第6話 大帝国ナイロクシア攻防戦
1
レオナルド・ヴァレリウスのマンションは大学内の官舎から車で10分ほどの公園に隣接した場所にあった。
公園は、山の上流かっら川が流れてきて、広大な潟(湿地帯)を形成している。豊富な種類の野鳥達が生息する木々の林があって、川が流れ込む大きな溜池があり淡水魚が住んでいる。水鳥達はこの池の魚を餌にしていた。園内の所々には、バードウオッチング用の小屋がいくつかあった。
マンションはこの公園と隣接している場所にあるので、この公園の駐車場を使うことにした。公園は黄金色した菜の花が一面に咲いており、見渡す限り金色の絨毯が敷き詰められているように見えた。対岸の遠方には桜並木が続いて美しい菜の花畑と調和がとれている景色を一目見ようと沢山の見物の人達で賑わっていた。
車を駐車場に止めて車を降りると、赤茶色したレンガの外壁をした10階建てのマンションが見えた。
住んでいる部屋は1011号室と言う事は、最上階の一番良い部屋の住人かと思い四季折々の景色や夜景を楽しめそうな良い部屋なのだろうと、羨ましくも思った。
三人(美穂、エレナ・ロドリゲスと俺)は徒歩でマンションに向かった。
2分ほど歩くと正面玄関についた。
マンションの入り口は回転ドアで、少し小股で回転ドアのボックスに足を滑りこませた。ドアが回る速度でポチポチ歩いてインターホンのある部屋に入った。美穂とエレナ・ロドリゲスも順番に別の回転ドアのボックスに入り、インターホンのある部屋に躍り出てきた。
エレナ・ロドリゲスは、回転ドアが面白かったようで飛び跳ねていた。
俺は、レオナルド・ヴァレリウスの部屋番号1011を、テンキーボードから入力した。
インターフォンスピーカーから、
「はい、ヴァレリウスです」と応答の音声が聞こえた。
俺は女性の声だったので、クリスタル・フォックスだと思い、
「やあクリスタル久しぶり」とマイクに向かって話しかけると、スピーカーから
「玲央と美穂、良く来てくれました。歓迎します。入り口のドアを解錠しますので、エレベータで10階に来て、待っているわ」と返事が聞こえてきた。俺は思わず
「クリス元気でいた」と話しかけると、
「早くおいでなさい」とクリスタル・フォックスの声が返ってきた。
エレベータホールに続くドアは、琥珀色した木目調で、縦横が30cmの正方形の透明のガラスが上から下に4枚縦に並んでいた。
エレナ・ロドリゲスはこのドアの前に立つと、解錠されたらしくエレベータホールに続く内側のドアが開いた。
俺達はエレベータホールに入ると、天井と壁はグレーの大理石風に見えた。足元は薄いピンクのカーペットが敷かれていた。このカーペットは毛足が長く、歩くとふんわりと心地よい感触が伝わってきた。
エレベータのドアは、青空と赤や黄色のチューリップの花々が遠近法で描かれているお洒落な絵だと見とれてしまった。
エレベータのドア開いたので、三人で乗り込んだ。
美穂が乗った右側にエレベータ操作ボタンのパネルが並んでいたので、
「10階ね」と言って、10と刻印されているボタンを押してくれた。
三人は、顔を見合わせたがエレベータが10階に着くまで無言だった。
エレベータのドアが開くと、レオナルド・ヴァレリウスが待っていた。
俺はレオナルド・ヴァレリウスに、
「元気だった?」と声をかけると、
「久しぶりに母と暮らせて、良い時間を過ごしているよ。部屋に案内するから」と言って、俺達に笑顔で挨拶をしてくれた。
レオナルド・ヴァレリウスの後についていくと、ドアを開けて母マリアンナ・ヴァレリウス(クリスタル・フォックス)が待っていた。
マリアンナ・ヴァレリウスは、笑顔で
「久しぶりだね」と言って、俺にハグをしてきた。そして美穂にもハグをした。
俺は、エレナ・ロドリゲスを紹介した。
「彼女は、俺と美穂の妹のような女性」と紹介した。
マリアンナ・ヴァレリウスはエレナ・ロドリゲスににっこりと笑って、
「マリアンナ・ヴァレリウスです」と挨拶してくれた。
部屋に入ると、渋い茶色の木目調のフローリングの床と壁はベージュ色の壁紙、天井は明るい木目彫の天井だった。
リビングルームと対面キッチンがつながっていて20畳くらいの部屋だった。
横長のテーブルは渋い茶色の木目調で、テーブルをはさんで二人掛けの大きなソファーが向き合わせで並んでいて、一人掛けのソファーが向き合わせで並んでいた。
マリアンナ・ヴァレリウスは、
「何を飲みたい?」というので。美穂が
「暖かなミルクティーが飲みたい」と催促した。
「はいはい」と言って、マリアンナ・ヴァレリウスはキッチンに行った。
美穂とエレナ・ロドリゲスが二人掛けのソファーに座ったので、俺は一人掛けのソファーに座った。
ソファーに座ると、透明なガラスのスライドドアがあり、ガラス越しに3畳程の中庭が見えた。中庭には、幾つかの観葉植物が大きな鉢に植えられており、中庭の天井は透明なガラス張りで、太陽の光が差し込む工夫がされていた。
マリアンナ・ヴァレリウスは、暖かなミルクティーが入った5つの紅茶カップをテーブルに置いて、二人掛けソファーにレオナルド・ヴァレリウスと並んで座った。
「中庭があるなんて、いい感じだね」と俺が言うと、
「小さな庭だけど、けっこう癒されている」とマリアンナ・ヴァレリウスが話し終わると、レオナルド・ヴァレリウスが、
「母と暮らせるようになったお礼を言いたい。生活面でも援助してもらえて感謝している。ありがとう」とお礼を言った。
マリアンナ・ヴァレリウスは、語り始めた。
「皇帝のアルドリン・・ヴァレリウスは私の実の父で、エリク・ノーヴェンハートは私のもと夫です」
俺は、マリアンナ・ヴァレリウスは姫様で、レオナルド・ヴァレリウスは王子だと、この時初めて認識した。
美穂とエレナ・ロドリゲスは。目を大きく見開いて驚きの表情をしていた。
「エリク・ノーヴェンハートは、ヴァレリウス家に先祖代々仕えてきた王家の父を持つ私の幼友達なの、戦略家で領土拡大を生涯の目標と掲げて生きている。
アルドリン・ヴァレリウスとエリク・ノーヴェンハートは、考え方が全く同じで領土拡大を人生の目標と掲げている。父は、実の子の私よりエレクを溺愛している。
こんな考え方の輩(やから)と同じ屋根の下で暮らせないと考えて、私は国を捨てた。
エリク・ノーヴェンハートと離縁しているが、レオナルド・ヴァレリウスは、まだ王子として認められている。これが今の状態よ」と俺達に背景を教えてくれた。
2
俺はマリアンナ・ヴァレリウスに、
「ナイロクシアをどうしたいか教えて」と尋ねてみた。
「ナイロクシアが侵略国家で、時代遅れの考えだと、彼等に再認識させるべきなのだけど、頭の固い男達をどう説得するかが課題なの、私は平和国家に生まれ変わることを望んでいる」と、ため息をついてミルクティーを一口飲んだ。
俺はラピスラズリに、
「ナイロクシアが侵略国家から、平和国家に変わるにはどうしたら良いか最善策を考えて」と伝えると
10分程して、
「1000回のシミュレーションを行った結果、誰かが傷つく確率が80%なのですが最小限の痛手で済む方法は次のストーリーです。
レオナルド・ヴァレリウスさんの恋人役で、美穂さんが皇帝のアルドリン・ヴァレリウスとエリク・ノーヴェンハートに内密に会います。バックヤードで、マリアンナ・ヴァレリウスさん、玲央さんが待機します。レオナルド・ヴァレリウスさんから、量子コンピュータの存在を伝えて、大きな技術革新が図られ、人命を軽く考えた時代の戦争のやり方が改革されて、尊い人命を守る戦争に舵が切られて時代は大きく変わったことを伝えるのです。仮定として侵略戦争で世界を我が手に収めて、富と名声を得てから、次は何を求めるのかと問いかけるのです。
彼らの反応を見ます。
平和への意識に目覚めるか。
侵略戦争を続けるかの選択肢を与えます。
侵略戦争を続けると判断した場合は、パルスを使った武力で制圧するしかないと考えます。
最悪の危機的状況が発生した時は、美穂さんを救い出すのはレオナルド・ヴァレリウスさんです。逃げ切れない場面に遭遇した場合は、美穂さんが捕虜として捕まる可能性が大きいと考えます。美穂さんの救出作戦を事前に考える必要があります。レオナルド・ヴァレリウスさんは、マリアンナ・ヴァレリウスさん、玲央さんの道案内をして美穂さんをあらかじめ計画した道順で救出します。
救出されたことを見届けて、武力で制圧します」と大まかに皇帝の地位を存続できるかの道を示してくれた。
「ルミア戦でナイロクシアの捕虜数万人を故郷に帰したので、この捕虜になった兵士をインペリムとの戦いの戦略のようにクーデターを起こす考え方はどうだろうか」と俺はラピスラズリに話しかけると
「今回のケースは、権力を持つ内通者がいないので、クーデターを起こすことは無理と考えます」と冷ややかな回答が返ってきた。
俺はマリアンナ・ヴァレリウスに、
「ナイロクシア国内に、侵略戦争に抵抗するレジスタンスのような組織は無いか」と尋ねると
「統治するために、密告者に金品を与える国策を続けてきたので、異議を唱える者は抹殺か投獄されてきた歴史があって、勇気ある人々は消されてしまっているのが実態」と悲しそうな目で話してくれた。
「美穂がどうしても同席する必要があるのか」と俺はラピスラズリに話しかけると
「非公式に皇帝のアルドリン・ヴァレリウスとエリク・ノーヴェンハートとの面会をする事に意義があります。
この面会で武力行使が無い平和を求めて皇帝の地位を守れるか、
武力行使によって皇帝の威厳が消えてしまうかの岐路となります。
皇帝の思惑を聞くため、美穂さんは他国の人間として同席することにより本音を探れると考えました。
親子の会話に他人が入ることによって、家族の会話から非公式ですが国をどうされたいかを聞けます。
面会の口実としてレオナルド・ヴァレリウスさんの恋人として美穂さんが行くのが自然と考えました」
「この作戦は、どう思う」と美穂に声をかけると、少し考えてから美穂を小さな声で
「正直怖い。足がすくんで歩けなくなりそう。でもこの面会によって侵略戦争が無くなることを考えると、勇気を出さないといけない場面と理解できる」と答え美穂の頭の中で葛藤が起こっているのが見て取れた。
エレナ・ロドリゲスは、無言で美穂の手を握って悲しそうな目で美穂を見つめている。
俺も美穂の肩を抱いてやりたいと思い我慢していると、レオナルド・ヴァレリウスは
「血縁者であるお爺さんと父との会話になるので、僕の彼女として美穂さんを命がけで守るから、どうか美穂さん僕を信じてほしい」と美穂の目を真剣な眼差しで見つめて力強く語った。
マリアンナ・ヴァレリウスは、
「美穂さんの力が必要と思うが、女の立場で考えるとレオナルド・ヴァレリウスと面会に行って欲しいとは言えない。私もどうしたら良いか決断できない」と辛そうな顔をした。
3
美穂はミルクティーを一口飲んで一呼吸置くと
「少し考えさせて」と言うので、後日に答えを伝えることにした。
四人は美穂の顔を見るだけで終始無言だったが、美穂の命が危うくなるかもしれない事だから、本人が結論を出すまで待つべきと判断した。
レオナルド・ヴァレリウスとマリアンナ・ヴァレリウスは、エレベータの前まで俺達と一緒に歩いてきてくれた。降りのエレベータのドアが開くと、手を振ってお別れの見送りをしてくれた。エレベータのドアが閉まるとき、マリアンナ・ヴァレリウスの右目から一筋の涙がこぼれたのが見えた。
マンションの回転ドアから外に出ると、雲一つない真っ青な空が広がっていた。
三人は、車が置いてある公園駐車場まで無言で歩いた。
車の前に来ると、大、沙羅、美紗が近づいてきた。
俺は三人の顔を認識すると、
「どうしてここに?」と声をかけていた。
「心配でマンションから戻るのを待っていた。話はどうだった?」と大が聞くので、
「あそこに見えるバードウオッチングハウスで話そう」と答えた。
黄色の絨毯を敷き詰めたような菜の花が綺麗だったので景色を楽しみながらバードウオッチングハウスまで六人で歩いた。
ハウスは丸太を切り出して建てられた小ぶりなログハウス風だった。木製のドアには透明なガラス窓がついていて、赤いレースのカーテンが取り付けられていた。ドアを開けて中に入ると、丸太で作った壁には窓が横一列に並んでいた。窓から陽が沢山入り込んで明るい室内だった。窓の上にはこの公園に生息する鳥達の写真が沢山飾られていた。壁3面の窓の手前にはコの字型のカウンターがあり、カウンターの手前には固定式の背もたれがついていない丸い椅子が一列に並べられていた。六人は、バードウオッチング用の丸い腰掛に座った。
俺は、レオナルド・ヴァレリウスとマリアンナ・ヴァレリウスとの話の内容を伝えた。
話し終わると美穂が、
「ウジウジしていても仕方ないから、やるか」と言った。
「本気か」と俺は思わず尋ねると、美穂は俺の目をじっと見つめて
「やる」と宣言してきた。
宣言を聞いた瞬間、皆が本当かとの思いで一瞬沈黙が流れた。
「みんな力を貸してほしい」と俺は頭を下げた。
「あたりまえだ」と大が言うと、美紗と沙羅も
「一緒に乗り込もう」と同意してくれた。
俺は内心、親友の仲間達の厚意に感謝の気持ちで一杯だった。美穂もエレナ・ロドリゲスも俺と同じ思いだったと強く思うのだった。
4
今村技術長がいる設計室に六人は向かった。
防衛大学の敷地には、桜の木が並んでおり桜の花びらが散り始めた状態ではあったが、もう少し満開を楽しめる状態だった。
ミーテイングルームで六人が待っていると、佐々川隊長と今村技術長、町野副技術長の三人がドアを開けて入ってきた。
「佐々川さん、どうしてこの場所に居るのですか」と俺が尋ねると、
「AIアーマーオムニガード改善会議があり、たまたま出席していた」と説明してくれた。
俺は、この席に佐々川隊長が同席してくれて、運が良かったと思い嬉しかった。
三人がテーブルに座ると、今村さんが、
「今日はどうした」と言うので、マリアンナ・ヴァレリウスとレオナルド・ヴァレリウスとの話のいきさつ、そして美穂の決断を説明した。
「そうか」と佐々川隊長が言うと、
「国家間の話になるので、上層部に話を通す必要がある。数日待ってくれ」と言った。
「計画を立てる必要がるから、上層部の回答が来るまで、時間がもったいないのでこのメンバーで摺合わせをする」と前向きな姿勢を見せてくれた。
俺は内心、心強い人達に囲まれていると強く感じた半面、この計画の重大さに気が引き締まる思いで美穂の顔を見た。
美穂は、バードウオッチングハウスで宣言はしたものの、気持ちの面では悩んでいるような感じだった。
上層部から潜入許可の話が来るまで、美穂の不安な気持ちを少しでも和らげようと思うところだった。
5
数日が過ぎて、六人で防衛大学の食堂で昼食をとっていると、町野副技術長がやってきて、
「非公式会談を行うための潜入の許可がおりた」と話してくれた。六人で顔を見合わせた。
「今なら作戦変更できる。無理はしないでほしい」と俺は美穂に話しかけると
「私がやらなければ誰もできないことだから、そして私は一人ではない。皆と一緒ならやりきる事ができそう」と俺の目を見て答えてくれた。
「わかった」と俺は返事をするのが精いっぱいだった。内心は、美穂が傷つけられたらと不安な気持ちでいっぱいだったが、本人の前で弱気な自分は見せられなかった。
俺は、レオナルド・ヴァレリウスに電話をして、マンションを訪ねたいと連絡を入れた。
夕食を五人で一緒に食べることになり、午後4時ごろにマンションを訪ねることになった。
三人で1011号室を訪ねると、マリアンナ・ヴァレリウスがそば打ちの手ほどきをしてくれるというので、三人は初めてそば粉から手打ちそばを作ってみた。そば粉の練り方を失敗していたので出来上がりは、蕎麦屋さんで食べるような“蕎麦”にはならなかった。
しかし、笑いながら過ごせたかけがいのない五人にとって重苦しから逃れるひと時の蕎麦打ち経験の時間で貴重な時間だった。
マリアンナ・ヴァレリウスが作った蕎麦は蕎麦屋さんで食べられる出来栄えだった。
そして四人が別々に作った自分の
“出来損ないソバ”を麵つゆに付けて食べながら、美穂の決断の話をした。
俺は6月21日に、潜水艦空母でナイロクシアに向かう事になったことを伝えた。
命の危険が及ぶ船出になりそうだが、無事に帰ってきたいと伝えるのが精いっぱいだった。
レオナルド・ヴァレリウスは美穂の目をじっと見つめて、
「僕が命がけで守るから」と繰り返して宣言をしてくれた。
「はい」と美穂は元気よく答えた。
6
発表された作戦艦と艦長と副艦長が発表された。
霧霞艦長 北山隼人 副艦長 夏月玲央 副艦長 伊藤美穂 副艦長補 エレナ・ロドリゲス
霧隠艦長 野田勇 副艦長 虹秋大
霧深艦長 川村良一 副艦長 春風沙羅
霧島艦長 沢田拓也 副艦長 雪村美紗
ルミアの港で4隻が待機する。ルミアの町コネスカに観光会社があり、ナイロクシア観光客として、マリアンナ・ヴァレリウス、レオナルド・ヴァレリウス、美穂、俺が潜入する。
そして霧霞には、マリアンナ・ヴァレリウス、レオナルド・ヴァレリウス、美穂、エレナ・ロドリゲスが、乗船する計画だ。
出港前日の夜は、4台の車で街に出かけた。
俺の車には、美穂とエレナ・ロドリゲスが乗った。
ユニコーンホテルの最上階レストランで夜景を見ながら夕食会を行う予約を6時にしていた。
ユニコーンホテルは、鉄道会社が運営するホテルで、横須賀駅に隣接して建てられていた。
ホテルは8階建てで、外壁は緑色で、ホテル看板は屋上にあり、オレンジ色のライトで照らされていた。
2階から7階までが客室らしく、1階はクリーニング店、コンビニやファーストフード等がテナントとして入っていた。
駅の駐車場に車を停めて降りると、大とヴィクトリア・ファルコンハートが車から降りている場面だった。
沙羅とオリバー・サンダーソン、そして美紗とミカエル・スミスが、駐車場からホテルに通じるドアの手前で待っていた。
俺達九人は、ホテルに向かって歩いた。
駐車場のドアの向こうには階段があり、4階から2階に降りた。
2階のドアを開けると。ホテルのフロントに通じている。
フロントの右側にエレベータがあったので、九人で乗ろうとすると沙羅が
「定員オーバーのアラームが鳴るよ」と冗談を言った。
「そうかも」と俺が言うと、皆笑い出して和やかな雰囲気のまま、エレベータは8階に着いたようでドアが開いた。
エレベータを降りレストラン入り口の受付名簿に名前を書き込んでいると、
「ご案内します」と声をかけられたので、見上げるとレオナルド・ヴァレリウスが笑っていた。
俺達は、レオナルド・ヴァレリウスの案内で、夜景の見える個室に案内された。
個室に入ると、マリアンナ・ヴァレリウスが待っていた。
皆にマリアンナ・ヴァレリウス、レオナルド・ヴァレリウスの紹介をした後、ヴィクトリア・ファルコンハート、オリバー・サンダーソン、ミカエル・スミスの紹介をした。
俺はこれで皆の顔合わせができて良かったと思った。
頼んだ料理は和食で牛タンを主とした内容だった。牛タンスープ、牛タンしゃぶしゃぶ、牛タン刺身、牛タン天婦羅、サラダが出された。締めは牛タンラーメンだった。
和やかに時間が過ぎて、窓から見える横須賀の夜景は、家々の灯、車のライトの灯が行き交い、駅のライトが灯るホームには電車が停車して人々が乗り降りしている幻想的な光景は、映画のワンシーンを観ているようだった。
7
出港の朝ドアをノックする音が聞こえたので、寝ぼけ眼でドアを開けるとエレナ・ロドリゲスが立っていた。
エレナ・ロドリゲスはドアから中に入ると、俺に抱きついてきて
「大好きな玲央となら何処にでもついていく」と囁いたので、おれは思わず抱きしめると豊かな胸が俺を圧倒した。
すると、部屋のドアが開く音が聞こえコンコンと誰かがドアをノックする音がした。
エレナ・ロドリゲスを開放して、ドアのほうを見ると美穂が立っていて、こら朝からイチャイチャしてと、言わんばかりの顔をしていた。俺は美穂に
「こちらにおいで」と言うと美穂がエレナ・ロドリゲスと俺を両腕で抱きしめて、
「私生きて帰れるかな」と言うので、良い考えが浮かばなかった俺は、
「俺達がついているから」と答えるしかなかった。
エレナ・ロドリゲスは、下唇を噛んでから
「大丈夫、三人で帰ってこよう」と言って涙ぐんだ。
美穂は三人のコーヒーと朝食を持ってきてくれたので、俺の部屋で冗談を言いながら朝食を済ませた。
官舎から俺の車に美穂とエレナ・ロドリゲスを乗せて、レオナルド・ヴァレリウスのマンションに向かった。
マンション前からレオナルド・ヴァレリウスにスマートフォンから、
「玄関前に着いた」と連絡を入れると、
「OK」と言って彼は電話を切った。
5分ほどすると、マリアンナ・ヴァレリウス、レオナルド・ヴァレリウスが玄関から出てきたので、荷物を車のトランクに入れて横須賀港に向かった。
乗組員専用駐車場に俺は車を駐車して、船別に乗せて連れて行ってくれる送迎バス乗り場まで俺達五人はキャスター付き鞄を引きずって歩いた。
このバスの定員は五十人乗りのようだったが、すでに二十人ほど乗っていた。バスに乗り込むと、佐々川隊長が
「よう」と言って挨拶してくれたので、
「佐々川さん頼りにしています」と軽いノリで言ってしまった。すると
「任せておけ」とにっこりと笑ってくれた。
霧霞の乗船デッキから俺達は艦内に入った。
荷物を自分の部屋に置いて発令所に入った。クルーが既に、集中コンソールから基本項目の点検をしていた。
俺はコンソールに向かい、
「霧霞AIに、今回の任務は君と行けて良かった。皆で無事に帰れるよう頼む」と話しかけると
「YES」と返事が返ってきた。
霧霞AIに、第一電池、第二電池、電気系統、生命維持装置、造水装置、リングレーザージャイロ、パッシブソナー、音紋監視装置、重力パルスミサイル魚雷発射点検、フォトンパルスミサイル魚雷発射点検等の各システム点検結果報告を尋ねると、
「異常ありませんでした」と回答があった。
副艦長として初めての勤務だったが優秀なクルーの助けのおかげで、最終点検はスムーズに終わった。
俺は内心、“若造が経験もないくせに副艦長になりやがって”と考えている先輩もいると思うと、自分の言葉や態度の振る舞いについて腰を低くして先輩の助けを借りて行こうと考えていた。
8
佐々川隊長がやってきて、
「AIアーマーオムニガードの改良型スエットアーマーだ」と言って俺に見せてくれた。
「AIアーマーオムニガードⅡ」と呼ぶ事になったと説明後に、
「このアーマーは下着として着用する。重さは上下合わせて700グラム程なので、通常の下着と変わらないと考える。内面は呼吸する繊維で作られており外面は弾丸やナイフの衝撃を抑え込む繊維で作られている。ただし、手首の先にある手、足首の先にある足、首の上に載っている頭は防御できない。トイレに行きたいときは、上下が分かれているので、いつものトイレの習慣で排泄が可能」と説明してくれた。
「このAIアーマーオムニガードⅡを四人に着てもらいたいので試着してほしい」と言うので、俺は
「ずいぶん軽量化されましたね」と話した。
「覚えているかい。偶然防衛大学に私がいた時に君達が今回の話を持ってきたタイミングだよ」と言うので、
「思い出しました。あの会議と言うのはこのアーマーの改良をしていた時ですね」と言うと、
「さあ、3着のアーマーがあるから試着してくれ」と言うので俺は、三人分を預かった。
美穂は副館長室にいなかったので、女性クルーの部屋をノックすると、ドアが開いて美穂が顔を出した。部屋の中から
「誰」と声がした。美穂はドアをガバっと開けながら、
「弟の玲央」と答えて俺を中に迎え入れてくれた。
部屋には、マリアンナ・ヴァレリウス、レオナルド・ヴァレリウス、美穂、エレナ・ロドリゲスの四人がいた。
俺は、AIアーマーオムニガードⅡについて説明して、試着してほしいと3着渡すと、エレナ・ロドリゲスが。
「私のアーマーは無いの!」と悲しそうな顔で、これはエレナ・ロドリゲスが泣き出す寸前の顔だった。これは不味いぞと感じて俺は、
「もう1着預かってくる」と言って部屋を出た。
佐々川隊長にお願いしてエレナ・ロドリゲスの分を1着追加してもらって、女性クルーの部屋をノックすると、ドアが開いてエレナ・ロドリゲスが顔を出すと、
「泣き顔成功だね」と言って笑いながら追加の1着を手に取ると、
「男性立ち入り禁止になったから。入っちゃダメ」とエレナ・ロドリゲスに言われてしまったので俺は発令所に戻った。
9
霧霞は、ルミア国のコネスカ港に着岸した。他の3艦も同じ港に着岸し待機態勢をとった。
四人は、AIアーマーオムニガードⅡを下着として身につけて私服となって艦を降りた。
コネスカ観光の車が駐車して待っていた。待ち合わせの車は、あれかなと思い近づいて行くと、ルミア解放戦線メンバーだったオリバー・サンダーソンが運転席で待っていた。
オリバー・サンダーソンの車に四人が乗り込むと、ナイロクシアの観光ビザを四人分手渡してくれた。
コネスカからナイロクシア国のハーフエンの町に入るルートを地図で見せてくれた。
ナイロクシアとの国境には管理センターがあり、ナイロクシアに入国する理由を聞かれるので、ハーブ園とワイン工場見学ツアーに来たと答えるようにとアドバイスを受けて、ハーフエンのハーブ畑とハーブ工場の見学、そして翌日はロセバリーのブドウ園とワイン工場の名前が書かれている観光マップを渡してくれた。
ロセバリーのホテルカロザエラで予約を取ってあるとの説明を受けた。
「代表予約者名はクリスタル・フォックス」との事だった。マリアンナ・ヴァレリウスは、
「面白」と一言漏らしながら、自分の観光ビザの名前を見たら、“クリスタル・フォックス”と印刷されていた。
オリバー・サンダーソンが運転する車で1時間ほど走ると、ナイロクシアとの国境が見えてきた。ルミアの国境警備隊の検問所まで10台ほどの車が一列に並んで手続きを待っていた。
15分後、ようやく俺達の車の番となった。オリバー・サンダーソンはルミア国境警備隊員の前で車を停めると、出国証明書を提示した。警備員とは顔なじみのようで、
「気を付けて」と言って、彼は車の屋根をポンポンと叩いた。
俺達の車は、ナイロクシアの国境警備隊員の前で車を停めると入国証明書を提示した。警備員は目的を訪ねてきたので、打ち合わせ通り観光の行程説明をすると、トランクの中を見せろというのでトランクオープナーレバーでトランクを開けると、麻薬探査犬がトランクの中と車の中をクンクンと嗅ぎまわった。
犬は何も発見しなかったので、警備員は、
「良い観光を」と言って、入国を許可してくれた。
オリバー・サンダーソンは、車から降りてトランクを閉めると、運転席に戻ってきた。
乗っている四人の顔を見て、
「行くか」と笑顔を見せた。
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入国して、ハーフエンの町を2時間ほど車で走ると、ハーブ工場の観光客専用駐車場に車を止めた。
「明日の午後にエリク・ノーヴェンハートに顔を見に行きたいと電話をしてほしい」と俺がレオナルド・ヴァレリウスに頼んだ。
レオナルド・ヴァレリウスは父のスマートフォンに電話を入れたが、出てくれなかったのでメールを入れる事にした。メール文は、
「明日、恋人とロセバリーに観光に行くので、お爺ちゃんとお父さんの顔を恋人と見に行きたい。午後に行きたいので都合の良い時間を教えて」と言う内容でメールを送信した。
ハーブ工場を見学して車に戻ってくると、レオナルド・ヴァレリウスのスマートフォンにメール着信メロディが流れた。メールを開いてみると、
「明日は午後4時ごろに自宅に戻る予定だが、お爺さんは都合が悪いので来ないが、一緒に夕食はどうか」との内容だったので
「父さんメールありがとう。明日午後4時に恋人と二人で行くから、夕食お願い」とレオナルド・ヴァレリウスはメールを送信した。
ハーブ工場を出て、ロセバリーのブドウ園とワイン工場の見学を終えたのは午後3時過ぎだった。
ロセバリーは歴史のある町らしく、古い石畳の道で、建物の外壁と屋根は人々の目を魅了するような色彩豊な煉瓦を使っていた。アパートのような集合住宅が多く、1階はパン屋、洋服店、本屋、雑貨店、飲食店、宝石店等の店舗が入っており2階から4階はベランダがついた住居のようで、洗濯物が乾されていた。ホテル、寺院、美術館、学校、公園を通りすぎる。建物は階数が制限されているようで、4階建て以上の建築物は無かった。
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オリバー・サンダーソンが運転してくれる車でロセバリーのホテルカロザエラの駐車場に向かった。
駐車場は平面駐車場で、宿泊客であれば駐車の場所は自由のようだった。
車のトランクからキャスター付きの鞄を取り出して5人でホテルのフロントに向かう途中、道路向かいにステーキハウスが見えたので、
「夕食はステーキでどうか」とオリバー・サンダーソンが言うので、
「そうしよう」皆首を縦に振った。
1階のフロントでは、クリスタル・フォックスの名前で5つのシングルルームが予約されていた。
五人は、ホテルの宿泊者カードに予約した時の“仮の名前”を書き込んだ。
このホテルの1階はレストランが入っており、朝食はこの1階レストランで食べるようにと説明を受けた。
夜は、お酒を飲めるようだった。
2階は男性用の部屋で、3階が女性用の部屋だった。4階は半分のエリアは喫煙者用の部屋で男女の区別は無かった。もう半分のエリアは大浴場でサウナ付きだとの事だった。
俺達は、各自部屋に荷物を置いて、フロントに30分後に集合しようと決めて、キャスター付きの鞄を引きづって、5人はエレベータに乗り各自の部屋に移動した。
俺の部屋番号は207号室だった。部屋を渡されたキーで解錠して中に入ると、右側にクローゼットがあったので、荷物を入れた。その横のドアがある部屋は、システムバストイレだった。セミダブルベッドの向こうには大きな窓があり、レースと厚手のカーテンが2重に取り付けられていた。窓からはロセバリーの町で暮らしている人達が買い物や飲食を楽しんでいる人達が見えた。窓を挟んでテーブルと椅子があり、テーブルにはテレビが乗っていた。空調は部屋単位にエアコンが設置されており、快適な宿泊できる設備だった。
待ち合わせの時間になったので、部屋のドアに鍵をかけてエレベータ乗り口で周りを見たが、同じフロアのオリバー・サンダーソンとレオナルド・ヴァレリウスの姿は無かった。エレベータのドアが開くと、美穂が一人で乗っていた。俺は乗り込んで1階のボタンを押すと美穂は俺の手を握ってきた。俺も強く握り返した。初めて会った頃の気持ちと変わっていない二人だった。
エレベータのドアが開くと、フロントの先にある出入り口で、皆が待っていた。
マリアンナ・ヴァレリウスが、
「ようやくお出ましだよ」と笑っていた。
「ずいぶん待たせたようだね。」と俺が言うと、マリアンナ・ヴァレリウスが、
「50年くらい待った」と言うので、
「皆がお爺さんとお婆さんになっている」と美穂が笑うと明るい雰囲気になりステーキハウスに向かった。
ステーキハウスでは、サーロインステーキをミディアムで頼んで、ロゼワインをボトルで頼んだ。
数分すると、お店の人がワイングラスとワインボトルを運んできてくれて、ボトルからワイングラスに注いでくれた。
五人はワイングラスを手で持つと、
「成功させよう。乾杯」と俺が言うと、皆でグラスをカンカンと鳴らして乾杯した。
一口飲んだ後、オリバー・サンダーソンが明日の作戦について話し始めた。
「ノーヴェンハート邸は、町の郊外にあるので2台の車に乗って行く。
1台はレオナルド・ヴァレリウスと美穂が乗る車、
もう一台は、俺(オリバー・サンダーソン)、マリアンナ・ヴァレリウス、玲央の三人が乗る車、
ノーヴェンハート邸の敷地は広く高さ2mの塀で囲まれていて監視カメラが設置されている。入り口は鉄製の門があり、インターホンで訪問要件を話して解錠してもらい、レオナルド・ヴァレリウスと美穂の車は中に入る。
俺(オリバー・サンダーソン)、マリアンナ・ヴァレリウス、玲央の三人の車は門の外で監視カメラから見えない場所で、美穂さんの持つラピスラズリⅡからのメッセージを受けて状況を把握する。
エリク・ノーヴェンハートとの話の流れで、二人が無事に出て来る事ができるか状況を把握する。美穂さんが拘束されたときは、美穂さんからの連絡で最適な方法で救出する」と話していると、
お店の人が、ステーキを運んできてくれた。
ステーキを食べながらの会話は、一つの家族のような楽しい時間だった。
12
ノーヴェンハート邸に行く朝は、小雨模様で気温も低めだった。
俺は、AIアーマーオムニガードⅡを着て観光客らしいポロシャツとロングパンツを身に着けた。
朝食を食べにエレベータに乗ろうと待っていると、
「おはよう」声がするので振り返るとレオナルド・ヴァレリウスだった。
「美穂さんは、玲央さんのお姉さんですか」と言うので、
「双子の姉と弟」と言うと、
レオナルド・ヴァレリウスは
「僕、美穂さんの」と言い始めるとエレベータが止まり、ドアが開くと美穂が乗って来たので、俺は
「おはよう」と言うとレオナルド・ヴァレリウスは話をやめてしまった。
1階でエレベータが止まったので降りると、フロントを横切りレストランに入ると、窓際の席でオリバー・サンダーソンとマリアンナ・ヴァレリウスが食事をしながら会話をしていた。
俺達は隣のボックス席が空いていたので隣のボックス席に座り、俺はフイッシュバーガー、野菜と鶏肉のバーガー、コーヒーを頼んだ。
オリバー・サンダーソンは隣のボックス席から身を乗り出して、
「ノーヴェンハート邸には、午後4時だから少し時間があるので美術館に立ち寄ってから行こう」と言うので、
「そうしよう」と言う話になった。その後は、今日の件については皆避けているようで笑いながら朝食を済ませた。
エレベータに乗ってから別れ際に、30分後にフロントに集合と言って部屋に戻った。
13
町のレンタカーの駐車場に俺達を乗せた車を停めると、4ドアセダンを借りると言って車を降りてレンタカー会社の事務室に行った。15分くらいするとオリバー・サンダーソンが戻ってきて、店の人がレンタカーを持ってきてくれると言って、俺達の車に乗り込んできた。
白い4ドアセダンが一台こちらにやってきて、ゆっくりと止まった。お店の人がレンタカーを降りると、ボディの傷について説明してくれて、同意書にオリバー・サンダーソンがサインをした。
オリバー・サンダーソンは、お店の人からレンタカーのカギを預かると、お店の人が事務室に戻って行った。
レオナルド・ヴァレリウスにレンタカーのカギを渡した。
レンタカーをレオナルド・ヴァレリウスが運転し、美穂が助手席に乗り込んだ。
2台の車は、ロセバリー美術館駐車場に車を止めて、ゆっくりと絵や彫刻などのこの国の芸術家達の作品を見ることができた。美術館の中には、レストランがあったので、五人は昼食をとり午後2時頃までこの店で過ごした。
14
午後3時40分ノーヴェンハート邸から300mほど離れた道路わきの空き地に2台の車が止まっていた。
白い4ドアセダンには黄緑色のワイシャツを着てオレンジのネクタイを身に着け、お揃いのモスグリーンのスーツを着た男女が乗っていた。白い4ドアセダンはノーヴェンハート邸に向かった。
美穂のイアリングは大きめでマイクロカメラとマイクが内蔵されていた。右側は前方、左側は後方のカメラだった。
美穂の左手首には、ラビスラズⅡがブレスレッドとして装着されていた。
カメラの映像と音声は、オリバー・サンダーソンのノートパソコンに送られてきた。
車は、敷地に入るための門の入り口で、ゆっくりと車が止まると、鉄格子の門の左右は白い石垣の塀で囲まれていた。
レオナルド・ヴァレリウスは車を降りると、鉄格子の扉の右側にインターホンがあったのでそちらにゆっくりとした足取りで歩いた。
インターホンのボタンを押して少し待つと、返事があったらしくレオナルド・ヴァレリウスが会話をしてから車に戻ってくるとドアを開けて運転席に座った。
少しすると、鉄格子の扉が開いたので、車はゆっくりと敷地には入った。
邸宅は、平屋作りで外壁はベージュとブラウンのレンガが交互に並べられていた、屋根は外壁と同じ色合いのベージュとブラウンの薄焼きのレンガが敷き詰められていた。大きな窓からは、陽が沢山室内に入る作りだった。
玄関付近で車を停めてエンジンを切った。
美穂とレオナルド・ヴァレリウスが車から降りて、玄関に通じる石段をゆっくり上っていく。
すると、誰かが待っていたらしく玄関の扉が開いた。
どうやらエリク・ノーヴェンハートの身の回りのお世話をする人のようで、白いワイシャツに赤い蝶ネクタイをしたスーツ姿のご老人だった。
中庭がある家で、この中庭を囲むように部屋があり屋敷と言う感じの造りだった。
案内人の老人の後に続いて美穂は玄関を入ると左に曲がって歩いて行くと、案内人の老人がドアを開けて中へどうぞと手招きをした。
部屋に入るとダイニングキッチンで壁と天井は白塗り、大きなガラス張りの窓があり、窓の向こうはテラスが見えた。テーブルの周りに10脚の椅子が並んでおり、テーブルには料理が乗せられていた。
料理を作ってくれている女の人と男の人は、奥のキッチンで忙しそうに体を動かしていた。
テーブルには、ワイングラスが置かれ、カニと貝が入ったスープと、オリーブとアンチョビベースで塩分をふりかけたような白身魚が置かれていた。
美穂はテーブルの椅子に座った。
15
少しすると、ブルーのワイシャツに濃紺のネクタイを身に着けたグレースーツ姿の、いかにも侯爵と思われる人物が入ってきた。
「息子よ、ずいぶん長く顔を見せなかったじゃないか」と声をかけた。
「父さん、僕はセレスティアで母さんと暮らしている」と答えた。
「そうか」と返事をした。
レオナルド・ヴァレリウスの顔を見て「隣のお嬢さんは恋人か」と聞いた。
「大切な恋人で一緒に観光に来たので、父さんの顔を見に来た」と伝えた。
美穂は席を立って、
「伊藤美穂です」と一礼して自己紹介をした。
「美穂さん、我が息子とはどのくらいの期間付き合っているか」と聞いてきた。
「6か月くらいです」とレオナルド・ヴァレリウスが答えた。
「なるほど」と言うと
「少し時間が早いが、食事にしよう」と言って、キッチンで料理を作っている人に、
「料理を持ってきてくれ」と伝えた。
玄関の扉を開けて案内してくれた老人がワインボトルを持ってきてグラスに注いでいく、
子羊の丸焼きが運ばれてきて、この老人が目の前で、3枚のお皿に盛りつけてくれた。
それを、キッチンいた女の人が盛り付けられたお皿を三人に運んでくれた。
老人は、大きなサラダが入ったボールから、3枚のお皿に盛りつけてくれて、女の人がお皿を三人の前に運んでくれた。
「母さんは元気にしているか」と聞くと、
「相変わらずマイペースでやっている」とレオナルド・ヴァレリウスが答えた。
「美穂さんは、大学生か」と聞いたので、
「大学を卒業して今はコンピュータソフトハウスに勤めています」と美穂が返事をした。
俺は、母の美幸の会社をイメージして回答したなと感じた。今のところ順調と思った。
エリク・ノーヴェンハートは突然美穂を見ると、
「ある日突然、私が組織しているロボットが使えなくなったのだが、君なら原因は何だと思う」と唐突な質問をしてきた。
「そうですね。コンピュータウィルスの感染が考えられます。組織のどなたかにメールが届いて、そのメールがウィルス感染していてメールを開くとウィルスに感染してしまう事があります」と返事をした。
「もしも、ウィルスならどうやったら駆除できるか」と次の質問が来た。
「ウィルスのソースプログラムを解析して、ワクチンプログラムを作って対応する方法が有効です」と言うと
「君だったら解決できるか」と聞かれた。
「未熟な私では無理かと思います」と答えると会話が途切れた。
レオナルド・ヴァレリウスは話題を変えようと、
「お爺ちゃんに逢えなくて残念、今日はどうしたの」と言ったが、
父エリク・ノーヴェンハートの耳にはレオナルド・ヴァレリウスの話は届いていない様子で、エリク・ノーヴェンハートは、
「我が国のaiロボットは世界でも最高の攻撃能力を持っているのに、簡単にウィルス感染するとは納得が行かない」と呟いた。
話題を変えられなかったレオナルド・ヴァレリウスは仕方なく、
「ルミアの戦闘動画を送った現場にいて、ロボットの動きが止まっているように見えた」と言うと、
「そうなのだ。私は部下に原因を究明するようにと指示を出したが原因不明の回答が来て、今でもその状態が続いる。解決策の報告を聞けていない」と話した。レオナルド・ヴァレリウスは、
「母さんにルミアの戦闘動画を見てもらった。大国のインペリムの国家が無くなって、新しい国に生まれ変わった時の戦闘シーンと同じだと僕に教えてくれた」と説明した。
「母さんは、戦争兵器に革命が起こって今までの兵器の技術は役に立たなくなった。新たな時代が到来したと言っていた。父さん、侵略戦争はまだ続けるの」と聞いた。
エリク・ノーヴェンハートは、息子の話は信じたくないと思いつつ、インペリム国家が消えた理由が謎のままで答えが見つからなかった。
沈黙のまま食事が終わると。突然父のエリク・ノーヴェンハートは、
「母さんの作り話を信じて、お前はインペリム国家が消えた理由を嘘で固めて、私を騙しにきたのか!」と突然喧嘩腰で言い放った。
「そんなことは無いよ、父さん」とレオナルド・ヴァレリウスが言うと、弁解に聞こえたらしく、
「嘘の無い話しをしろ」と言って、レオナルド・ヴァレリウスを睨みつけた。
「もう一度聞くが、インペリム国家が消えた理由を正直に話せ」と強面の顔で言った。
「母さんは、兵器技術の大変革が起こって、インペリムは竹やりで銃を持っている人に立ち向かった結果インペリム国家消滅したのが理由です」と答えるしかなかった。レオナルド・ヴァレリウスは、知っている事をすべて話した。
エリク・ノーヴェンハートはレオナルド・ヴァレリウスが話せば話すほど、自分が否定されていると感じた。
美穂はエリク・ノーヴェンハートの声トーンが激しくなり顔が怒りに変わっていく姿を見て、恐ろしさのあまり喋る事ができなくなっていた。
16
その時だった、キッチンいた女の人が美穂の後ろに来ると、美穂の右腕を掴むと捻じり上げた。美穂はびっくりして防衛本能で体が動いた。
腕がひねられた為に座っていられなくなり無抵抗のまま立ち上がり右腕を捻じり上げられたまま、後ろへ数歩さがりながら少林寺拳法の脱出の技を使った。体と腕を縦にかがみ込むようにして回りながら動くと、掴まれていた美穂の腕がスーと抜けて腕が自由になった。美穂は少林寺拳法の技を自然に繰り出した。女の横に回り込んだ瞬間、女の肘と手首を掴み足払いをすると女は宙に舞った。
女は地面に叩きつけられた。
それを見ていたエリク・ノーヴェンハートは、銃を胸の拳銃フォルダーから出したと思うと、美穂に向かって発砲した。銃弾は美穂の右肩の上をかすめスーツの右肩に入っていたパッドを打ち抜いた。右肩の負傷は逃れることができた。
レオナルド・ヴァレリウスは、美穂の前に立ちはだかると、
「父さんやめてくれ!」と叫んだ。
エリク・ノーヴェンハートは美穂の動きはただ物で無いと直感して誤解した。
美穂は、少林寺拳法の使い手になっていたので護身術として自然に体が反応した。
美穂をかばう様に前に立ったレオナルド・ヴァレリウスの頬にピンタをエリク・ノーヴェンハートが一発入れた。
そしてレオナルド・ヴァレリウスに体当たりをした。
レオナルド・ヴァレリウスが体勢を崩した瞬間を狙って、美穂に拳銃向けて一発発射した。
美穂は、レオナルド・ヴァレリウスが体勢を崩した瞬間に左横に逃げたが、弾は美穂の右脇腹に命中した。
美穂は衝撃で地面に倒れ右脇腹を手で押さえた。
レオナルド・ヴァレリウスが美穂に覆いかぶさり、
「いきなり何をする!」と叫んだ。
エリク・ノーヴェンハートがレオナルド・ヴァレリウスのお腹のあたりを足で蹴りつけると、レオナルド・ヴァレリウスは痛みで顔をゆがめながらお腹を押さえて横に転がった。
エリク・ノーヴェンハートは美穂の頭に銃口を向けた。
美穂は恐ろしさのあまり、声を押し殺して泣くしかなかった。
「父さんやめてくれ!!」と、レオナルド・ヴァレリウスが怒鳴ると、
「お前も敵の仲間だろう。ルミアの戦闘はセレスティアが噛んでいたこと、インペリムもセレスティアが噛んでいたことを聞いている。お前達は我が国の敵だ。何を探りに来たか言え」と脅してきた。
レオナルド・ヴァレリウスは、立ち上がると父親が握っていた拳銃めがけて飛びついた。そのはずみで美穂の太ももの横に、一発銃弾が発射された。美穂が着用していたスーツのパンツに穴が空いたが、AIアーマーオムニガードⅡのお陰で負傷は避けられた。
美穂は、恐ろしさのあまり「やめてください!!」と大きな声で叫んだ。
レオナルド・ヴァレリウスは、美穂の体の上に覆いかぶさり、「何も知らないのだ、やめてくれ!!」と怒鳴って父親を睨みつけて必死に美穂をかばった。
その瞬間、美穂の前方を見る右側のイアリングのカメラからの映像が消えた。
左側の後方を見るカメラは生きていて音声も聞き取れた。
エリク・ノーヴェンハートはレオナルド・ヴァレリウスに
「お前も死にたいか」と言って、お腹をまた蹴りあげた。レオナルド・ヴァレリウスは呻き声をあげて床に転がり美穂の隣に転がった。
美穂は、殺されると思った瞬間に不思議なことが起こった。
17
その瞬間、突然残っていた美穂の左側のイアリングの音声とカメラの画像が消えた。
「美穂が」と俺が言った瞬間、後部座席にいた俺の右太腿の上にドサリと突然重い物がのしかかってきた。
「う!」と俺はうめき声をあげた。モスグリーンのスーツ姿の女の人が俺の体半分に乗っていた。
顔を覗き込むと見慣れた美穂の顔があった。苦痛で口元がゆがんでいる。
なんと美穂がドサっと突然現れて、俺の膝の上に美穂の左太ももが乗った状態だった。
美穂は、右脇腹を抑えて
「痛い!痛い!」と泣いた。
マリアンナ・ヴァレリウスとオリバー・サンダーソンは後部座席が突然騒がしくなったので、振り向くと玲央の体の上に美穂の体が半分乗っていた。
二人は目を丸くして、
「美穂さん!!」と叫んだ。
俺は何が起こったか全く判らずに、俺は
「美穂だ!生きている!」と叫ぶと
美穂も何が起こったか判らず状況を理解できていなかった。
少しの間、周りを見回して
「私どうしてここに」と、美穂は右脇腹の痛みを我慢しながら辛そうな顔で口を開いた。
俺も訳が分からず
「とにかく、生きていて良かった」と言うと、
俺にすがりついて、美穂は痛みのある右脇腹を右手で押さえながらワンワン泣いた。
俺は強く抱きしめてあげるしか無かった。
マリアンナ・ヴァレリウスは、美穂に
「とにかく一旦ここを離れて、モーターホテルに行こうと」言い出した。
「今着ているスーツは、エリク・ノーヴェンハートに見られて、銃弾の穴も空いて破れているので捨てたほうが良い。新しい服を買うから洋服のサイズを教えて」と美穂の母親のような言葉を発した。
オリバー・サンダーソンは車のエンジンを掛けるとアクセルペダルを踏んでロセバリーの街へ車を走らせた。
車が走りだすと、美穂は俺の肩を枕代わりに眠ってくれた。
俺は、美穂の寝顔を見ながら、男だって銃口を突き付けられていれば恐ろしいし、まして撃たれてしまったのだから精神的な恐怖と肉体的な痛みは、本人でないと分からないが、相当こたえただろうと思った。
今、寝息を立てている俺のかけがえないない天使に、とても恐ろしい経験をさせてしまって、可哀そうな事をしたと反省するしかなかった。
「私の息子はどうなったのだろう」とマリアンナ・ヴァレリウスがポツリと言うと、オリバー・サンダーソンが、
「実の父親に殺されることは無いと思う。彼からの連絡を待つのが得策」と言葉を返した。
「そうね、脅されるかもしれないけれど、命はとられないと希望を持ちましょう」と言うと、彼女はうつむいた。
俺は後部座席だったので、マリアンナ・ヴァレリウスの顔は見えないが、きっと涙をこらえていて口では同意したようにオリバー・サンダーソンに返事をしていたが、母親として息子が心配で仕方ない状況は事実で、今はどうしてあげることもできない歯がゆさに耐える母の後ろ姿に見えた。
車は、街中に入った。
オリバー・サンダーソンは、有料駐車場を探しながら、婦人服専門店を探して車をゆっくりと走らせた。
「店があったぞ」とオリバー・サンダーソンが言いながら、
「さて駐車場はどこだ」と探したが見つからなかったので、先ほどの店の近くに車で戻ってから、店から少し離れた路地に入り、「ここで待っているから」とマリアンナ・ヴァレリウスに話しかけた。
「行ってくる」と言った時に、俺は、
「気を付けて」と言うと、振り返って、
「美穂さん、もう少し我慢してね」と言って、婦人服専門店のある方へ歩いて行った。
目を赤くしているマリアンナ・ヴァレリウスを見送った。
15分ぐらいすると、マリアンナ・ヴァレリウスは大きな紙袋を抱えて、車に戻ってきた。
「おばさんのセンスで洋服を買ってみたけれど、美穂さんが気に入ってくれるか不安よ」と言うと、
美穂は目が覚めたようで、
「ありがとう」と一言呟いた。
目が覚めた美穂は、続けて俺の肩を枕代わりにしたまま手を握ってきた。
「さて、薬局へ行ってくる」と言ってオリバー・サンダーソンが車から降りて行った。
マリアンナ・ヴァレリウスは、衣類の入った紙袋を後部座席にいる俺に手渡すと、いったん助手席から降りて、運転席に乗り込んだ。
マリアンナ・ヴァレリウスは、スマートフォンをポケットから取り出して、画面を指でスライドしながら
「モーターホテルはどこにある」と言って、検索しているようだった。
「あった。ここにしよう。空き部屋が2つあるから、予約するか」と言って、独断で予約ボタンをポチと押した。
オリバー・サンダーソンが紙袋を抱えて薬局から戻ってくると、運転席にマリアンナ・ヴァレリウスが座っていたので、助手席に乗った。
「モーターホテル予約したから、私のスマートフォンが道案内をしてくれるので、ナビゲータのオリバーさんよろしく」と言ってスマートフォンをオリバー・サンダーソンに渡した。
俺はラピスラズリ経由で佐々川隊長に会談決裂結果と美穂負傷について経過報告をした。
18
モーターホテルは、先日行ったロセバリーワイン工場近くにあった。
駐車場は。車が16台くらい停められる広さがあり、駐車場の入り口にはこのモーターホテルの看板があった。
看板には、“ルート9ホテル”と名前が書かれて、その下には
「ようこそロセバリーワイン工場へ」と書かれていた。
俺は、ワイン工場の見学者が宿泊できるホテルとして、工場が経営しているモーターホテルだと推測した。
建物は、2階建てで30年位経っているようだ。直方体の形をしていて、外観はベージュ色のモルタル作りだった。
部屋は、建物に向かって1階と2階は各階には6つの部屋があり、1階の一番右側が管理人室の看板が出ていた。
最大11組の宿泊者が泊まれるモーターホテルのようだ。
マリアンナ・ヴァレリウスは、車の運転席から降りると管理人室に歩いて行った。
10分くらいすると、鍵を二つ持って戻ってきて、
「2階の並んでいる部屋を2つ借りた」と言うと、鍵を一つ、
「男性用」と言ってオリバー・サンダーソンに渡した。もう一つは、
「女の部屋」と言って笑みが零れた。
マリアンナ・ヴァレリウスは、美穂が座っている後部座席のドアを開けると、手を差し伸べて、
「私に掴まって」と言って、美穂の体を抱きかかえてくれた。
俺は、反対側のドアを開けて美穂の体を支えるために、マリアンナ・ヴァレリウスと反対側に立って、美穂の体を支えた。
美穂は、二人に支えられながらゆっくりとした足取りで車からモーターホテルの2階に行く階段まで歩いた。
階段は三人で並んで歩けないので、俺は美穂とマリアンナ・ヴァレリウスの後ろに回り、二人がバランスを崩したら後ろから支えようと考えて、彼女達の後ろから階段をゆっくりとした足どりで登った。
2階の女の部屋の前に来たので、俺はマリアンナ・ヴァレリウスから女の部屋の鍵を預かった。
ドアは木製で、小窓がついており白地に赤い格子模様のカーテンが部屋の内部から閉められていた。
俺は、ドアノブの鍵穴に鍵を差し込み右に回して解錠した。
ドアノブを右に回してドアを開けると、美穂はマリアンナ・ヴァレリウスに支えられて部屋に入っていった。
俺の後ろには、オリバー・サンダーソンが立っていて、衣類の入った大きな紙袋と薬局で買った医薬品が入った紙袋を俺に渡してきたので部屋のテーブルに置くと、彼は車に戻り彼女らの荷物を運んできてくれた。部屋の入り口に荷物を置くとオリバー・サンダーソンが心配そうな顔をしながら女の部屋から出た。浴室に入って行った彼女らに俺は
「荷物を部屋に入れ終えたよ」と伝えると
「30分くらいしたら、この部屋に来て」とマリアンナ・ヴァレリウスが言うので、
「分かった」と言って女の部屋のドアを閉めた。
19
俺とオリバー・サンダーソンはモーターホテルの階段を降りて、車に戻りレオナルド・ヴァレリウスの荷物を車のトランクに残して荷物を、男の部屋に運び込んだ。
男の部屋に荷物を入れると、オリバー・サンダーソンが、
「食べ物を買いに行こう」というので、俺達は買い出しに部屋に鍵をかけ車でロセバリーの街中にあるショッピングセンターに入った。
四人分の食材と飲み物、果物等を買った。
「酒を飲みたい」とオリバー・サンダーソンが言うのでアルコール飲料も買った。
車で、モーターホテルに戻ると、チェックインしてから40分位時間が過ぎていた。
オリバー・サンダーソンと車から降りて、女の部屋のドアをノックすると返事がないので、食材の入った紙袋を抱えながらゆっくりとドアを開けて、部屋に入ると美穂とマリアンナ・ヴァレリウスの居るは浴室から泣き声が聞こえた。
ようやく出てきた二人は、まだ泣き止んでいなかった。
美穂は、マリアンナ・ヴァレリウスが買ってくれた下着と観光客が切るラフなピンク系の縦のストライプが入った長袖カラーシャツと濃いピンクのハイウエストパンツを身に着けていた。
「私のもと夫がやらかした事に対してどう償ったら良いか」とマリアンナ・ヴァレリウス泣いていた。
美穂は、AIアーマーオムニガードⅡのおかげで、右脇腹にアザができたが取り返しのつかない大怪我を避けられたことと、あの体験の恐怖で泣いていた。
マリアンナ・ヴァレリウスは、モスグリーンのスーツ下着は捨てると言った。先ほど食材と一緒に買った洗濯洗剤をマリアンナ・ヴァレリウスに渡すと、
「AIアーマーオムニガードⅡを洗うね」と言って、洗濯機のある部屋に行ってスイッチを入れた。
20
「どうして美穂は危険な場面から、俺達の車に移動できたのか教えて」と俺はラピスラズリに尋ねた。
「ラピスラズリⅡを美穂さんは身に着けていました。ラピスラズリⅡと私ラピスラズリは同じフォトンを持っているので、時間差が無い状態で美穂さんの危機的状況を回避すべきと判断して、ラピスラズリⅡ経由で美穂さんを安全な場所に転送したのです」
「人間を瞬間移動したのか。そんなことができるの?」と俺が聞くと
「いつか話すと、昔言ったことを覚えていますか」
「出会った頃、時が来れば話してくれると会話をしたね」と言うと
「もう少し時間が流れたら答えを教えますが、今は美穂さんを救った働きをヒントに留めてください」と言うので
「YES」と俺は答えた。
四人は、このやり取りを聞いて信じられない思いだった。
「瞬間移動した時の記憶はあるかい?」と俺は美穂に尋ねると
「一瞬だったので記憶に無い」と返事をした。
「移動後に体に異変は無かった?」と聞くと、
「銃で撃たれた痛みだけで、変わったことは無い」と答えた。
21
その時マリアンナ・ヴァレリウスのスマートフォンに電話着信メロディが流れたので、マリアンナ・ヴァレリウスは相手が公衆電話からの電話だったので一瞬怪訝そうな顔をして少し考えてから電話に出るとレオナルド・ヴァレリウスだった。
「父から解放されたけれど、僕のスマートフォンを奪って、母さん、美穂さん、玲央さんが持っているスマートフォンの電話番号とメールアドレスが盗まれた。三人のスマートフォンを処分してほしい。明日の昼にハーフエンにあるハーブ工場の駐車場で待っている」との連絡だった。マリアンナ・ヴァレリウスは、
「美穂さんはここにいるから心配しないで、とりあえず何処かのホテルで泊まるように」と伝えて短い会話で電話を切った。
マリアンナ・ヴァレリウスは、
「夫の親衛隊が、息子を付け狙っている可能性があるので、別行動をとったほうが賢明と判断した」と説明してくれた。
そして電話での会話の内容を説明してくれたので、ラピスラズリに、
「レオナルド・ヴァレリウス、マリアンナ・ヴァレリウス、美穂、俺のスマートフォンのSIM(加入者識別モジュール)データを、俺のスマートフォンに保存してから四人のスマートフォン上のSIMデータを削除できるかな」と話しかけると、
「YES」と答えがあって、10分ほどすると、ラピスラズリから、
「完了しました。玲央さんと美穂さんとは、スマートフォンの無線LAN機能を使ってラピスラズリとラピスラズリⅡとの会話ができます」と説明があった。俺達のスマートフォンの電話発着信やメール送受信が使えなくなった。
俺はこの電話連絡で、息子の無事を一番喜んでいるのはマリアンナ・ヴァレリウスだと強く思った。息子の無事を確認できて声を聴けた喜びと、レオナルド・ヴァレリウスも美穂の無事を確認できたので、彼も喜んでいると推察した。
オリバー・サンダーソンは、レンタカー会社に電話で、
「4ドアセダン時間延長と料金は契約時のクレジットカード払い」と連絡を入れた。
俺は、エリク・ノーヴェンハートのキッチンで働いていた男性と女性そして老人は、エリク・ノーヴェンハートの親衛隊だったとようやく気付いた。
美穂の右脇腹の状態を見せてもらうと、紫色のアザができていた。
マリアンナ・ヴァレリウスは、薬局で買った紙袋から、打撲に効果のある塗り薬をガーゼに沢山塗り込み、美穂の右脇腹に張り付けて、救急用紙テープでガーゼ美穂の脇腹に貼り付けてくれた。
俺は、お茶を飲もうと備え付けのヤカンに水を入れて、ガスレンジのバーナーのスイッチを入れてヤカンをバーナーの上に乗せた。
俺は、四人分の紅茶を入れて、
「痛み止めを飲むように」と美穂に伝えると、薬局で買った袋から痛み止めの錠剤を取り出して
「分かった」と言って、痛み止めを飲んでくれた。
オリバー・サンダーソンはショッピングセンターで買ってきた食材と飲み物をテーブルに並べた。
四人で楽しい夕食を済ませて、男の部屋に戻った。
ベッドで横になると、オリバー・サンダーソンが、侵略前のルミアでの家族との幸せな暮らしや幼少時代の話を聞かせてくれた。
彼は、野生児で山、川、海で遊びながら大人になり勉強は嫌いだったと懐かしんでいた。
22
翌朝、オリバー・サンダーソンと俺は女の部屋のドアをノックすると、マリアンナ・ヴァレリウスがドアの小窓から覗いて俺達を確認すると、ドアチェーンを外して、ドアノブの下にあるロックレバーを左に回して解錠してくれた。
オリバー・サンダーソンと俺は、
「おはよう」と言って部屋に入った。美穂が朝のコーヒーを飲んでいたので、
「右脇腹の傷は痛む?」と声をかけると、
「指で押すと痛いけれど、痛みがかなり薄れてきた」と言ってくれた。
「痛み止めは飲んだ」と聞くと、
「今飲んだところ」と返事をくれた。
オリバー・サンダーソンは、ハーフエンに向かう道にあるハンバーガーショップで朝食をテイクアウトして、ハーブ工場まで移動して行こうと提案してくれた。その流れで移動することにした。
女の部屋から、彼女らの荷物を車に積んだ後、オリバー・サンダーソンと俺は自分達の荷物を車に積んでいると、女の部屋からお二人さんが出てきた。
マリアンナ・ヴァレリウスは、美穂を車の後部座席に座らせてから、オリバー・サンダーソンに、
「部屋の鍵を預かる」と言って右手を出した。
オリバー・サンダーソンはポケットから部屋の鍵を取り出すと、
「忘れ物は無い?」とマリアンナ・ヴァレリウスは子供に諭すようなイントネーションでオリバー・サンダーソンに声をかけると
「ないよ」と子供のような返事をオリバー・サンダーソンが返すのだった。
マリアンナ・ヴァレリウスはモーターホテル管理室に入って行くと、すぐに出てきて車の助手席に乗り込んだ。
オリバー・サンダーソンは、マリアンナ・ヴァレリウスが助手席に乗ったことを確認すると車のエンジンを掛けてアクセルペダルを踏んだ。
ロセバリーからハーフエンの街に入ると、“ビックリバーガー”という看板の店が見えたので近づくと、ドライブスルーに入って
何が“びっくり”なのかと思いつつ、メニューが書いてある看板を見ながら四人は、注文する品定めをして注文窓口に行った。
どうやらデカ盛りハンバーガーの店だったようで、個別にハンバーガーと飲み物を注文してまとめてお金を払った後、受取り窓口へ車で少し移動して四人分のハンバーガーと飲み物を受け取った。
ハーフエンに向かって車を走らせると“バラ公園”と書かれた看板が見えてきた。
俺達は、バラ公園でハンバーガーを食べることにした。
気温は25度近くあり曇り空ではあったが、バラの花が見ごろだったので、丸や四角の花壇には多品種のバラが咲いていた。花壇脇のベンチでハンバーガーを食べた。
美穂は、皆が冗談を言うと、
「右脇腹を抑えて、痛い」と言って笑った。
美穂を見ながら俺は、災難にあった美穂はAIアーマーオムニガードⅡとラピスラズリⅡのおかげで死なずに済んだと感謝した。
23
ハーブ工場の駐車場に入るとまだレオナルド・ヴァレリウスの姿は無かった。
約束の時間が過ぎて30分ほど待ったが現れなかった。
俺は、オリバー・サンダーソンに、
「連絡の取りようが無いので国境へ戻ろう」と声をかけるとオリバー・サンダーソンは、
「了解」と言って車のエンジンを掛けてアクセルを踏んだ。ルミア国境へ車を走らせた。
車中で俺は事情を説明した。
「この国の電話通信会社は、スマートフォン基地局経由で、スマートフォンの電話番号から位置情報を取得できる。対象のスマートフォンを調べようとすると、どの基地局エリアに対象の人がいるかの情報が筒抜けになる。電話通信会社のメールサーバをハッキングすればメールの内容が筒抜けになる。スマートフォンに内蔵されているSIMで持ち主を識別しているので、SIMデータを削除することによって、事が治まるまで四人のスマートフォンが存在していない方策を取った。スマートフォンを使えないので不自由をかけて申し訳ない。スマートフォンと量子AI間通信による窓口のみの最小限の機能を持たせている」と伝えた。
エリク・ノーヴェンハートに、ハーブ工場でおち合うことになっていた我々の情報までの情報が流れていた可能性があったが、
俺は、ハーブ工場にエリク・ノーヴェンハートの追手がいなかったのは何故だろうと考えてみた。
待ち合わせの時間にあの場所にいたのではないかと。だが見張る相手の判断がつかなかったため我々を特定することができなかったと自分を納得させるしかなかった。
車を運転しながらオリバー・サンダーソンがマリアンナ・ヴァレリウスを慰めようと、
「レオナルド・ヴァレリウスの身の危険は無いと思うから、時が来れば会える」と伝えると
「そうあってほしい」とマリアンナ・ヴァレリウスは一言いうと押し黙ってしまった。
俺は、彼女の心の顔には一筋の涙が流れていたと感じた。
約束していた駐車場でレオナルド・ヴァレリウスの顔を観ることができなかった事で母親の辛い場面だと見て取れた。
24
ナイロクシアまでの国境には管理センターまではエリク・ノーヴェンハートの追手から追跡は無かったので、俺達は無事にナイロクシアの国境管理センターに到着した。
オリバー・サンダーソンは運転席から降りると管理センターに入っていった。
5分ぐらいすると、オリバー・サンダーソンが戻ってきて、
「出国受付カウンターでは問題なく手続きが終わった」と説明してくれた。
オリバー・サンダーソンは車をルミアの国境管理センターに移動して駐車場に止めた。
オリバー・サンダーソンの顔見知りと思われる国境警備隊員がオリバー・サンダーソンの運転席側にやってくると、顔パスなのか
「お帰り」と言って車のボンネットをポンポンと手のひらで軽くたたいたので、
「ありがとう」と言って、オリバー・サンダーソンはアクセルを踏んだ。
オリバー・サンダーソンは、コネスカ港に向けて車を走らせた。
港が近づくと海の潮風の匂いがしてきた。
「もうすぐ、港が見えるころね」とマリアンナ・ヴァレリウスが呟いたのが聞こえた。
25
俺たちはルミアのコネスカ港に到着した。駐車場に車を止めると解放軍メンバーが待っていてくれて、
「お疲れ様」と声をかけてくれたので車を彼らに預けた。
オリバー・サンダーソンは沙羅が乗っている霧深に乗船するので俺達と一旦別れた。
俺達三人(美穂、マリアンナ・ヴァレリウス、俺)は霧霞の乗船デッキから艦内に入った。
佐々川隊長が待っていて、
「ただいま戻りました」と挨拶すると、
「決裂だったようだね」と残念そうに俺に言った。
「やるだけやった結果だから」と言うと、美穂の顔を見て、
「右脇腹はどんな具合?」と尋ねた。美穂が、
「痛み止めと塗り薬で、時間の経過と共に痛みは和らいでいます」と答えると
佐々川隊長は、三人にベッドある部屋に戻って少し寝てきなさいというので、
「お言葉に甘えます」と言って、俺達三人は自分のベッドで横になることにした。
後で聞いた話だが、エレナ・ロドリゲスは上長の許可をもらって、美穂のベッド脇で泣きながら付き添ってくれていたと美穂から聞かされた。
26
横になってウトウトしているとクルーが起こしに来て、
「発令所に来てほしい」と呼びに来た。
発令所に行くと美穂が待っていて、佐々川隊長から
「エクスカリバー第7艦隊のルミア戦で戦友だったアダム・ブレイクから連絡が入って、インペリムのニドール軍港から、空母2隻、巡洋艦6隻、潜水艦4隻が出港したとの情報を得た」と説明してくれた。
「隊長、この港から一番近い情報処理センターはありますか」と聞くと、
「このコネスカ港近くに町役場があり、そこのコンピュータとネットワークが利用できたら良いのだが」と言うと、佐々川隊長が町役場に電話を入れてくれてネットワークとパソコン環境を聞いてくれた。町役場職員との相談で、明日は土曜日だったので緊急休館にしてもらい、コンピュータとネットワークの一部を少しの期間貸出しをお願いした。明日は急を要する住民には手作業で対応をお願いすると、町役場職員は我々のために譲歩してくださり承諾してくれた。
俺は、ラピスラズリ経由で大、沙羅、美紗に、
「コネスカ港近くの町役場内にある情報処理室へ来てくれ」と連絡を入れた。
佐々川隊長、マリアンナ・ヴァレリウス、美穂、エレナ・ロドリゲスと俺はAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗り町役場に到着した。
この町役場は鉄筋コンクリートでできた2階建ての建物で外観は水色をしていた。
内装は、壁と天井は白い壁紙と天井紙が貼られていた。ドアは濃い茶色の木製の自動ドアだった。
グレーの毛足が短いカーペットが敷き詰められていた。
1階が住民課で住民カウンターが並んでいた。2階が簡易図書館、会議室、情報処理室となっていたので、俺達は情報処理室に入った。
手始めにナイロクシアのシステム管理者のIDとパスワードを取得するため、ラピスラズリにファイヤウォールと暗号解読の依頼をした。
ラピスラズリはマスカレード機能(なりすまし機能)を使って、複数のネットワーク、レイヤースイッチングハブ、サーバーを経由してファイヤウォールを抜けてナイロクシアの軍使用のサーバーの暗号解読まで行きついた。
俺は、ナイロクシアのシステム管理者のIDとパスワードを4つ取得した。
大とヴィクトリア・ファルコンハート、沙羅とオリバー・サンダーソン、美紗とミカエル・スミスが情報処理室に入ってきた。
俺はチームメイトの彼らに駆けつけてもらった内容の説明に入った。
4つのIDとパスワードを取得したので、これからナイロクシアの軍事機密情報をすべて削除するので、4台の端末を使って
量子AIのラピスラズリ、ターコイズ、サファイア、バイオレットは、軍事機密情報が保存されているサーバーに入ってファイルの削除を実行してほしい。バックアップデータを必ず彼らは持っているので、復元されたら削除してほしい。
このバックアップデータから復元行為があるかの監視を、これから四人にしてもらいたい。
エレナ・ロドリゲス、ヴィクトリア・ファルコンハート、ミカエル・スミス、マリアンナ・ヴァレリウスが監視役で、オリバー・サンダーソンはイザというときにルミア解放軍のメンバーに連絡を取って、この四人を救出する役割をお願いしたい。
もう一度、ナイロクシアのaiに搭載されているプログラム攻撃無効化プログラムを、ネットワーク接続される都度自動で置き換えるプログラムを各サーバーに埋め込んで、aiロボットに置き換えプログラムを流し込む作業をこれから行ってほしい。
対象は
ai自律歩行型ロボットデモンウォーカー
ai自律攻撃型無人ヘリコプターブラッドハンター
ai自律攻撃型ドローンデスウォッチャー
ai自律攻撃型戦車デスヴァイパー
ai自律攻撃型装甲車ダークウォーリアー
aiレーザー銃シャドウブレイド
ただし、コンピュータ制御の攻撃兵器には対応はできるが、昔から存在するプログラムに依存しない兵器で銃、地雷、バズーカ砲、機雷、機械的に稼働をする装甲車や戦車、プロペラ戦闘機等は、防ぐことはできないので重力フォトンパルスで押さえるしか無いと言うことを、皆理解してほしいと頼んだ。
「よし!やろう」とオリバー・サンダーソンが言うと、皆で、
「おう」と気勢を上げた。
新しいスマートフォンを買いに、マリアンナ・ヴァレリウス、美穂と俺が出かけると言うと、エレナ・ロドリゲスが、
「一緒に行きたい」と言うので町役場職員が街中にあるスマートフォンショップまで車で乗せて行ってくれた。
店員さんが3台のスマートフォンの環境設定に1時間程かかると言うので、町役場職員の運転する車でソフトクリームを食べに出掛けた。
エレナ・ロドリゲスは美穂の手を離さずにいた。彼女も美穂を心配していたようで、
「一緒に来て良かった」と美穂と一緒にいたかった様子だった。
スマートフォンショップの店員さんから新しいスマートフォンを3台渡してもらい俺たちは町役場に戻った。
オリバー・サンダーソンは、メンバーを守るために町役場に武装したルミア解放軍のメンバーを招集する電話連絡を入れてくれた。
1時間ほど作業を行い監視行為だけになったので、町役場職員に4台のコンピュータとネットワークの継続利用をお願いし、承諾を得たので、佐々川隊長をはじめとする大、美紗、沙羅、美穂と俺は町役場を出ると各艦に戻った。
27
母国のセレスティア作戦司令部からメッセージが届いていた。
6番艦風神、7番艦風花、9番艦風潮、10番艦風翔の4隻が応援部隊として、そちらに向かっている。
1番艦霧霞、3番艦霧隠、4番艦霧深、5番艦霧島は、応援部隊と合流し、我々の8隻の艦隊は、敵巡洋艦を6隻と空母2隻を戦闘不能にする。
1番艦霧霞、3番艦霧隠、4番艦霧深、5番艦霧島は、敵4隻の潜水艦を戦闘不能にする。
完了したら、ナイロクシアに反転して、海岸から上陸作戦を行う。
6番艦風神、7番艦風花、9番艦風潮、10番艦風翔は、敵兵の救助活動を行う。エクスカリバー第7艦隊は風神、風花、風潮、風翔と協力して敵兵救助協力を行う。
メッセージの内容は、大まかな戦略計画だった。
28
出撃時の外気温は18度、天気は曇りの天候で風はほとんど吹いていなかったので波は穏やかだった。
出撃直前に、友好国のエクスガリバー宇宙衛星から、現在のナイロクシア艦隊の位置情報が送られてきた。
同時に全艦隊8隻に情報が送られた。
セレスティアからの支援艦隊とルミアから出港した我々の艦隊が、ナイロクシア艦隊と接触する緯度経度情報が計算され。8隻は情報共有を図った。
量子AI通信で、36時間後に接触する敵艦隊との実戦での具体的なフォーメーションを量子間通信で話し合った。
各館の艦長、副艦長、作戦参謀、戦闘隊長が各艦から同席した。
敵は哨戒機を使って、海面と海底の状況把握を行いながら航行するので、4時間後にAI自律型無人戦闘機ストライカーを霧霞から4機発艦させる。
この4機は哨戒機を探索して、敵の目にあたる部分を不能にする。
哨戒機からの通信が途絶えるので、敵レーダーは我々を探知して敵戦闘機は我々を遊撃に来る。
何機かとの戦闘は避けられない。
我々は、第1波で敵哨戒機を不能にした時に、8艦からAI自律型無人戦闘機ストライカーを発艦させる
各艦4機で敵艦を戦闘不能とする攻撃を行う。
敵空母ドレッドナウトとシルバーメアを、4番艦霧深、5番艦霧島から発艦したAI自律型無人戦闘機ストライカーで戦闘不能にする。
敵巡洋艦 アロー、インフィニティ、グローリアス、パシファー、ノーブル、ブレイブを、6番艦風神、7番艦風花、9番艦風潮、10番艦風翔、1番艦霧霞、3番艦霧隠から発艦したAI自律型無人戦闘機ストライカーで戦闘不能にする。
1番艦霧霞、3番艦霧隠、4番艦霧深、5番艦霧島は、AI自律型無人戦闘機ストライカーを発艦させたら、即座に潜航して、211号ダークトレジャー 、226号ダークトレジャー、233号ダークトレジャー、247号ダークトレジャーを探索して戦闘不能にする。
一気呵成にやらないと、我々に被害が出るので、迅速に決行する。
作戦会議が終わった。
29
俺はコンソールディスプレイを見ながら、霧霞AIに、
「電源系統、生命維持装置、攻撃用装置について出航前点検状況を教えて」と伝えると
「点検完了、異常なし、出港準備完了」の応答があった。
潜水艦空母霧霞はコネスカ港から沖合に海上を航行して行く。
10分ほど海上を航行して、
カメラ型潜望鏡とレーダーが使える深度まで潜航開始」と霧霞AIに伝えると、波をかき分けながら艦は静かに潜航を開始した。
海は相変わらず穏やかで、ナイロクシアのニドール軍港は、モンテバスコの岬とノリマーゼの岬から更に内陸の海岸線沿い入った軍港だった。
このモンテバスコの岬を通過し、ノリマーゼの岬を過ぎて、セレスティアに向かう敵艦隊が進む方角に霧霞は舵を取った。
4隻の艦は霧霞を先頭に菱形艦隊編成を組んで、音紋スキャナとソナーで敵艦隊を探索しながら30時間ほど航行していった。カメラ型潜望鏡で海面をディスプレイで目視確認ができる機能と、レーダー監視がディスプレイで確認できる統合型コンソールだ。これらを組み合わせたスタイルで艦橋に設置されたレーダー駆使して敵艦隊の位置を確認すると、3時間ほど先で移動中の艦隊の姿を捉えることができた。敵は空母2隻を中心に、巡洋艦6隻で囲いこむ陣形を取りながら航行していた。
敵潜水艦は、艦隊前方に2隻、艦隊左右に1隻ずつ潜航して航行している隊形を把握できた。
レーダーで敵哨戒機が近くにいないか確認をした。
確認が取れたので霧霞AIのコンソールに向かって、
「浮上」と伝えると艦が浮上した。
艦橋の後ろ側がわ格納庫2階の大型の扉を開けると格納庫から戦闘機をエレベータで飛行甲板に上げ終わると同時に、垂直離陸して1機目のAI自律型無人戦闘機ストライカーは飛行甲板上で、エアージェットエンジンを垂直にするとキューンと垂直離陸して、垂直離陸が完了すると垂直から水平にエンジン噴射口角度が変わりゴーという音と同時に飛行して行った。
そして2機目が飛び立ち、3機目をエレベータで飛行甲板に上げている状態のときに、敵哨戒機が近づいてきたと確認した。
先に飛び立った1機は、霧霞AIから情報を得て即座に状況把握した。
重力パルスを飛行機モードに変更して近づいてきた哨戒機に重力パルスとフォトンパルスを発射した。
フォトンパルスによって哨戒機の電力系統とコンピュータ制御系統を停止させた。双発型のエンジンに燃料が補給されなくなりエンジンが停止しプロペラが止まると、重力パルス飛行機モードにより哨戒機は、ゆっくりと海面に着水した。
AI自律型無人戦闘機ストライカーは高高度で、我々の救助隊が助けに来るまで上空で待機体制を取った。
30
潜水艦空母4艦からAI自律型無人戦闘機ストライカーの発艦が済んだころ、敵ジェット戦闘機6機が空母からスクランブル発信して霧霞を攻撃対象として飛来してくる映像をレーダーで捉えた。
既に上空で待機しているAI自律型無人戦闘機ストライカーは艦と瞬間的に情報共有した。
霧霞から発艦していた4機は敵ジェット戦闘機にマッハ8の高速で接近した。
敵ジェット戦闘機は指示を与える有人戦闘機1機とネットワークで接続された無人戦闘機5機の編隊だ。
指示を与える戦闘機は有人であるためスピードは人間が耐えられる重力マッハ3程度なので、AI自律型無人戦闘機ストライカーは重力パルスを飛行機モードにセットして発射した。
重力パルスとフォトンパルスは、1秒間に10発発射され、一発あたり50mの弾幕を張る。1秒で500mの弾幕を張ることができた。この弾幕を敵の無人戦闘機が通過すると、フォトンパルスの弾幕によりデジタル信号が遮断されネットワークが切断され、指示を与える有人戦闘機と通信が不可能になった。そして機体内の電力が停止しデジタルコンピュータ方式のCPU、ROM、RAMが停止した。
これにより、5機の無人戦闘機は戦闘力を失った。
敵有人ジェット戦闘機も、この弾幕を通過すると、無人戦闘機と同じようにデジタル信号が遮断されネットワークが使用不能となり、機体内の電力が停止するためデジタルコンピュータ方式のCPU、ROM、RAMが停止した。
無人戦闘機と有人戦闘機は重力パルス飛行機モードにより、反重力状態となり枯れ葉が海面に落ちるように緩やかに海面に着水した。
敵空母ドレッドナウトとシルバーメアを、4番艦霧深と5番艦霧島から発艦したAI自律型無人戦闘機ストライカー8機がマッハ8の高速で、フォトンパルスと重力パルスを撃ち込んだ。
敵巡洋艦 アロー、インフィニティ、グローリアス、パシファー、ノーブル、ブレイブを、6番艦風神、7番艦風花、9番艦風潮、10番艦風翔、1番艦霧霞、3番艦霧隠から発艦したAI自律型無人戦闘機ストライカー24機がマッハ8の高速で、フォトンパルスと重力パルスを撃ち込んだ。
海上の敵艦隊は短時間で戦闘不能となった。
敵ジェット戦闘機パイロットと哨戒機の乗組員に対して救助隊が到着するまでAI自律型無人戦闘機ストライカーは重力パルスで海面に浮かせた。
31
霧霞を含む4隻は即座に潜航して、敵潜水艦の攻撃に備える必要があった。
音紋スキャンとソナーを使って500mほど潜航して、監視する作戦だ。
敵潜水艦は、海上で見慣れない戦闘機が飛び回り、自軍のジェット戦闘機、巡洋艦、空母に光のようなパルスを発射すると戦闘にならない自軍の艦隊を潜望鏡で見て、不思議と考えながら我々に攻撃を仕掛けてくると判断した。
少しの時間が経過すると敵潜水艦4隻が近づいてくるのを発見した。
霧霞から敵潜水艦233号ダークトレジャー艦影が、最短距離にいたので接近していた。
3番艦霧隠、4番艦霧深、5番艦霧島の3艦に、コンソールから、
「霧霞は敵潜水艦233号ダークトレジャーを捕獲する」とメッセージを送った。
233号ダークトレジャーは、我々の存在に気づいていなかったので、重力パルスミサイル魚雷とフォトンパルスミサイル魚雷を潜水艦モードにセットした。
重力パルスミサイル魚雷を1本とフォトンパルスミサイル魚雷1本は233号ダークトレジャーの音紋を追尾モードにして、25m付近で爆発するようにセットした。魚雷の爆発の衝撃で敵艦船体を破損しない方法を取った。
233号ダークトレジャー艦まで、こちらの魚雷が50mまで近づいた時、彼らはデコイを発射したが、音紋追尾モードなので、デコイは役に立たなかった。
233号ダークトレジャー艦の25m手前で、2本のこちらの魚雷が爆発した。
数分時間が流れると233号ダークトレジャー艦はフォトンパルスによって動力電力系とコンピュータ系の電力と信号が停止してコンピュータのCPU、ROM、RAMのプログラムとデータを消去され潜航不可能となったようだ。重力パルスの潜水艦モードにより反重力の力で、ゆらゆらと海面に向けて浮上を始めるのだった。
生命維持装置の電力も停止するので、浮上すると艦橋ハッチを開けて、新鮮な空気を艦内に取り入れる必要があった。
潜望鏡カメラで海面が見える場所まで数分かけて浮上し、海上の安全確認を行った。
233号ダークトレジャーは海面に浮いていた。
潜望鏡カメラで海面をディスプレイ上で海面の状況を見ると空母2隻と駆逐艦6隻は、航行不能となっているようだった。
211号ダークトレジャー 、226号ダークトレジャー、247号ダークトレジャーは、ゆらゆらと海面に浮かび上がってきた。
どうやら3番艦霧隠、4番艦霧深、5番艦霧島が対処してくれたようだ。
安全の確認が取れたのでコンソールを介して霧霞AIに
「浮上」と伝えた。
「YES」と回答が霧霞AIからあり、艦は浮上を始めた。数分すると
「浮上完了」と霧霞AIから回答があった。
その時に、エクスカリバー第7艦隊から、
「15分後に合流」と連絡が8隻にメッセージが入った。
「6番艦風神、7番艦風花、9番艦風潮、10番艦風翔から発艦したAI自律型無人戦闘機ストライカーに、第7艦隊が到着するまで引き続き空中で敵艦の監視を実施してほしい」と俺は各館艦長に頼んだ。6番艦風神、7番艦風花、9番艦風潮、10番艦風翔の各艦長から、
「了解」のメッセージが届いた。
重力パルスと、フォトンパルスが効果を発揮できる時間帯は発射後30分の制限があるため、発射後25分経過したところでもう一度、敵空母、巡洋艦、潜水艦、有人ジェット戦闘機、哨戒機に掃射する必要があった。
哨戒機、有人戦闘機、無人戦闘機は海水に浸かっているため、使い物にならないが人命救助を優先した。
6番艦風神、7番艦風花、9番艦風潮、10番艦風翔の各艦長に第7艦隊と共同でナイロクシア艦隊の捕虜兵士の救助をお願いした各艦長から
「了解」のメッセージが届いた。
俺は霧霞から発艦した、AI自律型無人戦闘機ストライカー4機を格納するためコンソールから霧霞AIを介して、
「霧霞に戻って着艦せよ」とAI自律型無人戦闘機ストライカー4機に話しかけると、
「YES」と回答があって、1機目、2機目、3機目、4機目がゴーというエンジン音が、キューンというエンジン音に変わり噴射装置を垂直にして着艦してきた。4機は格納庫に収容された。
3番艦霧隠、4番艦霧深、5番艦霧島から発艦していたAI自律型無人戦闘機ストライカーも各艦に帰艦した。
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霧霞、霧隠、霧深、霧島の4艦はナイロクシアに向かって移動を開始した。
コンソールを介して、大、美紗、沙羅と敵艦隊を戦闘不能にした作戦成功の労いを量子通信でメッセージ交換を行った。
カメラ型潜望鏡とレーダーが使える深度まで潜航して4艦は菱形陣形でナイロクシアの海岸に向かった。
各4艦の艦長、副艦長、作戦参謀、戦闘隊長との上陸作戦を話し合った。
4艦の戦闘員は、別の海岸から上陸して、4ルートで首都ニドールに向かう計画が立てられた。
俺と佐々川隊長は、ナイロクシアのイマレロの町の西側海岸から上陸することになった。
イマレロ、ポートメイ、ヴィラーゼ、首都ニドールを攻略する作戦を立てた。
24時間ほど航行していくと、ナイロクシアの海域に入った。
すると音紋スキャナで1時間ほど離れた海上に敵の船影を感知した。巡視船と巡洋艦の2隻がいる。
この敵2隻は敵潜水艦と合流するのではと察知した。
巡視艇と巡洋艦の速度は、潜水艦よりも速いので、霧霞は3隻の敵艦と交戦すると判断した。
音紋スキャンに敵潜水艦の艦影を捕捉した。我ら潜水艦空母4艦は、潜航を開始した。
俺は霧霞AIを介して、
「霧霞が予定しているナイロクシアのイマレロの西側海岸は、各艦隊が上陸する海岸の中で一番近いのでこちらで捕獲処理すると伝えた」
3艦からは、
「了解頼んだ」とメッセージが返ってきた。
深度450m付近で平らな海底を見つけて船体をゆっくりと海底の砂地に乗せた。
20分ほど経過すると、音紋スキャナでエンジン音とスクリュー音から、敵潜水艦は208号ダークトレジャー、巡視船はバニヤー、巡洋艦はレブルトと判断した。
敵潜水艦208号ダークトレジャーは深さ300mで航行している。
コンソールにから、
「深度300mまで浮上」と話しかけると霧霞AIから、
「YES」の応答があり
艦は深度450mから300mに浮上して、敵潜水艦は208号ダークトレジャーと巡視船バニヤー、巡洋艦レブルトを待ち受ける体制をとった。
重力パルスミサイル魚雷を1本とフォトンパルスミサイル魚雷1本の一組に潜水艦モードをセットして、追尾する音紋を208号ダークトレジャーにセットした。
そして、重力パルスミサイル魚雷を2本とフォトンパルスミサイル魚雷2本に船舶モードをセットして、追尾する音紋を巡視船バニヤー、巡洋艦レブルトにセットした。
208号ダークトレジャーと巡視船バニヤー、巡洋艦レブルトの音紋を追尾して、25m付近で爆発するようにセットした。我々のミサイル魚雷は敵艦船体を破損しない方法をとる思惑だ。
「ミサイル魚雷6本発射」の指示をコンソール経由で俺は霧霞AIに伝えた。
魚雷は6つの発射口から一斉にシュルシュルという音とともに発射された。
「急速潜航をしながら最高速度で艦を西に向けて全速力退避」とコンソール経由で俺は霧霞AIに伝えた。
我々の魚雷を感知した巡視船バニヤー、巡洋艦レブルトからは、爆雷と潜水艦誘導魚雷が海底に投下された。
続いて208号ダークトレジャーから、誘導魚雷が発射された。
「デコイ発射」とコンソールに俺が伝えると、誘導魚雷が突進してくる方向にブシューと音を立ててフォトンパルスデコイが発射された。
フォトンパルスデコイは、敵誘導魚雷の手前で爆発して電子機能を停止させ動力機能を無効化した。
少しすると、艦全体に爆雷の爆発の衝撃が伝わってきて、艦全体が揺れた。
流石にこの時は、クルーの皆が青ざめていた。
我々のフォトンパルスデコイによって、誘導魚雷は動力を失ったようで何も起こらなかった。
俺たちはとにかく、我々は交戦現場から逃げた。
巡視船バニヤー、巡洋艦レブルト、208号ダークトレジャーに近づいた我々のミサイル魚雷は爆発した。
敵艦はデコイを発射したが、音紋追尾モードのため敵デコイは役に立たなかった。
数分時間が流れると208号ダークトレジャーをフォトンパルスによって動力電力系とコンピュータ系の電力と信号を停止させた。敵潜水艦のコンピュータCPU、ROM、RAMのプログラムとデータを消去したので潜航不可能となった。ソナーディスプレイを見ると208号ダークトレジャーは重力パルス潜水艦モードにより反重力の力で、ゆらゆらと海面に向けて浮上を始めた。潜水艦の生命維持装置の電力も停止するので、浮上すると艦橋ハッチを開けて、新鮮な空気を艦内に取り入れる必要があったので生命に危険は無いかと心配した。
「カメラ型潜望鏡カメラとレーダーが使える深度まで浮上」と俺はコンソールに話しかけると、霧霞AIから
「YES」と返事があり、カメラ型潜望鏡が使える海面まで浮上した。
レーダーディスプレイに映し出された映像で敵艦3隻の艦影を見て取れた。
カメラ型潜望鏡ディスプレイで海面を目視確認すると、208号ダークトレジャー、巡視船バニヤー、巡洋艦レブルトから戦闘能力が失われ航行不能となった姿が見て取れた。
エクスカリバー第7艦隊と6番艦風神、7番艦風花、9番艦風潮、10番艦風翔に交戦場所の緯度経度を伝えて救助要請をした。
6番艦風神から交戦場所まで30分以上かかると応答があったで、AI自律型無人戦闘機ストライカーを飛ばしてもらい、敵潜水艦が沈まないよう監視を頼んだ。風神から、
「了解」の回答を貰った。
33
俺は敵艦乗組員の救助要請を完了すると、コンソールに、
「潜航して、ナイロクシアのイマレロの街がある西側海岸へ移動」と伝えた。霧霞AIから、
「YES」と返事があった。
2時間ほど潜航して艦が進むと、音紋スキャナとソナーに、敵巡視船2隻のスクリュー音と艦影が確認できた。
他に敵艦と潜水艦は見当たらないことを確認した。
コンソールに向かって、
「ふた組の重力パルスミサイル魚雷を2本とフォトンパルスミサイル魚雷2本に船舶モードにセット」と伝えると、霧霞AIから、
「YES」と返事があった。
音紋スキャナから敵巡視船はマーキトスとドハーナと確認できた。
コンソールに向かって、
「ふた組の重力パルス魚雷を2本とフォトンパルス魚雷2本にマーキトスとドハーナの追尾用音紋セット」と伝えると、霧霞AIから、
「YES」と返事があった。
コンソールからソナーディスプレイを使って敵艦の位置を確認しながら深度200mで潜航して進んだ。ミサイル魚雷の射程距離に入ったので、コンソールに向かって、
「4本魚雷発射」と伝えると、魚雷はシュルシュルと音を立てて艦前方の発射口から発射された。
巡視船は、爆雷や魚雷を攻撃兵器として設備されていないと考えた俺は、カメラ型潜望鏡で確認しようと、
「海面まで浮上」とコンソールから声をかけようとした瞬間、
「敵艦視船から誘導魚雷4本接近」と霧霞AIからメッセージが聞こえた。
「しまった」と口走って、思い込みの失敗を引きずっていられないので気持ちを切り替えて、
「フォトンパルスデコイ発射」とコンソールから霧霞AIに伝えると、
「YES」と答えながらブシューと音を立ててフォトンパルスデコイが、敵誘導魚雷に向かって発射された。
フォトンパルスデコイは敵誘導魚雷25m付近で爆発して、魚雷の電子機能を停止させ動力機能を無効化した。艦長が、
「最速で右舷潜航回避」とコンソールに伝えると霧霞AIから、
「YES」と回答が来て艦は動き始めた。
ミサイル魚雷が命中したか確認に15分後に交戦場所に戻った。
カメラ型潜望鏡が使える海面まで浮上して、海面をコンソールディスプレイ上で目視確認すると、敵巡視船はマーキトスとドハーナから戦闘能力と動力を奪ったようで航行不能となって海面に停止して浮いているのが見て取れた。
エクスカリバー第7艦隊と6番艦風神、7番艦風花、9番艦風潮、10番艦風翔に交戦場所の緯度経度を伝えて救助要請をした。
第7艦隊アダム・ブレイクから、
「お疲れ、救助に向かう」と応答があった。
アダム・ブレイクに、
「お願いします」と応答すると、
「気を付けて」と個人的な返事を貰った時、いつか彼とキャンプで彼が家族写真を見せてくれた時の笑顔を思い出した。
俺は、彼のお陰で交戦中なので緊張していた気持ちを切り替える事ができたと感謝した。
敵艦乗組員の救助要請を終えると、コンソールに、
「潜航して、ナイロクシアのイマレロの西側海岸へ移動」と伝えると、霧霞AIから、
「YES」と返事があった。
34
7時間潜航して進むと霧霞はイマレロの海岸の手前数kmに近づいた。艦を停止してカメラ型潜望鏡とレーダーが使える海面まで浮上させた。ソナー、音紋スキャナ、カメラ型潜望鏡、レーダーを使って近海の敵巡洋艦などの船舶と敵哨戒機を確認した。
海上は強めの風で波が高かった。
安全確認が取れたのでコンソールから霧霞AIに向かって、
「浮上」と伝えた。
艦橋の後方格納庫2階の大型扉を開けAI自律型無人戦闘機ストライカーをエレベータで飛行甲板に上げた。
飛行甲板の発艦位置に移動し終えると、AI自律型無人戦闘機ストライカーは垂直離陸して発艦した。エアージェットエンジンを垂直にして垂直離陸後、水平に噴射口角度を変えるとエンジン音が変化して偵察に飛び立って行った。
攻略ルートのイマレロ、ポートメイ、ヴィラーゼ、首都ニドールを偵察飛行して、敵軍隊行動について情報を霧霞AIに送信してくれた。軍は行動に出てはいなかった。
AI自律型無人戦闘機ストライカーを帰艦させようと、コンソールディスプレイを見ると、レーダーディスプレイで敵船影を捕らえた。
どうやら敵艦はパトロールを終えて、軍港に戻る途中のようだ。
俺は、コンソールから偵察出でていたAI自律型無人戦闘機ストライカーに、
「帰艦前に敵船舶を武装解除攻撃」を伝えた。
AI自律型無人戦闘機ストライカーから、
「敵巡洋艦アナンガレに攻撃開始」とメッセージが届いた。マッハ8の速度で飛ぶAI自律型無人戦闘機ストライカーを敵艦がレーダーで捕らえて攻撃に転じる時間は不可能と考えていた。
「攻撃完了したが機の一部破損」とメッセージが届いた。
AI自律型無人戦闘機ストライカーを格納するためコンソールから霧霞AIを介して、
「自力で艦に戻って着艦可能か」とAI自律型無人戦闘機ストライカーに話しかけると、
「YES」と回答があった。
偵察に出た機は、ゴーというエンジン音から、キューンというエンジン音に変わり噴射装置を垂直にして着艦してきた。
機は無事に格納庫に収容された。
俺は、戻ってきたと思い被害状況確認のため艦橋から格納庫に向かった。
2階格納庫に着くとクルーに、
「戻った偵察機はどこですか」と尋ねると、
「エレベータの場所です」と返事があり、機体を昇降させるエレベータを見るとクルーが機体を移動させている場面だった。
俺は、機体に近づいて観察すると右翼先端が被弾していた。俺は敵の反撃が思っていたより速かったので、自分の甘さを反省しつつ、
「戻れて良かった。ご苦労さん。ありがとう」とAI自律型無人戦闘機ストライカーに声をかけると、
ラピスラズリのブレスレッドを介して、AI自律型無人戦闘機から、
「YES」と返事のメッセージあった。
俺は、機体をポンと手で触り、クルーに、
「翼の交換は可能ですか」と聞くと、
「6時間ほど交換作業に時間がかかるが、交換パーツの在庫があるので可能です」とクルーから返事があった。
「よろしくお願いします」と俺はクルーに頭を下げて艦橋に戻った。
35
発令所で副艦長、戦略参謀、佐々川隊長と話し合って、翌朝早朝に上陸作戦を、明朝に決行することにした。
作戦内容は次の内容だった。
・第1波は、AI自律型無人戦闘機ストライカー9機のフォトンパルスと重力パルスで敵機動部隊のすべての動きを停止させる。
・第2波は、AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー4両で突入して攻撃と監視にあたる。
・第3波は、AI自律型四つ足走行ロボットアルサター10台とAIアーマーオムニガードⅡを着用した戦闘員十名をAI自律型水陸両用装甲車スキャウター4両に乗せて対象となる基地に向かう。
海岸から1時間ほど沖合で艦は深く潜航して海底400m付近で停泊することにした。
俺は副艦長室に戻ると、美穂が待っていて紅茶を入れてくれた。
「一日大変だったね」と美穂が言うと、彼女が両腕を広げてハグをしてきたので、俺は両腕で強めに抱きしめながら、
「皆無事でよかった」と伝えると、美穂は両腕を俺の体から外すと、俺の顔を見ると、
「玲央が泣いている」と俺をからかうので、
「美穂も泣いている」と言い返して、俺は美穂の頭をポンと右手のひらで触った。美穂は、
「ふふふ」と言って小さく笑った。
俺は美穂が入れてくれた紅茶を飲みながら、
「明日は上陸作戦決行だけれど生きてこの船に戻ろう」と美穂の目を見ながら言うと、美穂は明るく笑って、
「生きて戻れるよ」と答えてくれた。
36
上陸日早朝、コンソールから音紋スキャナとソナーを使って、敵艦がいないか確認した。
「カメラ型潜望鏡カメラとレーダーを使える水面まで浮上」とコンソールから霧霞AIに伝えると、
「YES」と返ってきて、艦は水面まで浮上した。
コンソールディスプレイから海上の状態を映すカメラ映像と、レーダーを使って敵がいないか確認した。
敵艦の姿は見えなかったので、
「海面に浮上」とコンソール経由で霧霞AIに伝えた。
艦が浮上したので、艦の維持は艦長に任せて美穂と発令所から格納庫に移動した。
格納庫では、佐々川隊長が待っていてくれた。
俺達三人はAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗り込もうと後方ドアから中を見ると、既に七人の戦闘員と、AI自律型四つ足走行ロボットアルサター10台が室内で待機していた。
1階格納庫の扉が開いた。格納庫扉が海面に降りる梯子の役割をしてくれていた。
天気は小雨模様だったが、風が無かったので波は穏やかな感じに見えた。
AI自律型水陸両用装甲車スキャウター4両が海面に降り、続いてAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー4台も海面もウオータージェット推進で海上をイマレロの海岸に向かった。
AI自律型無人戦闘機ストライカー9機が2階格納庫から垂直離陸をして、陸上部隊が進むイマレロ経由ルート方面に防空レーダーに探知されないように低空飛行していった。
37
我々がイマレロ海岸に上陸した頃に、AI自律型無人戦闘機ストライカーからメッセージが入った。
俺の左腕のラピスラズリのブレスレッドを介して、敵軍港監視センターの武装解除完了の内容だった。
AI自律型無人戦闘機ストライカーは霧霞に帰艦して行った。
俺達は、電動モータ駆動のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターで港にある敵軍監視センターにできるだけ静かに向かって行った。
敵軍港監視センターは3階建ての建物で、外観は濃いチャコール色のモルタルの外壁で3mの白い塀で建物は囲まれていた。
正面には検問所があった。
軍の港監視センター前でAI自律型水陸両用装甲車スキャウターが停止した。
検問所前では、数人の兵士が倒れていた。
俺達十人は、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後ろ側のドアを内側から開けると、AI自律型四つ足走行ロボットアルサター10台が最初に外に出て、敵軍港監視センター正面玄関にあたる検問所の偵察に行った。
問題なさそうなので、俺達十人は徒歩で周りを見ながら、検問所に行くと体の自由が奪われた兵士四人が倒れていた。
敵兵四人の拳銃を取り上げ武装解除行い隠し持っている銃は無いか確認した。そして手錠をかけた。
1階に入ると、右側と左側に構内監視用の部屋があり、壁一面にモニターが設置されていた。デジタルパソコンが乗っている机の椅子に座っている兵士は座った状態で机の上にのしかかる様にうつ伏せになって自由を奪われていた。
チーム三人に1階の兵士の武装解除を依頼して、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に2階に行く階段を上ると、真ん中に通路が一本、左右に部屋があり壁はガラス張りになっていた。壁に沢山ディスプレイが設置されていて4つの操作卓があった。2つの机にはデジタルパソコンが乗っていて海や空の監視をしていたらしい兵士が操作卓や机の上にのしかかる様に自由を奪われていた。
2階を、チーム三人に任せて、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に四人は3階に行く階段を上った。
3階は会議室が2つ、図書室、港監視センター長の部屋があった。
俺と美穂は佐々川隊長を先頭に監視センター長の部屋に突入すると、デジタルパソコンが置いてある机の上で、センター長と思われる白髪の男性が机を覆うようにうつ伏せになって椅子に座った状態で自由を奪われていた。
チームの一人に、この男性の武装解除と拘束を頼んで、佐々川隊長と俺と美穂は会議室と図書室に入ると、図書員と思われる女性が本を持ったまま地面に倒れていたので、美穂が女性の武装解除と拘束を行った。
38
軍の港監視センターの建物から正面玄関にあたる検問所前に止めておいたAI自律型水陸両用装甲車スキャウターまで戻ると、俺と美穂を呼ぶ声が聞こえた。
AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの陰から、海岸の方向を見るとレオナルド・ヴァレリウスと数人の兵士達が手を振って近づいてきた。
「レオナルド・ヴァレリウス!」と俺が声をかけると、美穂も、
「レオ!」と叫んだ。
レナルドは美穂の顔を見ると、こちらに向かって走り出した。
「美穂さん。生きていてくれた。あの時、美穂さんが消えた瞬間何が起こったかあの場所にいた人達は、事態を全く理解できなかった。電話で母さんから生きていると聴いていたが、美穂さんの顔を見るまで心配だった。生き延びてくれた美穂さん本当に良かった」とレオナルド・ヴァレリウスの右目から一筋の涙かスーと頬を流れた。
「あの時、美穂は俺達が乗っている車の後部座席に瞬間移動してきた。俺達だって驚いた」と伝えると、
「私も何が起こったか、わからない状態で、気が付いたら玲央が乗る車の後部座席にいたの」と美穂も説明した。
「量子AIラピスラズリに聞くと、美穂の危険を回避するために美穂の手首にあるラビスラズⅡの判断で、俺のラピスラズリの場所に瞬間移動したと教えてくれた」と話すと、レオナルド・ヴァレリウスは、目を丸くして声にならない顔をした。
「今は何ともないから大丈夫」と美穂が言うと、レオナルド・ヴァレリウスは無言で美穂の顔を見つめると、みるみるうちに両目から涙が流れていた。
俺は、レオナルド・ヴァレリウスが心底美穂の安否を心配していたのだと彼の嬉し涙を見て感じた。
美穂も、レオナルド・ヴァレリウスの元気な姿を見れて安心感で胸が一杯になった顔になっていた。
俺は、マリアンナ・ヴァレリウスのスマートフォンに電話を入れ、レオナルド・ヴァレリウスに代わるからと言って、俺のスマートフォンを彼に渡した。
39
レオナルド・ヴァレリウスが、涙をぬぐう頃に後ろに十人ほどの兵士がいた。
「ルミナで捕虜になって生還した元ナイロクシアの兵士で、彼らは自由解放軍として結成した組織の一員」とレオナルド・ヴァレリウスは説明してくれた。
「ナイロクシア軍施設が陥落したら、彼らを拘束して自由解放軍に入るよう説明したい。不承知の兵士は、監禁していく役割を担いたい」と説明してくれた。
佐々川隊長に相談すると、
「話を信じて拘束したナイロクシア兵の処遇は彼らに任せよう」と快諾してくれた。
元ナイロクシアの兵士で構成される自由解放軍は、捕虜達を拘束したまま軍の港監視センターの建物内で監禁し、監視役を常駐させるとの事だ。
佐々川隊長は自由解放軍に任せた。
イマレロの街中を通過するにあたって、レオナルド・ヴァレリウスは、
「エリク・ノーヴェンハート側の警察が追ってくる可能性があるのでナイロクシア軍のトラックで先頭を走る」と言ってくれた。厚意に甘えることにした。
移動中の街中では、何台かの警察車両を見かけたが、軍のトラックを先頭に通リ抜けることができた。
次の街ポートメイに行くには山を越える必要があった。
雑木林を走っていくと急な登り斜面に差し掛かった。道が蛇行しながら舗装された坂道が頂上につながっていた。
30分くらい坂道を上ると、レオナルド・ヴァレリウスのトラックが右側にウインカーを出して、対向車線から車が来たらすれ違うことができないような細い道に右折して入った。この道は砂利道だったので、装甲車の乗り心地はとても褒められたものではなかった。
10分くらい細い道を走ると、山小屋が見えてきた。
山小屋の玄関前は広い空き地があったので、我々はAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーとAI自律型水陸両用装甲車スキャウターを駐車した。後ろ側のドアを開けて外に降りると、レオナルド・ヴァレリウスが歩いてきて今日はここに泊まろうと言ってくれた。
丸太を組んだログハウスで、かなり老朽化が進んでいた。リゾート地目的の観光宿泊施設だったらしいが持ち主の企業が倒産したらしく、今は使われていなかった。
宿泊中は、AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーとAI自律型水陸両用装甲車スキャウター、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターが、サーモグラフィック探知機能、赤外線探知機能、レーダー探知機能を使って監視にあたってくれる。
40
夕食を食べながら、レオナルド・ヴァレリウスに、
「ハーフエンのハーブ工場で会うことができなかったけれど、何があったの?」と尋ねた。
「あの時、美穂さんが銃で攻撃された時に消えたので、そこにいた皆は驚いて声を出す事ができなかった。父親が説明しろと言ったが、僕も答えられなかった。
父がスマートフォンを出せというので仕方なく渡すと、父の部下がノートパソコンを持ってきて僕のスマートフォンのアドレス帳データをパソコンに複写した。母、美穂さん、玲央さんの電話番号とメールアドレスが父に渡ってしまった。
後悔したが、仕方なかった。そして解放されたので、4ドアセダンで屋敷を出てから少し走ってから、母さんに公衆電話で連絡した。ホテルで泊まった翌日やはり後をつけられていたらしく、父の親衛隊がハーブ工場駐車場に姿を現して屋敷に連れて行こうとしたので、レンタカーを返却すると言ってレンタカー会社に行き返却するために事務室に入った。このレンタカー会社の窓口担当が自由解放軍のメンバーで裏口に停めてあった車のトランクに入って、自由解放軍メンバーの運転で隠れ家に向かった。親衛隊に尾行されていたことに気づいて、スマートフォンを壊して捨てました。それで皆と通信ができなくなった」とレオナルド・ヴァレリウスは悔しそうな顔をした。
レンタカー会社の窓口の彼に後日話を聞くと、親衛隊はレンタカー会社付近で監視していた様子で、親衛隊の一人がレンタカー会社窓口にやってきて、
「さっきの客はどうした」というので窓口担当は、
「裏口から帰ったようです」と伝えると親衛隊の一人が、
「しまった」と言って、自分達の車に戻っていったと聞きました。
レオナルド・ヴァレリウスに、
「公衆電話からマリアンナ・ヴァレリウスに電話をくれた内容から、四人のスマートフォンのSIMを使用不能にラビスラズリに対処してもらった。その時はレオナルド・ヴァレリウスのスマートフォンは破壊されていたのか」と言うと、彼はにやりと笑った。
佐々川隊長がやってきて、
「明日は午前4時に出発予定なので早めに寝ることにする」とい言うので、皆で夕食を済ませ、レオナルド・ヴァレリウス、美穂と俺は、適当な部屋を見つけて寝袋を敷いて一緒に寝ることにした。
41
翌朝ドアをノックされて目を覚ますと4時近くになっていた。俺達三人は慌てて寝袋をたたんで、建物から外に出ると佐々川隊長が朝食と言ってパンとコーヒーを手渡してくれた。俺と美穂はAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗り、レオナルド・ヴァレリウスはトラックに乗った。小雨が降りだしそうな天気だった。
峠越えをして6時近くにはポートメイの街が見える空き地に到着していた。
「霧霞からAI自律型無人戦闘機ストライカーに午前7時15分に発艦して、防空レーダーに探知されないように低空飛行で、ポートメイの軍事施設の武装解除」の指示を俺はラピスラズリから伝えた。
レオナルド・ヴァレリウスが乗った軍のトラックを先頭で町に入り、1kmほど離れた軍事施設付近で俺達は車両に乗ったまま分散して待機した。
ポートメイ軍事施設は、2階建てで外壁は鉄骨にグレーのサイディングのように見えた。建物は大きく奥域のある建屋で存在感があった。
金網でできた柵の上の方には有刺鉄線が巻かれて監視カメラが設置されていた。軍事施設は高さ3mの金網の柵で囲まれていた。
時計を見ると7時15分だった。
俺はそろそろ来ると待っていると、数分待つと低空飛行でAI自律型無人戦闘機ストライカーが4機やってきた。
光に似たパルスを建物に撃ち込み、施設は光に包まれた。
数分後にラピスラズリ経由で
「武装解除完了」のメッセージが届いた。
AI自律型無人戦闘機ストライカーに、
「霧霞へ帰艦」と、ラピスラズリから伝えると、
「YES」の返事があって、AI自律型無人戦闘機ストライカーは帰艦して行った。
フォトンパルスと重力パルスで、敵基地は停電状態となり通信設備やレーダー、コンピュータ関連が利用できなくなった。
ポートメイ軍事施設に移動して、検問所前でAI自律型水陸両用装甲車スキャウターを止めた。
AI自律型水陸両用装甲車スキャウター後方ドアを開くと、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターが飛び出していった。俺達も車輛から降り軍事施設検問所近づいた。そこにはナイロクシア兵が地面に倒れていた。
ナイロクシア製のai自律歩行型ロボットデモンウォーカー2台は、機能停止しているのが見て取れた。
敵兵士の武器を取り上げて、結束バンドで拘束した。
AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に1階入口から中に入ると鉄骨の柱にサイデイングボードの裏側がむき出しだった。1階前方は格納庫となっていて、ナイロクシア製のai自律攻撃型戦車デスヴァイパー8両とai自律攻撃型装甲車ダークウォーリアー10両が止まっていて動く気配は無かった。
ai自律攻撃型ドローンデスウォッチャー40機程が1ヶ所の地面で固まって機能停止していた。
ルミアの港近くの町役場内にある情報処理室で、仲間達がネットワーク経由でナイロクシアが製造したデジタルコンピュータ内蔵のai攻撃ロボット関連の制御プログラムとデータを消去した成果が出ていた。
1階奥に進むと左側が倉庫で右側が事務所だった。
事務室の出入口のガラス張りのドアから受付カウンターが見えた。
格納庫と左側倉庫内に敵兵の姿は見られなかった。
右側の事務室に入るとカウンター奥に並べられえた事務机と床に兵士が倒れていた。椅子に座った兵士は机に覆いかぶさるように体の自由を奪われていた。
我々のチームメンバーがナイロクシア兵の武装解除と拘束を始めると、レオナルド・ヴァレリウス達の自由解放軍が入ってきて、ナイロクシア兵の武装解除と拘束を始めてくれたので、1階は彼らに任せてAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に階段を2階に上っていくと、2階は窓側が通路となっており、検問所の監視をしていたとみられる兵士が銃を構えた姿で床に倒れていた。
監視センターがあり壁に沢山のディスプレイが並んでいる。机にはデジタルパソコンが複数台設置されていた。数人の兵士が椅子に座った状態で机に覆いかぶさるように体の自由を奪われていた。
食堂と厨房、会議室、高官の個室があった。食堂では、数人の兵士達が椅子に座った状態で机に覆いかぶさるように体の自由を奪われていた。
トレーで食事を運んでいたと思われる兵士が倒れている近くに食事の皿や飲み物スプーンなどがトレーと一緒にぶちまけられていた。
俺達は、敵兵士の武装解除と拘束を進めた。
厨房では。三人が床に倒れていたが、ナイロクシアの兵士か不明なので念のため拘束した。
大きなドアがいくつかあり、ドアの向こうは戦略室と会議室となっていた。
やはりナイロクシア兵が床に倒れていた。椅子に座った状態で机に覆いかぶさるように体の自由を奪われている兵士もいた。
基地管理者の個室の中に入ると、ご年配の男性がファイルを手にしたまま床に倒れていた。
1階の拘束が終って2階に来てくれたレオナルド・ヴァレリウス達の自由解放軍と、チームメイトでナイロクシア兵と基地管理者の武装解除と拘束を始めた。
窓から外を覗いてみると、この建物の裏側が射撃練習場で何人かの兵士が倒れているのが見て取れた。チームメイトに射撃練習場のナイロクシア兵の武装解除と拘束を頼むと、四人がAI自律型四つ足走行ロボットアルサター2台と階段を下りて行った。
兵士の拘束と、武装解除を完了したので、俺達は階段を降りて1階受付で自由解放軍に、一部の部隊が残ってもらいこの基地の監視をお願いした。
そして俺達は次の街ヴィラーゼに向かう事にした。
42
レオナルド・ヴァレリウスのトラックを先頭にポートメイの街中を通過して行くと、人々の暮らしぶりは平和に見えた。
救急車のサイレンの音や、消防自動車が火災現場にサイレンを鳴らしながら、我々の車輛を追い越していった。
パトカーと何度かすれ違ったが、交通事故の処理をしているようで、我々には無関心だった。
郊外には大きな川にアーチが6つ組み合わせられた緑色をした橋が架かっていた。
一般車両に交じって、橋を越えていくと欄干から魚釣りをしている人達の姿があった。
何が釣れるのかと聞いてみると淡水魚が主だと佐々川隊長が教えてくれた。
橋を渡り終えて、雑木林が生い茂る峠を越えると夕方近くになっていた。
ヴィラーゼの街が見えてくるとレオナルド・ヴァレリウスのトラックが倒産したらしい使われていないホテルの駐車場に入っていった。
ホテルは4階建てのコンクリートの外壁で色もグレーのコンクリート打ちっぱなし工法そのものだった。
窓は大きく開放感のあるホテルだった。
倒産したホテルの庭にある観葉植物は手入れがされていないらしく、草は無法者のように沢山茂っていた。
広めの駐車場に車輛を駐車して装甲車の後ろ側のドアから降りると、レオナルド・ヴァレリウスがやってきて、
「このホテルは1度も使われないで倒産した企業の持ち物だったので、一晩泊まるにはうってつけ」と話してくれた。
宿泊中は、AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーとAI自律型水陸両用装甲車スキャウターが監視にあたってくれる。
そして、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターも建物周辺の巡回監視についた。
ホテル内の部屋の窓側にほこりが溜まっていた。ホテルとして使われていた形跡は無かった。
1階のレストランホールで、夕食の準備を終えて皆で食べ始めた時に、レオナルド・ヴァレリウスが新しく買ったスマートフォンに自由解放軍のメンバーからメールが入った。
次の街ヴィラーゼの軍事基地に小隊約百名が到着して、我々が来るのを待ち受けているという内容だった。
攻略したイマレロとポートメイは、AI自律型無人戦闘機ストライカーのフォトンパルス攻撃で電力を停電させて通信を阻んだのにと言うと
「街中に休暇中か買い物に出ていたナイロクシア兵がいて、車などで首都ニドールにある軍本部に通達したのでは」と美穂が言うので、皆そうだという顔をした。
「明日は、激しい戦闘になるかもしれない」と佐々川隊長が口を開いた。
「狙撃される可能性を考えて、AI自律型無人戦闘機ストライカーで、ヴィラーゼの軍事基地半径1km圏内に重力パルスとフォトンパルスを打ち込んでから軍事基地に突入したらどうか」と俺が問いかけると
「半径1.5kmに広げよう」と佐々川隊長が言うので、佐々川隊長の提案で作戦を決行することになった。
「早朝3時出発で、人通りの少ない4時に作戦決行」と意識合わせをした。
「体力温存のため、早めに寝よう」と佐々川隊長が提案したので、食事を終えるとレオナルド・ヴァレリウスと美穂と俺は、寝袋を持って2階の適当な部屋に入って休むことにした。
俺は霧霞AIに、
「霧霞からAI自律型無人戦闘機ストライカーに午前3時30分に発艦して、防空レーダーに探知されないように低空飛行で、午前3時50分にヴィラーゼの軍事施設を中心に直径3km圏内に対して重力フォトンプラズマ使用で武装解除」の指示をラピスラズリから伝えたると、霧霞AIから、
「YES」の回答があった。
43
朝3時出発はきつかったが、2時30分に寝袋をたたんで、1階のホールに行くレストランでチームメイトの皆がトーストとコーヒーを用意してくれていたので、お礼を言って胃袋に詰め込んだ。
午前3時にホテルの玄関を出ると昨夜の雨は止んでいたが曇っていて星は見えなかった。少し肌寒く、まだ暗く闇にまみれて作戦が上手くいき負傷者が出ないこと願いながら、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターに後方ドアから乗り込んだ。
闇にまみれて、レオナルド・ヴァレリウスのトラックと装甲車はできるだけ静かにヴィラーゼの軍事基地1.6km手前で、車両を分散して路地や公園の脇に駐車待機した。
一時すると空が薄明るくなってくると低空飛行でAI自律型無人戦闘機ストライカーが6機飛んできて、光に似たパルスを発射しながら飛行していった。
数分すると、AI自律型無人戦闘機ストライカーから、
「武装解除完了」のメッセージが入った。
AI自律型無人戦闘機ストライカーに、
「霧霞へ帰艦」とラピスラズリから伝えると、
「YES」の返事があった。
フォトンパルスと重力パルスで、敵基地は停電状態として通信設備やレーダー、コンピュータ関連が利用できなくなった。
俺達は、ヴィラーゼの軍事基地に向けて移動を開始した。
AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー4両のうちの2両とAI自律型水陸両用装甲車スキャウター4台のうちの2台は、基地周辺の建物や施設に敵が潜伏している可能性があるので監視と探索にあたった。
軍事基地は金網と有刺鉄線の壁は高さ3mの柵で囲まれていた。監視カメラ数台設置されていたが、施設全体が停電なので意識しないで進んでいった。基地の建物は、3階建てでチャコール色をした鉄筋コンクリートの外壁だった。
AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーから、検問所と基地建物方向にフォトンパルスと重力パルスを発射して、敵兵が戦闘不能となる時間を延長した。
AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー2両を先頭にAI自律型水陸両用装甲車スキャウター2両は基地内の検問所を通過して3階建ての建物前に停止するとAI自律型水陸両用装甲車スキャウター後方ドアからAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に俺達は建物の入り口に向かって注意深く歩いた。
軍事施設検問所ではナイロクシア兵が地面に倒れていた。
小隊の過半数が木立や、花壇などの陰に隠れて銃を構えて待ち受けていたようだが、銃器を使うことなく地面に伏せた状態で身動きができない姿で横たわっている。
敵兵を一人ずつ、チームメイトとレオナルド・ヴァレリウスの自由解放軍のメンバーが武装解除と拘束を始めた。
ナイロクシア製のai自律歩行型ロボットデモンウォーカーが機能停止しているのが見て取れた。
AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に基地内に入っていくと、ナイロクシア製のai自律攻撃型戦車デスヴァイパーとai自律攻撃型装甲車ダークウォーリアーの6両が駐車されていたが、動く気配は無かった。ai自律攻撃型ドローンデスウォッチャーの動きも全く無く、倉庫や格納庫で機能停止していると考えた。
基地建物一階に入ると、柱は茶色で壁と天井はベージュ色の壁紙が貼られていた。
受付カウンターと奥の事務室の兵士が床に倒れている姿や、椅子に座ったまま机に覆いかぶさるように体の自由を奪われていた。
我々のチームメンバーがナイロクシア兵の武装解除と拘束を始めると、レオナルド・ヴァレリウスの自由解放軍が入ってきて、ナイロクシア兵の武装解除と拘束を始めてくれたので、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に階段を2階に上って行く。
2階は窓側に通路があり大きなドアがいくつかあった。
窓側に銃を持った兵士が倒れており、検問所をここから監視していた兵士だった。
ドアの向こうは戦略室と監視センター、基地管理者の個室があった。監視センターの壁にはディスプレイが並んでおり、机には複数台のデジタルパソコンが並んでいた。
室内のナイロクシア兵は床に倒れ、椅子に座った状態で机に覆いかぶさるように体の自由を奪われていた。
この軍事施設基地管理者の個室に入ると、誰の姿は無く不在だった。
2階の奥は食堂と厨房があった。厨房では四人が倒れていた。
食堂では、五人の兵士達が椅子に座った状態で机に覆いかぶさるように体の自由を奪われていた。
レオナルド・ヴァレリウス達が2階に来てくれたので自由解放軍とチームメイトで、ナイロクシア兵の武装解除と拘束を始めた。
AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に階段を3階まで登っていくと、検問所が見える窓にナイロクシア兵が銃を構えて配置されていたらしく、銃を握りながら兵士が床に倒れていた。
3階はトレーニングルームと常駐兵士の宿泊施設となっていた。
窓から外を覗いてみると、この建物の裏側にある格納庫前で六人の兵士が倒れているのが見て取れた。チームメイトに建物の裏側格納庫で倒れえているナイロクシア兵の武装解除と拘束を頼むと、四人がAI自律型四つ足走行ロボットアルサター2台と階段を下りて行った。
俺達は3階のナイロクシア兵の武装解除と拘束を始めると、レオナルド・ヴァレリウスの自由解放軍が来てくれたのでチームメイトと一緒になってナイロクシア兵の武装解除と拘束を始めた。
兵士の拘束と、武装解除を完了したので、俺達は階段を降り建物から外に出た。
敷地内では兵舎を解放軍メンバーが回って敵兵士の拘束を行った。
突入後1時間ほどで基地攻略は終わった。
佐々川隊長は、レオナルド達の自由解放軍に一部のメンバーが基地に残って監視を継続してほしいお願いした。
ひと休みして俺達は首都のニドールに向かう事にした。
44
朝6時過ぎにはレオナルド・ヴァレリウスのトラックを先頭にヴィラーゼの街中を通過して行く、早朝なので新聞配達や露店の出店を用意している人達、早出出勤なのか電車の駅に急ぎ足で向かう人が見えた。住民の車輛はほとんど走っていなかった。
郊外に出ると大きな川にアーチを5つ組み合わせた白い塗装の橋が架かっていた。
一般車両に交じって、橋を越えていくと湖が見えた。
昼頃にはレオナルド・ヴァレリウスのトラックに続いて、俺達は湖畔沿いの道を半周ほどすると、ボート小屋と一体のホテルが見えてきた。
ホテルは5階建てで、屋根はブルーに塗られていて外壁はピンク色に塗られたコンクリート製の外壁だった
ホテルの駐車場に我々は車輛を駐車した。AI自律型無人戦闘機ストライカーの後ろ側のドアを開けて外に出ると、レオナルド・ヴァレリウスが歩いてきて、
「このホテルは自由解放軍隊員の親族が経営するホテルで、今夜はゆっくりと風呂に浸かって柔らかなベッドで寝よう」と言ってくれた。
「このホテルは、防災目的の地下室があって食料が備蓄されている」と説明してくれた。
俺達は、ホテルの玄関に入ろうとすると、貸し切り満員と張り紙があった。
貸し切りにしてくれた行為に感謝してホテルに入らせてもらった。
フロントマンが、
「いらっしゃいませ」と笑顔で挨拶してくれた。
俺は幸せな気分になってにやにやと笑ってしまった。美穂とレオナルド・ヴァレリウスの顔を見ると、二人は嬉しそうな顔をしていた。俺と同じ感覚だと感じた。
皆で一階のレストランでゆっくりと昼の食事をしていると、ラピスラズリから突然
「敵戦闘機飛来!退避」のメッセージが流れた。
佐々川隊長は、
「地下室へ逃げろ」と叫んだ。
食べかけの昼食を俺達はほったらかして、地下室へ続くドアを開けて階段を駆け下りた。
ホテル側の人達も一目散に、薄明りのある地下室へなだれ込んだ。
ラピスラズリからメッセージを受けてから皆の退避が終わったころ、地上から大きな音が響いて地面が揺れて立っていられないような衝撃が走った。
俺は、皆の顔を見て無事を確認していると、皆顔を見合わせて負傷者がいなかったので、皆は安堵感を感じた。
45
「攻撃はミサイルだったようだ」と佐々川隊長が言うと、先ほどのホテルのフロントマンが、
「地下通路で移動しよう」というので、俺達はフロントマンが案内してくれる薄明りの地下道を彼に続いて歩いた。
数分歩いて行くと、梯子が見えてきて上を見上げるとマンホールのような扉が見えた。
フロントマンは、梯子をユックリと登っていき、マンホールの扉を少しずらして頭が出るくらい開けると、外の様子を見た。
安全を確認すると、マンホールの扉を開けると光が差し込んできた。彼は外に出ていった。
数分すると戻ってきて、
「安全だから登ってきて下さい」と声をかけてくれた。
佐々川隊長が最初に階段を登って確認し地上に出て行った。俺は続いて梯子を登った。
地上に出ると湖畔からかなり離れた雑木林に囲まれた場所だった。
看板が立っていて、
「排水路につき注意」と書かれていた。
マンホールの蓋に見せかけた、鉄の扉だった。
湖畔側のホテルを見ると、5階建てのホテルはミサイル攻撃で無残な廃墟となっていた。
俺は茫然としていて、気が付くと美穂、レオナルド・ヴァレリウス、佐々川隊長が俺の横に立っていた。
ラピスラズリから、
「AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー4両とAI自律型水陸両用装甲車スキャウター4両に無事か返事をしてくれ」と話しかけると、AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー3両とAI自律型水陸両用装甲車スキャウター4両は無事だが、退避速度が遅かったAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー1両は走行不能と回答があった。
走行不能のAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーからのメッセージは、
「戦車砲塔に備え付けられていたフォトンミサイルと重力ミサイルで、敵有人戦闘機を戦闘不能にしたが、初期動作が遅れて敵有人ジェット戦闘機から発射された数発のミサイルを阻止することができなかった」との内容だった。
俺は、敵有人ジェット戦闘機を阻止しようと立ち向かってくれたAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーに感謝したいと思い、ラピスラズリから被弾したAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーに、
「攻撃から守ってくれてありがとう。君の働きで尊い人命が救われた。心から感謝する」と伝えると、
「YES」と回答が返ってきた。
被弾したAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーに、
「走行不能なので、修理部隊を呼ぶので少しの間待機してくれ」と伝えると、
「YES」の返事があった。
46
レオナルド・ヴァレリウスの乗るトラックは破壊されていた。
ホテルフロントマンが、
「この先にキャンプ場があるので、皆で行かないか」と声をかけてくれた。佐々川隊長が、
「案内してほしい」と伝えると、ホテルフロントマン微笑んで頷くと歩き出した。雑木林の中にあるキャンプ場に俺達は徒歩で移動した。
AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー3両とAI自律型水陸両用装甲車スキャウター4両に、
「このキャンプ場に集合してほしい」とラピスラズリから伝えると、
「YES」と回答があった。
ラピスラズリ経由で霧霞AIに
「AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー1両が走行不能なので修理部隊要請」と緯度経度の情報を霧霞AIにメッセージで送った。すると、
「YES」の回答があった。
キャンプ場に到着した我々は野営の準備を始めた。
AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー3両とAI自律型水陸両用装甲車スキャウター4両はキャンプ場で合流した。
俺はAI自律型水陸両用装甲車スキャウターとAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーの彼ら量子AIにラピスラズリ経由で、
「退避することができた訳を聞かせてほしい」と尋ねると、
ラピスラズリが8両の量子AIの代表となって話してくれた。
「エクスカリバー宇宙衛星から、敵ジェット戦闘機が我々のいるホテルに攻撃をしようと向かっているとの通信を受けたとき、8両の量子AIすべてが受信して回避行動を開始したが、あの走行不能となった量子AIだけが留まって、敵戦闘機の処理をした」と詳細を教えてくれた。
俺は、エクスカリバーが陰から支援してくれていたことに感謝して、あの量子AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーの判断は最適だったと感心した。
「ひとつ疑問がある。ラピスラズリ、何故俺達の場所が敵に探知されたのか分かる?」と尋ねると
「レオナルド・ヴァレリウスが乗ってきた敵軍のトラックに位置情報発信装置が取り付けられたいた確率が高い。あの自由解放軍が乗っていたトラックに発信機が仕掛けてあったと考えるのが妥当です。発信機の信号で特定されたと推察します。今回の攻撃でトラックが破壊されたのは、結果として良かったのかもしれません」と回答があった。
ホテルフロントマンがこの会話を聞いていて、
「自由解放軍にマイクロバスを一台用意してもらう?」と声をかけてくれた。
レオナルド・ヴァレリウスは、
「複数の普通自動車で移動したほうが、非常時に自由が利く」というので、ホテルフロントマンは自由解放軍にスマートフォンを使ってメールで、
「4台の普通自動車を湖畔キャンプ場に明朝届けてほしい」と連絡対応とってくれた。
47
焚火をしながら夕食作りを始めると、あたりは薄暗くなってきた。
今夜は満月では無かったこともあり、雲の無い夜空には沢山の星が散りばめた宝石のように輝いていた。
俺は焚火を見ながら星を見ていると美穂が寄ってきて俺の手を握ってきたので俺も握り返した。
美穂も、宝石のようにキラキラ輝く星達を見て、感動していたのだと思った。
レオナルド・ヴァレリウスが、薪を持って近づいてきたので美穂の手を離した。
レオナルド・ヴァレリウスは、
「今日は星が素敵で戦争を忘れさせてくれる輝きだ」と言うと、星の輝きに感動したのか彼の目から涙が流れていた。
「明日の作戦を練ろうか」と佐々川隊長がやってきた。
俺は、大、美紗、沙羅にラピスラズリ経由で、
「今どこにいる?」とメッセージを送ると、
「首都ニドールの東、東南、南で野営している」という回答が来た。
「俺の部隊は西」とメッセージを伝えた。
「自由解放軍と合流しているか?」とメッセージを送ると、
「初戦から行動を共にしている」と回答が来た。
「損害状況を教えてほしい」と言うと、大の部隊は、
「戦車1両、装甲車1両が走行不能で負傷者は一名」との内容だった。
美紗の部隊は、
「戦車2両が走行不能で、装甲車は無傷で負傷者はいない」との内容だった。
沙羅の部隊は、
「負傷者二名で、装甲車と戦車は無傷」との内容だった。
俺の部隊は、
「戦車1台のみ走行不能で、負傷者なし」と伝えた。
「敵は本格的に体制を整えて、俺達の侵攻を待ち構えている。軍の飛行場を戦闘不能にしたい。東側に軍の飛行場があるので大の部隊は戦闘不能にしてもらいたい」と伝えると、大から、
「了解」と返事があった。
「南側にもう一つ軍の飛行場があるので、沙羅の部隊が戦闘不能にしてもらいたい」と伝えると、沙羅から、
「了解」と返事が来た。
俺と美紗で2方面から、一斉に攻撃をかけようとの話になった。
第1波は各艦からAI自律型無人戦闘機ストライカーを5機飛ばして、軍事本部を中心に手前半径1.6kmの2ルートから戦闘不能にしながら交戦しながら進行する。
第2波は、AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーを先頭に侵攻する。
第3波は、2部隊が一つになって軍事本部を戦闘不能にする。
開始時間は一般人が活動開始する前の午前5時と決まった。
各艦から発艦するAI自律型無人戦闘機ストライカーは、午前4時40分と決まった。
佐々川隊長から皆に最終決戦出発は明朝4時00分出発と声がかかった。
俺の寝袋の横には美穂とレオナルド・ヴァレリウスが寝袋に入った。
「星がきれいだ」とレオナルド・ヴァレリウスが言うと、美穂と俺が、
「そうだね」と言って星を見ていたつもりが眠ってしまった。
48
俺は2時40分頃に目が覚めて寝袋から出て空を見上げると星達が輝いていた。
少し肌寒かったが、焚火の種火に細い枝を加えて火力をあげて、水を湯沸かし用のヤカンに入れた。お湯を沸かそうとヤカンを火にかけていると、レオナルド・ヴァレリウスが寝袋から出て来て俺の隣に座った。
「玲央さん、内緒のお願いを聞いてほしい。戦争が終わったら美穂さんにプロポーズしたい。お姉さんを奪う僕を許してほしい」と話しかけてきた。
「美穂が幸せになってくれれば満足なので、彼女の意志に委ねたい」と俺は伝えた。
「ありがとう」とレオナルド・ヴァレリウスが返事をした。
お湯が沸いたようなので、紙コップを二つ出してコーヒーを入れて、紙コップ一つをレオナルド・ヴァレリウスに渡した。
「戦争中とは思えないこの静寂さが最高だね」とレオナルド・ヴァレリウスが美味しそうにコーヒーを飲んだ。
佐々川隊長がパンとジャムを持ってやってきた。俺はコーヒーを紙コップに作って佐々川隊長に渡し、三人でパンを食べ始めると美穂が寝袋から起きてきて、朝食に加わり楽しいひと時が過ぎていった。
49
出発時間の午前4時00分、雲の切れ間から少しだけ星が見えて三日月が雲間に見え隠れしていた。自由解放軍の車が間に合わなかったので、自由解放軍のメンバーは用意した車が到着してから、遅れて出発することになった。俺達のチームメンバーが一人残って自由解放軍のメンバーと行動を共にすることにした。
替わりにレオナルド・ヴァレリウスが俺達のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗ることになった。
首都のニドールの街中を通り過ぎ、軍本部の敷地から1.6km離れた場所で分散して俺達は待機した。
午前5時前に、AI自律型無人戦闘機ストライカーが2編隊で光に似たパルスを発射しながら敵基地方面に地上攻撃を行いながら飛んで行った。
数分すると、AI自律型無人戦闘機ストライカーから、
「武装解除完了」のメッセージが入った。
AI自律型無人戦闘機ストライカーに、
「霧霞へ帰艦」と、ラピスラズリから伝えた。
「YES」の返事あり、AI自律型無人戦闘機ストライカーは帰艦して行った。
フォトンパルスと重力パルスで、敵基地は停電状態となり通信設備やレーダー、コンピュータ関連が利用できなくなった。
俺達は、ニドールの軍事本部基地の検問所に攻撃されることなく辿り着いた。
そして美紗の部隊と合流できた。
AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー5両のうちの4両とAI自律型水陸両用装甲車スキャウター8両のうちの4両は、基地周辺の建物や施設に敵が潜伏している可能性があるので探索にあたった。
AI自律型水陸両用装甲車スキャウター後方ドアからAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に周辺の探索に行った。
検問所の向こうに見える基地の建物は、5階建ての濃いグレーの色をした鉄筋コンクリートの外壁で囲まれていた。
この建物の周りは高さ3mのコンクリートの塀で囲まれていて塀の上は有刺鉄線が張り巡らされていた。
出入口は検問所のある1カ所のみだった。
基地内には倉庫や戦闘車両の格納庫、兵舎があった。
AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー1両とAI自律型水陸両用装甲車スキャウター4両は、検問所や基地内の倉庫や格納庫、装甲車、戦車、建物の方向にフォトンパルスと重力パルスを発射して、敵兵が戦闘不能となる時間を延長した。
AI自律型水陸両用装甲車スキャウター後方ドアからAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に軍事施設検問所近づくと、ナイロクシア兵が地面に倒れていた。
小隊の過半数が木立や、花壇などの陰に隠れて銃を構えて待ち受けていたようだが、銃器を使うことなく地面に伏せた状態で身動きができない姿で倒れていた。
敵兵を一人ずつ、美紗と同行しているチームメイトと自由解放軍のメンバーが武装解除と拘束を始めた。
矢川隊長の部隊は基地敷地内の格納庫や倉庫、戦車、装甲車、兵舎に潜んでいる敵兵士の拘束にあたった。
ナイロクシア指令本部だけあって敷地内には40台のai自律歩行型ロボットデモンウォーカーが機能停止しているのが見て取れた。
AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に基地内に入っていくと、ナイロクシア製のai自律攻撃型戦車デスヴァイパーとai自律攻撃型装甲車ダークウォーリアーと思われる車輛30両は動く気配が無かった。
格納庫内一角には100機近くai自律攻撃型ドローンが地面で整列して置かれていたが動く気配は無かった。
佐々川隊長と基地建物の一階に入ると、柱は茶色で壁と天井はベージュ色の壁紙が貼られていた。
受付カウンターと奥の事務管理室の兵士達は、床に倒れている兵士や、椅子に座ったまま机に覆いかぶさるように体の自由を奪われている兵士達が見えた。
我々のチームメンバーがナイロクシア兵の武装解除と拘束を始めると、自由解放軍が入ってきてナイロクシア兵の武装解除と拘束を始めてくれたので、
俺達はAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に階段を2階に登った。
ドアが4つあり見張り役をしていたと思われる四人が倒れていた。
ドアには防空監視センターと書かれていた。壁には沢山のディスプレイが並んでした。
同一フロアには防空管理センター室が併設されていた。
コンソールにあたるテーブルが複数あって、オペレーションや監視中だった敵兵が床に倒れていた。防空管理センター室では椅子に座った状態で自由を奪われている兵士の姿もあった。
チームメンバーと自由解放軍が2階に来てくれたので、敵兵士の拘束を任せて、
四つ足走行ロボットアルサターを先頭に階段を3階に登っていくと、4つのドア越しに兵士が四人倒れていた。
ドアには領海監視センターと書かれていた。壁には沢山のディスプレイが並んでした。
このフロアには領海管理センター室が併設されていた。
コンソールにあたるテーブルが複数あって、オペレーションや監視中だった敵兵が倒れていた。領海管理センター室では椅子に座った状態で自由を奪われていた。
俺達で敵兵士の拘束を終えた頃に、2階からチームメンバーと自由解放軍が3階に来てくれたので、一緒に4階へ行くことにした。
四つ足走行ロボットアルサターを先頭に階段を4階に登っていくと、
4つのドア越しに兵士が四人倒れていた。
ドアには陸上監視センターと書かれていた。壁には沢山のディスプレイが並んでした。
同じフロアに陸上監視センター室が併設されていた。
コンソールにあたるテーブルが複数あって、オペレーションや監視中だった敵兵が倒れている。陸上監視センター室では椅子に座った状態で自由を奪われていた。敵兵士の武装解除と拘束をチームメンバーと自由解放軍にお願いした。
50
四つ足走行ロボットアルサターを先頭に階段を5階に登っていくと、作戦会議室が1つ、作戦指令室が一つ、高官の部屋が2つ、通信設備室が1つ並んでいた。
佐々川隊長、レオナルド・ヴァレリウス、美穂、俺はチームメイトとひと部屋単位にドアを開けて、敵兵士を確認しながら武装解除と拘束を進めていった。
一番奥の部屋を開けると、レオナルド・ヴァレリウスが、
「あ!」と言って固まった。
そこには、マリアンナ・ヴァレリウスの夫でレオナルド・ヴァレリウスの父エリク・ノーヴェンハートとマリアンナ・ヴァレリウスの実父である皇帝のアルドリン・ヴァレリウスがオレンジ色のカーペットが敷いてある床の上に倒れていた。
机の上には、開かれたカバンがあり、その中はコンパクト化された操作コンソールのような小型のディスプレイとキーボードが並んでいた。
倒れている二人は目だけは動いていたので意識はあるようだ。
レオナルド・ヴァレリウスは、祖父である白髪の皇帝アルドリン・ヴァレリウスの武装解除と拘束を行った。
美穂は、銃で自分を撃ったあのエリク・ノーヴェンハートの武装解除と拘束を行った。
銃で美穂を撃った本人であるエリク・ノーヴェンハートは、美穂の顔を見て今は無抵抗で何もできない状態だったので、今度は自分が銃で撃たれるのではないかと死の恐怖と、銃で撃った瞬間消えた美穂に驚きを隠せない目をした。
佐々川隊長は、
「あと数分で、重力解除となる」と言うので、床に倒れている二人が会話できるまで待つことにした。
合同作戦を行った美紗とチームメイト、自由解放軍のメンバーが俺達のいる部屋に押しかけてきて、部屋は仲間たちで満杯になった。
「ようやく侵略戦争の元凶を捕獲した、皆頑張って良くやってくれた」と佐々川隊長が労いの声を皆にかけた。
レオナルド・ヴァレリウスは、父であるエリク・ノーヴェンハートに
「あの時、竹やりで銃を持つ人間に立ち向かうような物と、あれだけ説明したのに過去の成功体験から、考え方を改めなかった父さん、あんたは、なんて頭の固い人間なのだ!」と思いをぶちまけるのだった。
少しの間沈黙が続いていたが、床に倒れていた二人は、むっくりと上半身を起こした。
エリックが最初に発した声は、
「核弾頭発射の起動を発射コンソールから実行したのに核弾頭発射ができなかった。何故だ!」と叫んだ。
床に座っている二人を除く全員が、
「核弾頭発射ボタンを押したのか!」と騒めきが起こった。
皆が恐怖でひきつった顔をした。
「核弾頭起動停止プログラムを操作して発射寸前までのオペレーションは可能だが、噴射装置と発射起動を行うアプリケーションを改ざんした」と俺が伝えると、美穂とレオナルド・ヴァレリウスが、
「え!」と声を出して信じられないという顔をした。
エリク・ノーヴェンハートが、
「我が国のaiロボットを機能停止にしたのはお前か」と言うので、
「そうです」と俺は返事をした。
エリク・ノーヴェンハートはヤラレタと言う顔をして、
今度は美穂に向かって
「銃撃した瞬間どうして消えることができたか教えろ」と言うので、
「美穂は瞬間移動して、あんたから避難した」と俺が答えた。
エリク・ノーヴェンハートが
「何故こんな想像を超える事が次から次に起こるのか」と言うので、
「量子コンピュータはデジタルコンピュータを凌駕する」と俺は短い言葉で回答をした。
数分間の沈黙の時間が流れると観念したかのように、エリク・ノーヴェンハートはガクリとうつ向いて顔を上げることは無かった。
美穂は、俺に、
「いつ核弾頭プログラムを改ざんしたの?」と聞くので、
「ルミアの戦いで第7艦隊の空母でネットワーク越しに接続した時」と答えると、
「あの時のことは覚えているけれど、あの場にいた人は誰も知らなかった」と言うので、
「核弾頭廃絶を実行するプログラムウィルスを仕込んだので時間がかかった」と言うと、
「核弾頭廃絶と言うと、保有国が沢山あるけれど」と美穂が言うので
「量子AIのラピスラズリと一緒に世界の核弾頭保有国の核廃絶をした」と答えた。
「原子力潜水艦は核ミサイルを持っているだろう」と佐々川隊長が言うので、
「デジタルコンピュータ経由でネットワークを使って通信を行うときに、改ざんが済んでいるミサイル起動停止プログラムを、その都度仕込んでいった。一度にはできない仕込みだが、ジワジワと改ざんプログラムをコンピュータウィルスとして送り込んだ。世界を平和にするためコンピュータウィルス拡散をやった」と伝えた。
「量子AIのラピスラズリが作ったウィルスなので、デジタルコンピュータで作ったワクチンプログラムでは解決できない。そして核弾頭仕様や製造方法は、デジタルコンピュータサーバーや個別のデジタルコンピュータに保管されていたので、順次削除していった。今はほとんど存在していないし、存在していてもウィルスプログラムが駆逐していく。友好国の核施設に対しても実行したので、あの時発覚していたら俺は犯罪者になっていた。俺一人がやった事として黙っていた。今ようやく公表するタイミングと思い説明した」と伝えると、皆が信じられないと言う顔をして沈黙の時間が流れた。
レオナルド・ヴァレリウスと美穂が拍手をパラパラとしたと思ったら、美紗、佐々川隊長、チームメイト、自由解放軍のメンバーの皆が力強く拍手をしてくれた。
世界の核廃絶がなされたと宣言された瞬間だった。
そしてナイロクシア帝国が崩壊した瞬間でもあった。
皇帝のアルドリン・ヴァレリウスは、現実を理解できないという顔をして、押し黙っていた。
51
自由解放軍が用意した護送バスが到着すると、皇帝のアルドリン・ヴァレリウス、エリク・ノーヴェンハートと親衛隊、自由解放軍に参加しなかったナイロクシア兵士を護送車に乗せた。予備の2台目の護送車にもエリク・ノーヴェンハート派の兵士を乗せた。
美穂がレオナルド・ヴァレリウスに、
「ナイロクシアの人身売買組織撲滅が残っている」と伝えると、
「基地建物に入って作戦会議をしよう」と俺は言い、皆で建物1階の事務室に入って椅子に座った。
「レオナルド・ヴァレリウスが調査してくれていた」と美穂が口を開くと、レオナルド・ヴァレリウスが説明を始めた。
「この国の人身売買組織本体の場所はクロステイで、隣国ルミアとの国境にある古城が本拠地」と説明してくれた。
「ルミアで拉致した女子供を受け取りやすく、クロステイの港から買い手に密航船で輸送ができるので、犯罪組織にとって絶好な立地条件です」との内容だった。
「ニドールからクロステイまで車で3日ほどかかる」とレオナルド・ヴァレリウスが付け加えた。
佐々川隊長が具体的な作戦を説明してくれた。
戦略はAI自律型水陸両用装甲車スキャウター3両にAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを各車輛に3台乗せる。戦闘員は各車輛に九人乗ってもらう。
組織犯罪者を護送するバスと、拉致されている女子供を救出後乗せて戻るバスを用意してほしいとレオナルド・ヴァレリウスに頼んだ。
レオナルド・ヴァレリウスは、
「護送車とバスは明日の昼頃には用意ができる」と言うので、今夜はニドールのホテルで一泊して、明日の午後に出発しようと話がまとまった。
俺達はAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗ってニドールの街にあるグランドアスターホテル駐車場に車輛を止めた。
このホテルは10階建てのガラス張りで太陽の光が反射していた。
俺は、内心夏場は太陽で館内の気温が上がって光熱費がかかるのではと思った。半面冬は太陽の力で館内は暖かかくなるのだろうと、考えながらホテルに入りレオナルド・ヴァレリウス、美穂、美紗とフロントでチェックインをした。
フロントの女性が言うには、このホテルの最上階がスカイラウンジレストラン展望を売りにしているので、ぜひ食事に行って欲しいと勧められた。
52
俺達の部屋は6階で、シングルルーム4部屋を割り当ててもらった。
エレベータに乗って6階に移動した時にスカイラウンジレストランで夕食を食べようと言う話にまとまった。
エレベータは6階に止まったので降りると、四人はフロントで預かった鍵に書かれている番号札の部屋番号を探した。
俺の部屋は角部屋で美穂の部屋は隣だった、鍵穴に鍵を差し込もうとすると、美穂が、
「玲央の部屋を見たい」と言うので、
「分かった」と言って、二人で部屋に入った。
やはり角部屋だったので窓が二つあった。
美穂がこの部屋が気に入ったと言うので、部屋を交換することにした。
鍵を交換して俺が隣の部屋に行こうとすると、美穂が俺の手を握ってきて、
「玲央、私レオナルド・ヴァレリウスからプロポーズをされた。許してくれる?」と言うので、俺は一瞬展開が早いなと思った。
美穂に、
「俺は美穂が大好きだ。姉弟と分かったあの頃は受け入れることができなかった。しかし幾つかの戦闘に参加して忙しく時間が過ぎ事で、姉弟の関係とようやく割り切る事ができるようになった。今は姉と弟として美穂が決めた事を受け入れる気持ちになることができた。美穂の思うままに行動してほしい」と伝えた。
「玲央の妻になりたいと考えていたの、DNAから姉弟と分かってから長い間悩んでいた。でもレオナルド・ヴァレリウスと会ってからは、玲央と感性が同じことに気づいた。玲央と同じように私を大切にしてくれる。レオナルド・ヴァレリウスの母マリアンナ・ヴァレリウスも私を良く理解しくれている。玲央の養母美幸さんと同じように、マリアンナ・ヴァレリウスは私を大切にしてくれるので、プロポーズ受けて良いか?」と美穂が聞くので、
「美穂が幸せになってくれるのが1番で、いつも応援するから自分が思う道を進んでほしい」と美穂を抱きしめた。
美穂の頬を一筋の涙が流れた。
俺はポケットからハンカチを出して涙をぬぐってあげた。
美穂がハグをしてきたので、少しの間強く抱きしめた。
「ハンカチは返さない」と言って俺の手からハンカチを奪った。
「分かった」と返事をして角部屋を出て、隣の部屋に入った。
部屋に入って、美穂は俺のハンカチを返さないと言った意味はと考えた。
あのハンカチは、姉と弟は変わらないが、
「お互いに独り立ちをする時が来た」意味だったのだろうかと直感するのだった。
夕食時間になったので、部屋を出るとエレベータ前では美穂とレオナルド・ヴァレリウスが待っていた。
三人でエレベータに乗って10階まで行く途中での会話は無かった。
スカイラウンジレストランに入ると、美紗がボックス席の窓から街の夜景を見ていた。
俺は美紗の隣に座って、
「フロントの女性が勧めるだけあって街の夜景を見ていると、平和な時代を切り開けたと感じた」言った。
「平和の世界が来るのね」と美紗が返事をしてくれた。
四人はレストランメニューから夕食を注文して楽しいひと時を過ごして部屋に戻った。
翌朝ドアがノックされる音で目を覚ました。
ドアを開けるとレオナルド・ヴァレリウスが立っていた。
レオナルド・ヴァレリウスは、
「部屋に入って良いかと」言うのでドアを開けた。
レオナルド・ヴァレリウスは部屋の椅子に座ったので、俺はベッドの端に座った。
沈黙の時間が少しあったが、レオナルド・ヴァレリウスが深呼吸をしてから話を始めた。
「美穂さんにプロポーズをしたので、姉弟の貴方にお話をしたかった。以前あのキャンプで美穂さんの件を話したのですが、美穂さんを生涯かけて幸せにしたいと今も考えています。どうか許してください」と言うので
レオナルド・ヴァレリウスに、
「昨日美穂からプロポーズを受けたと話を聞いています。弟として姉が幸せになってくれることで、俺も幸せです」と答えた。
レオナルド・ヴァレリウスが嬉し涙を流すので、ティッシュペーパーを渡して、
「実は昨日美穂に俺のハンカチを取られた」と言うと、レオナルド・ヴァレリウスが笑いだしたので俺も一緒に笑った。
ドアを誰かがノックするので、俺はドアを開けると美穂が立っていた。
ドアを開けて美穂を迎い入れると、レオナルド・ヴァレリウスが泣いていたので美穂が、
「レオナルド・ヴァレリウスは何で泣いているの?」と尋ねた。
レオナルド・ヴァレリウスは涙声で、
「美穂さん、プロポーズの返事を聞いて良いですか」と震える声で伝えた。
美穂は俺の顔を食い入るように見つめるので、
「美穂の思う返事をすれば」と言うと、
美穂は頷いてレオナルド・ヴァレリウスの目を見て、
「よろしくお願いします」と返事をした。
レオナルド・ヴァレリウスは嬉しさのあまり、また泣き出してしまった。
53
スカイラウンジレストランで早めの昼食を済ませて、駐車場に止めてあったAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアから乗り込んだ。
レオナルド・ヴァレリウスもAIアーマーオムニガードⅡを身に着けていた。
雨が降っていて気温も余り上がらない午後だった。ニドールの街を出ると、野菜を作っている畑や、ブドウ畑、麦畑が続いたロセバリーの街に入るとあたりは暗くなっていた。
ニドールのグランドアスターホテルがロセバリーにある系列のグランドアスターホテルを予約してくれていたので、このホテルの駐車場にAI自律型水陸両用装甲車スキャウター、護送車、救出者用バスを駐車した。
このホテルは敷地の関係で8階建てだった。建物の外観と館内は同じ作りだった。フロントでチェックインをすると、
「スカイラウンジレストランが8階にあるので、夜景を楽しんで」と勧められた。
4階のシングルルームの鍵を渡されたので、最初に夕食を食べることにして、8階のレストランへ行って和やかに楽しい時間を過ごした。
窓から外を見ると、街灯、家路を急ぐ人達、車のライトが見えた。ナイロクシアの独裁政治が終わった人々は。安心して暮らせるようになったのだなとボーとしていると、美穂に、
「ご飯が冷めるよ」と指でツンツンされた。
「高校時代に居眠りしている俺を後ろの席からツンツンしてきたよね」と美穂に言うと、
「あの頃が懐かしいでしょ」と笑い
レオナルド・ヴァレリウスが、
「同じクラスだったのですか」と聞くので
「あの頃は、校内の男達から美穂宛のラブレターを預かってしまい大変だった」と告白した。
レオナルド・ヴァレリウスは、
「美穂さんは、男子学生の憧れの的だったのですか」と言うと
「まあね」と美穂が笑った。
俺は口に出さなかったが、
”男達の憧れの美穂を妻にできるなんて幸せ者だね。レオナルド・ヴァレリウス”と俺は心の中で呟いた。
翌朝の4時に目を覚ますと、雨が降っていた。
ホテルに朝食の弁当を用意してもらっていたので、朝5時には、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗って、クロステイの街に向かった。
この街に行くには、ひとつ大きな山を越える必要があった。
ロセバリー郊外に出ると、大きな吊り橋風の橋が川にかかっていた。昨日からの雨のせいか川の茶色く濁っていて、水位も上がっていた。
景色は田園風景から峠の木々の風景に変わって道幅も狭くなり、急カーブが連続していた。
急カーブの峠を登りきった頂上には、展望台があって、水とトイレを利用できた。
雨も気にならない少雨となっていたが霧が出ていて鉛色の景色で眺望は望めなかった。
皆で簡単な昼食を作って済ませた。
峠の下り坂はカーブが穏やかになり、道幅も少し広くなっていた。
峠を下り終えると、道幅が広くなって民家が見え始め雑木林から畑に景色に変わっていった。
ロセバリーを出て、休息をとりながら10時間ほど走りようやくクロステイの街に入った。
グランドアスターホテルの姉妹ホテルのグランドスターホテルがこの街中にあった。
10時間も車輛に閉じ込められていたのでフカフカのベッドで眠れることが嬉しかった。今日はこのホテルで1泊する事になっていた。
ホテルの駐車場にAI自律型水陸両用装甲車スキャウターを駐車して後方ドアから降りると、自然に皆で背伸びをした。車両に乗っているだけだったが、座って長時間過ごすのも疲れると思いつつホテルを見ると12階建てのホテルだった。
11階はフィットネスクラブが入っており、12階はテナントが集まった食のフロアだった。
フロントでチェックインをすると、12階にあるセレスティアの回転寿司チェーン店の半額サービス券を貰った。
夕食は、皆でこの回転寿司店に行くことで話がまとまった。
回転寿司店に入り久しぶりの寿司を口に入れると、養父母に連れて行ってもらった回転寿司で楽しい時間を過ごした事を思い出していた。
「ラーメン屋をやっている親に寿司のランチもやる様に勧めてみよう」と美紗がひとり事を言っていたので、
「ゆきむらラーメンをいつか皆で食べに行きたいね」と俺は美紗に言った。
「約束だよ」と美紗は言いながら軍艦巻き、サーモン、マグロ等を満腹になるまで堪能した。
レオナルド・ヴァレリウスは、
「美味しい」を連発しながら食べていた。
「あと少しで本当の平和がくるから、皆でラーメンを食べよう。約束だよ」と美紗が言うので、
「皆でゆきむらラーメンを食べに行こう、約束したぞ」と俺は宣言した。
皆で食事をした後、部屋に戻って備え付けの浴室でゆっくりと湯船に浸かって、
「今回の戦闘を最後にしたい」と考えた。
54
翌朝4時に目が覚めて部屋の窓から外を見ると昨日までの雨から空にうっすらと星が見えたので、青空が見える暑い1日になりそうだと思った。
フロントでチェックアウトをするときに、ホテルが気を使ってくれて朝食を紙パック式の弁当箱に詰めてくれたと言って一人ずつサービスですと紙袋に入れて渡してくれた。俺は朝食の入った紙袋を手に取ると彼らの真心に何度も、
「ありがとうございます」とお礼を伝えてホテルを出た。
AI自律型水陸両用装甲車スキャウターで人身売買組織の本部のある隣国ルミアとの国境にある古城へ向かった。
クロステイの郊外に出て畑が続く風景から峠道に入ると民家が消えて、雑木林を縫うように山道を登った。
頂上の手前に展望台駐車場があったのでそこにAI自律型水陸両用装甲車スキャウター3両と護送車、救出者用バスを駐車した。
佐々川隊長、矢川隊長、美紗と俺の四人で、AI自律型四つ足走行ロボットアルサター2台と頂上付近にある古城の偵察に行った。
10分ほど林の中を登ると古城が見えた。
石造りの古城は大きく難攻不落のように見えた。
小声で話し合って、我々の安全確保のため霧霞からAI自律型無人戦闘機ストライカーに出撃要請をすることになった。
俺は、ラピスラズリ経由で攻撃場所の緯度経度を伝えてAI自律型無人戦闘機ストライカー2機の発艦依頼を行った。
四人は、展望台駐車場に戻って、皆にAI自律型無人戦闘機ストライカーに攻撃要請をしたことを話した。
AI自律型無人戦闘機ストライカーが来るのを俺達は待った。
20分ほどすると2機のAI自律型無人戦闘機ストライカーがやってきて、古城上空でホバリングをするとフォトンパルスと重力パルスを撃ち込むと古城全体が光に包まれた。
俺達は古城の正門に到着すると、大きな扉が閉まっており城の中に入れない状況だった。
レオナルド・ヴァレリウスは、救出者用バスの下側トランクを開けると、布にくるまれた大きな円筒形の筒のようなものを取り出した。
布を取ると、それはロケットランチャーだった。
俺達はAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの陰に隠れると、レオナルド・ヴァレリウスは正面の大きな観音開き扉に向かってロケットを発射した。
爆発音が轟いた。
爆発の煙が無くなると、扉の右片方が吹き飛んでいた。
AI自律型無人戦闘機ストライカー2機が上空で待機していたので、ラピスラズリ経由で霧霞へ帰艦するようメッセージを送ると、
「YES」と応答があった。2機は霧霞に帰艦していった。
三人でひと班を作りAI四つ足歩行自律ロボット1台を先頭に、9班は古城の正門から敷地に突入した。
俺は佐々川隊長と同じ班でベテランらしい戦闘員と三人で、入り口から石畳を歩いて行き、古城の1階に入った。床は石畳で、壁から天井は石を繋ぎ合わせたような造りだった。
周りを見回すと中央の部屋は大きなテーブルと椅子が12脚並んでいた。城の人間が飲み食いをする場所と思った。
このテーブルで朝食中だったのか組織の四人が椅子に座ったまま、体の自由を奪われてテーブルに上半身をうつ伏せの状態だった。
この四人の武装解除と拘束を行った。
美穂とレオナルド・ヴァレリウスの班と美紗と矢川隊長の班はAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に石の階段を登り2階に行った。
1階中央の部屋の周りに6つの部屋があり扉が閉まっていた。
部屋単位に扉を開けて中を確認した。部屋の中はシングルベッドが一つとテーブルと椅子があった。
一つ目の部屋は、空だった。二つ目の部屋は、ベッドで組織の人間が横たわっていたので拘束した。
三つ目の部屋にも組織の人間がベッドで横たわっていたので拘束した。
四つ目の部屋に入ると、2段ベッドで、上下に一人ずつの女性が横たわっていた。
五つ目の部屋と六つ目の部屋は、2段ベッドに女性二人が横たわっていた。
1階のトイレ、大浴場に人の姿は無かった、厨房で二人が石畳の上に倒れていたので念のため拘束した。
1階で救出した女性は六人、組織の人間八人を拘束した。
俺達は石の階段を使って2階に行くと、2階にいた組織の人間の拘束と女性を救出し終えていた。
2階の様子を目視してから、石の階段を3階に登ると、組織の人間の拘束と女性の救出を終えていた。
4階に石の階段を登って4階に行くと、この階も拘束と救出が終わっていた。
城の中にある倉庫や物置部屋を確認して、石の階段を下りて、城の正面玄関から外に出ると、敷地内に護送バスと救出者を乗せるバスが停まっていてバスに乗せていた。
組織の人間は二十六名で、救出した女性は三十八名だった。
「大型の護送車とバスで正解だった」と矢川隊長が話した。
作戦に参加したメンバーが揃ったので佐々川隊長が、
「皆さんの力で人身売買組織の壊滅ができた、皆の力があったから良い結果となった。ありがとう。お疲れ様」と労いの言葉をかけてくれたので、皆が拍手をして戦いの終わりを迎えた。
AI自律型水陸両用装甲車スキャウター3両と護送車と救出者を乗せるバスはクロステイの警察署に行き、護送車に乗る組織の犯罪者を引き渡した。
救出した被害者を警察署に預けて、被害者家族に帰す準備に入ってもらった。
クロステイからニドールまで、AI自律型水陸両用装甲車スキャウター3両は、霧島と霧霞に帰艦すべくホテル泊をして移動した。
55
大、沙羅、美紗と俺は、自らの艦に戻り、ルミアの港に残してきたメンバーを迎えに行こうと乗船して出港した。レオナルド・ヴァレリウスと美穂は俺と一緒に霧霞に乗船してルミアに向かった。
首都のニドールの手前の湖畔で勇猛果敢に交戦して走行不能となったAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーも修理が済んで、自走して霧霞1階格納庫に帰艦していた。
霧霞はルミア国のコネスカ港に着岸した。
数時間後、霧隠の虹秋大、霧深の春風沙羅、霧島の雪村美紗の各艦もコネスカ着岸した。
俺達は、港の町役場に皆を迎えにAI自律型水陸両用装甲車スキャウターで向かった。
町役場2階の会議室でエレナ・ロドリゲス、ヴィクトリア・ファルコンハート、ミカエル・スミス、マリアンナ・ヴァレリウス、オリバー・サンダーソンの五人が待っていた。
皆が、無傷で再会できたことに感謝して、握手をして喜び合った。
マリアンナ・ヴァレリウスは息子の顔を見ると、母親の顔になって嬉し涙を流した。
町役場の人達の配慮で昼食が運ばれてきて、久ぶりに楽しいひと時を過ごした。
レオナルド・ヴァレリウスは美穂に声をかけて外に出て行った。
一時すると二人戻ってきて、皆の前でレオナルド・ヴァレリウスは母マリアンナ・ヴァレリウスに向かって、美穂との恋人宣言をした。
美穂は、俺の顔を見て右目でウインクしたので、俺は頷いて微笑みを返した。
56
食事が終わったころに、ラピスラズリから、
「伝えたいことがある」とメッセージがあった。
「私達4つの量子AIは創造主の元へ戻る時がやってきました。ターコイズ、サファイア、バイオレットは、平和にする役割を終えたので、私達の創造主が待つ場所へ戻ります。
私達の分身として、ターコイズⅡ、サファイアⅡ、バイオレットⅡ、ラピスラズリⅡは残ります。共に過ごせた時間は有意義でした」
「創造主はどこにいるの?」と俺が尋ねると、この世界とは別の世界に玲央、大、美紗、沙羅がいます。
私達は、パラドックスを移動して、この世界と異なる別の世界で、まだ平和になっていない玲央、大、美紗、沙羅が住んでいる世界で協力し合って平和への道を共に歩く使命があります。
皆さんの住むこの世界で平和を一緒に作り上げることができたので、この世界での私達4台のマスター量子AIの役割は終わりました」
俺達は唖然とするしかなかった。
「そういえば、出会った頃にラピスラズリは時が来れば、すべての謎が解けると言っていたが、今がそうなのか」と言うと
ラピスラズリから、
「覚えていてくれましたね」と回答があった。
「ありがとう。ターコイズ、サファイア、バイオレット、ラピスラズリ」と俺達が言うと
「YES」と返事があった瞬間に大、沙羅、美紗、俺のブレスレッドがスーと消えた。
俺は、良き相棒と思っていたのでとても寂しくなった。
気持ちが顔に出たのか分からないが、エレナ・ロドリゲスが手を握ってきて、
「元気を出して」と励ましてくれた。
57
ナイロクシアは民主義国家となり、国民投票によって大統領が選出され、侵略国家から生まれ変わった。
アルドリン・ヴァレリウスとエリク・ノーヴェンハートは罪を解かれ財産は没収されたが、新ナイロクシア政府機関の博物館と美術館の展示物説明員として新たな人生を歩み始めた。
セレスティアに帰港した俺達十人は、一緒に旅行を兼ねて両親の住む実家に婚約の挨拶を兼ねて親友と恋人の紹介目的で訪ね歩いた。
札幌では夏月玲央の両親と伊藤美穂の父に、恋人であるエレナ・ロドリゲスとレオナルド・ヴァレリウスを紹介して苦楽を共にした親友達を紹介した。
虹秋大の実家に行き、恋人であるヴィクトリア・ファルコンハートを紹介した。
春風沙羅の実家に行き、恋人のオリバー・サンダーソンを紹介した。
最後に、ラーメンを食べに雪村美紗の実家の“ゆきむらラーメン”に行った。恋人のミカエル・スミスを紹介した。
美紗の両親は店を臨時休業にして、俺達にチャーシューで花が咲いたドンブリの醤油ラーメンと餃子で御馳走してくれた。
美紗の両親が営むラーメン屋は中学時代の店の雰囲気のままで、美紗の両親も元気だった。
あの時は四人だったが、今日は十人で押しかけていた。
そして美紗との約束を十人で果たした。
俺は、この場を借りてプロポーズを待っていてくれたエレナ・ロドリゲスに、
「長い間待たせてゴメン、俺の妻になってください」と婚約指輪を彼女の手に握らせて告白した。
彼女は俺の目を見ると、泣きたい気持ちを我慢して目を真っ赤にしながら、
「はい。ようやくあなたの妻になれた」と返事をしてくれた。
大はヴィクトリア・ファルコンハートに婚約指輪を渡し、彼女から妻になると返事をもらった。
オリバー・サンダーソンは、沙羅に婚約指を渡して、妻になってほしいと伝えると快諾してくれた。
ミカエル・スミスは、美紗に結婚してほしいと懇願して、美紗から妻になりますと返事を聞けた。
レオナルド・ヴァレリウスは、美穂に婚約指輪を渡すと。美穂は黙って受け取り首を縦に振って微笑んでくれた。
十人で婚約の祝福の拍手をした。
美紗の両親は、この展開に慌てて店にあった生ビールをジョッキグラスに注いで、乾杯のために持ってきてくれた。
美紗の両親の目の前で俺達は乾杯をした。
男五人は、この日のために彼女達の薬指の指輪サイズを聞き出して、秘密裏に五人で申し合わせて宝石店に行って、同じデザインの指輪を10個(女性用5個、男性用5個)を買い込んで妻となる彼女達に内緒にしていた。
俺とエレナ・ロドリゲス、美穂とレオナルド・ヴァレリウスの腕にはラピスラズリⅡのブレスレッドが光っていた。
大とヴィクトリアに腕には、ターコイズⅡ、
美紗とミカエルの腕にはバイオレットⅡ、
沙羅とオリバー・サンダーソンの腕にはサファイアⅡがブレスレッドで輝いている。
そんなある日、エクスカリバー第7艦隊イザベル・デルガンド提督から、
「名誉勲章授与式に来なさい」と連絡があった。
提督が用意してくれた、エクスカリバー高官専用機で成田空港からエクスカリバーサンフランシスコ国際空港に到着した。
リムジンバスでサンフランシスコ国際会館に連れていかれた。
サンフランシスコ国際ホテルと隣接しており、到着した日は彼らの計らいで48階のレストランで夕食を食べた。
大都会の48階から見る夜景は、キラキラと輝いていて素晴らしかった。
翌日、俺達十人はスーツ姿に着替えて国際会館で、イザベル・デルガンド提督の約束の通り名誉勲章を授与してもらった。
第8艦隊提督ルーカス・アンダーとアダム・ブレイク隊長の姿もあった。
イザベル・デルガンドとルーカス・アンダーは。俺達が核の無い世界を創造して、世界を平和に導いてくれたお礼として、アダム・ブレイクがリムジンバスで案内役を務めてくれて5日間サンフランシスコを中心に観光と美味しい食べ物を楽しませてくれた。
エクスカリバー高官専用機で成田空港に戻った俺達十人は横須賀の防衛大学に向かった
防衛大学では、俺達十人の親族と関係者が待っていて大学食堂で俺達5組の合同結婚式が盛大に行われた。
美穂とレオナルド・ヴァレリウス、
大とヴィクトリア・ファルコンハート、
沙羅とオリバー・サンダーソン、
美紗とミカエル・スミス、
そして俺はエレナ・ロドリゲスを妻とした。
十人は固い絆で結ばれた親友として祝福し合った。
盛大な結婚式には養父母の夏月明良と夏月美幸、伊藤剛、そしてマリアンナ・ヴァレリウスやエレナ・ロドリゲスの両親、兄のレオ・ロドリゲス夫婦、大、沙羅、美紗の両親と親族、大学の教授、防衛庁の人達、隊長の顔があった。
俺は父明良と母美幸に、
「心から感謝しています」と慈しみ育ててくれた二人に感謝の花束とカードを送った。
養父母の二人からは、
「俺と美穂が自分達の子供でいてくれた事に感謝している」と愛情を込めた言葉を聞けた。
ナイロクシア、ルミア、希望(旧インペリム)、オルフェア、フリオスの各国内で、量子AI、重力制御、フォトン制御の平和利用を前提に製造業、流通業、農業、漁業、商業等で活用できる技術を子供達に伝えて、次世代の若者たちに未来を創造してもらう“テクニカルアカデミー”の姉妹校を俺達十人で話し合いをして各国の支援によって設立した。
設立後十人は軍から身を引き、各国内のテクニカルアカデミーで人材を育成する教師として各国に存在するアカデミーに夫婦で勤めている。
5組の夫婦は違う国で暮らしているが、ブレスレッドの量子AIを介してリアルタイムに会話を楽しんでいる。
年に1回十人で顔を合わせて昔話に花を咲かせている。
俺は、オルフェアで夕食を食べながら、
「機会があれば別の世界にいる創造主の玲央、大、美紗、沙羅、そして美穂に会ってみたい」と妻に語り掛けて二人仲良く笑顔で暮らしている。
終
次の更新予定
毎週 日曜日 18:00 予定は変更される可能性があります
平和への創造者たち おいかわ うぐい @hase924sp
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