第8話 煩悩鹿は飛び立つ!

 あの後、ノーム牧師に言われて、俺と二人は王都に旅立つことになった。

 正直俺が行く理由は無いのだが、二人が国を救うんだと躍起になっておるのを見て、多少力を貸してやるのもいいかなと思った。


 村長の斡旋で商人の馬車に一緒に乗って、中継都市のカルバロンへ向かうことになった。


「くー、すー、」

「ふにゃあ…」


 そして俺は今、両手に花という状態である。眠る幼女ほど神聖なものはない。布越しに伝わる体温も、敏感な耳にかかる吐息も、何も意識してはならない。

 ならないと、そう頭の中で思うだけで、俺の下半身についた突起物が反応してしまう。


 だめなのだ、この2人の幼女の保護者として肩を貸してやっているに過ぎないのだから、欲情することなどあっては。


 そういえば、村の者たちは幼女2人だというのにやけにすんなりと送り出したものだ。普通連れの戦闘員を1、2人用意するものだと思うのだが。


 そんなことを考えて気を紛らわせていると、商人が突然訝しむような声を上げた。


「む? 火事ですかな…カルバロンで煙が立っております」


 …いや、違う。俺の鼻は、煤の香りの中に微かに混じる、爬虫類のフン特有の臭いを感知していた。


「キュ、キュ!」

「んぁあ〜、ふぁ、よく寝ましたぁ」

「にゃぁ…鹿様、どうかした?」


 二人を起こして、ん、と街の方を指差す。


「……ドラゴンだね」

「よく見えますねぇ〜、ですがドラゴンの咆哮が聞こえますぅ〜」


 サナは目、リンゼは耳で、その存在を探知する。

 ドラゴン、というのがどういうものかは生憎分からないが、街を壊されるのは困る。


「あっ、鹿様待ってぇ〜」

「ちょ! 速いって!」


 俺は馬車を飛び降りて街の方へ駆けていく。戦い続きで困ったものだが、少し楽しい自分もいる。いざ、ドラゴンとやら、お相手願おう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

煩悩鹿は拝まれる! 鹿 @HerrHirsch

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ