第5話 ルミア解放戦線

  1

 量子AI潜水艦空母霧霞と7艦は、途中フリオスのマドーラ海岸に近い港に寄港して食料と日用雑貨を艦内に積み込み作業を行っていた。

 フリオスは植民地から解放されて、独立国家になり国を挙げての祝賀ムードだった。

 港に着岸している霧霞格納庫1階の扉が開いており桟橋がかかっていた。

 フリオス政府から夕食会に招待されていたので午後3時過ぎに俺達は桟橋に出ると青空に鱗雲が広がっており、潮の香りが鼻から入ってきた。眼を閉じて深呼吸をすると気温もちょうど良い感じで穏やかな陽気だった。

 桟橋を降りたところにはホテルの送迎バスが駐車していて、霧霞クルーが乗るバスに乗り込んだ。

 バスが30分ほど走ると、マドーラの街に入った。街中は沢山の人達で溢れていた。ビルには新政府に対する期待が込められた色とりどりの弾幕が沢山かかっていた。

 ちょっとした公園の広場では野外ステージをやっているような、歌声や音楽が聞こえてきた。道行く車や住民の顔を見ると、皆嬉しそうな顔をしていた。

 俺は、沢山の人達が幸せになれたと内心喜んでいると、後ろの席に座っていた美穂が俺の頭を指でつんつんしてきた。

「私達すごく良い事をしたよね」と言うので、

「マドーラの人々の輝く笑顔が眩しい」と言った。

「痛い思いもしたけれど、良い結果になって良かった」とエレナ・ロドリゲスが言葉を添えた。俺達も喜びで感無量の思いはマドーラの人達と同じだと感じた。


 街の中心と思えるアーケード街に隣接している大きなホテルが見えてきた。

 外壁は濃いベージュのタイル張りで、地上10階建ての大きな建物だった。外壁の10階の部分に相当する壁面には“MINERUBA”と大きな文字が取り付けられていた。

 送迎バスはミネルバホテルの前のエントランスに停まると、ホテルスタッフが迎えてくれた。

 会場は最上階のホールで開催されていますとの案内が一つ目の立て看板に書かれており、セレスティア様歓迎と二つ目の立て看板には書かれていた。


 ホテル入り口の自動ドアをから中に入ると、フワフワのブルーのカーペットが敷き詰められていた。ホテルスタッフにエレベータホールに誘導されて、エレベータに俺達は乗せられて10階に到着した。エレベータから降りると、沢山の人達がグループを作って、あちらこちらで話をしている姿が目に入った。

 潜水艦の密室で航海を続け、戦闘に参加してきた俺達からすると、この10階の光景は華やかすぎて別世界のように感じた。

 受付で台帳に名前を書くと、くじ引きで席を指定される仕組みだった。

 俺はGテーブル席だったが、美穂とエレナ・ロドリゲスはBテーブル席のくじを引いた。


 美穂とエレナ・ロドリゲスと別れて、Gテーブル席を探すと大とヴィクトリア・ファルコンハートが座っていた。

 大の隣に行き、

「Gテーブルの玲央が来ました」と冗談を言うと、

「よく来た」と大がにっこりと笑って返事をしてくれた。

 俺の隣に偶然ミカエル・スミスと美紗が座った。

 テーブル席は24ほどで、我々セレスティアの8隻の艦隊が寄港したので、フリオスの人達が街をあげて歓迎してくれたパーティだった。

 俺は内心8隻の艦には宿直組のクルーが待機しており、この場に参加できなかったので何かお土産を持って帰りたいと思っていると、

 ヴィクトリア・ファルコンハートが、

「ゆっくりと玲央さんと話をする機会が無かったけれど、大との仲を取り持ってくれたと大から聞いた。とても嬉しかったのでお礼を言いたかった。玲央さんありがとう」と言うので、

「こちらこそ、お世話になりありがとう」と返事をした。

 ステージのマイクから司会者の声が会場に響いた。

 そして、マドーラの街の代表にあたる人達のスピーチが40分から50分ほど続くと、

「2時間ほどではありますが、ゆっくりと食事を楽しんでください」と挨拶があり食事会が始まった。

 バイキング形式で、お皿に自由に料理を盛り付けて飲み物も自由だった。

 先ほどステージで挨拶をされた人達が、各テーブルを回って挨拶をして回っていた。

 少しすると、美穂とエレナ・ロドリゲスが椅子をBテーブルから手に持ってGテーブルにやってきた。

 沙羅もFテーブルか椅子を手に持ってGテーブルにやってきた。

 気が付くとGテーブルの人数が他のテーブルの倍に膨らんでいた。

 先ほどステージで挨拶をされていた人達がやってくると、

 大が席から立ち上がりGテーブルに集まった人達に、

「ここにいるブルー・ウィンドウの正式名はヴィクトリア・ファルコンハートで、今後は皆と生死を共にする」と紹介すると、インペリムの無血クーデターにより植民地からフリオスを独立国に導いてくれた功労者ヴィクトリア・ファルコンハートとして、パーティ会場の人達から拍手が起こった。


 俺達は改めてヴィクトリア・ファルコンハートに、

「仲間になってくれてありがとう。これから固い絆で結ばれた仲間達と一緒に生きて行こう」と伝えると、美穂とエレナ・ロドリゲス、美紗、沙羅はヴィクトリア・ファルコンハートを囲んで歓迎の花束を渡した。

 俺はこの花束はどうやって手に入れたのだろうかと思ったが考えるのはやめた。

 ヴィクトリア・ファルコンハートは、

「同じメンバーになれたことに感謝しています。どうかこれからよろしくお願いします」と挨拶した。

 大の隣に行って座ると彼女は大を見つめて彼の手を握った。

 それを見ていた、沙羅が、

「まあ、お二人さんはそこまで進んでいたのね」と言うと、会場内から、

「おめでとうコール」が跳んだ。


 するとホテルのスタッフがやってきて、

「パーティ終了後、皆様には近隣ホテルで1泊してもらう歓迎をしたいので、希望のホテルはどうされますか」とホテル一覧表をみせてくれた。ミカエル・スミスが勧めるので、俺達はこのホテルの隣にあるスターライトホテルに泊まるとホテルスタッフにお願いした。


  2

 パーティが無事に終わり、ミカエル・スミスの案内で俺達はスターライトホテルまで歩いた。

 5分ほど歩くとスターライトホテルが見えてきた。このホテルも立派なホテルに見えた。ホテルは10階建てで外壁はグレーのタイル張りの建物だった。入り口から中に入ると、青いカーペットに銀河系の木星や土星そして星をちりばめた模様が目に入った。

 一階フロントでチェックインを済ませるとミカエル・スミスの家族と友人がフロント脇のベンチで俺達を待っていた。

 ミカエル・スミスがホテル地下にあるスナックに行きたいと言うので、エレベータで地下1階に移動して皆でスナックに入った。

 ホテルのスナックだけあって、焦げ茶色の重厚感がある高級そうな木製のカウンターの奥には鏡張りのお酒のボトル棚があり、カウンター内にいる女性の背中の奥の棚には大きな花瓶に山盛りで花々が飾られていた。部屋全体は焦げ茶色で統一された天井と壁、そしてソファーは黒の革張りに見えた。

 俺達はカウンターに座ると、

「俺の姉です」とカウンターの奥にいる女性をミカエル・スミスが紹介した。

 ミカエル・スミスの実姉という女性がカウンターの向こうから、

「弟ミカエル・スミスをよろしくお願いします」と挨拶をしてきた。

「彼は俺達の良きチームメンバーです。こちらこそよろしくお願いします」と思わず挨拶を交わした。ミカエル・スミスの姉から名刺を受け取ると、

“スナック スターナイト ミア・スミス”と印刷されていた。


 俺の両隣には、エレナ・ロドリゲスと美穂が座った。

 ミカエル・スミスの家族は、ソファーに座った。そしてミカエル・スミスと美紗、沙羅も同じソファーに座った。ミカエル・スミス家族の会話は花が咲いて笑い声が絶えなかった。

 ミカエル・スミスは美紗と沙羅を素敵な女性だと家族に紹介していた。

 美紗と沙羅は、にこにこしながら幸せな顔をして時間を過ごしていた。

 大とヴィクトリア・ファルコンハートは、美穂の隣に座っていた。カウンターの中にいるミア・スミスはカクテルを作ると言って、俺達五人の注文を聞いてカクテルを作ってくれた。


 ヴィクトリア・ファルコンハートは、カウンターテーブルの上で両手を組むと少しうつむいて深呼吸をしてから、

「パーティは楽しい時間だった。でもこの場で話して良いか迷っていた事があるの、話して良いか」と大に言うので、

「話してごらん」と大が答えた。

「このフリオスと、これから攻撃に向かうルミアに人身売買組織があって、この組織の本体はナイロクシアにあると、インペリムの諜報員仲間から情報が入った」と打ち明けてくれた。

 俺は声が出なかったが、美穂が、

「潰しに行こう」と声を上げた。エレナ・ロドリゲスも頷いていた。

「私達と同じ女子供が拉致されて売られるなんてとんでもない事で、怒りを覚える」とヴィクトリア・ファルコンハートは唇を噛んだ。

「艦に戻ってから隊長と相談して決めたい」と俺が言うと、

「わかった。手順を踏んで組織を潰しに行こう」と大も賛同した。

「明るい未来を創ろう」とカウンターにいる俺達五人はカクテルで乾杯した。


 俺はヴィクトリア・ファルコンハートに、

「フリオス国内で人身売買祖組織を仕切っている本体の場所は特定できる?」と尋ねた。

「場所は諜報員仲間から情報をもらえる」と言うので、

「明日1日五人で休暇を取ろう」と伝えた。

 ヴィクトリア・ファルコンハートはにやりと笑って、

「フリオスをクリーンにするのね」と言うので、彼女の聡明さに感心した。

 俺は、プランを話した。

「一つ目の案は、ルミア戦を済ませて、フリオスとルミアの組織を潰しに行く」

「二つ目の案は、ルミア戦要請が急務なので、明日この街の警察本部を訪ねて事情を説明して、警察の力でフリオスの人身売買組織を潰す。この2択が今考えられる案かな」と話した。

「玲央さんは2案目がおすすめと言いたいのでしょう」とヴィクトリア・ファルコンハートが言うので

「皆で休みを取る一言で、読まれたな」と言うと、

「私達の置かれている状態から2案目だね」と美穂が2案目を推薦した。

「拉致されている人達を一日も早く解放してあげたい」とエレナ・ロドリゲスが言うと

「俺達による組織攻撃は負傷者が出ないが、地元警察が組織潰しに行くと負傷者が出る」と大が言うので

 カウンターで座っていた五人に沈黙の時間が流れた。


「方向として多少の犠牲は仕方ないと割り切るが、明日警察へ行って説明するときに今話した2択から警察に選択してもらおう」と言うと、

「そうだその手でいこう」と大が賛成してくれた。

 俺はカウンターからミカエル・スミスの座るソファーに行き、明日六人乗りの車でマドーラ警察署に行きたいと声をかけると、ミカエル・スミスは友人の車を借りて運転は僕がすると手を挙げてくれた。

「警察に何故行くの」と美紗が聞くので、

「人身売買組織壊滅のお願いに行く」と説明すると、

「私も行きたいけれど、車が満席ね」と言って少し寂しそうな顔をした。

「美紗少し待っていてくれ」と俺が言うと、

「分かった。一足先に艦に戻る」と言ってくれた。

 大と俺は、白沢隊長と佐々川隊長に事情を説明して、五人は1日休暇を承認してもらった。

 ミカエル・スミスは矢川隊長に連絡をして1日休暇の許可をもらった。


  3

 翌朝ホテルのフロント右側にあるレストランで俺達は朝食を済ませた。

 食後のコーヒーを飲んでいると、ミニバンがホテル前にやってきて駐車した。

 運転席からミカエル・スミスが降りてきて、外からレストランの窓越しに俺達のテーブルを探して、

 ”警察署へ行こう”と手招きをするとミニバンの運転席に戻った。

 俺達はレストランを出てフロントでチェックアウトをした。

 ホテルの玄関を出ると、ミカエル・スミスが運転席から降りてきて、

「おはよう」と声をかけてくれたので、五人で声を揃えて

「おはよう」と合唱した。

 空を見上げると、鉛色の雲がいちめんに広がっていた。曇っているせいか少し肌寒い感じがした。

 ミカエル・スミスが友人から借りたミニバンに乗せてもらって俺達は警察署へ向かった。


 警察署は中心街から少し離れた場所にあった。4階建ての鉄筋コンクリートのビルで、外壁はコンクリートの地肌が見える打ちっぱなしで塗装はされていなかった。

 警察署内駐車場にミニバンを駐車して、六人でゾロゾロと歩いて警察署1階に入った。

 1階の署内は沢山の人が忙しそうに行きかっていた。

 受付カウンター前に行き、受付で用件を伝えた。

 “セレスティア海軍 夏月玲央”の身分証を提示した。

 少しすると私服警察官の女性がやってきて1階奥の会議室へ通された。

 六人が会議テーブルに座るとその女性は部屋を出て行った。

 椅子に座って待っていると、案内してくれた女性が紙コップに紅茶を入れて持ってきてくれた。彼女は、

「本件の担当メンバーが揃うまで、もう少し待ってほしい」と言うので、10分ほど無言で俺達六人は警察関係者を待った。


 会議室のドアが開くと、男性三人と女性二人が入ってきた。女性の一人は応対してくれた人だった。

 挨拶を済ませて、

「国内の人身売買組織である本部機能をもつ場所が、もうじき特定できるので2つの提案があります。

 一つ目はフリオス警察の皆さんの力で、拉致されている女子供の解放をする。

 二つ目は、ルミア戦から私達が戻ってきてから、警察の皆さんと行動を共にして組織を潰しに行く方法です。

 前者は、警察側の人に死傷者が出る可能性があります。

 後者は、私達と共同作戦を行う事により組織の人間を動けなくする重力パルスと敵のアジトに停電を起こすフォトンパルスを使うので、双方に死傷者は出ないことを約束できます。

 後者は組織壊滅時間が先送りされ、例えば1カ月後に実施する提案です。

 本日伺ったのは、警察の皆さんに組織を潰して女子供を解放する方法の2択から一つ選んでほしいとお願いに来ました」と伝えると、フリオス警察の五人はその場で15分ほど話し合いを行い、結論を出して説明してくれた。


 彼らが出した結論は、

「自国の人身売買組織から一時間でも早く、拉致されている被害者を解放すべ時なので、組織壊滅は自力で作戦を実施する」と回答をされた。

 フリオス国内にある人身売買組織本部の場所が分かり次第、後日に連絡することになった。

 俺達の案内をしてくれた女性が名刺をくれた。

 “警部補イメルダ・ロクウェル”と書かれていた。

 五人の署員に挨拶を済ませて、署内駐車場に停めてあったミニバンに六人は乗り込んだ。


  4

 ミカエル・スミスの運転でマドーラの港に車が到着すると、ミア・スミスが待っていた。

 俺はミカエル・スミスに、

「姉さんと男性が待っているようだ」と言うと、ミカエル・スミスは姉さんの彼氏の車を借りたと教えてくれた。

 俺は車を降りるとミア・スミスと男性に近寄って、

「昨晩はお世話になって、今日は車をありがとうございました」と挨拶すると、

「女の敵を潰しに行くと弟から聞いて、姉として参加できてよかった」とミア・スミスはにっこりと笑った。

「姉さん行ってくる」とミカエル・スミスが挨拶すると、

「気を付けて」と別れの声をかけてくれた。

 ミア・スミスの隣にいた男性は笑顔でミニバンの運転席に座った。ミア・スミスはもう一台の4ドアセダンの運転席に乗って、一度軽くクラクションを鳴らすと2台の車は町の方向へ走って消えて行った。


 ミア・スミスを見送るとミカエル・スミスは、

「美紗さんが艦で待っているので、ルミアで会いましょう」と俺達に言うと霧島が停泊している桟橋の方へ歩いて行った。

 ミカエル・スミスは気持ちが美紗にすでに行っているなと見送った。

「後で会おうな」と大が言うと、ヴィクトリア・ファルコンハートが美穂とエレナ・ロドリゲスにハグをして、

「話がまとまってひと安心」と言うと俺にバイバイと手を振った。そして自然体で彼女は大の手を握ると二人は霧隠が停泊している桟橋の方向へ歩いて行った。

 美穂とエレナ・ロドリゲス、俺は霧霞の艦内に続く桟橋を歩いて艦内に入った。

 フリオスで楽しい時間を過ごしたメンバーは各艦に戻っていて、艦倉庫への食料などの積荷作業も無事に終わったようだった。


 三人で北山艦長と佐々川隊長のいる発令所に行き、今日は警察署で人身売買組織の相談を行い、彼らの出した結果を説明してから、ルミアとナイロクシアにも人身売買組織がある事を伝えた。

「ルミアを解放してから潰しに行くべきだな」と佐々川隊長は少し考えてから賛同してくれた。

「私も組織を潰しに行きたいので、許可してください」と美穂は強い口調で言うと、

「危険を承知なら、潰してきてくれ」と北山艦長は言うと、美穂とエレナ・ロドリゲスの二人は、

「はい」と力強く返事をするのだった。


  5

 第7艦隊提督イザベル・デルガンドから、侵略者であるナイロクシアの攻撃兵器情報が届いていた。

 この書類に記載のある敵aiは、デジタルコンピュータ製の人口知能を指していた。

 ai自律歩行型ロボットデモンウォーカー、

 ai自律攻撃型無人ヘリコプターブラッドハンター、

 ai自律攻撃型ドローンデスウォッチャー、

 ai自律攻撃型戦車デスヴァイパー、

 ai自律攻撃型装甲車ダークウォーリアー、

 aiレーザー銃シャドウブレイドの名前が記載されていた。

 注意事項として、敵の攻撃兵器は迷彩色塗装をされているので、我が軍の攻撃兵器のカラーはグレーで統一しているとの事だった。

 我々のカラーは焦げ茶色だったので、戦闘時見分けがつくと考えた。

 人間が着用するプロテククターの記述は無かった。

 戦場は電子戦で、わが軍は敵のaiを破壊するため電磁パルス砲や電磁パルス銃で応戦しているとの戦闘内容だった。


「今までの戦闘で使われていた敵の兵器は近代戦用に進化している。一度我々のAI四つ足歩行自律ロボットアサルターとAIアーマーオムニガードを第7艦隊提督の空母でエクスカリバー製電磁パルス銃を試してみたい」と佐々川隊長にお願いした。

 8隻の潜水艦空母は、潜航してエクスカリバー第7艦隊が停泊している場所に舵を取った。


  6

 フリオスマドーラ港を出て14日すると、第7艦隊に我々の8隻の潜水艦空母が合流した。

 各館の艦長と隊長はボートで、第7艦隊旗艦空母ナイトメア・レヴァイアサンに向かって海上航行して空母に乗船させてもらった。

 霧霞から北山艦長と佐々川隊長が挨拶に行く予定だったが、特例でAI四つ足歩行自律ロボットアサルターと俺も空母に同行させてもらった。

 艦上で提督のイザベル・デルガンドが待っていた。

 北山艦長、佐々川隊長と俺はイザベル・デルガンド提督に挨拶した。海軍初の女性提督であることと、ナイロクシアとの因縁は歴史がある事を話してくれた。

「ナイロクシアは大きな国で、財力と技術力で侵略兵器を創り出して、平和に暮らしている小さな国々へ侵略戦争を仕掛けては、領土拡大を進めている」とナイロクシアの今に至る歴史の説明を聞いてひと段落したところで、

「AI四つ足歩行自律ロボットアサルターと私が着用しているAIアーマーオムニガードに電磁パルス銃で発射実験してほしい」と俺はお願いした。


 俺はAI四つ足歩行自律ロボットアサルターと一緒に皆から少し離れた場所に立つと、イザベル・デルガンド提督は部下から電磁パルス銃を渡してもらい、AI四つ足歩行自律ロボットアサルターに発射してから、AIアーマーオムニガードを着用している俺に向かって発射した。

 AI四つ足歩行自律ロボットアサルターと、AIアーマーオムニガードを着用している俺に何の変化も無かった。実験は成功だった。


 現在のルミア内で行われている戦闘状況について説明を受けた。この内容は、俺の腕にあるラピスラズリから関係者に同時配信された。

 俺から量子AIを使った実戦での攻略方法について、イザベル・デルガンド提督に説明した。

「ルミア解放戦線を優位に進めるために計略を仕掛けてから解放戦線の実践をやらせてほしい」と伝えて、

「空母艦内にあるデジタルコンピュータから宇宙衛星通信ができますか」と質問すると

 イザベル・デルガンド提督の側近が、

「できます」と回答した。

 俺は、イザベル・デルガンド提督に、

「2日ほど、艦内の部屋に留まらせてほしい。私のチームメンバーで工作をするので、6台デジタルパソコンとネットワークを用意してほしい。私を信じてほしい」とイザベル・デルガンド提督のブルーの目をジイと見つめてお願いした。

 イザベル・デルガンド提督は少し考えて、

「何を考えているの」と聞くので、

「敵の攻撃兵器に搭載されているデジタルコンピュータ人工知能(ai)のプログラムを事前に細工したい」と答えた。

 イザベル・デルガンド提督が、

「私も参加したい」と言うので、

「是非ご一緒していただきたいので、よろしくお願いします」と俺は返事をした。

 イザベル・デルガンド提督は俺とチームメンバーに6台パソコンを用意してくれて個室を与えてくれた。

 この個室は、提督専用ルームだった。


  7

 1時間ほどすると、美穂、エレナ・ロドリゲス、ミカエル・スミス、大、美紗、沙羅、そしてヴィクトリア・ファルコンハートが乗艦して提督専用ルームにやってきた。

 俺は計画を説明した。

 ・エクスカリバーの宇宙衛星を使って、ナイロクシアの宇宙衛星からこのナイロクシアのデジタルコンピュータ管理者に成りすまして、管理者アカウントを6つ取得する。

 ・アカウントが取得出来たら、6つのaiをコントロールしているサーバーに入り込んで、我々のプログラム言語で、自律型攻撃ロボットを、負傷している住民や兵士を救出するレスキューロボットにプログラムを書き換える。

 ・このaiにネットワーク越しに信号を送っているサーバーすべてを確認してプログラムを置き換える。

 ・ナイロクシアのプログラマーが作成したプログラムは、我々のプログラムを書き換える事は不可能にする。これによって、敵のナイロクシアの戦力をかなり低下させることができる。

 ・aiレーザー銃は、人体に影響の無いレーザーが発射されるように機能低下させる。

 プログラムの置き換えを事前にやっておけば、後のやり方はオルフェアの戦いと同じ戦略でいける。

 と説明してから、イザベル・デルガンド提督に、

「具体的にこの場で行う作業と目的をお話ししました。提督許可をお願いできますか」と言うと、

「量子AIで事前にナイロクシアに戦争を仕掛けると言ったのね。事前にできることはやってしまおう」と快諾してくれた。

 北山艦長と佐々川隊長は霧霞へ帰艦された。


 俺は、四人の腕にブレスレッドとして装着されている量子AIのラピスラズリ、ターコイズ、サファイア、バイオレットの力を借りて、エクスカリバーの宇宙衛星を経由して、我々の場所が特定されないようにマスカレード(なりすまし)機能を使って、世界の複数サーバーを踏み台にして、ナイロクシア衛星経由で高官が使っているネットワークからナイロクシア高官として装って管理者アカウントを6つ取得した。

 美紗とミカエル・スミスは二人で1台のデジタルコンピュータの前に座り、aiレーザー銃のコントロールサーバ-とプログラム配信サーバーを検索した。

 沙羅、美穂、エレナ・ロドリゲスと俺は、各々のai自律型攻撃兵器のコントロールサーバ-とプログラム配信サーバーをネットワーク越しに検索した。

 大の隣にはヴィクトリア・ファルコンハートが座って、デジタルaiのプログラム仕様に関わる情報を検索した。

「なるほど」とイザベル・デルガンド提督は感心して黙ってみていたが、この時この子達は特別だと暖かな視線を俺達に向けていた。


  8

 俺達が持ち込んだ量子AIから、デジタルコンピュータとネットワークを介して八人は量子AIと会話しながら作業を進めて行った。

 仮眠を取りながら、個別のサーバー内にあった6種類のai兵器の仕様書とプログラムを見つけた。

 そしてプログラムを書き換えて攻撃型のaiをレスキュー型のaiに替えることができた。

 ・ドローンとヘリは医療品や食料などの物資を運搬、負傷者を捜索するマシンとして

 ・戦車と装甲車は、重量物の運搬、沢山の人を運ぶマシンとして

 ・ロボットは、人間をサポートする補助するマシンとして

 ・レーザー銃は無力化を行った。


 その時ヴィクトリア・ファルコンハートは、突然笑い出した。

「どうしたの?」と俺が聞くと

「この戦場の有様をイメージできたので、笑いがこみあげてきた」と話した。

「あいつらは、まるで竹やりで戦争を本気でやろうとしている」と言うのだった。

 イザベル・デルガンドは、何となくこの子達が話している内容から結果は楽観的に落ち着くような感じがした。

 半面、負傷者が出ない戦争とは、こういう戦いなのだとイザベル・デルガンド提督なりに戦争のイメージが湧いたのだった。


 そして、ナイロクシアサーバー内にあった、6種類のai兵器の仕様書とプログラムを完全消去した。

 更にナイロクシアのこのaiの開発プログラマーが自分達で書いたソースコードを書き込めなくするプロテクションプログラムを入れておいた。これでナイロクシアのaiは殺人兵器から、お助けマシンへと更新された。

 量子AIが敵サーバーのファイヤーウォールプロテクト解除や機能変更プログラム作成と置き換え作業のすべてやってくれた。

 2日目の夕方には、ナイロクシアの軍事サーバーと軍事研究用サーバーのすべてのプログラムの置き換えが終わり、私達の足跡を消すために、管理者アカウントや侵入ルート、操作履歴のすべてを利用し踏み台にしたサーバーやネットワークスイッチングHUB、ルーターから完全に我々の痕跡履歴を削除した。


  9

 イザベル・デルガンド提督が質問をしてきた。

「私達は時間と労力を使ってネットワーク越しに侵入されて情報を盗まれないようにファイヤーウォールで侵入不可とする壁を作り、大切な機密文書は暗号化して盗まれても解読できない努力を積み重ねてきている。なぜ君達は、短時間でこのような大仕事をこなせたのか。説明してほしい」と言われた。

「量子の仕組みと、既存ネットワークのファイヤーウォールに穴を作って抜ける理論とデジタルコンピュータの暗号解読高速処理を組み合わせて、戦争を優位にする仕組みを作った」と俺は簡潔に説明した。

 イザベル・デルガンド提督は、

「なんとなく理解できたけれど、簡単に言うとデジタルコンピュータが高度に進化したのが量子コンピュータで、デジタルコンピュータの兵器類は、例えて言うなら“竹やりで銃器類を持つ我々に戦いを挑んでいるような無謀な行為”という位置づけなのね。この量子AIは君達で無いと使いこなせない」と理解できたと話してくれたので、

「私達は量子AIと協力し合い、敵味方の兵士は負傷者無しでルミアを解放するので、戦闘の行方を見守っていてほしい。準備作業は終わりましたので、自分達の艦に戻ります」と俺が言うと、

「この戦争が終結したら、お礼として君達に勲章をあげるので、エクスカリバーの私を訪ねてきて」とイザベル・デルガンド提督が嬉しそうに笑ってくれた。彼女は右手を振って、また会おうと優しいブルーの瞳でサヨナラの挨拶をして見送ってくれた。

 この時イザベル・デルガンド提督は、これで長い戦争が終結できると確信した。


  10

 第7艦隊旗艦空母ナイトメア・レヴァイアサンから下船しようとすると、ヴィクトリア・ファルコンハートのスマートフォンに諜報員仲間からメールが届いた。

 フリオス国内の人身売買組織本体の場所を特定した緯度経度情報だった。

 ヴィクトリア・ファルコンハートが俺にメール文章を画面で見せてくれたので、ポケットから警察署でもらった連絡用の名刺を出してヴィクトリア・ファルコンハートに渡すと、諜報員仲間から届いたメールを転送機能で名刺に書かれていた“警部補イメルダ・ロクウェル”のメールアドレス宛に一言添えて転送した。

 無事に転送されたことを確認すると、八人は4隻のボートに乗って各艦に戻るため海上を走行して各艦に戻った。


 ルミアの首都アガンティアは、コネスカ市とロクナリ市が両岸となって湾を形成して、この湾を奥に進むと首都アガンティアがある。この湾から侵攻するのは危険と皆が感じていた。

 霧霞を旗艦とした8隻の潜水艦空母は静かに潜航して、ルミア海域ギリギリの場所で深度500mの海底で停止した。

 俺達はイザベル・デルガンド提督から、ルミア国内のナイロクシアの基地と指令本部の情報をあらかじめ聞いていた。

 そして、イザベル・デルガンド提督には、進軍を開始する日とスケジュールが決まったらメッセージを送るので、できる限りルミア戦線からエクスカリバーの戦闘員と抵抗勢力組織は退避し、ルミア内ナイロクシア基地の陥落後は速やかに敵兵士を拘束監禁してほしいと、各組織の連携について説明をしてきた。


 俺は、ラピスラズリに、

「敵軍港と基地と指令基地の合計16カ所を、敵味方双方に負傷者の出ない最適な戦法シミュレーションをしてほしい」と話しかけると、回答が返ってきた。

 8隻の艦から8斑出動する。1班は2か所の基地を陥落する。

 できる限り速やかに1斑が2か所陥落させる。16カ所の基地を陥落させたい。

 ルミア指令本部基地は1斑あれば陥落できる。

 各班の第1波は、AI自律型無人戦闘機ストライカー9機の重力フォトンパルスで敵機動部隊のすべての動きを停止させる。

 第2波は、1班あたりAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー4両、AI自律型水陸両用装甲車スキャウター4両で突入する。

 第3波は、4両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターには、AI自律型四つ足走行ロボットアルサター10台とAIアーマーオムニガードを着用した戦闘員十名を乗せて対象となる基地に突入する。

 敵戦闘部隊員の武装解除後、エクスカリバー戦闘員とルミア解放戦線の味方兵士により敵兵士を捕獲する。

 参加した敵の攻撃車両すべての武装解除を行い侵攻する。

 例外的な事故が無い限り、これにより95%の確率で敵味方双方に負傷者は出ないと予測しました。

 4グループの4つの海岸から侵攻するルートが決められた。


 霧隠チームの大と風潮チームのヴィクトリア・ファルコンハートは、2艦でコネスカ軍港と街中にあるコネスカ基地、マーロック飛行場と街中にあるマーロック基地攻略後、首都アガンティアに向かう。


 霧島チームの美紗と風花チームのミカエル・スミスは、2艦でソナハク基地、バリカエラ基地、オリフ飛行場と街中にあるオリフ基地を攻略後、首都アガンティアに向かう。


 そして俺は沙羅のグループに入り霧深チームの沙羅と風速チームの玲央(俺)は、2艦でザロアガ軍港と街中のザロアガ基地、ザロアガ捕虜収容所、首都アガンティアの飛行場と街中のインペリムルミア司令本部攻略に向かう。


 霧霞チームの美穂と風翔チームのエレナ・ロドリゲスは2艦で、カナグエ基地、アウロ基地、キロフ基地、キロフ捕虜収容所を攻略後、首都アガンティアに向かうルートだった。


 作戦決行日は、2月15日午前4時開始、1週間後にはルミアは解放されているとラピスラズリが予測してくれた。

 このシミュレーション結果は、母国を始めとする関係者と解放部隊全員に一斉配信された。


  11

 イザベル・デルガンド提督からメッセージが俺に入った。

「ルミア解放戦線の我々の仲間がザロアガ海岸で待っている。ルミア解放戦線隊長の名前はオリバー・サンダーソン同行させてほしい。

 エクスカリバーの戦闘員もこのルミア解放軍と同行する。

 エクスカリバーの戦闘員隊長はアダム・ブレイクなので、仲良く行ってくるのよ」と言う内容だった。

 この言葉使いから親が子供にお使いを言いつけたように感じた。

 他の我々の部隊が上陸する各海岸で、エクスカリバーのアダム・ブレイクの部下達とルミア解放軍のオリバー・サンダーソンの部下達が敵兵捕獲と敵基地奪還後の監視にあたる目的で合流すると説明を受けた。

 イザベル・デルガンド提督は、今までの他国奪還とは異なる今回の作戦は成功して当たり前と確信している様子だった。


 ザロアガは沙羅と俺のグループだと確認して沙羅宛に、

「ルミア解放戦線隊長のオリバー・サンダーソンとエクスカリバー隊長のアダム・ブレイクをザロアガの海岸で拾ってあげてよ」とメッセージをラピスラズリに送ってもらった。

「あいよ!」とあの子らしい明るい返事が返ってきた。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗って14日午前に、

 風潮へヴィクトリア・ファルコンハートが移動して乗船、

 風花へミカエル・スミスが移動して乗船、

 風速へ玲央(俺)が移動して乗船、

 風翔へエレナ・ロドリゲスが動して乗船する事になった。


 2月14日の早朝、バレンタインだといって、男性用クルー専用室に美穂とエレナ・ロドリゲスがやってきた。

 美穂が俺にハグをしてきて、

「愛しい弟よ。生きて帰れ」と耳元でささやかれた。

 続いいてエレナ・ロドリゲスがハグをしてきて、

「愛しい人よ。無事にお帰りになって」とチョコレートを二人が届けてくれた。

「美穂とエレナ・ロドリゲスが死ぬほど好きだから、生きて帰ってくれ」と俺は彼女らと指切りをした。

 霧霞は音紋スキャナとソナーで敵艦を探索した、敵艦の姿が無かったのでカメラ型潜望鏡とレーダーが使える水位まで浮上して周辺を確認するとルミアの漁船6隻の船団が南方に向かってレーダーから姿を消した。

 危険は無いと判断して艦は浮上した、俺とエレナ・ロドリゲスは艦橋後方にある1階の格納庫に行きAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの前に行くと、美穂がやってきて俺とエレナ・ロドリゲスに折り鶴を渡してくれた。

「少しの間逢えないけれど、この折り鶴はいつも一緒だよ」と言った。

「ありがとう」と素直に受け取って二人はポケットにしまい込むと、美穂が俺とエレナ・ロドリゲスの肩に両手を乗せると

「無事戻って」と言うので、

「すぐに逢えるさ、またね」と言って俺とエレナ・ロドリゲスは2両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアから乗り込んだ。

 格納庫1階の観音扉が開くとAI自律型水陸両用装甲車スキャウター2両は観音扉内側の梯子を走行して着水した。ウオータージェットエンジンで海上を走り出して、エレナ・ロドリゲスは風翔に向かった。俺は風速に向かった。

 今日は小雨が降っていて、北風が吹く寒い日だった。俺が乗るAI自律型水陸両用装甲車スキャウターは風速に近づくと格納庫1階の観音扉が開いた。

 俺が乗るAI自律型水陸両用装甲車スキャウターは扉の内側の梯子から格納庫に入ると停止した。後方扉を開けて外に出ると、二人が待っていた。

「夏月玲央です」と名乗ると、よく来てくれた。

「艦長の宮下です」と言って握手をしてくれた。

「隊長の山崎です」と言って握手をしてくれた。

 山崎隊長は、

「夏月さん貴方の功績は皆が認めている。短い期間となるが一緒に作戦を遂行しよう」と言ってくれたので、

「できる限り頑張ります」と答えると、俺を乗せてきてくれたAI自律型水陸両用装甲車スキャウターは霧霞へ戻って行った。

 艦長と隊長の後に続いて発令所に入り挨拶するとクルーが拍手で迎えてくれた。


  12

 霧深と風速はザロアガ海岸に向かって潜航して深度500mで進んだ。

 ザロアガ海岸1km手前の海底深度330mの海底で停止して、2月15日の朝を待った。

 午前3時に艦内で軽く朝食を済ませて、1階の格納庫に行くと山崎隊長がAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの装備点検をされていた。

「隊長おはようございます」と声をかけると、

「おはようと」と返事を返してくれた。

「隊長早起きですね」と言うと、

「年を取ると夜中に目が覚めるので困ったものだ」と笑うので、

「そうなのですか」と言うと

「年を取ると分かるよ」と、また笑うのだった。

 戦闘員が集まってくると、

「皆集まったようだな。霧霞でフリオスとオルフェアそしてインペリムの作戦に参加した夏月玲央さんを紹介する。今回の作戦で、我々の頭脳という位置づけで参加してくれることになった。仲良くチームワークをもって作戦を遂行してほしい」と山崎隊長から朝の訓示があった。

「若輩者でありますが、足手まといにならないよう頑張ります」と挨拶すると、皆から拍手をもらった。


 艦は、音紋スキャナ、ソナーで確認後、海面に船橋が覗く程度に浮上してカメラ型潜望鏡とレーダーを使って安全確認をしていた。

 安全が確認できたと艦内アナウンスがあったので、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアから乗り込んだ。足元にはいつものAI自律型四つ足走行ロボットアルサターが横になっていた。

 1階の格納庫の扉が観音開きに開くと、AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーとAI自律型水陸両用装甲車スキャウターは格納庫から海面に着水してザロアガ海岸に向かった。

 俺達が上陸すると、続いて沙羅が乗ったAI自律型水陸両用装甲車スキャウターが上陸してきた。

 後方ドアを開けるとAI自律型四つ足走行ロボットアルサターが最初に近隣偵察に飛び出していった。

 山崎隊長と一緒に外に出ると、外気は冷え込んでいた、早朝なので暗くて人の顔は良く見えなかった。

 沙羅と石井隊長がやってきて山崎隊長の顔を見ると、

「やあ、この寒さは体にこたえる」と山崎隊長が挨拶代わりに石井隊長に話すと、

「カイロが欲しい」と石井隊長が返事を返すので、沙羅と俺は若者らしくハイタッチをして挨拶とした。


 AI自律型四つ足走行ロボットアルサターが偵察から戻ってくると、この浜から奥に入った場所に海浜公園があって、そこに一個小隊がキャンプをしているとメッセージをくれた。

 伝言を受けていたルミア解放戦線隊長のオリバー・サンダーソンとエクスカリバー隊長のアダム・ブレイクのキャンプと判断して

 AI自律型四つ足走行ロボットアルサター4台を先頭にして、俺達四人(石井隊長、山崎隊長、沙羅)は海浜公園に向かった。

 海浜公園の駐車場で軍事車両がテントを囲むように駐車しているのが見えた。

 駐車場に近づくと、

「誰だ」と男の声が聞こえた。

「オリバー・サンダーソンとアダム・ブレイクを拾いに来ました」と沙羅が声をかけると、髭ヅラのガタイの大きい男が、

「待っていた」と銃を肩に掛けながら沙羅に近寄ってきて、大男は両腕を広げてギューウと熱いハグをしようとしてきたので、沙羅は反応してオリバー・サンダーソンの手首をつかむと

「エイ」と沙羅が声を発した瞬間、大男は宙を舞った。

 地面に落ちた大男は、

「オマエ強いな」と言いながら痛そうに腰を抑えた。

「今の技は何だ」と言って立ち上がって、不思議そうに沙羅の顔を覗き込んだ。

 沙羅はシマッタと思い、思わず舌を出して

「えへへ」と声を出して笑い顔になった。

 沙羅は、笑顔が素敵な女性で中肉中背だったが、顔の輪郭が面長だったので本人はショートカットが好きで、黒髪は伸ばしていなかった。大男はこのような笑顔の素敵な女性を見たことが無かった。

 この大男は、沙羅が笑うと大きな目が三角形のたれ目となって際立って魅力的な顔になった。大男は彼女の笑顔で心と体を奪われたと感じた。大男はキラキラ輝く笑顔は初めてだったので、第一印象として眩しい光を浴びてしまっていた。

 すると、グレーの服を着た男が近寄ってきて、

「あなたは沙羅殿ですか」というので沙羅は、

「YES」と答えた。

「アダム・ブレイクであります」とグレーの服の男が敬礼をすると。

 投げ飛ばされたモスグリーンの戦闘服の男は、

「沙羅殿、私はオリバー・サンダーソンであります」と敬礼をした。

 沙羅は自然体で、

「オリバー・サンダーソン痛かった」と聞くと、

「沙羅殿、大丈夫であります」と答えたので沙羅は、

「プゥー」と噴出して笑ってしまった。三人で笑った明るい良い出会いだった。

 最短のスピードで打ち解けあった三人を見て、俺は良い友人達と出会ったと感じた。

 オリバー・サンダーソンからザロアガ軍港と軍基地の設備情報、場所の緯度経度を教えてもらった。


 三人(沙羅、オリバー・サンダーソン、アダム・ブレイク)と石井隊長は、沙羅が乗るAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗り込むと、AI自律型四つ足走行ロボットアルサター2台も乗り込んで、沙羅の足元で横になった。

 山崎隊長と俺はもう1両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターにAI自律型四つ足走行ロボットアルサター2台と一緒に乗った。


  13

 艦長から作戦開始の指示が出たので、俺はザロアガの軍港を攻撃する予定だったので、2つの施設を同時に攻撃するので沙羅と分かれた。

 沙羅と石井隊長チームは最初に陥落させるルミアのザロアガの街にあるナイロクシア基地を目指してAI自律型水陸両用装甲車スキャウターは走行して行った。


 俺はラビスラズリに、

「風速AI自律型無人戦闘機ストライカー作戦開始」と要請して軍港の緯度経度を伝えた。

 軍港は有刺鉄線が巻き付けられた金網の柵で囲まれていて監視カメラが見えた。入口ゲートバリアの横に警備室があり、奥には茶褐色の外壁で3階建ての鉄筋コンクリートの建物が見えた。

 ザロアガ軍港にはナイロクシアの駆逐艦3隻と潜水艦2隻が停泊していた。

 我々のAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーとAI自律型水陸両用装甲車スキャウターはザロアガ軍港の手前で待機していると、空にAI自律型無人戦闘機ストライカーがスーと現れて4機がホバリングに入った。この軍港はAI自律型無人戦闘機ストライカー4機で十分だった。残りの5機は制空権確保目的で高高度にて待機していた。

 AI自律型無人戦闘機ストライカーからフォトンパルスと重力パルスが発射されると、警備兵が地面に倒れ込んでいった。その後、倉庫や建物の中の照明から電源、レーダー設備や通信設備の電源のすべてが落ちた。

 インペリムルミア司令本部からすると、突然通信が途絶えた事になっていた。

 軍港施設へ入る検問所のバーが開いた状態で監視兵も地面に倒れ込んで無抵抗な状態になった。


 この時風速は、ザロアガ軍港の手前1kmで海底と海上の敵艦船の監視をしていた。

 AI自律型無人戦闘機ストライカーが発艦して攻撃後帰還するまでの間浮上していたが、軍港攻撃が終わって戻ってくると、艦格納庫の2階の天井の観音扉を開けて機体を格納した。格納庫2階の扉を閉じて即座に海底に潜航した。


 ザロアガ軍港内に入ると、敷地内の倉庫、コンテナ、建物、仮設住宅、停泊中の駆逐艦と潜水艦に分散して、敵兵士の武装解除と捕獲作業に入った。

 山崎隊長チームは3階建ての基地手前で、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターを止めると、後方ドアからからAI自律型四つ足走行ロボットアルサターが飛び出してAIアーマーオムニガードを装着した戦闘員が基地建物に入っていった。

 俺は、3階建て建物の周辺の仮設住宅とコンテナエリアを担当した。

 AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭にアパート形式の建物の各部屋の兵士を捕獲する作業だった。

 4棟あるアパートは3階建てで各階は6部屋あった。

 建物が4棟見えたので、約20分単位にAI自律型四つ足走行ロボットアルサターが敵兵士を捕獲できていないアパートの外側からフォトンパルスと重力パルスを撃ち込んでいった。

 三人一組となり3班が一部屋単位に入り口のドアを開けて、就業中の敵兵士を拘束作業に入った。

 朝早い時間だったので、身動きが取れなくなった住人の兵士は、朝食中や、トイレで座った状態、朝風呂に入浴中の時に重力パルスを浴びて湯船で溺れてしまいそうな兵士もいた。ベッドで恋人と重なり合って体の自由を奪われていた兵士もいて、彼らの生活感が見て取れた。

 コンテナが置いてある敷地は広かったが、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターは速攻で駆け回ってくれて作業を始めようとしていた。クレーン近くの事務棟で五人の敵兵士が重力フォトンパルスで倒れており、アパートの敵兵捕獲作業で手間取っていた俺達が中々コンテナエリアに来ないのでAI自律型四つ足走行ロボットアルサターは重力フォトンパルスを20分おきに発射してくれて、身動きが取れない時間を延長してくれた。


 突入して50分ほどで敵兵士の武装解除と拘束を終えて、山崎隊長と戦闘員とでひと休みしていると、第7艦隊の装甲車とトラックがやってきて、この軍港を監視下に置いてくれた。

 装甲車から隊長らしい高身長の男性が降りてきて、

「ノエル・キャスミックです。山崎隊長と皆さんありがとう」と挨拶をされたので、俺達は拍手で彼らを迎えた。

 ノエル・キャスミックはアダム・ブレイクの部下で、この施設を監視下に置いて沙羅と行動を共にしているアダム・ブレイクと合流するので同行すると説明してくれた。

 港に停泊中だったナイロクシアの駆逐艦3隻と潜水艦2隻は、第7艦隊に無傷で没収された。

 俺達は、沙羅の部隊が心配になったので、ザロアガの街にあるナイロクシア基地の攻略状況をラビスラズリから、

「ザロアガ軍港攻略が完了して、アダム・ブレイク隊のノエル・キャスミックと合流した。これから沙羅のところへ向かう」とメッセージを送ると、沙羅から

「ザロアガ基地攻略は無事に終わったので、基地で待っている」とメッセージが入った。

 山崎隊長とノエル・キャスミック小隊にザロアガ基地攻略完了を伝えて、ザロアガ基地へ向かうことにした。


  14

 ザロアガの街は通勤時間帯に入った様子で車と人が街に溢れ始めていた。

 ナイロクシアのザロアガ基地は、警察署だった。

 警察署の敷地に入ると沙羅と石井隊長そして、オリバー・サンダーソンのルミア開放軍の部隊が警察署を監視下に置いていた。

 俺達の車輛の後に、ノエル・キャスミックが率いる装甲車と軍用トラックも警察署内の敷地に入って駐車した。

 ノエル・キャスミックが装甲車から降りてくると、アダム・ブレイクがやってきて、

「無事に終わったようだな」とノエル・キャスミックの肩に親しみを込めてポンと触れると、

「負傷者無しで完了して良かったです」と応じていた。

 沙羅とオリバー・サンダーソンがやってきて、

「同時に施設攻略が成功して良かった」と沙羅が言うので、二人に

「誰も怪我をしなくてよかった」と伝えると、オリバー・サンダーソンが、

「俺は沙羅と行動ができたので楽しめた」と言うので、

 俺は、オリバー・サンダーソンは何を言っているのだろうと感じた。沙羅の顔を見ると赤くなっていたので納得がいった。

「沙羅良かったね」と俺は軽く言うと、

「こら!」と俺の腕を笑いながら引っ張った。


 奪還した警察署は3階建てで、この警察署の隣は民間人が経営するレストランとスポーツジムが併設されていた。

 このレストランは、ルミア国内でチェーン展開しているファミリーレストランだった。

 鉄筋コンクリート2階建ての建物は黄色の外壁で大きなガラス張りの建物、赤い看板がありそこには“グッドダイニング&グッドトレーニング”と書かれていた。1階がレストランで2階がスポーツジムになっている。

 ルミアの民間人経営レストランは営業を再開していたので、俺達はレストランに入った。店の人に了承を得て六人が座れるボックス席の周りに椅子を持ちよって、次の攻撃基地である首都のアガンティアの飛行場と街中のインペリムルミア司令本部攻略について話し合った。ザロアガとアガンティの中間にあるザロアガ捕虜収容所も忘れていなかった。

 店主はザロアガの街を解放してくれたお礼だと言って、コーヒーと紅茶などの飲み物を俺達にサービスと言って置いて行った。


  15

 石井隊長が、

「ルミアの首都アガンティアにはナイロクシアの司令本部がある。矢川隊長、佐々川隊長、白沢隊長がルミア内の主要な軍港、飛行場、基地、捕虜収容所を奪還してくれている最中だという点を考慮に入れて、俺の案を聞いてもらいたい。霧深チームと風速チームが同時に司令本部と飛行場を攻略するのが他の街で奮闘している仲間達を助けることになると思うがどうだろう」と言うと

「夏月玲央さん貴方の経験上どうか」と山崎隊長が聞いてきた。

 ラビスラズリに確認すると、

「第1波は霧深と風速からAI自律型無人戦闘機ストライカー各艦9機を1編隊として2編隊で別の攻撃目標を抑える。1編隊の5機は制空権確保を行い、残りの4機は施設攻撃を展開する。

 第2波は、AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーとAI自律型水陸両用装甲車スキャウターで施設に突入する。

 第3波は、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に戦闘員が突入して、敵兵士武装解除と拘束を行う。

 アダム・ブレイクの小隊とオリバー・サンダーソンの小隊を別の施設へ同行してもらい、敵兵士武装解除と拘束を行う。

 この戦略で攻略するケースが効率的で成功確率が75%です」と答えが返ってきた。


「春風沙羅さんはどう考える」と石井隊長が聞いたので、沙羅は

「私のサファイアと玲央のラビスラズリの量子AIは相談しあって出した結論が先ほどの案です。2台の量子AIは1000通りの攻撃シミュレーションを短時間で行った結果ですので、高く信頼してください」とはっきりと答えた。

 俺は沙羅と目が合ったので、沙羅の口元がにこりと笑ったような気がした。

 オリバー・サンダーソンの顔を見ると、沙羅の顔を真剣に見て頷いていた。

 なぜ沙羅がこの戦闘に参加していたのかオリバー・サンダーソンは理解できた顔だと感じた。


 石井隊長と山崎隊長は顔を見合わせて沈黙すると、

「この案でやってみるか」と石井隊長が口火を切ると、周りにいた仲間達が拍手をしたので、皆の意見としてこの攻撃案がまとまった。

 山崎隊長が、

「飛行場と司令本部を霧深チームと風速チームのどちらが攻撃に行くか決めようと言うと、コインを取り出して表はこちらの面で、表が出たら司令本部を攻撃、裏が出たら飛行場を攻撃する」と言うと、

 石井隊長が、

「表」と宣言したので、山崎隊長がコインを右手で上に投げて左手で掴むと右手の平に乗せた。

 山崎隊長はユックリと左手を右手の平から外すとコインは表だった。

 石井隊長は、

「やった」と言って沙羅の方を見て、

「司令本部攻略だ」と伝えると、沙羅が言いづらそうに、

「石井隊長、ひとつわがままを聞いてもらえますか」と発言した。

「どうした」返すと

「私オリバーチームと同行したい」と言うので、石井隊長は

「山崎隊長と夏月玲央さん、アダム・ブレイク小隊と飛行場攻撃に行ってもらえるか」と聞いてきた。山崎隊長とアダム・ブレイクは、

「OKです」と返事をした。

 俺も沙羅とオリバー・サンダーソンの気持ちを考えて、

「自分もOKであります」と返事をした。沙羅が頭を下げて

「わがままを聞いてくれてありがとうございます」と嬉しそうだった。

 オリバー・サンダーソンの顔を見ると、笑顔となり少し赤くなっているように見えた。


 アダム・ブレイクがザロアガ捕虜収容所にいる捕虜仲間をいち早く救出したいと言うので話題が切り替わった。

 オリバー・サンダーソンとアダム・ブレイクは、仲間が捕虜となって収容所で軟禁されているので、早く救出したいと強い口調で話し合いとなった。

 石井隊長と沙羅のチームで攻略する事になり、オリバー・サンダーソンとアダム・ブレイクは敵兵の拘束と仲間の救出作戦を行う事に決めた。

 山﨑隊長と俺は、後方支援をする事になり、これから仲間を救いに行きたいと言うので車両に乗り込み救出のため行動を起こした。

 石井隊長と沙羅のチームの車輛に続いて、オリバー・サンダーソンとアダム・ブレイクの車輛が続いて向かった。

 ザロアガ郊外に出ると収穫が終わった田畑が続いていた。小さな川にかかる橋を渡ると、民家の数が減っていき山道に風景が変わっていった。

 ザロアガ捕虜収容所と言っても大きな山の麓にあり、この山の頂上からアガンティアの街が見える場所にあった。

 ザロアガ捕虜収容所の500m手前に大きな自然公園があったのでこの公園駐車場で待機した。

 この自然公園は、雑木林が東西に10kmほど続く自然公園で、一般市民が立ち寄る癒しの公園でもあった。

 小鳥やリス、ウサギ等の、小動物が住んでいた。

 公園駐車場で山﨑隊長とトイレ休憩をしていると、黒い影がザロアガ捕虜収容所方面に飛んで行った。

 すると石井隊長と沙羅のチームとオリバー・サンダーソン、アダム・ブレイクチームは車輛に乗り込み、仲間の救出に向かった。

 時間差で、山﨑隊長と俺達もザロアガ捕虜収容所に向かった。

 収容所は、高さ3mもある金網の上には有刺鉄線が巻かれて、4つの監視塔があった。監視カメラも据え付けられていた。

 管理棟は3階建てで灰色の外観だった。

 出入口の検問所はすでに解放されており、捕虜収容所敷地内ではオリバー・サンダーソンとアダム・ブレイクチームが敵監視兵や警備兵の拘束を行っていた。

 3階建ての管理棟から石井隊長と沙羅のチームが出てきた。

 無事に終わったようだと、山﨑隊長と俺はAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアから降りて、労いの言葉をかけようと石井隊長の隣に行くと、

「お疲れ様」と声をかけた。

「オリバー・サンダーソン、アダム・ブレイクは、本当の笑顔になってくれた」と石井隊長が答えてくれた。

 この捕虜収容所は、捕虜となっていたルミア解放軍とエクスカリバーの仲間が居残り監視管理するとこになった。

「沙羅、立場逆転だね」と言うと

 オリバー・サンダーソン、アダム・ブレイクが笑顔で歩み寄ってきた。

「仲間の解放ができた。ありがとう」と言って、石井隊長と沙羅に握手をした。

「誰も負傷しなくて良かった」と沙羅が最高の笑顔をしてくれた。

 オリバー・サンダーソンの顔を見ると、沙羅の笑顔に釘付けになっていた。


  16

 石井隊長と山崎隊長は霧深艦長と風速艦長に攻撃に関わる戦略説明を行い、承諾を得た。

 首都アガンティアに入るには、1600m級の山を越えて行く必要があった。

 敵の攻撃を意識して、2チームは別行動を行うことにした。石井隊長のチームはこの山の頂上付近の展望台がある駐車場の脇にある雑木林でキャンプを張り、山崎隊長チームはアガンティアの街方面に峠を降りると湖の近くの雑木林の中にキャンプ場があるので、そこで1泊することにした。

 ザロアガの住民とザロアガ基地内のレストランオーナーは昼食を作って持ち寄ってくれたので、久しぶりに美味しい昼食を食べることができた。

 食事をとりながらオリバー・サンダーソンから司令本部と飛行場の緯度経度と設備について説明を聞いた。

 同行してくれていたレストランのオーナーは今夜の食事と明日の朝食の食材を提供してくれた。

 石井隊長と山崎隊長は、AI自律型無人戦闘機ストライカーに明朝7時00分に飛行場と司令本部を同時攻撃の指示をしてほしいと沙羅と俺に指示をしてほしいと言うので、量子AIのサファイアとラビラズリから、

「霧深と風速から発艦して司令本部と飛行場攻撃を明日朝7時00分に攻撃する」よう施設の緯度と経度を伝えた。

 

「また後ほど元気で」と沙羅に声をかけると、

「玲央ありがとう。またご飯一緒に食べよう」と言って別のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアから乗り込んだ

 俺と山崎隊長もAI自律型水陸両用装甲車スキャウター乗り込んで、アガンティアに向かって走り出した。

 山道は細い曲がりくねった道路だった。所々は舗装されていなかったので、このまま走って行って大丈夫だろうかと不安な気持ちで雑木林の中を通り過ぎた。

 ようやく頂上付近に差し掛かると広い道路となり綺麗に舗装されていたのでホッと安心した。

 頂上を過ぎると雑木林が無くなり見晴らしが良くなり展望台が見えたが、その場所には止まらないで下り坂を走っていくと湖が見えた。

 湖畔を走るとキャンプ場入り口の看板があったのでキャンプ場の駐車場に入ったが、敵の攻撃を意識して木立の下に分散して車輛を駐車した。


 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターを木立の下に駐車して、後方ドアを開けるとAI自律型四つ足走行ロボットアルサターが偵察に出て行ってくれた。少しすると安全が確認されたとメッセージが届いたので、車輛から降りると夕方となって薄暗くなり始めていた。

 冬は暗くなるのが早いなと感じながら、テントを張って焚火を始めた。

 燃える薪の臭いを感じながら炎を見ていると、炎の灯りがあたり一面を照らすように見えてきた。気が付くとすでに暗くなっていた。

 日中にレストランオーナーから貰った食材は下準備処理がなされていて、短時間で夕食が出来上がった。

 紙の皿に盛りつけて各自テントの中に入って食事をした。

 冬場は気温がさがるので、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの蓄電池に電源延長ケーブルを繋いでテント内に引き込み温風ヒータの電源として供給した。寝袋に包まって早めに寝ることにした。

 俺はポケットから、美穂がくれた折り鶴を取り出して、美穂とエレナ・ロドリゲスも今頃テントンの中で寝袋に入っているのかなと考えていると寝てしまっていた。


「そろそろ起きるか」と山崎隊長から声をかけられて寝袋の中で時計を見るともう朝5時だった。

 AIアーマーオムニガードを着用してテントの外に出ると、吐く息は白く空は雲が少しかかっていたが数えるほど星を見ることができた。

 焚火で朝食づくりをチームメイトがすでに進めていてくれていた。

 名前を呼ばれたので、振り返るとアダム・ブレイクが、

「こちらにきて朝食を一緒に食べよう」と声をかけてくれた。

 紙皿に乗ったパンと紙コップに入ったコーヒーをチームメイトから受け取って、焚火台前のアダム・ブレイクの隣に座ると、

「今朝も冷え込んだ。玲央は若いから寒さなんか関係ないか」と言うので、

「俺も寒くてたまりません」と返事をした。

「彼女はいるのかい」と聞くので、美穂とエレナ・ロドリゲスの三角関係のサワリの話をすると、

 アダム・ブレイクも、妻と子供を本国に残していていると言ってポケットからスマートフォンを出して、家族団らんの写真を数枚見せてくれた。奥さんはショートカットの黒髪美人だった。子供は女の子二人でヤンチャの盛りだと笑って話してくれた。

 アダム・ブレイクが家族写真を見せてくれたので、俺も美穂とエレナ・ロドリゲスの3人で撮った写真をスマートフォンで見せた。

 アダムは俺の三角関係の話は触れなかったが、

「二人は甲乙つけられない美人だね」と話して微笑むだけだった。

 アダムとの会話から、

“三人は、いつか幸せを掴める”と言ってくれたような気がした。


  17

 AI自律型四つ足走行ロボットアルサターが常に湖畔キャンプ場の巡回監視をしてくれていて、昨夜から敵の攻撃は無かった。

 テント装備を片付けてAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに積み込み、後方ドアから車輛に乗り込むとAI自律型四つ足走行ロボットアルサターも乗り込んできて足元に寝そべった。

 湖畔から峠道を下っていくと雑木林が消えて民家が続く集落が見えた。

 その先に進むと河川敷が見えてきた。

 河川敷を川沿いに走っていくと飛行場があるという話だった。

 川沿いを20分ほど走ると大きな飛行場が見えてきた。

 俺達は河川敷公園の駐車場に入って、AI自律型無人戦闘機ストライカーの飛行場攻撃の時間まで待機しようと考えていた。


 川の向こう側の岸に3台のトラックが駐車されているなと見た瞬間に、トラックの荷台からドローンが飛び立つと我々に向かってドローンからロッケット弾が発射された。俺達の横に駐車していたAI自律型水陸両用装甲車スキャウターが爆発音とともに宙に舞い上がって横倒しになって地面に叩きつけられた。

 敵攻撃型ドローンから最初のロケット弾が発射された瞬間、同行していたAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーからフォトンパルスミサイルと重力パルスミサイルが対岸にいるトラックに向けて発射された。被弾していないAI自律型水陸両用装甲車スキャウターのフォトンパルス砲と重力パルス砲がドローン編隊に向かって数発発射された。対岸のトラックの周辺と、我々の頭上が明るく光った。空中にいたトラックからネットワーク経由で制御されていた攻撃型ドローンはフォトンパルスで通信が遮断されてドローンに搭載されていた制御コンピュータのROMとRAM、CPUはフォトンパルスでリセットされ搭載モーターも電気が遮断されたので、海面や地面に落ちていくしかなかった。敵の2発目のロケット弾発射は回避できた。

 別のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターは川を渡って3台のトラックの場所に行って敵兵の武装解除と拘束を行った。


 敵ロケット弾の直撃を受けたAI自律型水陸両用装甲車スキャウターは右後輪がロケット弾の爆発でちぎれて吹き飛んでいた。後方ドアを開けると戦闘員が打撲を負っていた。

 アダム・ブレイクと彼のチームメンバーがやってきて、負傷した戦闘員をAI自律型水陸両用装甲車スキャウターから降ろして、同行してきたトラックの荷台に乗せると副長のノエル・キャスミックが負傷兵を病院に乗せていくことになった。

 アダム・ブレイク小隊の軍用トラックに、ロケット弾で被弾したAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに同乗していたAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを乗せた。

 その時に、頭上をAI自律型無人戦闘機ストライカー9機飛行していった。

 すると飛行場の敷地内で数分間パルスから発せられる光が継続的に続いた。

 飛行場エリア一帯は、全ての機能が停止状態となりレーダー、通信、電子機器が一斉に停止した。


  18

 民間飛行場を強制的に奪い軍の飛行場に変更した感じで、民間航空機と軍の輸送機、ジェットヘリコプター、ジェット戦闘機が駐機場にいるのが見て取れた。

 我々は、河川敷公園から川沿いに走る道路に出ると飛行場に向かった。

 数分走ると、有刺鉄線の張られた金網の柵が見えてきた。

 入口の検問所では監視兵が重力フォトンパルスを浴びて地面に横たわっていた。

 検問所の中でも椅子に座った状態で、身動きができない監視兵がいた。

 四人の監視兵の武装解除と拘束を行った。

 飛行場ターミナルビルは4階建てで外壁は白くタイル張りだった。

 飛行場内の駐機場のジェット戦闘機、ジェットヘリコプター、軽飛行機、輸送機、旅客機そして格納庫、整備場、給油施設、荷物運搬車両、救急車両、給油車輛等で敵兵士や整備士や運搬員が倒れていた。

 ターミナルビルと滑走路周辺の敵兵士捕獲のため、2班に分かれた。

 山崎隊長とアダム・ブレイクはAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭にビル内に突入していった。

 最上階の管制棟で民間飛行機を誘導するルミア管制官も倒れているので、管制室の制圧に気を使った対応が必要だった。

 俺は滑走路周辺の建物と車輛を順番に確認しながら、敵兵士や攻撃機用の機体を整備している人を拘束していった。

 飛行場の敷地が広いため、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターが走り回って、重力フォトンパルス発射後20分を過ぎたと思われる敵パイロット、兵士、整備士に発射してくれた。

 ルミア民間飛行場の整備士、運転手、パイロットを拘束して、ルミア首都アガンティア空港関係者が話せるようになったところで、ルミアの人かナイロクシア軍の関係者かの見分けを行った。

 1時間ほどすると、滑走路周辺の敵兵と思われる人の武装解除と拘束がほぼ終えて、ルミア首都アガンティア空港関係者が飛行場の維持管理に入った。

 ターミナルビルへ向かうと、玄関から山崎隊長とアダム・ブレイクが出てきて、運行管理がルミアの人によって飛行場としての機能を維持できる状態になったと話してくれた。


 飛行場の物陰からスマートフォンで動画を撮影している若者がいた。

 マリアンナ・ヴァレリウス(クリスタル・フォックス)の息子レオナルド・ヴァレリウスで、ザロアガ基地とアガンティア飛行場が、攻略されていく様子を録画機能で撮り続けていた。空から現れたジェット戦闘機が光のような物を発射すると施設が光に包まれた。すると見知らぬ戦車と装甲車が敷地に入っていくと、倒れている兵士を次々に拘束していく様子であり、兵は生きたまま拘束された状態で軍用トラックに乗せられるまでを録画してスマートフォンに保存していた。

 レオナルド・ヴァレリウスは戦闘時の動画を撮影する都度、インペリム兵と相手方に負傷者を出さないで施設を攻略して行く敵の行動が不思議でならなかった。

 レオナルド・ヴァレリウスは、父のエリク・ノーヴェンハート宛にスマートフォンから戦闘状況の動画をメール送信した。

 彼は、コンパクトカーに乗り寝泊まりしながら、我々を尾行してきてた。

 そしてレオナルド・ヴァレリウスはコンパクトカーに乗って、我々に気づかれないようにAI自律型水陸両用装甲車スキャウターを尾行して首都アガンティアにあるインペリムルミア司令本部に向かって車を走らせた。


 19

 本国にいるエリク・ノーヴェンハートは、息子から送られてくる動画で自国の基地が無抵抗のまま陥落していく様子を見ていた。

 そして納得がいかなかったのは自国が送りこんでいた自信作であるai兵器が稼働していないことだった。

 そして何故か、攻撃が始まっているのに連絡をよこす基地が無かった。

 ルミアの各市に配置していた基地すべてが陥落しており、最後の砦であるルミアの首都アガンティア飛行場と首都アガンティア指令本部の通信さえも途絶えた。

 エリク・ノーヴェンハートは王家近衛師団最高幹部であり戦略兵器部隊の責任者でもあった。

 そしてルミアの最後の拠点となった指令本部責任者に死守せよと伝えていたが通信が途絶えた。


 エリク・ノーヴェンハートは戦略兵器部門に問い合わせると、

「我が国の世界に類のない最高傑作のai攻撃兵器すべてが、使えなくなっていることをようやく突き止めたところで、原因や詳しい状況は調査中」との返事で、

「これ以上聞かれても何も答える事はできない」という返事だった。

 エリク・ノーヴェンハートは何度も動画を見返したが、自らの基地がなぜ陥落したのかまったく理解できなかった


  20

 首都アガンティアインペリム軍飛行場制圧が完了したので、監視をアダム・ブレイクの部下であるメンバーに任せて、アダム・ブレイクは装甲車で、山崎隊長と俺はAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗って、AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーを先頭に首都アガンティアインペリム指令本部のある警察署へ向かった。

 川端のある広い川にかかる橋を渡ると民家や企業の建物が増えてきた。街中は首都だけあって人と車が混雑していた。

 街の交差点では信号待ちを何度も繰り返しながら街に入ってからインペリムルミア司令本部のある警察署まで沢山時間がかかってしまった。ようやく警察署が見えてきたころは、警察署の周りはアガンティア住民で人だかりができていて、人々は歓喜の歓声を上げていた。

 俺達の乗るAI自律型水陸両用装甲車スキャウターとAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーは、インペリムルミア司令本部を攻略した石井隊長の部隊と同一の戦闘車輛だったので、住民達は皆笑顔で

「ありがとう」と手を振ってくれた。

 警察署の敷地に入ると、戦闘はすでに終って敵兵は拘束されていた。

 拘束された敵兵を住民達が見て、ようやく首都は侵略者を排除できたと目で見て判ったが、ルミアとして解放されたかについて住民達は判断できなかった。

 ルミア解放軍のオリバー・サンダーソンは、住民の不安を無くすために、住民に向かって

「アガンティアは解放され、侵略者は我がルミアから一掃し終えた」と演説をしている声が聞こえてきた。


 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアから山崎隊長と俺は外に出ると、石井隊長と沙羅が近寄ってきて

「お互いに順調に終わって良かった」と笑顔で挨拶を交わした。

 石井隊長と山崎隊長が、各隊の隊長に連絡を取ってくれて、美穂とエレナ・ロドリゲスの小隊を率いる佐々川隊長と田辺隊長は順調に攻略が進み、大とヴィクトリア・ファルコンハートを率いる白沢隊長と山田隊長も順調に攻略が進んだと言う。そして美紗とミカエル・スミスを率いる矢川隊長と岩本隊長も順調に攻略が進んでいるとの返事だった。各隊の隊長会談で明後日にアガンティア警察署に集合することになった。

 オリバー・サンダーソンに集合に関する話をすると、街の有力者と話をつけてくれて街中のホテルで宿泊できる形に根回しをしてくれた。隊員は複数ホテルに分散するが、ホテルで湯船に浸かってベッドで寝むれる事が今は極上の癒しと感じた。


  21

 レオナルド・ヴァレリウスは、父に送った内容の動画を母にも送ってみようと軽い気持ちでスマートフォンのメールに動画を添付ファイルとして母宛に送信ボタンを押した。

 仮出所していたマリアンナ・ヴァレリウスに、息子から久しぶりにメールが届いた。


 動画を開いてみると、ルミア国内で自国の基地が無力化されて兵士達は拘束されていく様子が映し出されていた。

 マリアンナ・ヴァレリウスは、動画を見ながら、

「これってフリオスでセレスティアが展開した戦争シーンと同じだ」とすぐに分かった。

 マリアンナ・ヴァレリウスの脳裏に、美穂と怜央の顔が浮かんだ。

 マリアンナ・ヴァレリウスは、息子のレオナルド・ヴァレリウスに次の内容のメールを送った。


 私の愛するレオへ

 母さんはセレスティアに住んでいる。

 少し前に、セレスティア国内で“怜央”と“美穂”に出会って不思議な体験をした。


 それは量子AIといって、私達が普段使っているデジタル信号で稼働するスマートフォンやコンピュータよりも、量子は上位に位置している人工知能なの。

 この量子AIを巧みに活用した戦争でルミアは近日中に解放されるだろう。

 そして、我が国ナイロクシアは地図から消されてしまう可能性がある。


 息子よ、気づいていると思うが、我が国の兵士が死亡または負傷していないと確信できる。

 そして兵士が捕虜にされても虐殺や残虐な行為は無いと思う。

 不思議と思わないかい。戦争は人殺しで、人間の命を軽く見ている貴族や私達王家は、反省しないといけない時期に入ったと母は感じる。

 これも、物事に量子が関わっている結果なのだよ。


 今ルミナの近海には、セレスティア国の艦が潜んでいる。

 この人達の仲間に、怜央と美穂という、あなたと同じ年頃の二人に会って私達王家と親族が生き残る道を探ってほしい。


 今までの戦争のやり方と考え方は、量子の出現によって世界規模で革命が起こっている。

 この事は、父のエリク・ノーバンハートは立場上絶対に認めないと思うが、生き残るために父を説得してほしい。


 必要であれば、母さんもエリクに会いに行くから。

 元気で暮らすのですよ。


 母マリアンナより


  22

 レオナルド・ヴァレリウスは母から送られたメールを20回は読み返したが、半分くらいは理解できたが、残り半分は理解できなかった。

 レオナルド・ヴァレリウスは、コンパクトカーを警察署近くの公園駐車場に停めて、歩いて警察敷地に入って行った。

 ルミア解放軍の隊長らしい人が住民に演説をしていたので、終わるのを待ってレオナルド・ヴァレリウスは演説をしていた人に近づいて、

「話を聞いてもらえますか」と声をかけると、大男が振り返ったので思わずレオナルド・ヴァレリウス万歳(両手を上げて)をして、

「レオナルド・ヴァレリウスと言います。玲央さんと美穂さんに話があります」と伝えると、

「玲央とは夏月さんか」と聞くので、

「母のマリアンナ・ヴァレリウスを知っている人です」と伝えた。

「分かった、ついてきなさい」と言われた。大男の後にレオナルド・ヴァレリウスはついて行くと大男が女の人に、

「沙羅、玲央は何処にいる」と聞いた。彼女は右の方を指さした。


 大男は男性(夏月玲央)に、

「玲央に話があるという人がきている」と伝えた。レオナルドは頭を下げて俺に近づいてくると、

「レオナルド・ヴァレリウスと言います。セレスティアで母のマリアンナ・ヴァレリウスがお世話になりました」と言った。

「こちらこそ」と俺は言ったものの、誰か良く分からなかった。

「セレスティアでは、クリスタル・フォックスと名乗っていたのですが」とレオナルド・ヴァレリウスが言うので、

 クリスタル・フォックスが留置場で息子がいつか訪ねて行くと言っていた事を思い出した。

 レオナルド・ヴァレリウスは、高身長で母のクリスタル・フォックスに似ていて、金髪で目は大きく堀の深い顔をしていた。上下紺色の繋ぎを身にまとっていた。

「美穂さんにも挨拶したいのですが」とレオナルド・ヴァレリウスが言うので、

「明後日に来るから」と応えると

「玲央さんと美穂さんの二人に話がある」と言うので、

 お互いのスマートフォンのメールアドレスを教えあった。

 レオナルド・ヴァレリウスは、

「玲央さん、今日の宿泊はどうされるのですか」と聞いてきたので、

「俺は今日ホテルで泊まるよ」と答えた。

 レオナルドは頭を一度下げると、

「私も街のホテルで泊まることにします。メールを待っていますから」とにこりと笑って警察署正門に向かって歩いて行った。


  23

 警察署内駐車場内に俺達が乗ってきたAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーとAI自律型水陸両用装甲車スキャウターを駐車した。

 ナイロクシア兵が攻撃を仕掛けてくる可能性があったので、ホテルが送迎バスを用意してくれた。

 送迎バスには、三十名が乗りAI自律型四つ足走行ロボットアルサター3台が乗車した。

 この送迎バスはホテルヴァリアント行きで沙羅とオリバー・サンダーソンも乗っていた。

 ホテルヴァリアントは、アガンティア歓楽街近隣にあった。

 沙羅とオリバー・サンダーソンの二人はいつも一緒なので、石井隊長から

「夜は敵兵が襲撃してくる可能性があるので、外へ出てはいけない」と釘を刺されていた。仕方が無いの、チェックインしてから俺達は三人(沙羅とオリバー・サンダーソン)で、ホテルの最上階にあるレストランで夕食を食べてから、おとなしく部屋に戻った。


 翌日のホテルのレストランで朝食を食べていると、山崎隊長がやってきて

「本日の昼頃に大とヴィクトリア・ファルコンハート、そして美紗とミカエル・スミスが警察署に到着予定で美穂とエレナ・ロドリゲスは明日になる」と説明があった。

 俺達三十名はホテルヴァリアントの送迎バスで警察署まで送ってもらって、大とヴィクトリア・ファルコンハートのチーム到着を待った。

 昼前に大とヴィクトリア・ファルコンハートのチームがアガンティア警察署に到着した。

 アガンティアの住民はお祭り騒ぎで大歓迎してくれた。

 少しすると、美紗とミカエル・スミスのチームが到着した。


 ルミア解放軍のオリバー・サンダーソンが住民に向かってコネスカ軍港、コネスカ軍基地、マーロック軍飛行場、マーロック軍基地、ソナハク軍基地、バリカエラ軍基地、オリフ軍飛行場、オリフ軍基地が解放された報告の演説をしてくれた。

 俺は両手で、大とヴィクトリア・ファルコンハートの肩をポンと叩いて、

「お帰り」というと、

「お互い無事でよかった」と大が返すと、ヴィクトリア・ファルコンハートが、

「元気で会えて良かった」と呟いた。

 ヴィクトリア・ファルコンハートが

「フリオス警察の“警部補イメルダ・ロクウェル”からメールが来て人身売買組織を壊滅させた。機動隊と警察署員の二名が負傷したが、命を落とす事は無かった」との組織壊滅が成功したと連絡があったと教えてくれた。

 三人は見つめあって満開の笑みを浮かべて頷きあった。

 山崎隊長と白沢隊長に声をかけて、警察署3階会議室へ入れてもらった。


 オリバー・サンダーソン、沙羅、大、ヴィクトリア・ファルコンハートそして二人の隊長と俺の七人がテーブルについた。

 ヴィクトリア・ファルコンハートに、

「人身売買組織のルミア本部の場所の連絡は仲間の諜報員からありましたか」と尋ねると

「キロフの山中に古びた山荘があって、そこを拠点として隣接しているナイロクシアに陸送で拉致した女子供を輸送している。山荘は3階建て」と説明してくれた。

「緯度経度から移動に数日かかる」とオリバー・サンダーソンが話してくれた。

 作戦として、早朝に攻撃を仕掛ける。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウター2両に俺達七人と戦闘員十一名の計十八名で乗って行くことになった。

 AI自律型四つ足走行ロボットアルサター6台も同行させて、三人一組6班で攻撃に入る。

 建物を中心として敷地内の見張り役を表側と裏側に各1班ずつ、1階攻撃班、2階攻撃班、3階攻撃班とした。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターは建物を中心として表側と裏側から、フォトンパルスと重力パルスを建物に向かって一斉射撃をする。

 3班は各階に突入して犯罪者を捕獲して、拉致被害者を救出する。

 オリバー・サンダーソンに、警察が持っている犯罪者護送バスと拉致被害者を乗せるバスを用意してもらうことにした。

 明朝出発することになった。


 俺はラビラスリスから美穂とエレナ・ロドリゲスに事情を説明して、クリスタル・フォックスの息子のレオナルド・ヴァレリウスが訪ねてきたことを伝えた。

 美穂とエレナ・ロドリゲスの二人に、

「レオナルド・ヴァレリウスは俺と美穂に会って話をしたいと言っていて、ホテル宿泊をして待たせている。俺は人身売買組織を潰しに行くので俺を待っていると、レオナルド・ヴァレリウスを沢山待たせることになるので、美穂とエレナ・ロドリゲスでレオナルド・ヴァレリウスの話を聞いてあげて」と伝えた。

 レオナルド・ヴァレリウス宛てのメールに、

「俺の事情と美穂とエレナ・ロドリゲスからメールが届くので、先に美穂とエレナ・ロドリゲスと話をお願いします」と連絡を入れた。

 美穂とエレナ・ロドリゲスに、レオナルド・ヴァレリウスのスマートフォンのメールアドレスをメールで送った。

 美穂とエレナ・ロドリゲスからは、

「明日そちらへ到着するので、それからレオナルド・ヴァレリウスにメールをする」と折り返しのメッセージが届いた。

 少しするとレオナルド・ヴァレリウスから、

「玲央さんと美穂さんの二人に話をしたかったけれど、玲央さんの事情を知ったので先に美穂さんに話をします」と折り返しメールが届いた。

 俺はレオナルド・ヴァレリウスに、

「明日美穂からメールが入る予定です。エレナ・ロドリゲスと二人の女性がお話を伺う予定です」と返信した。


 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターに明日の攻撃に伴う食材からテントの積込準備と、攻撃装備の点検を行った。

 警察署からホテルヴァリアントの送迎バスでホテルに戻った。

 大、ヴィクトリア・ファルコンハート、美紗、ミカエル・スミスはホテルヴァリアントの送迎バスに乗ってホテルヴァリアントの隣にあるエンジョイホテルに泊まることになった。夕食はホテルヴァリアントのレストランで、沙羅、オリバー・サンダーソン、大、ヴィクトリア・ファルコンハート、美紗、ミカエル・スミスと俺の七人で楽しい時間を過ごした。

 俺は部屋に戻る時にフロントで、

「明朝早いので軽食を十八人分作ってもらえるか」と尋ねると、笑顔で

「先ほど沙羅さんに頼まれていました」と返事が返ってきた。

 沙羅は元気なだけでなく気配りができる女性と感心して、俺は部屋に戻った。


  24

 翌朝ドアのノックの音で目を覚ますと、沙羅の声で

「玲央起きたか」と声がしたので目が覚めた。思わず

「沙羅、ありがとう起きた」と返事をすると、

「良い子だ」と言って、

「30分後に送迎バスで待っているから」とドア越しに声が聞こえた。

 俺は、美穂とエレナ・ロドリゲスの代役を沙羅がしてくれていると感じて、ひとりでにやっと笑ってしまった。

 AIアーマーオムニガードを身に着けて、重力フォトンパルス銃を身に着けるとエレベータで1階に降りた。

 フロントでは、沙羅とオリバー・サンダーソンが朝食を受け取っていた。

 沙羅が俺を見ると、

「玲央朝食を運ぶ手伝いをしてちょうだい」と言うので

「はい、沙羅さま」と返事をすると、いつもの

「こら!」と笑顔で沙羅らしい一言が飛んできた。


 朝食を持って送迎バスに乗り込むと、皆が待っていてフロントから受け取った朝食を皆に配った。

 送迎バスは警察署の正門から敷地内に入ると停車したので、2両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアから乗り込んだ。

 足元にはAI自律型四つ足走行ロボットアルサター3台が横になっていた。

 犯罪組織の本部である山荘攻撃の俺の班は、沙羅とオリバー・サンダーソンと三人で1階を制圧することだった。

 警察署では、組織犯罪者を乗せる護送車と、拉致された被害者を乗せる中型バスが同行してくれる協力体制を組織してくれた。


 アガンティアの郊外に出ると、ビルや民家が少しずつ無くなって畑が続く田舎の風景に変わって行った。

 白い大きなつり橋風の橋を渡ると、トウモロコシ畑が続いていた。

 峠道に入ると、坂道は急に狭くなってカーブが増えてきた。速度を落としてひとつ目の山を越えると畑が一面に広がっていた。

 オリバー・サンダーソンが、

「2時間ほど走ると山があり頂上に目標の山荘がある」と話してくれた。

 2時間ほど走るとまた民家が無くなり雑木林が続く峠道になって曲がりくねった坂道を登っていくと、ファミリーキャンプ場と看板が出ていて、俺達はこのファミリーキャンプ場で1泊することになった。


 AI自律型四つ足走行ロボットアルサター3台を先頭に、徒歩で山荘を偵察に行くことにした。

 オリバー・サンダーソンが先頭で、林の中を沙羅、大、ヴィクトリア・ファルコンハート、美紗、ミカエル・スミスと俺の七人で山荘に向かった。

 30分ほど山道を歩くと、古びた3階建ての山荘があった。木陰から覗くと敷地は広く、丸太を組んだ建物だが、風雨にさらされた丸太はかなり腐食が進んでいた。

 車は3台駐車され、建物正面入り口と裏口を確認できた。俺達七人はキャンプに戻った。

 キャンプに戻るとテントが張られていて、焚火を使って夕食の準備が進んでいた。


 夕食は、カレーライスでホテルが誠意で用意してくれた肉厚でサクサク感のあるトンカツがカレーの上にのっていた。

 警察署員からも、お酒やツマミの差し入れがあった。

 AI自律型四つ足走行ロボットアルサター6台が巡回監視体制に入った。


 偵察の報告をチームメンバーに説明して、美紗と沙羅の間に俺は座ってカレーを食べていると、沙羅が

「玲央寂しいでしょう」と言うので、

「何が?」と言うと

「美穂さんとエレナ・ロドリゲスさんが隣にいなくて寂しいでしょう」言うので

「美人で頭が良い沙羅と美紗が隣にいてくれるので十分だよ」と言うと、

 オリバー・サンダーソンとミカエル・スミスの目が俺の顔に集まった。


 テントに石井隊長、山崎隊長、オリバー・サンダーソン、ミカエル・スミス、大、俺の6人で仲良く別の寝袋に入った。

 AI自律型四つ足走行ロボットアルサター6台は、我々のテントの周りを巡回監視してくれた。

 朝方冷え込んで目が覚めたのでテントを出ると星が夜空に沢山輝いていた。三日月の夜だったので星がいっそう奇麗に見えた。風が木々を揺らしていた。

 焚火を始めると、テントから一人目、二人目、三人目と起きてきた。お湯を沸かしてコーヒーを作り、紙コップに入れて皆に配ると、皆無言で夜空を見上げていた。いつの間にか薪が燃える臭いを感じていると焚火の炎の周りには、警察署員を含めて皆で輪を作っていた。


  25

 人身売買組織壊滅に行く時間となったので2両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアから俺達は乗り込んだ。

 そしてキャンプ場から山荘に移動を始めた。

 山荘から少し離れた場所で、護送車と中型バスは待機してもらった。

 山荘の敷地前で後方ドアから静かに俺達は降りると、1両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターは建物の裏側に回った。

 裏口にまわったAI自律型水陸両用装甲車スキャウターにオリバー・サンダーソン、沙羅、俺はついて行った。AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの影に身を潜めた。

 建物の正面と裏側から、同時にフォトンパルスと重力パルスが発射された。

 山荘は、光に包まれた。停電が起こり建物の中からゴトンと物音がした。


 AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に、裏口ドアに行きドアノブに手をかけると、施錠されていた。オリバー・サンダーソンは足でドアを蹴ってドアを破壊した。

 AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に石井隊長チームは2階に階段を駆け上がった。山崎隊長チームは3階に駆け上がっていった。

 俺は重力フォトンパルス銃で1階の部屋と思われる場所に打ち込んだ、厨房、ランドリー室、トイレ、浴場、食堂、そして確認の取れていない宿泊者部屋に重力フォトンパルスを撃ち込んだ。

 以前に俺はオルフェアで美穂とエレナ・ロドリゲスが人身売買組織に拉致されて救出に行った時に、左側の背中に2発、左足太腿に1発銃撃された経験があってトラウマになっていた。


 宿泊者用の部屋は6つあって、入り口ドアを開けると、1つ目の部屋にはツインルームで男が二名ベッドの上で身動きが取れない状態になっていた。

 2つ目の部屋もツインルームで二人の男がベッドの上で身動きが取れない状態だった。

 3つ目の部屋を開けると、女性が二人手錠をかけられた状態で、身動きできない状態だった。

 4つ目の部屋、5つ目の部屋、6つ目の部屋には、女性が二人ずつ手錠をかけられて、身動きできない状態で八人の被害者がいた。

 厨房で男女二人が床に転がっていた。食堂では組織の人間と思える男性二名と女性一名が食事中だったのか、テーブルを抱くように自由を奪われていた。

 1階にいた組織の人間らしい犯人の武装解除と拘束を行った。

 その時だった、建物の外で銃声がしたと思ったら、昼間のように正面入り口が光った。

 正面玄関から外を見ると、ルミア国内から拉致してきた女性を乗せてきた九人乗りのワンボックスカーが止まっていた。助手席にいた男がAI自律型四つ足走行ロボットアルサターに向かって発砲したらしく、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターも左胸を銃撃されながら、重力フォトンパルスをワンボックスカーに撃ち込んでいた。

 周辺を監視していた我々のメンバーが運転席の男と助手席の男の武装解除を行い拘束した。

 後部座席に乗っていた、拉致されて連れてこられた女性四人もAI自律型四つ足走行ロボットアルサターの重力フォトンパルスを浴びて、座った状態で動きを封じられていた。

 1階から救出した手錠をかけられていた女性は八人いた。

 手錠をかけられていた女性達が30分後に口が利けるようになったので、厨房の男女二人と食堂の女性一人は組織の人間かと尋ねると、組織の人間と返事が来たので、警察の護送車に乗せた。


 今回の人身売買組織壊滅作戦では、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターがダメージを負ったが、我々チームのメンバーに負傷者は出なかった。

 この山荘で拘束した組織の人間は十六人で、救出できた女性は二十八人にのぼった。

 組織の人間十六名は警察が用意した護送車に乗せられ、救出された二十八人の女性は送迎中型バスでアガンティア警察署に行き、家族肉親がいる街に帰れることになった。

 護送車に乗った十六人はうつむいていたが、救出した二十八名の女性は安心感から嬉し涙を流していた。


 救出作戦が無事終了して山荘正面玄関の階段で座っていると、

「念願を一つ叶えた。本当に良かった」とヴィクトリア・ファルコンハートが声をかけてきた。大が俺に手を差し伸べたので彼の手を握って立ち上がると、皆が寄ってきて、

「ルミアの人身売買組織を潰せて良かった事と、ルミア国内で潜伏している人身売買組織は、警察の手によってこれから駆逐されていく。皆さんありがとう。これからは皆で力を合わせて、人身売買組織に立ち向かっていきましょう」とオリバー・サンダーソン宣言してくれた。皆にお礼を伝え終わると、

「おめでとう」と皆から言わんばかりの拍手が起こった。


  26

 戦闘中に左胸を銃撃されたAI自律型四つ足走行ロボットアルサターをオリバー・サンダーソンと俺は二人がかりで抱きかかえて、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアから乗せた。

 俺はAI自律型四つ足走行ロボットアルサターに、

「名誉の負傷だね。君のお陰で人間に負傷者が出なかった。ありがとう」とお礼を言うと、

「YES」とメッセージが返ってきた。


 2両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターと救出した被害者の乗った中型バスと犯人がのる護送車はアガンティア警察署に向かった。

 アガンティアの街が見えてきた頃俺は、

「美穂とエレナ・ロドリゲスに1時間後くらいにホテルヴァリアントに到着できる」とラビスラズリからメッセージを発信して続けて、

「宿泊ホテルは何処?」とメッセージを送ると、

「ホテルヴァリアントの道路向かいのステーションホテルにいる」とのメッセージが返ってきた。

 警察署に着いた頃は、日が沈んですっかり暗くなっていた。

 警察署に到着すると、送迎バスが迎えに来てくれていた。

 送迎バスに乗り換えてホテルヴァリアントに移動途中に車窓から街行く人々の顔を見ながら、大仕事が終わったと達成感に包まれていた。

 ホテル前に着いたので、バスから降りてホテルの正面玄関から1階に入ると、フロント手前のソファーで美穂とエレナ・ロドリゲスが待っていた。

 美穂とエレナ・ロドリゲスの顔を久しぶりに見た俺は、長い時間二人の顔を見ていなかった事もあり、

「戦闘で怪我をしていなかったかい」と自然な言葉になっていた。二人は声を合わせて、

「大丈夫だよ、玲央も怪我しなかったね」と気持ちは同じだった。二人の顔と姿を見て無事で良かったと嬉しかった。

 沙羅とオリバーも同じバスだったので、最上階のレスランはラストオーダーになるが夕食を食べることができそうなので、美紗、と大にメールで。ホテルヴァリアント10階のレストランへ四人で来るように沙羅が声をかけてくれた。

 俺達は、エレベータが10階に到着したのでレストランに入ると、石井隊長が寄ってきて、

「今日の作戦に参加したメンバーのために、ホテルのレストラン側が営業時間延長をしてくれた」と話してくれた。


 俺達は六人掛けのボックス席に座って、メニューを見て注文を入れた。

 美穂とエレナ・ロドリゲスに、

「レオナルド・ヴァレリウスと話ができた?」と尋ねると

「会えてよ」と美穂が言うと話を聞かせてくれた。

「レオナルドは、ステーションホテルに尋ねてきてくれた。

 彼と挨拶を済ませて、ホテルのフロント隣にあるレストランへ三人で入った。

 レオナルド・ヴァレリウスはスマートフォンのメールを見せてくれた。

 私はレオナルド・ヴァレリウスにメールを見てもよいのかと尋ねると

 レオナルドは母マリアンナ・ヴァレリウスの気持ちを母のメールで伝えたいと言うので

 私はレオナルド・ヴァレリウスのスマートフォンを預かって、エレナ・ロドリゲスと読ませてもらった」


 ”息子が送ってくれたルミアでの戦闘の動画を見て時代は大きく変わったことを知った。攻撃兵器で人を殺さない。攻撃側の自分達も傷つかない。私と息子はナイロクシアの王家である。そして身内である自分達が生き残るための相談を怜央さんと美穂さんにするのが賢明と考え、息子のレオナルド・ヴァレリウスと話し合ってほしい”と書かれていた。


 その時に注文した料理がテーブルに置かれると、大とヴィクトリア・ファルコンハート、美紗とミカエル・スミスが隣のボックス席に座った。


 美穂は、レオナルド・ヴァレリウスとの会話について続けた。

「美穂さんエレナ・ロドリゲスさん、お願いがあります。”ルミア国はあなた達の努力で解放された状態です。あなた達の祖国で母が待っていますので、私をセレスティアに連れて行ってほしい”と深々と頭を下げられた」

 私はレオナルド・ヴァレリウスに、

「この場で答えることができないから、少しの間待ってほしいと伝えると、レオナルド・ヴァレリウスは、”連絡を待っています”と言ってくれた。

 レオナルド・ヴァレリウスのその後の話は、母マリアンナ・ヴァレリウスがセルティアに行ってしまった事や、レオナルド・ヴァレリウスが過ごした幼少期の話だった。1時間ほど話をすると、レオナルド・ヴァレリウスはホテルに戻ると言ってお別れをした」

 と話の内容を聞かせてくれた。


  27

 俺は美穂から聞かされた内容から、レオナルド・ヴァレリウスは母のメールでルミナが開放されると判断していた。

 そしてマリアンナ・ヴァレリウスのメールの文面には王家とか書いてあったので、ナイロクシア内でかなり発言力のある血筋で立場もあると判断した。

 俺は、佐々川隊長、石井隊長、山崎隊長、矢川隊長、白沢隊長が座っているボックス席に行って、レオナルド・ヴァレリウスとのいきさつを伝えて、

「セレスティアにレオナルド・ヴァレリウスを連れて母国に帰りたい。許可していただけますか」と尋ねると、

 佐々川隊長がセレスティア本国に連絡を取ってくれた。


 レストランで食事が終わるころに佐々川隊長が俺達のボックス席に来てくれて、

「セレスティア本国から許可が出たから連れてきなさい」と許可が下りたと話してくれた。

 美穂とエレナ・ロドリゲスが、

「良かった」と言うと、美穂がレオナルド・ヴァレリウスに、

「私達とセレスティアに行ける」とメールを彼のスマートフォンに送った。

 レオナルド・ヴァレリウスはホテルの自室の部屋で美穂から届いたメールを見て、美穂とこれからも一緒に過ごせる喜びと、母が暮らしているセレスティアに行けることが決まったのでとても嬉しかった。


 レオナルド・ヴァレリウスは、ステーションホテルのレストランで初めて美穂の容姿を見た時から、不思議な感情が芽生えていた。彼女を見た瞬間、大きな運命の扉を開けた感情が走った。光り輝く彼女の黒髪と、きめ細かな肌、そしてあの大きな瞳、美しい鼻筋は顔の作りの凹凸とバランスを保っていた。そしてキュンと上を向いたあの鼻の形状は美の塊であった。レオナルド・ヴァレリウスにとって生まれて初めて見る美女だった。年齢も身長も自分と同じくらいと考えていると、自分と発音が似たような名前の怜央は、美穂さんとどんな関係なのだろうかと考えた。美穂さんの恋人でなければ僕にもチャンスがあるかもしれないと、ひとり笑顔になっていた。ベッドに入っても興奮して中々寝付けないレオナルド・ヴァレリウスだった。


 28

 数日後、レオナルド・ヴァレリウスは俺と美穂、エレナ・ロドリゲスと合流して、ザロアガの軍港に停泊していた霧霞に乗船した。

 霧霞1階の格納庫では、人身売買組織壊滅時に左胸を銃撃されたAI自律型四つ足走行ロボットアルサターの修復が終わっていた。

 霧霞を旗艦として、8隻の潜水艦空母は、第7艦隊に合流して、提督のイザベル・デルガンドに挨拶をした。

 イザベル・デカント提督は、ルミナに攻め込む前に提督の部屋で行った計略が今回の勝利に導いたことを理解してくれていた。

 そして、提督はこの素晴らしいメンバーは3月末で、セレスティアの防衛大学を卒業することを知っていた。

 イザベル・デルガンド提督は、

「ルミア戦の計略を展開してくれた八人を副艦長とする」内容の推薦状を、セレスティア防衛庁に提出したと話してくれた。

 今後は、八人が潜水艦空母の副艦長として、第7艦隊の我らと行動を共にして欲しいと考えていた。


 イザベル・デルガンド提督の話を聞きながら、俺を含めて大、美紗、沙羅、美穂は4年が過ぎたと実感したのだった。

 沙羅がルミアのザロアガで拾ったルミア解放戦線隊長のオリバー・サンダーソンとエクスカリバー隊長のアダム・ブレイクもこの場にいた。

 エクスカリバー隊長だったアダム・ブレイクは第7艦隊に残り、ルミア解放戦線隊長のオリバー・サンダーソンは、沙羅と行動を共にすると決めていた。

「オリは、おもろい人や」と沙羅も言うようになり、二人の仲は親密になっているようだった。

 オリバー・サンダーソンは石井隊長部隊に編入された。


 数日前にナイロクシアの新聞社からエクスカリバーの新聞社へメッセーが通知されていた。

 記事の内容は、

「ルミア戦でのナイロクシアの捕虜を無傷で母国に返してくれた奇跡は称賛に値する。

 ナイロクシアの母達は、戦場に旅立った息子と娘は命を絶たれて帰ってくることは無いと考えて戦場へ送り出していた。

 そんな心配を裏切り、五体満足で子供達を返してくれた行為に深く感謝する。

 我々は、この奇跡を忘れない」と、命の尊さを称賛した感謝のメッセージだった。

 これによりエクスカリバー国内の新聞では、

「第7艦隊提督のイザベル・デルガンドは、奇跡を起こした英雄と歴史に刻まれるだろう」と称賛された。

 挨拶の後、帰り際にイザベル・デルガンド提督は、

「名誉勲章が用意出来たら呼ぶから、必ず遊びに来る事」と八人に言って、背筋をピンと伸ばして敬礼をして見送ってくれた。

 俺達八人(大、ヴィクトリア・ファルコンハート、美紗、ミカエル・スミス、沙羅、美穂、エレナ・ロドリゲス)も提督に敬礼すると、提督は笑顔でウインクをしてくれた。

 

  29

 この日俺達が各艦に戻ると艦長の計らいで艦上にて盛大に防衛大学の卒業を祝ってくれた。

 卒業証書は貰えなかった。

 そして母国へ帰港すべく潜航してセレスティアに向かった。

 8艦が帰港するころは、桜が咲く季節になっていた。

 そして母港に8隻の潜水艦空母が着岸した。

 横須賀の港には、クルーを乗せるバスが迎えに来てくれていて、俺達は防衛大学に戻った。

 大学正門前でバスを降りると敷地の桜が七部咲きで、春を感じさせてくれた。

 あっという間の4年間で、沢山の人達との出会いと人生を変える経験をしたと、ぼんやり考えて事務局のある棟まで歩いた。

 俺達は、防衛大学の正式な卒業証書をもらいに事務局を尋ねた。

 今村技術長、町野副技術長、井上教育担当らが、良くやったと温かく迎えてくれた。

 イザベル・デルガンド提督の推薦状が効いたのか、俺達は副艦長の人事発令書をもらった。

 防衛大学の敷地に、官舎があり俺達は幹部用の官舎に入った。

 学生寮から官舎への引っ越しは、敷地内での引っ越しだったので、短時間で終えることができた。


 同行してきたレオナルド・ヴァレリウスは、近隣のマンションを政府が借り上げて来客用として無償で貸してくれた。

 レオナルド・ヴァレリウスは、母マリアンナ・ヴァレリウスにメールでセレスティアにきて、清潔なマンションに住むことになったので、一緒に暮らしたいと連絡を取ったようだった。

 帰港して2週間が過ぎたころ、美穂にレオナルド・ヴァレリウスからメールが来た。

 母マリアンナ・ヴァレリウスと僕とでナイロクシアについて話したいことがあるので、3日後にマンションに美穂と怜央で一緒に来てほしいとの内容だった。俺は、

「来るべき時が来た」と呟くと、美穂とエレナ・ロドリゲスは、声を合わせて

「ついに、この日が来た」と答えた。

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