第4話 無血クーデター

  1

 霧霞艦内で北山艦長、宮下副艦長、佐々川隊長、白沢隊長、大、俺、美穂、エレナ・ロドリゲスと戦略担当のメンバーでインペリム戦略会議の話し合いが行われていた。

「先日会話をした時のブルー・ウィンドウの、体温や呼吸、脈拍、血圧といったバイタルサインを測定してくれたと思うけれど、真実を語ってくれたのだろうか」と俺はラピスラズリに聞いてみた。

「85%間違いなく信用できます。ですが戦略としては、私達自身でのフォトンパルスと重力パルスを使った作戦行動です。ブルー・ウィンドウには通信手段として、ターコイズⅡを渡してみましょう。このターコイズⅡはブルー・ウィンドウが完全に私達の同胞であることが認められるまで利用制限をつけて、それを渡します。それにより、ブルー・ウィンドウの本当の狙いが明確化されます。

 そしてインペリム国内の各基地(陸、海、空)の敵基地別の兵器規模と数に係る情報と緯度経度情報があれば、AI自律型無人戦闘機ストライカーで基地の軍備を無効化します。そのタイミングの時間帯は、クーデターの兵士は別の場所に避難してもらう必要あります。そして重力パルス発射後30分以内に敵側の兵士の武装解除を来ない拘束する必要があります。

 時間帯別に、攻めるインペリム国内の基地の攻撃スケジュール情報をブルー・ウィンドウに渡して、攻撃と敵兵捕獲のタイミングを取りながら基地の武装解除を進めていきます。

 AI自律型無人戦闘機ストライカー1斑3機編隊で、艦あたり9機搭載されている事から3班作れるので4艦のAI自律型無人戦闘機ストライカーは合計36機ある。12斑作れるので同時に12カ所の軍施設の武装解除ができます。

 インペリム国の有人戦闘機や無人ドローンの攻撃や高射砲の弾丸をAI自律型無人戦闘機ストライカーは防御をしながらの攻撃になるので、数機迎撃される可能性もありますが、これは仕方がない数値と判断します」とラピスラズリの回答があった。

 この作戦内容は関係者にメッセージは同時配信された。


  2

 「オルフェアが解放された後、人身売買組織を潰したいので力を貸してほしい」と俺は皆にお願いした。

「良い機会だから壊滅しよう」と北山艦長が快諾してくれた。

 俺は今解っている詳細を説明した。

「美穂とエレナ・ロドリゲスが人身売買組織に拉致されて救出したときに、犯人達のスマートフォンの電話番号を調べてアジトの場所を特定した。量子AIが探索した結果、人身売買組織はオルフェアのテネクレとインペリムのアコノームにあった。

 オルフェアで女性や子供を拉致して、陸上輸送でインペリム港町アコノームから船に乗せて、売り飛ばした顧客に船で輸送しているところまで突き止めた」と説明すると、

「私は売り飛ばされるところだった。売り飛ばされた子もいるのね。女と子供の敵を潰したい」と美穂は強い口調で声に出した。


  3

 俺と大の二人でブルー・ウィンドウと密会するために連絡を取った。

 スマートフォンのメールでブルー・ウィンドウに、先日話をした海岸にある青い屋根の漁師作業小屋で会いたいとメッセージを送った。もちろんこのメッセージは量子暗号化技術で固めたメッセージで、傍受しても読み取れない意味不明な記号の連続でしかなかった。

 AIアーマーオムニガードを装着した戦闘員二人と大、俺はAI自律型水陸両用装甲車スキャウターにAI自律型四つ足走行ロボットアルサター4台と搭乗した。

 大と俺は海上から陸上走行に入りアコノーム海岸の漁師小屋付近でと停車した。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアを開けるとAI自律型四つ足走行ロボットアルサター3台が偵察に出て行った。残りの1台は我々の防衛役として残ってくれた。

 一時すると3台は、安全確認が取れたと戻ってきた。

 戦闘員二人とAI自律型四つ足走行ロボットアルサター2台は小屋の周辺で待機してくれると言う。

 俺と大は、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後ろ側ドアから降りてAI自律型四つ足走行ロボットアルサター2台と小屋に入ってブルー・ウィンドウを待った。


 15分ほどするオートバイの単気筒エンジン音が聞こえると作業小屋の前でドコドコというエンジンが止まった。ブルー・ウィンドウがオートバイで作業小屋に到着したようだ。

 黒いフルフェイス型ヘルメットをかぶったまま、作業小屋のドアを開けて入ってきた。ヘルメットを取ると茶色い髪がパラリとおちて、ブルー・ウィンドウの顔は笑顔だ。

 グレーのスリムパンツとジャンパーを着ていた。

「こんにちは、連絡ありがとう」と彼女は挨拶をしたので、

「今日は来てくれてありがとう」と大が挨拶をした。

 彼女は、ポケットから先日のハンカチを出すと、

「あの時のハンカチ返します。ありがとう」と大に渡した。

 大が素直に受け取り、

「今日呼んだのはこれを渡すため」と言って、ケースをポケットから取り出すとターコイズⅡをケースから取り出した。

 大は彼女にターコイズⅡを渡すと、彼女は素直に手に取った。

「あなたのユーザーは、ブルー・ウィンドウです。認証開始」と大が伝えるとターコイズⅡは彼女の腕に巻き付きブレスレッド化した。

 ブルー・ウィンドウのスマートフォンにユーザー認証完了のメッセージが表示された。

 大は、彼女にこのブレスレッドは量子AIであること、ターコイズⅡとの会話の基本的事項を伝え、

「インペリム無血クーデターを進めるため武装解除を行いたいので、国内の軍基地、攻撃用ヘリコプター、無人戦闘機、有人戦闘機、潜水艦、巡洋艦、空母、ミサイル基地などの位置と規模情報データーをターコイズⅡ経由で伝えてほしい」とお願いをした。

「軍事施設無効化スケジュールに合わせて基地単位に体制を作ってほしい。後日にブルー・ウィンドウのスマートフォンに、このスケジュール送ることを約束する」と伝えた。


 大の話を聞きながら、彼女は思わぬプレゼントのブレスレッド、量子AIターコイズⅡを見ながら小さな子供のように欲しかった玩具を手に入れた少女のような笑顔で、目を輝かせながら大の話を聞いてくれた。

 30分ほどの会話が終わると、大と俺はブルー・ウィンドウと軽く握手をしていったんお別れの挨拶を交わした。

 彼女は、小屋の中で茶色い髪を巻き上げてフルフェイス型ヘルメットをかぶった。

 AI自律型四つ足走行ロボットアルサターの2台は、作業小屋のドアを前足で開けて、不審者がいないか偵察に行って安全確認を済ませて帰ってきた。

 作業小屋の扉を少しだけ開けて、ブルー・ウィンドウは監視されていないか、もう一度目配りしてから、オートバイにまたがり、セルスイッチをONにすると、キルキルといってエンジンがかかった瞬間、ドアの隙間から見送る大の顔を見て、ハンドルを握っていた右手の手のひらを一回だけみせてバイバイと言わんばかりの仕草をして街の方向へ走り去った。


  4

 俺達は、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗って、霧霞に戻った。

 艦に戻るとブルー・ウィンドウから大にメッセージが届いた。

「先ほどは素敵なプレゼントありがとう。これから良いチームメイトになりたいのでよろしく。またそのうち逢いましょう」というメッセージだった。

「わざわざ来てくれてありがとう。本件を頼みます。またお目にかかりましょう」と大はメッセージを返信した。


 計画は4艦別に4ルートからオルフェアの首都ジルバーゼに進攻する。

 美紗が乗る霧島部隊はシルステア海岸から進攻する。

 沙羅が乗る霧深部隊は、コレターノ海岸から進攻する。

 大と白沢隊長はAI自律型水陸両用装甲車スキャウターで、霧隠に戻りヒマロカ海岸から進攻する。

 俺達の霧霞部隊はカネローム海岸からアネクレを経由して首都であるジルバーゼに進攻する予定を立てた。


 朝6時になり霧霞の艦橋後方の格納庫1階のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに佐々川隊長チームと俺が乗り込むと美穂とエレナ・ロドリゲスがAIアーマーオムニガードを身につけて後方ドアから乗り込んできた。

 オルフェアの若者十一名もAIアーマーオムニガードを身につけて分散してAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗り込んだ。

「皆揃ったから出発、格納庫1階扉を開けてくれ」と佐々川隊長が言うと、格納庫1階の扉が観音開きで開いた。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターと、AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーの各4両が、格納庫から観音開きの扉の上面を走行して海面に着水した、空を見上げると曇りで気温は18度くらいだ。海上を海岸に向かって走行した。


 カネローム海岸に上陸した。

 街の手前でAI自律型水陸両用装甲車スキャウターを止めて、後方ドアを開いてオルフェアの若者が三人降りた。

 彼らは民家に入っていった。インペリムの基地がカネロームのどこにあるか民家を訪ねて聞いて回ってくれた。

 佐々川隊長、俺、エレナ・ロドリゲス、美穂の四人は、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターから降りて三人の若者と同行した。

 カネロームの警察署がインペリムの基地になっていて、車で15分ほどの距離に警察署があると民家の人が教えてくれた。


  5

 佐々川隊長は霧霞に、カネロームの街中にある警察署の位置情報を伝えて、AI自律型無人戦闘機ストライカー1斑3機編隊で攻撃の指示を出した。

 AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー4両を先頭に街に入ると、インペリム軍四輪駆動車1台が止まれと合図をして立ちはだかった。AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーからフォトンパルス砲と重力パルス砲から光に似たパルスが発射された。

 インペリム軍兵士は地面に倒れこむと自由を奪われた。

 同行していたオルフェアの若者数人が、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターから降りると、敵兵士の銃器類を取り上げて、結束バンドで手と足を拘束して、養生テープで口を巻き付けた。

 この場に居合わせたオルフェアの住民は何が起こったか分からなかったが、この住人の中には我々と同行してきたオルフェアの若者の顔を知る者がいた。

 住民が敵兵を拘束している若者に声をかけると、若者は事情を説明した。

 住民は敵兵の顔を見ると、眼だけが動いていたが体を動かすことができない状態だった。


 我々がカネローム警察署に到着する寸前に、インペリム軍四輪駆動車2台が待ち受けていた。

「止まれ、銃を発砲するぞ!」と拡声器から敵兵士の声が聞こえた。その瞬間にAI自律型無人戦闘機ストライカー1斑3機編隊が飛来してきて、フォトンパルス砲と重力パルス砲から光のようなパルスが発射された。

 敵四輪駆動車を走行不能にして、敵兵士は地面に倒れ込んだ。

 警察署の方向を見ると、AI自律型無人戦闘機ストライカーが、茶色の外壁をした鉄筋コンクリート3階建ての警察署上空から、フォトンパルスと重力パルスから光に似たパルスが発射された。

 先ほどの場に居合わせたオルフェアの住民が、我々の後をついてきて敵四輪駆動車2台に乗っていた敵兵の武装解除を行い拘束した。


 警察署の電力がフォトンパルスで停電状態となって建物内の照明が消えた。

 AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー4両が署内敷地に入ると、敵装甲車近くや4輪駆動車の近くで兵士が倒れていた。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後ろ側のドアを開けるとAI自律型四つ足走行ロボットアルサターが敵兵の動きを止める為に警察署建物に入っていった。

 俺達も後ろのドアから降りて、注意深く警察署内に入ろうとしたときに後方からオルフェア住民の歓声が聞こえた。

 振り返ると、住民は敵兵の武装解除と拘束を始めていた。住民の中には敵兵から迫害を受けた者がいたらしく、敵兵の頭を小突いている姿もあった。

 俺は住民が集団心理から暴走しないように、

「敵兵を殺さないでほしい」と声をかけると、ひとりが

「わかった!」と返事をしたので警察署の1階に入った。

 受付カウンターがあって、奥は事務室、通信設備室、電話交換室、交通監視センターになっていた。

 敵兵士が椅子に座ったままで自由を奪われていた。または床に倒れていた。

 俺達は、敵兵が潜んでいないか注意しながら奥に進んでいくと、

 銃声がしたので、その方向を見るとAI自律型四つ足走行ロボットアルサター1台の胴体が銃で撃たれた状態だった。

 その向かいには敵兵が一人床に銃を握ったまま倒れていた。相撃ちだったようだ。

 敵兵を拘束して、銃弾を受けたAI自律型四つ足走行ロボットアルサターに声をかけると、

「自律歩行ができません」と返事があった。

「少しここで待てるか」と俺は声をかけると

「YES」と返事があったので、俺はAI自律型四つ足走行ロボットアルサターの胴体部をポンと軽く触って立ち上がった。

 別のAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に階段を2階に上がると留置場になっていた。

 エレナ・ロドリゲスと美穂を2階で留置されている可能性のあるダック夫妻とジョン夫妻を探すように声をかけた。

 AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に3階へ階段を上ると、取調室、会議室、研修室があったが無人だった。その奥は食堂になっており厨房と食堂テーブルで何人か床に倒れていた。兵士は椅子に座った状態でテーブルに覆いかぶさっていた。床に倒れている兵士の姿もあった。

 敵兵の拘束を行い、2階に戻って監視室のキーボックスから留置場のカギを取り出した。

 鍵を使って留置場の鉄格子を開けていくと、美穂とエレナ・ロドリゲスの姿が見えたので、その場に行ってみるとダック・ロドリゲスとジョン・サンチェスが留置されていた。

 通路を挟んで向かい側にマリア・サンチェスとサミイ・ロドリゲスが留置されていた。俺は鍵を使って鉄格子を開けると、美穂とエレナ・ロドリゲスにマリア・サンチェスとサミイ・ロドリゲスがハグをしてきた。ジョン夫妻とダック夫妻の無事を確認できた。美穂とエレナ・ロドリゲスの目から涙が流れた。

 この警察署の留置場ではエレナ・ロドリゲスの兄を見つけることができなかった。


 留置されていたオルフェア住民全員を解放して、捕虜にしたインペリム兵士を留置場に入れた。

 敵兵の拘束を手伝ってくれたオルフェア住民は、警察署機能を復活させるというので任せることにした。

 カネロームの警察署はオルフェアの住民の手に戻された。

「この場に残ってマリア・サンチェスとサミイ・ロドリゲスと時間を過ごすかい?」と俺は美穂とエレナ・ロドリゲスに聞くと、

「父のダック・ロドリゲスと叔父のジョン・サンチェスが解放軍として同行するので、私も一緒に戦闘に参加する」とエレナ・ロドリゲスが言うので美穂の顔を見ると、

「一緒に行こう」と返事が来た。

「戦闘時は危険だからマリア・サンチェスとサミイ・ロドリゲスに家に帰るように」と俺が伝えると二人は、

「家で帰りを待つ」と言ってくれた。

 銃撃され走行不能となったAI自律型四つ足走行ロボットアルサター1台は、住民が車に乗せてマリア・サンチェスの家に届けると言ってくれたので任せた。

 警察署建物を出ると、オルフェア住民の解放軍がオルフェア警察車両に乗って同行すると言ってくれた。


  6

 次の攻略の街アネクレを経由して首都であるジルバーゼに向かうため、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後ろ側のドアから俺達は乗り、ジョン・サンチェスとダック・ロドリゲスは警察車両に乗り込んだ。

 アネクレの街へ行くには活火山の峠越えが必要だった。

 山の中腹には火山活動でできた湖があり、湖畔の道はアネクレの街に続いていた。

 カネロームの街を出て1時間ほど走ると、民家がなくなり峠道に変わっていった。空は相変わらず曇りの天気で気温は20度になっていた。

 突然、AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーからフォトンパルスミサイルと重力パルスミサイルが発射された。

 空を見上げると、俺達の車列後方から敵のジェットヘリコプターが攻撃態勢でこちらに向かってきたところだった。

 敵ジェットヘリコプターの手前で重力パルスとフォトンパルスのミサイルが爆発した。フォトンパルスと重力パルスの光で包まれると敵ジェットヘリコプターは速度を落としながらゆらゆら揺れながら最後尾にいた警察車両近くの地面に着地した。

 俺達は、着地したジェットヘリコプターの場所に駆け付けると、最後尾にいたオルフェアの警察車両に乗っていた解放軍の住民が降りて、ジェットヘリコプター機内にいた三人の敵兵士を引っ張り出して、武装解除と拘束を行っていた。

 俺と佐々川隊長は、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアを開けて降りると、

「敵兵士を警察車両に乗せてほしい」とダック・ロドリゲスにお願いした。

 敵のジェットヘリコプター機体を放置したままAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに佐々川隊長と俺達が乗り込んだ。

 峠道を登って20分ほど走ると大きな湖が見えてきた。湖畔の周りを少し走ると広い駐車場が見えてきた。

 そして、その駐車場に入ってAI自律型水陸両用装甲車スキャウターと警察車両を駐車した。

 佐々川隊長はAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアを開けて降りたので、俺も続いて降りた。

 先ほど捕獲した敵兵士が乗るダック・ロドリゲスが運転する警察車両に向かった。

 敵兵士は、警察車両の後部座席に三人押し込まれて、窮屈そうに座っていた。

「敵兵士は話ができそう?」とダック・ロドリゲスに聞くと、

「話ができる様子」と返事をしてくれた。

 佐々川隊長は敵兵士の口元に巻かれたガムテープを取ると、

「俺達に攻撃を仕掛けた理由を聞きたい」と伝えると返事が無かった。

 二人目、三人目も返事をしなかったので、敵兵士のポケットに入っているスマートフォンを探すためポケットを探って、三人が持っていたスマートフォンを没収した。


 佐々川隊長は、敵のジェットヘリコプターが攻撃態勢に入った2つの仮定を想定した。

「1つ目は、警戒任務中に我々を偶然見つけて、攻撃態勢に入った。

 2つ目は、軍司令部から偵察命令を受けて我々を発見して攻撃態勢に入った。

 いづれにしても、敵の軍司令部に我々の情報は伝わっていると仮定して行動すべきと判断した」と説明してくれた。

 今夜は、この駐車場から少し奥に入ったところに森林公園があるので、木々の下に車輛を分散して駐車して、翌朝アネクレに向かう事にした。

 俺達は、各車輛に戻って駐車場から森林公園の中に入り込んだ。できる限り木々が沢山ある場所に車輛を駐車した。

 我々がキャンプする場所を中心に丸い円で囲むようにAI自律型水陸両用装甲車スキャウターとAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーが外側を取り囲んで監視体制に入った。そしてAI自律型四つ足走行ロボットアルサターも巡回監視体制に入った。


  7

 六人用テントを俺、ダック・ロドリゲス、ジョン・サンチェスで組み立てたて、テントのロープを固定するペグを撃ち込み終える頃に、薪が燃える臭いがするので調理班の方を見ると美穂とエレナ・ロドリゲスは焚火を始めて夕食材料の下拵えを始めていた。

 俺達は、警察車両にポリタンクを積み込んで、湖畔の駐車場に向かった。

 ダック・ロドリゲスが運転してくれる車は駐車場脇にあったトイレの建物手前にある水道の蛇口から8缶の2Lポリタンクに水を貯めた。それを車に積み込むとダック・ロドリゲスの運転でテント場に戻った。

 調理班の場所に行くと、薪を焚いている匂いとカレーの臭いが立ち込めていた。人数分の米を炊きながらカレーを煮込んでくれていた。

 美穂とエレナ・ロドリゲスが体を拭きたいと言うので、

「先ほど組み立てたテントの中で」と美穂が言うと、ダック・ロドリゲスが先程汲んできた水の入ったポリタンクを持ってきてくれたので、俺はポリタンクをテントの中に運ぶと二人はテントに入っていった。


 二人がテントから出てくる頃に米が炊き終わりカレーが出来上がったので、紙制の皿に盛り付けが始まっていた。

 夕方となっていたので、俺はテント前に行きオイルランプを取り出して火をつけると、オレンジ色の光が周辺を照らした。

 紙製スプーンと盛り付けが終わったカレーライスを各自手にもって、適当な場所に座り込んで食べながら雑談をして、ホッと一息入れる時間を過ごした。

 ダック・ロドリゲスとジョン・サンチェス、美穂、エレナ・ロドリゲスと俺は、同じテントで寝ることにした。五人はテントに入り寝袋を広げた。テントの入り口から空気が流れ込むようにして、俺はオイルランプをテントに持ち込み、天井部分のフックに吊り下げた。テント内にはオレンジ色の光に包まれた。

「オイルランプの光もいいものだ」とジョン・サンチェスが言うと、

「今日の出来事が嘘のように感じる」と美穂が話した。

「皆一緒に帰ろう」とエレナ・ロドリゲスが話してから1時間ほど雑談をしているとオイルランプの灯が消えて寝入った。


  8

 山の気温は平地より下がるので、午前3時ごろ冷え込んで目が覚めた。俺はテントから外に出ると雲が無く沢山の星が輝いていた。深呼吸をすると木々の緑の匂いがする。吐く息は白く冷え込んだからこそ見える星空だと思った。

 焚火場に行き火を起こしていると、

「寒い!寒い!」と美穂がやってきたので

「火を起こすから」と言いながら小枝が燃え出したので少しずつ太めの木々を焚火台に乗せていく。

 火はかなりの勢いでパチパチと音を立てて燃え出した。薪が燃える炎であたり一面を照らしている。

 風で木々がサラサラと音を立て、梟がホウホウと鳴いている。

「姉弟じゃなかったら良いのに」と美穂は俺に体を寄せてきてポツリと言ので、美穂の手を握り、

「俺も美穂の恋人でいたかった」と伝えて、焚火の炎を見ながら少しの時間を過ごした。ぼんやりと姉弟と言う壁で俺達は恋人になれない辛さをお互いに感じていると思った。どうしようもない事と割り切るしかないと焚き火がパチパチと音を立てて燃えていく様子と、薪の煙の匂いを感じながら星を眺めて二人は同じ気持ちで時を過ごした。


 エレナ・ロドリゲスとダック・ロドリゲス、ジョン・サンチェスがテントから出てきて、朝食を作ろうと言うのでお湯を沸かしてパンを焼いていると、他のテントからもチームメイトがやってきて、複数の焚火台に火が入り朝食を作り皆で食べた。

 食べ終えると、テントの撤収や焚火台の火の始末を行い、出発準備ができた頃は薄明るくなって空の星達の光も薄くなっていた。

 敵の襲撃もなく安全な一夜を過ごすことができた。

 キャンプ関連の撤収を終えると、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗り込んだ。

 前方と後方をAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーが固めて、警察車両とAI自律型水陸両用装甲車スキャウターを囲むように湖畔を通りすぎて峠を降りていく。

 峠を下り終えるとブドウ畑が続く平地に出た。

 30分ほど進んでいくと大きな川に橋かかっているのが見えてきた。


  9

 「あの橋を渡るとアネクレの街に入る」と佐々川隊長が言うと、

 突然、AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーからフォトンパルスミサイルと重力パルスミサイルが発射された。

 空を見上げると、敵のジェットヘリコプターと複数のドローンが点の集合体に見えた。そこに向かってミサイルが飛んで行くと、集団で飛行してくる敵の機体一帯が光に包まれた。

 敵有人ジェットヘリコプターから無線LAN経由で攻撃型ドローンに指示を出しているネットワークで結ばれた無人攻撃型ドローンが向かってきたところに、パルスミサイルが爆発し、フォトンパルスと重力パルスによって飛行できなくなった。有人ジェットヘリコプターと無人攻撃型ドローンは速度を落としながら木の葉のようにゆらゆら揺れながら地面に着地した。

 フォトンパルスは敵機体の電子を消滅させて搭載制御コンピュータをシャットダウンしたので、敵ジェットヘリコプターと攻撃ドローン間通信を遮断した。上空を飛ぶ無人攻撃型ドローンは20機ほどの集団だったが、機体に搭載されている制御コンピュータにプログラムが常駐しているCPU、ROMとRAMの内容を消去したので敵ジェットヘリコプターと攻撃ドローンはコントロール不能になり、無人攻撃型ドローン20機ほどは、飛行不能となり地上に木の葉のようにパラパラと落ちていった。有人ジェットヘリコプターの敵兵を無事に地上に着地させた。

 警察車両とAI自律型水陸両用装甲車スキャウターから俺達は降り、敵兵士の武装解除を行うと手足を結束バンドで縛った。

 佐々川地長は少し考えた後、この敵ジェットヘリコプターに乗っていた三人と昨日捕虜にした三人を警察車両2台に乗せて、アネクレの街に行く事にした。


  10

 アネクレの街の手前でAI自律型水陸両用装甲車スキャウターが停止して、後方ドアを開いてオルフェアの若者が数人降りた。

 彼らは民家に入っていきインペリムの基地がアネクレのどこにあるか民家を訪ねて聞いて回ってくれた。

 佐々川隊長、俺、エレナ・ロドリゲス、美穂の四人は、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターから降りて三人の若者と同行した。

 アネクレの警察署がインペリムの基地になっていて、車で20分ほどの距離に警察署があると民家の人は教えてくれた。

 佐々川隊長は霧霞に、アネクレの街中にある警察署の位置情報を伝えて、AI自律型無人戦闘機ストライカー1斑3機編隊で攻撃の要請を出した。

 AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー2両を先頭に街に入ると、先頭のAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーがインペリム軍装甲車から砲撃を受けた。AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーのキャタピラーに砲弾が直撃し動きが止まった。2両目のAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーからフォトンパルス砲と重力パルス砲が発射され、光に包まれたインペリム軍装甲車の動きが止まった。

 同行していたオルフェアの若者数人が、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターから降りると、敵装甲車のハッチを開けて敵兵士を引きずり出した。銃器類を取り上げて、結束バンドで手と足を拘束し、養生テープで口に巻き付けた。

 この場に居合わせたアネクレの住民は何が起こったか判らなかったが、オルフェアの警察車両からジョン・サンチェスとダック・ロドリゲスが降りてきてアネクレの住民にカネロームを開放した経緯を説明した。アネクレの住民の中に同行したいと有志が現れたので、警察車両に乗せていた捕虜六人を彼らに預かってもらった。有志は敵基地攻略後に敵兵を連れて行くと約束した。

 キャタピラーに被弾したAI水陸両用戦車は、アネクレの住民が経営する工場倉庫に、戦闘が終わるまで預かってもらう事になった。


 アネクレの街中にある警察署が見えてきた。

 AI自律型無人戦闘機ストライカー1斑3機編隊で警察署上空から攻撃体制に入り急降下してフォトンパルスと重力パルスを建物に向かって発射したので、建物一帯が光で包まれた。

 警察署に近づくと濃紺色の外壁をした鉄筋コンクリート4階建ての警察署だった。

 俺達は、警察署正面から入ろうとすると敵戦車2両と装甲車2両が入り口を塞ぐ形で駐車されていた。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアを開けると、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターが敵兵の動きを止める為に警察署建物に入っていった。


 俺達は、AI自律型水陸両用装甲車スキャウター後方ドアから降りると、注意深く周りを確認しながら敵戦車のハッチを開けて戦車内を覗くと敵兵の姿があった。重力パルスによって体の自由を奪われていたので、敵兵を引きずり出そうとモタツイテいるとアネクレの住民達が何人か近づいてきて、

「俺達で拘束するから警察署内に入ってくれ」と言うので、

「敵兵は30分すると体が元通り動くので気を付けて」と言うと

「了解」と返事があった。

 この場は彼らに任せてAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に警察署入り口から室内に入ると、受付カウンター付近で倒れている敵兵士と署内の机に覆いかぶさるようにうつ伏せになっている敵兵士の武装解除と拘束をチームメイトがすでに始めていた。監視センター、電話交換室、コンピュータ室があったが全ての電源は落ちていた。椅子に座って身動きができない敵兵や、床に倒れて身動きの取れない敵兵が見て取れた。

 1階敵兵の拘束はチームメイトに任せて、俺達はAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に階段を登って2階に行くと男性の留置場だった。監視敵兵が倒れていたので武装解除と拘束を始めると、アネクレの住民達が階段を登ってきて住民の一人が管理室に行き牢屋の部屋の鍵を持ってきて解錠を始めた。

 男性住民の解放を彼らに任せて、俺達はAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に階段を上がって3階に行くと女性の留置場で牢屋が並んでいた。監視兵士が床に倒れていたので俺は武装解除と拘束を始めた。

「美穂とエレナ・ロドリゲスに管理室に行って牢屋の鍵を持ってきて解錠してほしい」と伝えると、美穂とエレナ・ロドリゲスは管理室に入るとキーボックスから鍵を持ちだして、女性住民牢の扉の解錠を始めてくれた。

 俺と佐々川隊長は、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に階段を登ると、4階は食堂と仮眠室になっていた。

 食堂で体の自由を無くした兵士を確認して、仮眠室に入ると2段ベッドが8つ並んでいてカーテンで仕切られていた。ベッドには敵兵士が五人横たわっていた。ベッドの兵士を確認しているとアネクレの住民達が部屋に入ってきたので

「敵兵士の武装解除と拘束して敵兵士を牢屋に入れて施錠するよう」佐々川隊長から住民にお願いした。


 この警察署に来る途中で捕獲した六人の捕虜も、預けていた住民から引き渡されたので署内の牢屋に入ってもらう事にした。

 警察署内の階段を下りて1階出口から外に出ると、牢屋に入れられていた人達の肉親が待っていて、解放されたことでアネクレの住民が歓喜の声が上がって喜んでいた。

「ありがとう」と沢山の声を俺達は聞くことができて穏やかな気持ちになれた。

 警察署はアネクレの住民達の元に戻った。

「我々と行動を共にしたい」と住民から有志が現れ警察車両で同行したいと言うので、佐々川隊長は断る理由が無いからと快諾した。

「ようやくここまで来ることができた。首都のジルバーゼへ向かおうか」と俺は言うと、

「皆が力を合わせた結果だ。よく頑張った」と佐々川隊長が労いの声をかけてくれた。

 この時、美穂とエレナ・ロドリゲスがハイタッチをしたので、俺も参加して三人は笑顔になれた。

 俺達はAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアから車輛に乗り込んだ。


  11

 俺達はアネクレの街を出て一面に広がる麦畑を通リ抜け、草原を走り山道の峠に入り頂上付近まで登ると、広めの広場があったのでAI自律型水陸両用装甲車スキャウター、AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー、警察車両が広場に駐車した。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアを開けて降りると、空に雲が浮かんでいた。

 頂上付近からの見晴らしは良く、首都のジルバーゼの街並みを望むことができた。

 AI自律型四つ足走行ロボットアルサター2台に林の中でキャンプができる場所を探しに行ってもらった。

 10分ほどすると戻ってきて、少し山を下ったところに森林公園があり水場とトイレがあると教えてくれた。

 俺達は、各車輛に乗り込むと教えてくれた森林公園に向かった。


 森林公園は首都のジルバーゼの水がめにあたる大きな貯水池があり、その先はダムになっていた。

 湖畔を横断しているダムの道路を走った。湖沿いを進むと林に覆われた施設があって奥にはキャンプ場が見えた。

 森林公園内の小高い丘の上にある施設が見えたので管理人へ挨拶に行く事にした。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターから降りて、AI自律型四つ足走行ロボットアルサター2台と一緒にこの施設まで歩いた。

 建物は木造二階建てで、山の傾斜を利用して建てられており2階が出入口となっていた。

 1階の窓から覗くと宿泊用の部屋、風呂、厨房、食堂になってる。

 2階は管理人室があり観光客に開放されているコミュニケーションルームになっていた。ラックには観光マップや冊子が棚に並べられていた。

 2階の入り口から入ろうとしたが施錠されていた。2階の建物の外側を歩いて窓枠に手をかけてみたが施錠されていた。

 2階建物から傾斜になっている山坂を降りて1階に行って、外側から厨房の出入り口や部屋の窓に手をかけてみたが施錠されていた。

 建物の1階から山肌の坂を上って2階の入り口に戻って、

「誰かいませんか」と声をかけてみたが反応が無かった。

 この森林キャンプ場施設の管理人は留守のようだった。

 俺達は車両をできる限り目立たないように木々の下に駐車してキャンプの準備に入った。


「3つの部隊と連絡を取ってくれ」と佐々川隊長がやってきて言うので、大、美紗、沙羅がどこにいるかラピスラズリを介して尋ねると、3つの各部隊は首都のジルバーゼを囲い込むように、キャンプを張って俺達の連絡待ちだったとメッセージをくれた。

 3つの部隊は、3つの空軍飛行場のあったトバルネ、モルグア、スイカレの攻略が終わった事を教えてくれた。

 佐々川隊長と3つの部隊長が話し合いを行って、明日早朝6時にジルバーゼ近郊の東西にある2か所のインペリム軍空軍基地に対して、大と美紗の2部隊が攻撃を仕掛けることになり、沙羅と俺達の部隊は、ジルバーゼインペリム軍基地を攻略する計画になった。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターから飲料水用のポリタンクを出して、隊長と俺の二人は炊事場に行き水をポリタンクに入れてテント場に運んだ。

 テント場では、テントが張り終わって焚火を始めていた。

 俺達のテントは、ダック・ロドリゲスとジョン・サンチェスが設営してくれた。美穂とエレナ・ロドリゲスがテント寝袋やオイルランプを運び込んでいた。


 アネクレから同行してくれた若者がやってきて、一緒に自分が乗ってきた警察車両まで来てほしいと言うので、若者について行った。

 警察車輛のトランクを開けると、ポータブル冷蔵庫が乗っていた。若者は冷蔵庫のドアを開けると合挽きミンチの塊が入っていた。

「皆でハンバーグを作って焼こう」と言ってくれた。

「ヤッター!」と俺は叫んでしまった。アネクレの若者は、

「街を開放してくれたお礼」と言うので、

「ありがとう」と言って、合挽きミンチの塊と玉ねぎなどの野菜を持って炊事場に運んだ。

 美穂とエレナ・ロドリゲスも俺の声を聞きつけてやってきたので、四人は手を洗って野菜をみじん切りにしてハンバーグの仕込みを始めた。

 ハンバーグを焚き火で焼きながら、米も炊き上がったので、各自の紙の皿への盛り付けを済ませると、先ほどのアネクレから同行してくれた若者が、赤ワインを1ダース警察車両に乗っていたアイスボックスから運んできてくれて、皆に飲んで食べてほしいと赤ワインを紙コップに注いでくれた。

「アネクレ解放に乾杯」と彼が言うと、

「乾杯」と皆で唱和してワインとハンバーグで夕食を食べた。

 食べ終えた頃、佐々川隊長から、

「明朝3時30分起床、4時30出発、6時に首都のジルバーゼインペリム軍基地を沙羅と俺の2部隊で攻略し、首都のジルバーゼの東西にあるインペリム空軍基地2か所を大と美紗の部隊が攻撃することになった」と明日の攻撃について説明してくれた。


 キャンプ場所を中心にAI自律型水陸両用装甲車スキャウターとAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーで囲い込むように固めて監視体制に入り、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターが巡回監視を行った。

 俺達五人(ジョン・サンチェス、ダック・ロドリゲス、美穂、エレナ・ロドリゲス、俺)は、同じテントで寝袋に潜り込んだ。エレナ・ロドリゲスがオレンジ色のオイルランプを見つめながら

「明日でオルフェアが植民地から解放される記念すべき日になると良いよね」と言うと、

「必ず独立記念日にしよう」とダック・ロドリゲスが返事をした。オルフェアが植民地化されていなかった頃の自由で幸せだった話をダック・ロドリゲスとジョン・サンチェスがしてくれた。

 俺は話が子守歌のようになり、夢の世界に入っていった。


 深夜、外が騒がしいので俺は目を覚ましてテントの外に出ると、懐中電灯の光が交差していた。

 懐中電灯が見えるチームメイトの方へ走っていくと、十六人の敵兵が銃を持って倒れていた。

「敵の襲撃を受けた」と佐々川隊長が近くにきて話してくれた。

「敵に居場所が漏れた」と佐々川隊長が言うと、

「明日は我々だけで首都のジルバーゼインペリム軍基地に行く」と俺に囁いたので、俺も直感的に妥当な選択と思った。

「このキャンプの中に敵に居場所を伝えた者がいると判断した」と言うので、

「了解」と小さな声で答えて敵兵の武装解除と結束バンドで拘束を行った。

 巡回監視をしていたAI自律型四つ足走行ロボットアルサターが襲撃を防いでくれた。お手柄で我々の損害は無かった。

 テントから皆が出てきて、敵兵の拘束を手伝った。

「明日オルフェアの皆さんは、この捕虜十六人を連れてアネクレに戻ってほしい」と佐々川隊長が伝えた。 

 出発予定時間には早かったがテントの撤収を行い、オルフェアの住民は今ほど捕獲した十六人を分散して警察車両に乗せて、アネクレとカネロームの街に戻っていった。

 ダック・ロドリゲスとジョン・サンチェスは俺達三人(エレナ・ロドリゲス、美穂、俺)にハグをして、カネロームの我が家で待っていると言い残して、街に戻っていった。

 エレナ・ロドリゲスの顔を見ると、寂しそうな顔をしていたので、美穂と俺はエレナ・ロドリゲスの両側から肩を抱いた。

 残された俺達は火を起こして朝食作りをしながら、今日の大仕事に向けてチームメイトは気持ちを新たにするのだった。


  12

 佐々川隊長は霧霞に、首都のジルバーゼインペリム軍基地の位置情報を伝えて、AI自律型無人戦闘機ストライカー1斑3機編隊で6時に攻撃の要請を出した。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターに俺達は乗り込んで、ダム湖から山道をジルバーゼに向かって下って行った。

 30分ほど走ると、川幅がある大きな川が流れているのが見えて、そこに水色の橋が架かっていた。

 先頭のAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーが橋に1両目入って、2両目が入った瞬間に橋が爆破されて2両のAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーが川に落ちて行った。

 2台は濁流に流されていくが川の流れが速く見守るしかなかった。

 俺達の乗るAI自律型水陸両用装甲車スキャウターは急停止した。

 後方にいたAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーはバックして方向転換した。続いてAI自律型水陸両用装甲車スキャウターもバックして方向転換した。

 橋を爆破した敵兵を探したが見つける事が出来なかった。

 橋が無くなったが河川敷に降りて、対岸へは川を水陸両用車輛なので渡った。


 ラピスラズリをから川に落ちた2両のAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーに連絡要請すると、1両目からメッセージが届いた。

「下流に流されたが、態勢をたて直して岸に上がった」と言う。

 2両目から応答を待つと、

「走行不能だが、なんとか川から脱出して河川敷の陸地にいる」との事だったので、メッセージをくれた2両目が橋の爆発時の先頭車両だったと思った。

「戦闘終了後迎えに行く」と2両目に伝えると、

「YES」の返事が来た。

「合流するから進んでくれ」と1両目からメッセージが届いた。

「YES」と俺はメッセージを返した。


  13

 ジルバーゼの街に入ると上空をAI自律型無人戦闘機ストライカーが飛んで来ると、目の前でフラッシュのように光った。敵部隊の待ち伏せを排除してくれたと考えて、先ほどのフラッシュのように光った場所に行くと、敵戦車、敵装甲車が停止していた。敵兵も地面に倒れていた。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後ろ側のドアを開けると、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターが飛び出していった。一呼吸おいて、俺達が外に出るとジルバーゼ住民達が遠くからこちらの様子を窺っていた。

 俺達は、敵兵を戦車と敵装甲車から引きずり出して、武装解除と結束バンドで拘束を行った。

 敵兵をまとめて一か所に集めると五十人前後を拘束した。


 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗ろうとすると、エレナ・ロドリゲスの名前を呼ぶ女性がいた。俺達はその女性の方を見ると、エレナ・ロドリゲスは嬉しそうにその女性の方に小走りをして行くとハグをした。

 会話を始めたので、

「エレナ行くぞ」と言うと、

「少し待って」と言う仕草をこちらにするので、エレナ・ロドリゲスが戻るまで待った。AI自律型四つ足走行ロボットアルサターと我々のチームメンバーは既に乗って俺達を待っていてくれた。

 エレナ・ロドリゲスと彼女がやってきて、

「兄のお嫁さんでカリナ・ロドリゲスです」と紹介された。

 エレナ・ロドリゲスの兄はこれから攻撃するインペリム軍基地に監禁されていると話を打ち明けてくれた。

「ジルバーゼ住民に植民地からの開放に来た」とカリナ・ロドリゲスに手短に伝え、

「カリナ・ロドリゲスを通じてこの町の住民に我々の行動に協力してもらいたい」とお願いした。エレナ・ロドリゲスはカリナ・ロドリゲスに、

「また後で会おうね」と手を握って言うとAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗りこんだ。


 街中を10分ほど走行して停止したので、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアを開けると沙羅が寄ってきて、

「遅かったじゃない!」と言うので、沙羅の真似をして俺は、

「えへへ」と笑うと、

「一本取られた!」と沙羅が笑った。沙羅の笑顔は最高で緊張が和らいだ。


 ジルバーゼインペリム軍基地は、金網の柵で囲まれていて、柵の上には有刺鉄線が張り巡らされて監視カメラが設置されていた。入り口正面の検問所には敵兵が二人地面に身動きができない状態で拘束されていた。

 基地内を見ると既にAI自律型無人戦闘機ストライカーによって待ち構えていた敵小隊は戦闘不能となっていた。

 佐々川隊長は、捕虜拘束にもう少し時間がかかると考えて、

「皆、この場から一旦退避してくれ」と声をかけてAI自律型無人戦闘機ストライカーにもう一度攻撃を要請した。一旦我々はこの場から離れた。

 空中でホバリングしていた2班6機のAI自律型無人戦闘機ストライカーは一斉にフォトンパルスと重力パルスを建物と敷地内に撃ち込んだ。

 軍基地全体が光った後、AI自律型無人戦闘機ストライカー2班6機は潜水艦母艦に帰還していった。

 そのころ、ジルバーゼ近郊の東西にある2か所のインペリム軍空軍基地に対して、大と美紗の2部隊が攻撃を仕掛けていた。

 2班6機のAI自律型無人戦闘機ストライカーはオルフェア最後の東西2か所の空軍基地にフォトンパルスと重力パルスを撃ち込んで、敵戦闘力をそぎ落として敵兵の捕獲に入っていた。


  14

 沙羅と俺達の2部隊は、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に正門から突入していった。重力パルスによって敵兵士は地面に倒れていた。フォトンパルスによって、電力供給は止まり全ての通信とコンピュータ関連は停止していた。

 後ろを振り返ると、ジルバーゼ住民がやってきて拘束を手伝うと言うので、結束バンドを彼らに渡した。

 軍司令部だけあって5階建てで大きな建物だ。外壁はコンクリート色の建物だった。

 敵の戦車や装甲車が8両格納庫に収められていた。

 石井隊長が率いる沙羅のチームは敷地内の敵兵士の捕獲を行い、俺達佐々川隊長が率いるチームは建物内の敵兵士の捕獲を行うことになった。

 AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に1階入り口から中に入ると、カウンターがあって受付窓口となっていた。

 カウンターの上側は金網で囲まれていた。

 カウンター越しに覗くと、椅子に座った状態で机を抱くように自由を奪われている敵兵、床に倒れている敵兵が見て取れた。

 ジュルバーゼ住民が入り口から入ってきたので、結束バンドを住民に渡して1階の敵兵拘束と捕獲をお願いした。

 カウンターの両サイドにドアがり、事務室に入ることができたので、ジュルバーゼ住民達は捕獲を始めてくれた。

 1階は事務室、会議室、研修室があった。

 その奥に2階に登る階段があったので、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを2階に登らせて様子見に行ってもらい、続いて俺達が2階に行くと交通監視センター、通信設備室。コンピュータ室になっていた。壁の大きな表示パネルには市内の監視カメラ映像が映し出される仕組みのようだが、電力供給は断たれていた。表示パネル装置が並びコンソール専用卓が並んでした。

 敵兵は表示パネル装置前の操作卓でうつ伏せになって動きを封じられていた。

 隣に部屋があったので入ってみると戦略ルームらしく防衛や攻撃のシミュレーションを行う部屋で誰もいなかった。

 別の隣の部屋に入るとレーダーを使って監視を行う部屋で、コンソールディスプレイの前で兵士が机を抱きかかえるように、体の動きを封じられていた。

 部屋から出ると、ジルバーゼ住民が2階の敵兵士の武装解除と拘束を進めていてくれた。

 3階に行く階段を、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターに続いて登っていくと、男性の留置場があった。

 敵監視兵が地面に倒れているのを確かめると、エレナ・ロドリゲスと美穂は監視室に行きキーボックスから留置場の鍵を取り出し男性の牢に行き鉄格子を解錠していった。

 敵監視兵の武装解除と拘束を進めていると、

「兄さん!」とエレナ・ロドリゲスが叫ぶ声がした。

 俺と美穂がエレナ・ロドリゲスの場所に行くと、エレナ・ロドリゲスと目のあたりが似ている男性が倒れていた。目は動いていたので彼はエレナ・ロドリゲスにウインクをすると、

「もう少しで重力から解放されるから」と兄さんに伝えた。

 エレナ・ロドリゲスは、他の鉄格子の解錠を始めたのでエレナ・ロドリゲスと美穂を3階に残して、俺達は4階に行くことにした。

 4階に行く階段を、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターに続いて登っていくと、そこは女性の留置場だった。

 敵監視兵が地面に倒れているのを確かめると、俺は監視室に行きキーボックスから鉄格子の鍵を取り出すと佐々川隊長とチームメイトがやってきて女性の牢に行き鉄格子を解錠していった。

 ジルバーゼ住民が4階に来てくれたので、彼らに敵兵の拘束を頼んで、5階に行く階段をAI自律型四つ足走行ロボットアルサターに続いて登った。

 5階は、厨房、食堂、トレーニング場となっており、奥は仮眠室になっていた。

 AI自律型四つ足走行ロボットアルサターがすべての部屋の安全を確かめてきてくれた。

 仮眠室と厨房、食堂では敵兵がテーブルの上にうつ伏せになっている。また床に倒れている兵士もいた。仮眠室ではベッドの上では敵兵は身動きを封じられていた。

 5階の敵兵の拘束が終わり、1階に階段で降りて建物から出ると沢山のジルバーゼ住民が、

「ありがとう」と迎えてくれた。

 AI自律型無人戦闘機ストライカーが帰艦して30分が経過したらしく、重力パルスの効果が消えたようでエレナ・ロドリゲスが兄さんと一緒に1階出入り口から外に出てきた。

 住民の列の中にからカリナ・ロドリゲスが出てきて、

「レオ、お帰り」と言って抱き着くのだった。

 美穂は、三人目のはエレナ・ロドリゲスの兄さんだったのかと思うと、笑いが込み上げてきておかしくて吹き出しそうになった。

 石井隊長が一歩前に進み出て集まった住民達に、

「今オルフェアはインペリムから解放された」と宣言すると大きな歓声が巻き起こった。


  15

 俺は、拘束されている敵兵の中で将校らしい服を着ている人に近寄ると、

「エミリオ・ファルコンの監禁場所はどこです?」と尋ねた。

「何故知りたいのか」と将校らしい人が聞くので

「話しがある」と答えると、

「復讐か」と言うので、

「想像に任せる」と言い切ると、

「地下牢にいる」と教えてくれた。俺は将校らしい人の肩をポンと手を添えてから立ち上がって、佐々川隊長に地下を確認したいと伝えた。

 重力パルスの効果が切れているので、AI自律型四つ足走行ロボットアルサター4台とチーム五人で建物に入り、地下に行く階段を探した。その階段は2階に登る階段脇のドアを開けると地下に続く階段があった。

 AI自律型四つ足走行ロボットアルサター4台に、地下に入ったら無条件にフォトンパルスと重力パルスを発射するように伝えると

「YES」の返事があった。

 AI自律型四つ足走行ロボットアルサター4台が階段を下りていくと、シュルルと音がすると地下の部屋全体が光った。

 俺達は、地下の階段を降りると食糧倉庫と資材倉庫があって、その脇にドアが6つ並んでいた。監視部屋に行くと敵兵士二名が床に倒れていた。二名の武装解除と拘束を行った。


 監視室のキーボックスから地下牢の鍵を6つ取って、地下牢のドアを開けた。部屋の中には一人ずつ監禁されていて6部屋は満室になっていた。重力パルスで体の自由が封じられて床に転がっていた。

 30分ほどすると、彼らは体の自由が戻った。

「エミリオ・ファルコン」は誰ですかと俺が尋ねると六人が俺だと答えた。

 この時エミリオ・ファルコンの親衛隊五人が、かばっていると感じた。

「ブルー・ウィンドウと2回話した夏月玲央です。信じてもらえるなら手を上げてください」と言うと、一番右側にいた浮浪者のようなボロ服を着たがっちりとした体形の男性が手を挙げた。

 意図的にボロ服を身にまとっていたが、顔立ちは彫りが深かく、ブルー・ウィンドウに似た顔立ちをしていた。

「エミリオ・ファルコンを無事救出」とラピスラズリから、大とブルー・ウィンドウにメッセージを送った。

「もうすぐジルバーゼインペリム軍基地に到着する」と大から返事が来た。

「ジルバーゼインペリム軍基地に到着した」と少しするとブルー・ウィンドウから返事が来た。

「5階の食堂で待っている」と伝えて、俺達は彼ら六人と一緒に5階の食堂のテーブルに座って、ブルー・ウィンドウと大の到着を待った。

 大と美紗も飛行場の攻略が終わって、この警察署で合流した。


  16

 大とブルー・ウィンドウが一緒に階段を上がってきた。

 俺は手を振ると、二人も手を振った。

 エミリオ・ファルコンが椅子から立ち上がると、ブルー・ウィンドウに近づいてハグをした。

 親衛隊五人の顔を見ると、皆が笑顔になっていた。

 俺達はテーブルを4つ並べて皆で座れるようにすると、石井隊長と沙羅が加わって、白沢隊長と大、矢川隊長と美紗、佐々川隊長と美穂とエレナ・ロドリゲスがやってきてテーブルに座った。

 自己紹介と挨拶を交わした。


 エミリオ・ファルコンは、

「インペリム本国の軍司令部の将校や、政治家の先生方は、特権階級に物をいわせて好き放題に自分達に富が集まるように物事を進めてきた。この時代は終焉を迎えるタイミングに来ていることをブルー・ウィンドウと他の諜報員が送ってくれた動画を使って説明したが、これは作りものだと否定して特権階級に居座り続けようとしている。どうしようもない人達だった。

 インペリムの現政権は腐敗している事を認めない人間達だった。

 ようやくあんた達(セレスティア)の力を頼ればこの国が生まれ変われると確信した。政権交代が終われば、俺は暖かな気持ちの人達と共に豊かな心で日々を送れそうな気がする。俺は、この立場で良かったと思う。新時代の幕開けに気づけて行動できるのだから。ブルー・ウィンドウよ、お前がインペリムの人達を導く鍵なのだ。俺は志半ばで暗殺されるかもしれないが、第二、第三の俺と同じ考えの人間が必ず現れる。頼んだぞ」と皆に前で語ってくれた。

 そしてインペリムを内部と外部から攻撃させる打ち合わせを行った。

 エミリオ・ファルコンは、現政権においてインペリムの反逆者となっている事から、クーデターを起こす反乱軍をこのオルフェアから指揮することにして、オルフェアの各地に潜入させていた。今度はブルー・ウィンドウを含めた諜報員をインペリム国内に潜伏させる方針となった。

 捕虜をインペリム国内に戻すときに

“インペリム政権交代が必要か?”と言うアンケートを取り

“必要”と答えた帰還兵の名簿を作成することにした。

 この“必要”と答えた兵士は、我々が攻め込んだ時には拘束しないで次期政権の支持者としようと、テーブルに座るメンバーで約束をした。

 打ち合わせは1時間ほどで終わった。

 エミリオ・ファルコンは、俺達と握手を交わしてから

「また会おうと」とブルー・ウィンドウとハグをすると、エミリオ・ファルコンと親衛隊の六人は笑顔で挨拶すると建物1階の裏口から外に出て2台の車に分乗してこの基地から去っていった。

 ブルー・ウィンドウは1階玄関まで俺達と一緒に歩いて、

「また会いましょう」と言って、基地建物入り口に止めてあったオートバイにまたがり髪の毛を巻き上げてからフルフェイスヘルメット被り、俺達にバイバイと手を振ると単気筒エンジンをかけて走り去った。


 霧霞にジルバーゼの街に入る川の河川敷にAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーが1両走行不能となっているのと、もう一両アネクレの住民が経営する工場倉庫にAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーが走行不能となって保管されているので回収の依頼をした。


  17

「オルフェア人身売買組織撲滅の段階に入りましょう」と佐々川隊長に伝えると、

「準備に入ろう」と同意してくれた。

 エレナ・ロドリゲスの兄夫婦(レオ・ロドリゲスとカリナ・ロドリゲス)に、警官とバス型護送車、被害者を乗せるバスと約1週間分の隊員の食材の調達をお願いした。

 ジルバーゼからテネクレに直接移動するルートを伝えて、人身売買組織の拠点の緯度と経度を伝えて、

「攻撃が終っている頃に到着すれば良いので、半日遅れで出発してほしい」とエレナ・ロドリゲスの兄夫婦に伝えた。

 俺達は、4台のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗り込み、AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー2両でテネクレの人身売買組織の拠点に向かって移動を開始した。


 ジルバーゼの街から郊外に出ると大きな河と、川に架かるオレンジ色に塗装された橋が見えてきた。橋を通過するとガードレールのような欄干があって車道の脇には歩道があった。欄干から魚釣りをしている人々の姿が見えた。

 橋を通り過ぎると、民家が少なくなりブドウ畑が広がっていた。30分ほど走ると景色はブドウ畑から雑木林に変わり峠越えの坂道に変わっていった。

 山道の道幅が狭く対向車のすれ違いができないほど狭い道で、急カーブが連続した。AI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗っている数人は車酔いしたらしく、口元に紙袋をつけて耐えている隊員もいた。

 峠道は頂上付近に差し掛かると上り坂から下り坂に変わって、道幅も広くなった。山道の急カーブもかなり緩やかになり、車酔いしていた隊員の口元の紙袋も役割が終えたようだった。


 峠が終わると、麦畑らしい景色が一面に広がって、民家が少しずつ増えてきた。

 テネクレの街に入ると、多くの車が走っていて、商店街にも沢山の人通リを見ることができた。

 テネクレの街を通過して郊外に出ると古びたモーターホテルが見えた。

「この道を進み、あの山を越えるとインペリムとの国境があり、マーネルヤの港町に繋がっている」と佐々川隊長が教えてくれた。

 人身売買組織はこのモーターホテルを使って拉致した女子供を監禁して、まとめて陸送で山を越えてマーネルヤの港から船で買い手に届けている。このモーターホテルを攻撃して組織を潰す計画だ。

 モーターホテル手前に大きな公園が見えたので、この公園駐車場に車輛を駐車した。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウター後方扉を開けて、車両から降りると公園中央付近で噴水が上がっていた。大きな花時計が見えて親子連れが遊具で遊んでいる。子供達のはしゃぎ声が聞こえてきた。ベンチに座って本を読む人、ジョギングをしている人達が目にとまった。


  18

 モーターホテルは2階建てでアパートのような作りで、外観はサイディングでベージュと茶色のレンガ風のパネルが貼られていた。建物は古く所々サイディングは色あせて割れていた。部屋数は1階8部屋2階8部屋があった。

 1階から2階に登る階段が建物右側についていて、駐車場側が玄関ドアだった。

 佐々川隊長は6台のAI自律型四つ足走行ロボットアルサターで充分攻略できると考え、一般人を刺激しないようにAI自律型四つ足走行ロボットアルサター6台にリードをつけて、二人1台のペアとなって散歩をしているように見せかけて、モーターホテル駐車場に歩み寄った。

 美穂とエレナ・ロドリゲスはペアを組んでリードの先には、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターがいた。

 彼らにモーターホテルに攻撃を仕掛けるよう指示をし、リードを外すと6台は駐車場から建物裏側に回り込むと、1階と2階の窓に向かってシュルシュルとフォトンパルスと重力パルスを発射した。

 駐車場から建物の裏側が光で覆われて、6台のAI自律型四つ足走行ロボットアルサターは建物裏側から戻ってくると、3台は建物の表側の階段を2階に駆け上がり、8つの部屋の玄関ドアめがけてシュルシュルとフォトンパルスと重力パルスを発射した。

 もう3台は、1階の8つの部屋の玄関ドアめがけてシュルシュルとフォトンパルスと重力パルスを発射したので、駐車場側が光に覆われた。


 佐々川隊長と俺はペアを組んでいたので、1階の管理人室と思われる部屋に突入すると組織の人間と思われる四人が銃を手に取ったまま床に倒れていた。

 目だけは動いていたが、体の自由は奪われていた。俺達は武器を取り上げ結束バンドで手と足を拘束した。

 拘束し終えた頃、駐車場に2台の車が入ってきたと思うと、パンパンと何発かの銃声がした瞬間、俺の左脇腹に痛みが走った。倒れながら佐々川隊長を見ると右肩を抑えて両膝を地面についていた。

 銃声を聞いた2階の美穂とエレナ・ロドリゲスは、駐車場に現れた車2台から降りた四人に向かって、重力フォトンパルス銃をシュルルという音と共に発射した。

 四人の周辺が光で包まれ、四人はドサリと地面に倒れた。

 1階にいた2班のチームメイトは、四人の武装解除と結束バンドを使って手と足の拘束を行った。

 佐々川隊長は右肩に1発と俺は左脇腹に1発銃弾を受けた。防御スーツのお陰で銃弾は体に届かなかったがその場所に激痛が走った。


 2階から美穂とエレナ・ロドリゲスが降りてきて、

「大丈夫?」と声をかけてくれた。佐々川隊長と俺は、しかめ面をして何とか立ち上がった。俺は呼吸ができないくらい左脇腹が傷んだ。

 2階の部屋にも組織の人間がいたとの事で、組織の犯罪者を十一名確保した。

 拉致されて監禁されていた女子供は、十六名いたが売り飛ばされる前に救うことができた。彼女らは食事を与えてもらっていたようで健康的だった。救出された喜びで赤い顔になって涙こそ流していたが元気な女性達だった。


 モーターホテルの駐車場には、公園から見えた光や音を聞きつけた住民達が押し寄せてきた。

「何が起こったのか」と住民達が言いながら黒山の人だかりができていた。

 警察車両サイレンの音が大きく聞こえてくると、6台のテネクレ警察車両が止まって警官が銃を持って駆け寄ってきた。

 我々と行動を共にしているオルフェア出身の若者の一人が、テネクレ警察官の一人と顔馴染みだったようで、いきさつを説明してくれていると、そこにエレナ・ロドリゲスの兄夫婦(レオ・ロドリゲスとカリナ・ロドリゲス)が2トン車トラックの運転席に乗ってやってきた。ジルバーゼ警察車両とバス型護送車、被害者を乗せるバスが続いてやってきた。

 ジルバーゼ警察官とテネクレ警察官の話し合いが行われていると、救急車が2台やってきて止まった。

 救急車を住民の誰かが呼んでくれた。

 エレナ・ロドリゲスの兄夫婦(レオ・ロドリゲスとカリナ・ロドリゲス)が佐々川隊長と俺のところに駆け寄ってきて、心配そうに覗き込んでいると、

「大丈夫」とエレナ・ロドリゲスが兄夫婦に伝えた。

 救急隊が担架を持ってやってきて、俺と佐々川隊長を別の救急車に運んでくれた。

「大丈夫だから」と俺が伝えると、救急隊員は、

「病院で検査を受けてほしい」と言うので同意した。俺が運ばれた救急車には美穂とエレナ・ロドリゲスが乗った。

 佐々川隊長が運び込まれた救急車にはレオ・ロドリゲスとカリナ・ロドリゲスが同乗してくれた。


 二人はテネクレ市民病院へ運ばれて精密検査を受けた。検査の結果、俺は左脇腹打撲で佐々川隊長は右肩打撲と診断されて、痛み止めの飲み薬と湿布薬を医局から出してもらった。

 テネクレ警察の計らいで、我々のチームは市内のホテルに分散して皆が一泊する事になった。

 俺と佐々川隊長はホテルのツインルームの一部屋に入れられた。

 食事は、ホテル側が部屋まで運んでくれると説明してくれた。

 食事中テネクレ警察員が三人やってきて、人身売買組織壊滅のお礼と、犯人達はジルバーゼ警察護送車でジルバーゼ刑務所に運ばれたと顛末を教えてくれた。三人の警察官は俺達と握手をして何度もお礼を言って部屋から出て行った。


 俺達に同行してくれたオルフェアの若者と、エレナ・ロドリゲス、美穂が部屋にやってきて、

「植民地解放の願いがかなった。ありがとう」と若者からお礼の言葉があった。

 飲み物と食べ物を彼らが持ち込んでくれて、病室だった部屋がパーティ会場のようになり、笑い声がホテル内に響き渡っているようにさえ思えた。

 夜も遅い時間となり、皆が各部屋に戻っていった。

「良い結果になって良かった」と佐々川隊長が言うので、

「俺も人助けができて良かった」と言うと、

「そうだな」と答えてくれた。


  19

 翌朝、部屋で朝食を食べて防御スーツに着替えようと、俺と佐々川隊長が痛みを我慢しながら悪戦苦闘していると、美穂とエレナ・ロドリゲス、レオ・ロドリゲスとカリナ・ロドリゲスが部屋にやってきてAIアーマーオムニガードを着せてくれた。

 テネクレ警察員がやってきて、俺達の車輛の護衛をしてくれるとの申し出があった。

 佐々川隊長は、快諾して護衛の申し出を受け入れた。

 2台の警察車両が先導してくれて、後方を2台の警察車両が続くと説明を受けた。4両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに俺達は乗り込みAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー2両とテネクレからヒマロカを通って、エレナ・ロドリゲスの肉親が待つカネロームへ帰るルートで走り続けた。


 ヒマロカの街に入ると住民が集まってきて

「どうしてもお礼の会を開きたい」というので、この街で1泊することにした。

 ヒマロカのホテルに分散して宿泊させてもらった。

 佐々川隊長と俺はツインルームで病室扱いになったが、俺達は同じホテルに泊まることができた。

 このホテルは、鉄道のカネローム駅の敷地内にあり、1階は食品を売るお店が並んでいた。

 5階建てホテルの5階は大浴場とレストランが併設されていた。

 2階がフロントになっていて、エレベータホールがあった。6時ごろになったら5階のレストランで食事をする約束をして、3階で佐々川地長と俺はエレベータを降りた。レオ・ロドリゲスとカリナ・ロドリゲス、美穂、エレナ・ロフォリゲスの部屋は4階との事だった。


 佐々川隊長と部屋に荷物を置いてAIアーマーオムニガードからホテルのパジャマに痛み体を労わりながら着替えた。

 エレベータに乗り5階の大浴場に行き、佐々川隊長と俺は痛みをこらえながら久しぶりに湯船につかった。

 俺はオルフェアで出会った人達との会話や笑顔を思い出していると一瞬眠ってしまったようで、浴槽で溺れそうになって目が覚めてアタフタすると佐々川隊長の笑い声が聞こえた。張りつめていた気持ちが解放されたと強く感じるのだった。

 風呂から出てエレベータに向かうとレオ・ロドリゲスとカリナ・ロドリゲス、美穂、エレナ・ロドリゲスがエレベータから降りてきたので、一緒に六人でレストランに入った。

 シェフは俺達を歓迎してくれて、コース料理を出してくれた。

 楽しい時間を過ごしていると、誰からともなくあくびが出はじめたので、部屋に戻って寝る事に話がまとまりレストランを出た。

 皆でエレベータに乗り4階で四人が、

「また明日」と言ってエレベータから降りていった。

 佐々川隊長と俺は3階でエレベータを降りてツインルームに戻るとベッドに潜り込んだ。

 翌朝、目が覚めると部屋の照明をつけたまま寝てしまったようで、外は明るいのに室内灯が灯っていた。

 ホテルに迷惑をかけたなと反省しながら、朝食を食べにエレベータに乗って5階に行くと、レオ・ロドリゲスとカリナ・ロドリゲス、美穂、エレナ・ロドリゲスが朝食中だったので、俺達も朝食の乗ったトレイを持って、同じテーブルに座った。

 窓から外を眺めると、ヒマロカの街の人々に元気が戻ってきたようで街中を歩く人々に笑顔が満ちたように見えた。


  20

 4両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに俺達は乗り込み、2両のAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーの6両は警察車両に護衛してもらって、ヒマロカからカネロームの街に入った。

 カネローム港近くの文化ホール駐車場に入り俺達はAI自律型水陸両用装甲車スキャウターから降りた。

 駐車場にはカネローム警察が待機していた。

 護衛してくれたテネクレ警察員が寄ってきて、護衛はここまでと挨拶されたので佐々川隊長は、

「丁寧な対応をいただきありがとうございました。関係者一同心より感謝申し上げます」と彼らの厚意にお礼を伝えると、警察官は一礼し警察車両に乗り込んでテネクレに帰って行った。

「感謝として労わせてほしいので、街のホテルで一泊してもらえるか」とカネローム警察員が提案されたので、佐々川隊長は快諾した。

「エレナ・ロドリゲスとレオ夫妻、美穂とジョン・サンチェスの家に行き、そこで泊まりたい」と俺が言うと、佐々川隊長はにこりと笑って、

「それが良い」と快諾してくれた。

 同行してくれていたレオ夫妻も食材を積んだトラックの運転席に乗り込んだ。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターに三人(エレナ・ロドリゲス、美穂、俺)が乗り込んで、ジョン・サンチェスとマリア・サンチェスの家に向かった。

 途中でダック夫妻の家の前で停車して、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアから降りて家に向かうと、ダック夫妻が家から出てきた。

 レオ夫妻もトラックを止めて車から降りてきた。

「無事でよかった」とダック・ロドリゲスは言うと、エレナ・ロドリゲスの兄のレオ・ロドリゲスの顔を見てサミイ・ロドリゲスの四人が涙ぐんでいた。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアを開けてダック・ロドリゲスとサミイ・ロドリゲスを乗せ、俺達四人も乗ってジョン・サンチェスの家に向かった。


 ジョン・サンチェスの家が見えてくるとカネロームの海岸から海にかけて太陽の光がキラキラ光っていた。

 ジョン夫妻の家の前でAI自律型水陸両用装甲車スキャウターを止めて、後方ドアから降りるとジョン・サンチェスとマリア・サンチェスが家から出てきた。

 俺達の後に続いて走ってきたレオ夫妻もトラックを止めて車から降りてきた。

 マリア・サンチェスとジョン・サンチェスは、長い間行方不明だったレオ・ロドリゲスの顔を見ると、無事な顔を見て喜びで感極まって涙を流した。

 美穂の顔を見ると目を真っ赤にして涙をこらえているようだった。

 レオ・ロドリゲスとカリナ・ロドリゲスはトラックから食材を運んできてくれたので、女性五人で料理を作り始めてくれた。

 俺は左脇腹の痛みが残っていたので、少し休ませてもらう事にして以前に美穂と泊まった部屋に入って横になった。

 いつの間にか寝てしまったらしく、

「夕食できたから起きて」と美穂が起こしてくれた。

「幼い俺を養父母の明良と美幸が絵本を読んでくれている夢を見ていた」と寝ぼけていた俺が美穂に言うと、

「両親に会いたいね」と言って微笑んでくれた。


 皆がいる部屋に行くと、

「この椅子に座って」とマリア・サンチェスに声をかけられて座ると、ワインが入ったグラスを手に持つようにエレナ・ロドリゲスに催促された。ダック・ロドリゲスが、

「オルフェアを救ってくれてありがとう。乾杯」と音頭を取ってくれた。

 楽しい団らんの時間が続いて夜も遅くなってきたので、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターにロドリゲス家の五人が乗って自宅に帰っていった。

「あとは私が食事の後片付けをするから風呂に入りなさい」とマリア・サンチェスが言うので美穂が風呂に入った後に、俺は風呂に入らせてもらった。

「ゆっくりと休みなさい」とマリア・サンチェスが声をかけてくれたので、美穂と俺はいつもの部屋に入って横になった。

 美穂は、俺の左脇腹にシップ薬を張り付けてくれながら

「私達は、普通の人では無いのかな」と言うので、

「普通の人とちょっとだけ違う経験をしているけれど、出会いと経験の豊富さは普通の人では無いと思う」と言いながら二人は横になった。

 横になると美穂が手を繋いできたので俺も少し強めに握り返した。

「左脇腹はまだ痛むの」と美穂が聞くので、

「ダメージが残っているけれど、一週間もすれば痛みは無くなると思う」と言うと、

「そうだね」と返事をしたと思うと、美穂は寝息を立てていた。

 美穂の寝顔を見ながら、

「俺と出会わなければ、普通の女の子でいれたのに」と考えながら眠りに落ちて行った。


  21

 朝起きるとすっかりと明るくなっていた。部屋から出るとエレナ・ロドリゲスの家族五人が皆テーブルに座って朝食を食べていた。

 ここにお座りと言って、マリア・サンチェスが椅子を2つ並べてくれた。

 外にはAI自律型水陸両用装甲車スキャウターが駐車してあった。

 俺と美穂が食事を始めると、もう1両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターがやってきて止まりドアから人が降りてきた。

 すると玄関ドアの向こうから、

「玲央と美穂はいるかな」と声が聞こえたのでマリア・サンチェスが玄関ドアを開けると佐々川隊長が、

「迎えに来た」と立っていた。

「この港で霧霞に食材を積み終えたら、母国セレスティアに戻ってインペリム攻略作戦を練り直しす」と話してくれた。

 佐々川隊長が乗ってきたAI自律型水陸両用装甲車スキャウターからエレナ・ロドリゲスと行動を共にしてくれたオルフェアの若者も降りてきた。

「朝の食事は終わったの?」とマリア・サンチェスが聞くと、ホテルで食べてきたと返事があった。

 マリア・サンチェスは、紙コップに暖かいコーヒーを入れると、若者達と隊長に手渡した。

「出港予定は何時ごろですか」と佐々川隊長に尋ねると、

「午後2時頃かな」と答えてくれた。


 雑談をして楽しい時間が流れて艦に戻る時間となり、

「エレナ・ロドリゲスと美穂、俺は少しの間お別れです」と言うと、

「また一緒に食事会をしよう」とジョン・サンチェスが声をかけてくれた。

 エレナ・ロドリゲスと美穂は、マリア・サンチェス、サミイ・ロドリゲスとカリナ・ロドリゲスにハグをすると、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗り込んだ。

「また会いましょう」と手を振ると、彼らも手を振ってくれた。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターに俺達は乗り込むと、カネロームの海岸から海上走行をして、霧霞の1階格納庫に駆け上がって、車輛を格納した。

 オルフェア戦で捕虜となっていたインペリムの兵士達は、負傷者無しの状態でインペリム輸送船に乗って本国に送還された。

 ブルー・ウィンドウもこの船団の中に入ってインペリムに戻って行った。

 やはり前回のフリオス戦の兵士達の凱旋と同じく、インペリムでもオルフェア戦で捕虜となって無事に帰還した兵士の家族や肉親達は歓喜の声で帰還兵を迎えていた。


  22

 オルフェアのシルステア海岸に停泊していた美紗が乗る霧島は母国セレスティアへ向かって潜航した。

 沙羅が乗る霧深は、コレターノ海岸から、

 大が乗る霧隠はヒマロカ海岸から、

 俺達が乗る霧霞はカネローム海岸から母国セレスティアへ向かって潜航していった。

 8日後には4艦は母港セレスティアの横須賀港に着岸した。

 佐々川隊長の右肩と俺の左脇腹の銃弾による打撲はほぼ完治していた。

 母港に着岸すると3日後に出発と艦長から命令があった。

 この3日間で、AI自律型水陸両用装甲車スキャウター、AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターの修復と点検を実施して、食材を積み込むとの事だった。


 久しぶりに大学男子寮に戻り部屋に入り窓を開けて換気をしながら、部屋の掃除をしていると大がやってきてランチに行こうと誘ってきたので食堂に行ってランチを注文した。

 大と椅子に座ってランチができるのを待っていると、

「聞いてほしい事がある」と大が真顔で俺の顔を見て言うので、

「どうした」と尋ねると、

「ブルー・ウィンドウに好意を持つようになった」と胸の内を明かした。

「できるだけブルー・ウィンドウと話ができる時間を作るから」と俺は大に言うと、

「女性と付き合ったことが無いのでどうしたら良いか分からない」と言うので、

「俺も女性と付き合ったことはないけれど、自然体で相手の言うことを聞いてあげれば」と話していると、番号を呼ばれたのでランチを取りに行って席に戻ると、いつもの女性メンバー四人(美紗、沙羅、美穂、エレナ・ロドリゲス)がやってきて俺達テーブル近くに座った。

 大の告白は、彼女達が来たことで話が終わった。


  23

 俺達が休暇中でもブルー・ウィンドウからインペリム国内の軍事施設情報が毎日送られてきた。

 出撃前日作戦会議が大学大会議室で行われた。

 田村長官、佐々川隊長、矢川隊長、白沢隊長、石井隊長、今村技術長、北山艦長、沢田艦長、野田艦長、川村艦長、俺達のメンバーで戦略会議が行われた。

 話の冒頭に潜水艦空母の建造が進んでおり、さらに11番艦金剛こんごう12番艦比叡ひえい13番艦榛名はるな14番艦扶桑ふそう15番艦山城やましろの進水式は終わり。

 建造中の潜水艦空母は、16番艦伊勢いせ17番艦日向ひゅうが18番艦長門ながと19番艦陸奥むつ20番艦加賀かがで、6か月後に完成して就航の予定との説明があった。


 本題のブルー・ウィンドウの情報で最終的に判明した施設として、核弾頭施設は8カ所、軍飛行場は12カ所、軍港は6か所、駐屯地は16カ所、軍のレーダー基地は8カ所、軍宇宙衛星コントロール施設は3か所あった。合計すると53カ所の軍施設があった。

 そして、軍が保有する空母は4隻、巡洋艦26隻、潜水艦30隻で合計60隻の艦船があった。

 これらの施設の規模や建物の構造、勤務する兵員、武器等の装備状況、場所に関する情報等々もブルー・ウィンドウから詳細な情報が送られてきた。

 そしてオルフェア戦とフリオス戦で捕虜となって、インペリムに帰還した兵士達は、インペリム国内の軍施設に再配置されたとの情報も届いた。すべての施設に入り込めた状態と情報を得て会議室のメンバーは順調とばかりに笑顔になっていた。


 戦略会議の白沢隊長は、同じタイミングでインペリム軍施設53カ所と艦船の60隻を使用不能にAI自律型無人戦闘機ストライカー1斑3機編隊で一斉に実行しようとすると89斑必要となり

 4艦に搭載されているAI自律型無人戦闘機ストライカーの合計は36機で12斑の編隊しか組めない事で現実的で無いと暗い雰囲気になった。


 俺は、ラピスラズリに話しかけてみた。

「最小限の戦闘で最大の効果を得たい。敵味方に死傷者が出ないようにしたい。相手は必死に抵抗してくることを前提に戦略を立ててほしい」

 ラピスラズリの回答は、

「第1波で、軍のレーダー基地は8カ所、軍宇宙衛星コントロール施設3か所、核弾頭施設8カ所の計19か所を無効化する。

 第2波で軍飛行場12カ所、軍港6か所の18カ所を無効化する。

 第3波で駐屯地16カ所を無効化する。

 そして母国の潜水艦空母の4隻と合流する。計8隻に搭載されたAI自律型無人戦闘機ストライカーの合計は72機となり24斑の編隊が組める。

 第1波の対象は、19施設、第2波の対象は18カ所、第3波の対象は16カ所となるので、不測の事態に備えて、残りの1斑のAI自律型無人戦闘機ストライカー部隊は待機とする。

 インペリムが保有する空母は4隻、巡洋艦26隻、潜水艦30隻で合計60隻の艦船については、残る5斑のAI自律型無人戦闘機ストライカー部隊は、空母4隻のコンピュータプログラムを強制消去して航行不能とする。兵員は重力パルスで、行動不能として捕獲する。そして空母艦載機すべてに搭載されているコンピュータプログラムを強制消去する。戦闘機と空母の戦闘力を無くす。

 巡洋艦の26隻は、4隻の潜水艦空母が搭載するフォトン重力パルスミサイルで敵艦船に搭載されている制御用コンピュータのプログラムを一斉に強制消去して航行不能とする。兵員の戦闘能力を重力パルスで無効化する。このフォトン重力パルスミサイルは、敵艦手前25mほどの距離でミサイルを爆発させフォトン重力パルスを発射すれば良いので敵巡洋艦船体は傷つかない。

 潜水艦の30隻は、4隻の潜水艦空母が搭載するフォトン重力パルス魚雷で敵潜水艦に搭載されている制御用コンピュータのプログラムを一斉に強制消去して航行不能とする。潜水艦は海面まで重力制御を行い浮かせて、兵員の武装は重力パルスで敵兵の動きを止めて武装解除する。


 結果的に、軍が所有するコンピュータはプログラムで稼働しているので、フォトンの働きで搭載されているプログラムを強消去するので、兵器を再利用しようとする場合は個別にプログラムを再インストールしなおす作業が発生する。この作業が完了するまでの間、数日から数週間の間はまったく武器の役割は果たせない時間となる。

 艦船の兵員を、ブルー・ウィンドウの仲間達の手で、いち早く捕獲すれば、敵味方双方に負傷者が出ない確率が高くなる。

 また、我々が重力パルスを30分後に再度発射すれば、兵士に重力が掛かっている時間を30分から1時間に延長が可能となる。

 私達と、ブルー・ウィンドウのチーム連携が、このクーデターの鍵となる」という内容だった。


 この戦略について大学大会議室にいたメンバーから反対の声は無かった。

 田村長官は、この案で攻略しようと結論付けてくれた。

 会議が終わり席を立つと、佐々川隊長が俺の肩に手を置くと美穂とエレナ・ロドリゲスにこちらに来なさいと手招きした。

 俺達が集まると明朝8時00分出発だから遅れないようにと、俺に紙を渡してくれたので内容を見ると出動艦とそのメンバー表でオルフェア戦の4艦とメンバーだった。

「同じメンバーは気心が知れていて好都合だから」と佐々川隊長は、にこりと笑って俺の背中をポンと触ると会議室ドアから出て行った。俺達六人は食堂でお茶をしようと食堂に向かった。食堂のテーブルに座るとオルフェアの若者達とフリオスの若者達も食堂に集まって楽しいひと時を過ごした。


  24

 翌朝、テレビを見ていると、

「オルフェアが植民地から解放され、独立国家として歩み出した」と国際ニュースが放映されていた。ニュースを見て俺達の成果が世界に報道されたと内心嬉しかった。

 荷造りして男子寮から横須賀港行のバスに近づくとエレナ・ロドリゲスと美穂が荷物をバスの荷物室に収めているところだったので、一緒に荷物を積みバスに乗り込んだ。大と美紗が乗っていた。出発の時間ギリギリに沙羅が走ってきてバスに乗ったので

「沙羅遅刻!!」と美紗が一言発すると、

「えへへ」と沙羅らしい一言で皆が笑った。沙羅の笑顔のおかげで出撃前の緊張がほぐれた様に感じた。


 横須賀の港にバスが到着すると、六人は桟橋から各々が乗る艦にキャスター付きの旅行バッグを引きずりながら分かれて歩いた。

 艦橋ハッチから艦内に入ると発令所があり、集中コンソール上で北山艦長が出発前最終点検を行っていた。艦長よろしくお願いしますと声をかけると、

「脇腹の傷は癒えたか」とオルフェア戦で負傷した痛みを労ってくれたので、

「大丈夫になりました」と答えると、

「荷物をおいてきない」と言うので、

「了解であります」と答えて、美穂とエレナ・ロドリゲスと一緒にロッカーのある船員室へ向かった。女子ロッカーへ行く彼女たちと別かれ、俺は男子ロッカーで荷物を入れるとスマートフォンを手に取ってフリオス戦に出掛ける時に撮影した写真を見て、

「今度も無事に帰ろう」と呟いた。


  25

 我々が出港した翌日4隻の潜水艦空母、風花、風速、風潮、風翔は母港を出港した。

 母港を出て潜航を続けて4日後に霧島、霧深、霧隠、霧霞は、エクスガリバー第8艦隊と合流した。

 霧霞から北山艦長と佐々川隊長がボートで第8艦隊旗艦空母インヴィンシブル・アヴェンジャーに挨拶に行った。

 提督はルーカス・アンダーで、我々8隻の潜水艦空母の後方支援を第8艦隊が受けてくれると握手を交わして、北山艦長と佐々川隊長は霧霞に帰艦した。

 その翌日、潜水艦空母4隻の、風花、風速、風潮、風翔の代表が第8艦隊と合流し挨拶を行った。


 そして8隻は潜航を開始した。その4日後にはオルフェアカネローム海岸に第8艦隊が待機の態勢をとった。

 8隻の潜水艦空母はヒマロカ海岸の海底を移動してインペリム海域へ侵入していった。

 音紋スキャナに反応があった。

 音紋データベースを確認すると、敵潜水艦アビスブレイズと判明した。ソナーで位置を確認すると1km先を深度350mの深さで進んでいる。

 俺達は深度600mまで潜航して、音が漏れないよう微速前進に速度を落とした。

 俺達が深度600mで待機していると、音紋スキャナで敵空母ブラックストームと巡洋艦ファントム・ウィング 、巡洋艦ネメシスリベレーターと複数の軍艦の音紋を探知した。

 潜水艦を筆頭にインペリムの船団が移動していると判断して、海底でやり過ごすことにした。

 潜水艦の中ではクルーができるだけ音を立てないよう、スローな動きをする光景は神経戦そのもので、外がどのような状態か見ることができないので辛抱の時間帯だ。お互いに顔を見合わせて生唾を飲み込んで気持ちを落ち着かせることで精いっぱいの緊迫した時間を過ごした。

 敵の船団は、俺達の真上を航行していき、2km、3kmと音紋は遠ざかっていった。

 艦を稼働させようとしたときに敵潜水艦シャドウストライカーの音紋が近づいてきたので、もう少しこの場で待機する事にした。

 俺達は敵に探知される事無く、敵艦をやり過ごすことができた。


 何度か、我々の潜水艦空母8隻はインペリム空母、巡洋艦、潜水艦と遭遇した。

 我々の潜水艦空母内にはソナーが装備され音紋探知機能を装備して役に立った。

 艦船のスクリュー音をデータベース化してあり自動的に、どの国の艦船であるか量子AIが判別してくれる仕組みで遭遇する艦船名を抽出した。

 そして、外壁にはソナーやレーダーで探知されない技術が採用されており、艦内の音は徹底的に静粛性を追求していたので、インペリム空母、巡洋艦、潜水艦は我々に気づく事無く衝突を避けることができた。


  26

 我々が攻撃を仕掛ける日と時間をブルー・ウィンドウに伝えた内容は、

「無血クーデターに賛同してくれたオルフェア戦とフリオス戦で捕虜になってインペリムに帰還した兵士達に、我々の重力パルスの影響を受けないよう、攻撃を避けてもらうため軍施設から出て近隣ホテルで午前9時から講習会と称して軍施設から離れた場所にいるように皆に周知を頼む」と伝えた。

「ことが成就したら、皆と一度会いたい」とブルー・ウィンドウから返事が来た。

「大が一番会いたがっている」と俺が返信すると、

「頑張るから、よろしく」と返事があった。


 攻撃日の早朝、潜水艦空母は分散してインペリムの軍港がある海岸6か所から1km離れた深度600mの海底で静かに潜行して待機していた。

 攻撃1時間前の午前8時になると、音紋スキャンとソナーを使って海域の探査を行った。敵潜水艦の存在が無かったので、カメラ型潜望鏡とレーダーが使える水面に浮上した。

 カメラ型潜望鏡で360度海面を確認し、レーダーで敵艦の存在を確認したところ、今であれば艦橋の後方格納庫2階からAI自律型無人戦闘機ストライカーを発艦できると判断した。

 艦を浮上させ、格納庫2階の扉を観音開きに開くと、AI自律型無人戦闘機ストライカーは垂直離陸して海面スレスレの低空を低音エアージェットエンジンでマッハ8の高速で目標地点に向かって飛行して行った。我々はそれを見届けると即座に我々潜水艦空母8隻は海底深く潜航した。


  27

 第1波攻撃目標の、軍のレーダー基地上空へAI自律型無人戦闘機ストライカーは短時間で到着すると、即座にフォトンパルスと重力パルスを発射した。レーダー基地は突然光に包まれたと思うと、電力が供給されなくなり停電となって照明が落ちた。電力で稼働する通信設備を含めた装置類や、コンピュータで稼働する装置は使えなくなった。

 フォトンパルスは、施設内のコンピュータのCPU、ROMとRAMに常駐しているプログラムとデーターを消去した。そして施設内の電源を遮断した。

 8カ所のレーダー基地は、ほぼ同時に無効化された。

 兵士達は重力パルスで地面に体を押し付けられて身動きが取れない姿で倒れて横たわった。

 無血クーデターに賛同してくれたインペリム兵士達は、ブルー・ウィンドウの頼みで基地施設から少し離れた場所のホテルや建物の中で待機をしていた。

 無血クーデターに賛同してくれたインペリム兵士達は、AI自律型無人戦闘機ストライカーからパルスが施設に打ち込まれ光に包まれてから光が消えるとレーダー施設に駆け込んで、身動きの取れない同胞達の武装解除と拘束を進めていった。


 同時に、軍宇宙衛星コントロール施設3か所と核弾頭施設8カ所は、AI自律型無人戦闘機ストライカーとブルー・ウィンドウから依頼された無血クーデターメンバーの連携により、身動きの取れないインペリムの同胞達の武装解除と拘束を進めていった。

 特に核弾頭発射の施設は、コンソールから着弾場所の設定などを行う設備があったが、電源とコンピュータが使えない状態となったために核弾頭は使えない状態を確認した。


 第2波の軍飛行場12カ所、軍港6か所の18カ所の敵は、レーダー基地や宇宙衛星からの通信が突然途絶えてしまった事で、まさか軍施設が陥落していることに気づく兵士は稀だった。稀に様子がおかしいと気づいた兵士からの報告を受けた上官達は、気のせいだと受け流してくれて、事態は偶然に俺達にとって都合の良い方向へ向かった。

 軍飛行場では、緊急発進しようとしてジェット戦闘機や攻撃型ヘリコプターに乗り込もうとした場面で、AI自律型無人戦闘機ストライカーから発射されたフォトンパルスと重力パルスでパイロットや兵士は、体が地面に押し付けられてしまい身動きできないありさまになっていた。12カ所の飛行場からスクランブル発進できたジェット戦闘機や攻撃型ヘリコプターは無かった。また、状況としては戦闘機に搭載されている制御コンピュータプログラムがフォトンによって強制削除されてしまっていたので、搭乗できたとしてもジェット戦闘機や攻撃型ヘリコプターは飛び立つことができなかった。


 管制塔施設内では。管制官が使っていたコンピュータ画面は突然電源が落ちて何も映らなくなったと思うと、部屋の照明は消えてしまった。その瞬間、管制室の管制官や兵士は自分の体に大きな力が加わり、地面に押さえつけられて身動きができなくなっていた。

 管制官や兵士達は、目を動かす事や考える事は出来たが、自分達が置かれている状況が理解できていなかった。床の上で身動きができない状態で、

「いったい何が起こっているのだろう」と考えていると、同胞の兵士がやってきて、

「大丈夫だから、少し我慢して」と言われると、同胞の彼等に銃火器を取り上げられて手錠を掛けられてしまった。


 軍港では、施設内の電源が落ちてコンピュータ電源も落ちてしまったため、海上や海底にいた空母、巡洋艦、潜水艦と通信ができなくなっていた。

 この時に、軍港にいなかった艦船は、空母1隻、巡洋艦8隻と潜水艦10隻だった。

 空母3隻、巡洋艦18隻、潜水艦20隻は着岸されている状態で、すでに戦闘不能となっていた。


 第3波の駐屯地16カ所は、突然飛来してきたAI自律型無人戦闘機ストライカーから発射されたフォトンパルスと重力パルスで建物内や屋外にいた兵士は、光で目がくらんだと思うと、地面に体を押し付けられた。

 頭と目ははっきりとしているが、頭、手、体、足を自分の意志で動かす事ができなくなっていた。まったく意味が分からない状態で、手足を動かそうとしても無駄だった。

 すると昨日までの同胞がやってきて、武器を取り上げられ手錠をかけられた。兵士達は声を出そうとしたが発声ができなくなっており言葉を発することができなかった。


 8隻の潜水艦空母は浮上して、帰艦してきたAI自律型無人戦闘機ストライカーすべての機体を格納した。

 一機も失うことはなかった。


  28

 そのころ海洋に出ていたインペリム空母、巡洋艦、潜水艦は、軍司令部と連絡が取れない事で緊急事態を理解できていなかった。自らの通信設備の故障と考えてみたが、近海にいた同胞の空母、巡洋艦、潜水艦との通信は確立され会話ができた。

 19隻の艦隊は、インペリム本国軍司令部との音信不通のためその場に停泊して待機した。

 軍港施設では、クーデターに参加したインペリム兵が常駐していた兵士の拘束を完了すると、電源と通信設備を復旧させ短時間で利用可能とした。

 艦隊の通信不能状態が長く続くと、我々のクーデターに気づかれる可能性があったので、短時間で通信設備を復旧する必要があった。

 軍港施設から任務中の19隻の艦隊に連絡を行い、指示があるまでその場で待機するよう連絡を行った。


 我々の攻撃が開始されて第1波から第3波が終わるまで要した時間は90分ほど完了した。ブルー・ウィンドウと無血クーデターに賛同してくれたインペリム兵士達のチーム連携で最良な結果となって一気にインペリムの軍事基地を制圧できた。

 この無血クーデターの裏では、オルフェアで身を隠していたエミリオ・ファルコンと親衛隊は、我々が第8艦隊と合流したころに陸路を使って隠密にインペリムの首都モンテブールに入っていた。

 エミリオ・ファルコンはモンテブールのホテルの一室から親衛隊やブルー・ウィンドウと同じ立場の諜報員を使って巧みに軍事基地陥落時の兵士を捕獲する計画を立てて実行してくれたのだった。

 この捕獲対象となった人々の中には軍最高幹部司令長官が含まれており、軍最高幹部大将の取り巻きの偉い人達や政治家も併せて手錠で拘束されていた。

 19隻の軍艦船が洋上で本国軍司令部からの連絡待ちで停泊している空白の時間にエミリオ・ファルコンは、軍部と政治家達が癒着して私腹を肥やしていた人達を確保して拘束した。


 通信が復旧して6時間程経過してから、司令部より19隻の艦船連絡を行い6つの軍港に戻るようにと伝えた。6つ軍港に空母、巡洋艦、潜水艦はそれぞれ帰港していった。

 私腹を肥やすために癒着していた軍部と政治家を追放したころ、6つの軍港に海洋に出ていた空母1隻、巡洋艦8隻、潜水艦10隻が港に着岸した。

 6つの軍港では、クルーを艦より下船させて講堂に集めた。

 そして、大型スクリーンを通して、エミリオ・ファルコンは無血クーデターメンバー二千四百名の結束力によって、私腹を肥やしていた政治家と軍幹部、そして取り巻きの偉い人達が追放され無血クーデターが今終わったことを宣言した。

 正式に無欠クーデターが完全勝利で終わったことをクルーに伝えた。

 誰一人負傷者が出なかったので、クルー達は帽子を天井に投げて喜んだ。

 市民は無血クーデター成功の話を聞いて、ようやく特権階級の人間を追放でき、独裁者の国から市民の国となった事に歓喜の声が上がった。

 そして血が流れないクーデターは歴史上初めてとなり、戦争はこれが発端で世界から無くなるのではないかと、言う世論も生まれて行った。


 政局が安定するまでの約束で、エミリオ・ファルコンは軍部の大将となった。

 政局が安定したら、民衆による政治を始めてもらうつもりで、一時的な組織の位置づけであった。

 エミリオ・ファルコンはこの時だけは、力で今までの軍部と政治家の癒着を明確にして断ち切ろうと行動を起こした。

 そして対象となる軍部の幹部や政治家から権利放棄契約書と誓約書を取り付けた。

 彼らとの契約書には、

「罪を追求しないが財産については一般的なサラリーマンの年間収入程度の財産は残すがそれ以外の財産は没収」という文言が記載されていた。

 誓約書として、

「今後、軍事や政治には今後一切関わらない。自ら働いて生計を立てます」という誓約文が書かれていた。

 追放する彼らに署名させ契約はなされた。


  29

 俺達にはインペリムのアコノームにある人身売買組織壊滅が残っていた。

「大と一緒にインペリムの人身売買組織を潰しに行きたい。エミリオ・ファルコンとブルー・ウィンドウの組織力を借りたい」と佐々川隊長に相談すると、白沢隊長と話あい霧隠からAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに大と白沢隊長チームが乗り、霧霞からAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに俺と佐々川隊長チームが乗って組織壊滅に行くことになった。


「新政権のエミリオ・ファルコンの力を借りて組織壊滅依頼を行いたい」と俺は大とブルー・ウィンドウに伝えた。

 俺の本音は、組織壊滅を利用して大とブルー・ウィンドウの接点を作りたいとの考えからだった。

 俺達は、明後日インペリムのマーネルア海岸から上陸して、アコノームの街に入る手前でエミリオ・ファルコン親衛隊五人とブルー・ウィンドウチームと合流して、組織を潰しに行く計画を立てた。

 十一人分のターコイズⅡと十二人分のAIアーマーオムニガードと重力フォトンパルス銃をケースに入れて用意をした。

 美穂とエレナ・ロドリゲスが計画を聞いていて一緒に行きたいと言い出した。

「危険だから今回は艦内で待つように」伝えると、

「危険をいくつも乗り越えてきたので一緒にいきたい」と譲らなかった。佐々川隊長は俺達のやり取りを聞いていて、

「同行する戦闘員を二人と入れ替えれば良い」と了承してくれた。


 上陸当日、霧隠と霧霞はマーネルア海岸沿岸1kmの場所で霧霞は停泊していた。

 俺達三人(美穂、エレナ・ロドリゲス、俺)は、艦内を艦橋後方へ移動して格納庫1階に入りAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアを開けると、既に佐々川隊長と戦闘隊員五名が待っていた。床にはAI自律型四つ足走行ロボットアルサター6台が搭乗していたので乗り込んだ。

 1階格納庫の扉が観音開きに開くと扉が海上への橋渡しとなりAI自律型水陸両用装甲車スキャウターは海上走行に入った。空は雨が降り出しそうな天気で太陽光がいつもより少ないように感じた。風が少々あったので、海面は波が立っていた。

 水面走行中は波の影響で車輛は揺れた。

 ようやく、海岸にたどり着くと霧隠からくる大が乗ったAI自律型水陸両用装甲車スキャウターはまだ到着していなかった。


 5分ほどすると、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターが上陸してきたので、2両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターは、海岸線を走行した。

 アコノームの港に入る手前で速度を落とした。海岸の砂浜を見ると護送用トラック2台と装甲車が2両と四輪駆動車2台が駐車していた。

 俺達の車輛は、砂浜に降りて彼らの車輛近くで止めた。

 後方扉を開けて、砂浜に降りると白沢隊長と大が降りてきた。

「よう」と大は俺の顔を見ると軽い挨拶をした。

 装甲車と四輪駆動車からエミリオ・ファルコンの親衛隊五人とブルー・ウィンドウチーム六人が近づいてきて笑顔で挨拶をした。

 彼ら十二人は迷彩服を着ていた。

 俺は、十一人分のターコイズⅡと十二人分のAIアーマーオムニガードと12丁の重力フォトンパルス銃を渡した。

 美穂とエレナ・ロドリゲスはブルー・ウィンドウと初対面だったが、三人は笑顔で挨拶するとAIアーマーオムニガードを持って、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアから車輛の中に入っていった。

 親衛隊五人と攻撃チーム六名は、迷彩服を脱ぎ捨ててAIアーマーオムニガードを身に着けた。

 AIアーマーオムニガードに着替え終えたブルー・ウィンドウが後方ドアから降りてきたので、十二名に白沢隊長が重力フォトンパルス銃の操作を指導した。


 アコノームの港まで車で30分と言うので、この場所で一泊して翌朝6時に攻撃を仕掛けることにした。

 8台の車両を円形となるように駐車して、中心に宿泊用テントを駐車車両の内側に設営した。中央に大型テントを設営した。大型テントの中を焚火、調理、食事の場とした。そしてAI自律型四つ足走行ロボットアルサターが監視についてくれた。

 食事を始めると小雨が降ってきた。大降りでは無いが月と星が雨雲で隠れて闇夜に近かった。

 インペリム無血クーデターを実行した仲間なので、戦闘の話題に花が咲いて時間がみるみるうちに流れた。

 俺が仕組んだ通り、大とブルー・ウィンドウは急速に仲良くなっていった。

 美穂とエレナ・ロドリゲスが隣に寄ってくると、

「大の事、仕組んだ?」と美穂が小さな声で言うので、

「ばれたか」と言うと、エレナ・ロドリゲスが、

「やはりそうか!」と小声で言うので、俺は笑ってごまかすと美穂とエレナ・ロドリゲスが、“大の気持ち分かっていたよ!”と言わんばかりに満開の笑顔になった。


 第三港湾の第二倉庫が、人身売買組織の港になっているとの具体的な情報を親衛隊メンバーから聞くことができた。

 敵はかなりの人数がいるというので、第1波をAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの重力フォトンパルスを使って敵の動きを止めて第二倉庫にいる組織の人間を捕らえる。

 第2波の霧霞チームはAI自律型四つ足走行ロボットアルサター6台で第三港湾内の第二倉庫周辺の敵探索を行い組織の人間を捕獲する。

 霧霞チームに親衛隊三名とブルー・ウィンドウ仲間の攻撃チーム三名が同行することになった。

 霧隠チームはAI自律型四つ足走行ロボットアルサター6台を先頭に第二倉庫へ突入して、敵組織の人間を捕らえる。

 親衛隊二名とブルー・ウィンドウと攻撃チーム三名が同行することになった。大は、ブルー・ウィンドウとチームを組んだ。


  30

 攻撃の朝、俺達は簡単に朝食を済ませてから各車輛に乗り込み第二倉庫へ向かった。

 倉庫に到着すると早朝だったので人影はなかった。

 2両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターから倉庫に向かってフォトン重力フォトンパルス銃が1分間にわたって発射され倉庫が光に包まれた。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアを開けるとAI自律型四つ足走行ロボットアルサターが飛び出して周辺の警戒態勢に入った。続いて俺達が降りると、霧隠チームがAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に第二倉庫へ突入して行った。

 霧霞チームは周辺探索の任務だったので、佐々川隊長と美穂がチームを組んだ。俺はエレナ・ロドリゲスとチームを組んだ。

 俺とエレナ・ロドリゲスは、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に第二倉庫の裏側に回った。

 そして扇状に進みながら探索していると、車のエンジン音が近づいてきたので、俺とエレナ・ロドリゲスはコンテナの陰に隠れて様子を見ることにした。

 同行したAI自律型四つ足走行ロボットアルサターも身を潜めた。


 保冷車がやってきてエンジンが止まった。運転席と助手席から二人の男が降りるとトラックの後ろ側に向かった。荷台扉を開けようとすると女の人の声が聞こえた。

 直感で拉致被害者を運搬してきたなと思った瞬間、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターが荷台扉を開けようとしていた二人に向かって重力フォトンパルスを発射した。光に包まれると組織の二人は地面に倒れた。

 俺とエレナ・ロドリゲスは荷台に近づき荷台ドアを開けると、パンパンと2発の銃声がした。

 エレナ・ロドリゲスが銃弾の反動で倒れた。

 俺も右腕に銃弾が命中したらしく右腕を強打された痛みが走った。

 その時トラックの荷台めがけて、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターから重力フォトンパルスが発射された。

 俺は右腕の痛みをこらえて、倒れたエレナ・ロドリゲスの体を左手で起こそうとすると、

「油断した左肩が痛い」とエレナ・ロドリゲスが痛みの涙を流しながら立ち上がった。

 AIアーマーオムニガードのお陰で致命的な怪我とならないで良かったと思い、エレナ・ロドリゲスは2週間くらい左腕が使えないと感じた。

 俺は右腕の痛みをこらえて、左手で保冷車の中を見るため荷台のドアを全開すると、銃を持っている女が一人仰向けで倒れていた。

 拉致した女子供の監視役の女が荷室に潜伏していたことを知った。拉致被害者も体の自由を奪われていた。


 銃声がしたので、大とブルー・ウィンドウが駆けつけてきた。

「大丈夫か」と大は俺に駆け寄り、ブルー・ウィンドウはエレナ・ロドリゲスを抱きしめていた。

「油断した」と俺は大に言うと、

 エレナ・ロドリゲスが、

「私のセリフを取らないで!」と絶妙なタイミング言った。

「冗談を言えて良かった」と大がホットした笑顔になった。

 俺とエレナ・ロドリゲスは、探索を中断して痛みのある体を労わりながら、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアから乗り込んで、チームメイトが組織の人間を縛り上げるまで待つことにした。

 座席に座るとエレナ・ロドリゲスの目に涙が溜まっていたので、手を握ってあげると頭を俺の肩に乗せてきた。

「ハンカチはある?」と聞くと、

「持っている」と言うので、

「2週間くらい左腕は使えない」と伝えると、

「玲央は右腕を使えないから二人で一人前だね」と笑うので、

「冗談が言えてよかった」と返事をして彼女をそっと抱いてあげた。俺たちは痛みをこらえながら黙って仲間が戻って来るのを待った。


 少しすると、後方のドアが開いて佐々川隊長と美穂が覗き込んできた。

「大丈夫か」と言うので、過去の経験から、

「2週間もすれば元気になります」と答えた。

 佐々川隊長の話だと、倉庫内の組織の人間の数が多くて、護送トラックに満員で、拉致されていた女子供は五十人を超えた。バスを追加チャーターするので時間がかかると教えてくれた。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドア越しに、大が佐々川隊長の後ろから、

「病院へ行こう」と言うので、エレナ・ロドリゲスと俺は病院へ連れて行ってもらうことにして降りると、ブルー・ウィンドウが四輪駆動車の運転席で待っていた。

 四珍駆動車後方の席にエレナ・ロドリゲスと俺が乗ると、美穂も乗ってきた。大は助手席に乗ると病院までブルー・ウィンドウの運転で病院へ車を走らせた。時計を見ると午前8時30分だった。


 病院で診察をしてもらうと打撲と診断され、薬局から患部へのシップ薬と痛み止め飲み薬を出してもらった。

 待合室に行くと親衛隊とエミリオ・ファルコンがいた。

「ありがとう」とエミリオ・ファルコンから挨拶があり、

「国内の人身売買組織は完全に壊滅していないので、責任を持って壊滅する」と言ってくれた。そして、

「我々の国と系列が違う人身売買組織がナイロクシアにあって、周辺国にも組織が存在している」と教えてくれた。

 俺は人身売買組織壊滅を実行したいと強く思った。


 ブルー・ウィンドウがエミリオ・ファルコンの近くに行くと、

「お前は、2度大きな仕事をしてくれた。ありがとう」とエミリオ・ファルコンから労いの言葉があった。

 大と俺は、エミリオ・ファルコンとブルー・ウィンドウに、

「2つの大きな仕事を成功に導いてくれてありがとう」とお礼を言うと、

「君達が俺を牢屋から救ってくれたから今がある」と笑顔で答えてくれた。

「怪我が早く治ると良いね」と労りの言葉をかけてもらった。

 病院を出ると、エミリオ・ファルコンと親衛隊は、俺達に

「また会おう」と笑顔で手を振ると、車に分乗して官邸に帰っていった。

 ブルー・ウィンドウは四輪駆動車に俺達を乗せて、第二倉庫まで連れて行ってくれた。

 第二倉庫に到着すると警察官も沢山来ていて、拉致された女子供を送迎バスに乗せているところだった。

「私達の行動がきっかけで組織壊滅の一歩を踏み出したので、警察に国内の組織摘発を進めるように引き継いだ」とブルー・ウィンドウが話してくれた。

 ブルー・ウィンドウは11人分のターコイズⅡと12人分のAIアーマーオムニガードと12丁の重力フォトンパルス銃を返却してくれた。

 ブルー・ウィンドウは、大と俺に握手をすると、美穂とエレナ・ロドリゲスにハグをしてから

「また会いたい」と言って、四輪駆動車に乗った。

 彼女とチームメイトは四輪駆動車と装甲車に乗ってアコノームの街へ去って行った。

 彼女達を見送ってから、俺達もAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアから乗り込み、霧隠と霧霞が停泊しているマーネルア海岸に向かった。


  31

 エミリオ・ファルコンはテレビ中継で、

「市民による市民のための政治と、国防に特化した軍隊を目指す」と宣言すると

「民主的な政治が行われる準備ができるまで、私が本国の代表を務めます。皆さんに新たな国の名前の提案をお願いしたい。採用案のお礼は、新車を1台プレゼントする」と提案した。


 懸案となっていたインペリム時代に植民地として統治した“オルフェア”、“エクソプラナ”、“リベルティア”、“ラグナリ”、“インディゴス”、“エンデュラ”の6つの国に対して植民地の権利を放棄するという声明を、エミリオ・ファルコンはテレビ中継で行った。

 植民地として、辛く厳しい時代を過ごしてきた6つの国の代表と、エミリオ・ファルコンはインペリムが植民地を放棄する契約書にサインをしたので6つの植民地は国家として正式に独立宣言を世界に発信した。

 そしてエミリオ・ファルコンは英雄として歓迎された。

 旧インペリムの新しい国の名前は“きぼう”と決まった。


  30

 そんなある日、大にブルー・ウィンドウから迎えに来てほしいと言うメッセージが入った。

「AI自律型水陸両用装甲車スキャウター1両で彼女を迎えに行きたいので、使わせてほしい」と大は白沢隊長に頼んだ。

「一緒にブルー・ウィンドウと会ってほしい」と大から俺にメッセージが入ったので、

「AI自律型水陸両用装甲車スキャウター1両使わせてもらいたい」と佐々川隊長にお願いをした。

 すると、美穂とエレナ・ロドリゲスも一緒に行きたいと言うので、三人で待ち合わせのアコノーム海岸に行くことにした。

 霧隠から大はAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗って、アコノーム海岸に上陸した。

 俺達は霧霞からAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗って、アコノーム海岸に上陸した。

 待ち合わせの場所は灯台近くのアコノームの漁村だった。目印は一隻の漁船でライジングスターと言う船名の船だった。

 大は待ち合わせの船の近くに、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターを止めた。後方扉が開いた。

 俺達も大が乗ってきたAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの隣に止めた。

 AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方扉を開けて、俺達三人が降りると既に大がAI自律型水陸両用装甲車スキャウターから降りて、ライジングスターに近づいて歩いていた。

 俺達は大の隣に並んでブルー・ウィンドウが姿を見せるのを待った。

 ブルー・ウィンドウが両手を振って、ゆっくりと階段から下船してきた。ブルー・ウィンドウはサラリーマンが着るような紺色のスーツ姿で近づいて来た。手には大きな旅行鞄を持っていた。

 彼女のスーツ姿を見て大は驚いた顔になった。

 茶髪の髪は金髪に代わっていた、顔は面長で堀は深く細い鼻筋の通った美人さんだった。今日は化粧をしていた。彼女が化粧をした顔は戦時では見たことが無かったのでモデルのようだった。身長は180cmほどあり体系はスリムだった。半面、胸は厚みがあった。

「皆さん久しぶり」とブルー・ウィンドウが挨拶すると、大に向かって、

「私の腕にあるプレゼントのブレスレッド型AI(ターコイズⅡ)は返した方がいいのかな。私、あなたと一緒がいいの」と言い出した。

「かまわないけれど」と大が言うと、ブルー・ウィンドウが語り出した。

「私は、エミリオ・ファルコンの姪です。

 両親は別の戦争で死別してしまいました。

 本名は、ヴィクトリア・ファルコンハートと言います。

 エミリオ・ファルコンはインペリムが解放され、政権が安定すれば俺は引退するのでヴィクトリア・ファルコンハートよ、お前の誇り高き志は成就した。

 これからは、お前の思うままに生きろ。俺はいつまでもお前の保護者だからと言って送りだしてくれた。  

 私は海岸線に沈む太陽や昇る朝日を見ながら、今までの暮らしを振り返り考えた結果、これから大と一緒に過ごしていきたいと強く思った。

 だからこのプレゼントのブレスレッド型AI(ターコイズⅡ)は私が持っていたい」と言い切るのだった。


「俺で良かったら、一緒に生きていこう」と大好きな彼女からの告白の言葉を聞いてやっとの思いで声を出した。大は感情が沸き上がって大きな目を見開いたと思うと歓喜の涙が頬を流れた。

 ヴィクトリア・ファルコンハートは、大の涙を見て嬉しさのあまり泣きながら大に抱きついた。

 大は内心、遠い昔の神話に登場する女神のような容姿の女性に愛されるなんて夢じゃ無いだろうかと思い、目を開けると金髪の真っ白な肌をした女性を抱きしめていた。

 大は、ヴィクトリア・ファルコンハートの胸のあたりから伝わってくる肉感は初めての感覚だった。彼女の厚みのある胸から心臓の鼓動を感じながら、嬉し涙をこらえながらこの人を守っていきたいと大は強く思うのだった。

 ヴィクトリア・ファルコンハートが、生涯の旦那様を手に入れた瞬間だった。

 この時俺達三人は何も言えなかった。美穂とエレナ・ロドリゲスが俺の左右に立っていて俺の手を左右から強く握ってきた。

 展開が早い愛の目撃者として俺達三人は大とヴィクトリア・ファルコンハートに祝福の言葉として、

「おめでとう」と声に出すのが精一杯だった。

「ありがとう」と大は涙目で俺達を見て照れ笑いのしぐさを見せた。

 ヴィクトリア・ファルコンハートは声を出さなかったが顔は涙で洪水状態になっていた。

 美穂はポケットからハンカチを出すとヴィクトリア・ファルコンハートに渡して、

「これから仲間だね。いつまでも仲良くやろう」と言うと、ヴィクトリア・ファルコンハートは感極まって声を出して本格的に泣いてしまった。


「ブルー・ウィンドウの本当の名前はヴィクトリア・ファルコンハートで、我々とセレスティアに行きたいと申し出があった」事を、大は白沢隊長に伝えて乗船許可を求めた。

 白沢隊長は、ブルー・ウィンドウ(ヴィクトリア・ファルコンハート)は今回の功労者である。彼女を迎える事に賛成してくれて我らのメンバーとして迎い入れる事を許可してくれた。俺は佐々川隊長に連絡を入れると快諾してくれた。


 大はヴィクトリア・ファルコンハートの肩を抱いて俺達三人に、

「またね」と言うと二人はAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗って霧隠に向かって走り出した。

 彼らを見送るとエレナ・ロドリゲスが、

「私もヴィクトリア・ファルコンハートのようになりたい」と言うので、恋人宣言を催促されたと思った俺は、

「三人で仲良く生きていこう」とさりげなくごまかした。

 俺の胸の内は、美穂の気持ちを考えると辛かった。美穂もエレナ・ロドリゲスも優劣を付けられない大切な人だった。困ったなと思いエレナ・ロドリゲスの顔を見ると、彼女は舌をペロと出して、しまったという顔をした。

 エレナ・ロドリゲスは美穂の気持ちをくみ取って、一言余計だったと感じたらしく押し黙った。

「艦に戻ろう」と言って、俺達三人もAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗り霧霞に帰還した。


  31

 艦に帰還すると北山艦長が田村長官よりメッセージが届いているというので、三人でメッセージ録画を見せてもらった。

「今回は、AI自律型無人戦闘機ストライカーの活躍で、敵味方に負傷者や戦死者が出なかった事は、歴史上類を見ない奇跡的な出来事だった」とのメッセージだった。

「エミリオ・ファルコンの支援が無かったら、総当たりで旧インペリムの艦船を拿捕するしか無かった。

 結果として、潜水艦空母の出番は無くAI自律型無人戦闘機ストライカーの奮闘で、むしろ良い結果を得られたことは関係者にとって一番喜ばしいことだ。成功おめでとう」とのメッセージだった。

 艦内のクルーは何度このメッセージを聞いても良いものだと拍手が起こった。

 田村長官の結びのメッセージで、ヴィクトリア・ファルコンハートを防衛大学に留学生として入学許可するとの通達を聞けた。


 同盟国のエクスカリバー第8艦隊提督ルーカス・アンダーから、

「無血クーデター成功を祝う」メッセーが届いた。

「そして、第7艦隊の重要なメンバーとして8隻の潜水艦空母に加わってもらいたい。長引く同盟国のルミアに侵略戦争を仕掛けてきているナイロクシアと第7艦隊が応戦中なので、第7艦隊に合流してルミアを解放してほしい」との内容だった。

 佐々川隊長は、母国の司令部に確認すると、

「受理して応戦参加すべし」という内容のメッセージが返ってきた。

「今回の無血クーデターが、我らの行動をエクスカリバー首脳部が認めてくれている事と、長引く戦争で尊い人命が失われる悲惨な状態が敵味方双方に出ている事、エクスカリバー国内で、税金から多くの戦費が支払われている国民の不満もあって、我々の戦闘方法に賛同して助けを求めてきていると推測している」と佐々川隊長が話を聞かせてくれた。

 参加の意思を提督ルーカス・アンダーに伝えると、

 第7艦隊提督のイザベル・デルガンドから、

「よろしく頼む」というメッセージの返事があった。

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