉強しなければならないそうだ。


 それを聞いた僕は一瞬いっしゅん、直道と同じ塾に通おうかと考えた。でも、やめた。塾って学校よりもたくさん、勉強するところだからだ。ハッキリ言って僕は、勉強がきらいだ。


 だって、よく分からないから。だから塾に通ったとしても、続かないだろう。そして直道と遊ぶことも、もちろんできないだろう。そう考えて塾に通うことは、やめた。


 直道は月曜日から金曜日まで、塾に通っている。だったら土曜日と日曜日に一緒に遊ぼうと思って、LINEでメッセージを送ってさそってみた。でもかえってきたメッセージは、『毎日勉強して、つかれてる。だから土曜日と日尾曜日は、ただただ休みたい』だった。


 直道は僕にとって、ただ一人の友達だった。家も近かったし、気も合ったし。だから五年生になってクラスえをして直道と別々のクラスになってしまった僕は、取りあえず新しい友だちを作ろうとした。『一緒に遊ぼう。一緒にゲームをしよう』と誘ってみた。


 でもほとんどの子はすでになかが良い友だちがいて、僕をけ入れてはくれなかった。


 僕の性格が分からないから、僕が何をするか分からない。それならもう性格も十分、知っていて仲も良い今までの友達と遊ぶことは当たり前かも知れない。それを感じ取った僕は、同じクラスの子に声をかけることをやめた。


 だから僕は学校が終わると、この神社でヒマをつぶしていた。お父さんとお母さんが、家に帰ってくるまで。もちろん、ひょっとしたら直道がいるかも知れないと期待きたいして。


 でも五年生になって二か月がったが、直道がいたことは一度も無かった。それでも僕は直道と一緒に遊んだ思い出がたくさんある、この神社でヒマをつぶしていた。


 でもその日、僕はとんでもないことをしてしまった。直道に、ウソをついた。LINEで、『おなかが痛い。ものすごく痛い。死にそうなほど痛い。いつもの神社にいるから、助けにきてくれ!』というメッセージを送った。僕は今まで直道に、ウソをついたことは無い。でもそんなウソをついてしまうほど僕は、まれていた。さびしかった。


 そして、十分じゅっぷんくらい直道を待った。でも直道は、こない。多分もう、塾に行ってるんだろう。だから直道は、こないだろう。仕方しかたない、家に帰るか。そう思った時、何と直道はやってきた。すごく心配しんぱいそうな表情で、この神社に走ってきた。

「だ、大丈夫だいじょうぶ?! 純貴君?!」

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