0. テイカカズラ

side 鈴谷りん



幼い頃から、私は独りぼっちだった。

お母さんは、お父さんが会社で仕事をしている時間に外で知らない男の人と遊んでいた。

だから、お母さんが作ったご飯を食べた記憶も楽しく一緒に遊んだ記憶も、水族館に行った記憶も存在しない。


お母さんが家を出ていく瞬間を

今でも鮮明に覚えている。

お母さんが快く扉を開けると、扉の前にいた

知らない男の人がお母さんに接吻をした。

すごく、すごく、吐き気がした。

こんなに、気持ちが悪くて不愉快なことあるんだなって思った。

ただ、それだけだった。

 

離婚後、

お父さんは仕事に打ち込んだ。

次第に家に帰ってくることがなくなった。

家に帰ってきたとしても、お金を置いていくだけだった。


お母さんもお父さんも私には全く興味がない。

きっと、死んだって気付かないだろう。

もし、私が死んだことに気付いたら、

どんな言葉を私にかけるんだろう。

『なんで死んだの?』

なんて言うだろうか。

きっと、気付いても何も言わないだろう。

なんせ、興味も何もないんだから。


ただ死を待つだけの日々を過ごしていたある日、

私はらんに出会った。

全校集会で、校長の話をつまらなさそうに聞く彼女の姿が秀麗だった。

彼女だけが清潔だった。

何も汚れていなさそうで、羨ましかった。

彼女が誰よりもこの世に絶望し、希望に満ちているように思えた。


その時点で、私は彼女を好んでいたんだろう。


そして、関わる事に私を好ましい瞳で見つめる彼女からの恋心に気づいていた。


私は水族館が好きじゃないし、カルボナーラも好きではない。


私は、彼女だけが好きだ。 


彼女が、私だけを好きなように。


私は、彼女と一緒に死にたかった。


彼女が、私と一緒に生きていたかったように。












終わり
























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの子は深海魚 @4unmwp

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ