第3話 5番艦霧島出撃
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救出メッセージを受信して、霧霞クルーの全員を救出すべく、大は試験中のAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー4両とAI自律型水陸両用装甲車スキャウター4両を霧島格納庫に格納した。美紗は試験中のAI自律型四つ足走行ロボットアルサター19台を搭乗させた。沙羅は性能をさらに向上させたAIアーマーオムニガードを、救助を待つ彼ら用に20着用意した。試験評価が完全に終わっていないので不安もあったが、同胞を救う事だけを考えていた。
レベルアップしたAIアーマーオムニガードは軽量で、人間の動作スピードを2倍にしてくれ、腕力が弱い人女性でも、常人男性の2倍のパワーを出すことができるよう改良した。また、AIアーマーオムニガードは人の体全体をシールドで包んでくれているので、銃弾を浴びた時の衝撃は消しきれないが防弾性を強化しながら試験を繰り返してきた。遭難した時に怜央と美穂が着用したAIアーマーオムニガードを進化させた。より強化した新型が今回救援隊が着用するAIアーマーオムニガードだった。
霧島には、沢田艦長、野川副館長、クルーと戦闘員が乗船した。大、美紗、沙羅も同行する事になった。
理由は、この3人の基本設計で開発製造した戦闘用の攻撃防衛兵器を、いきなり実戦に使うことになったのが同行の理由だった。
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本国の港を出て7日早朝、AI潜水艦空母霧島はオルフェアの領海に入った。
発令所の統合コンソールから敵艦と敵潜水艦がいないか、ソナーと音紋スキャナで監視を行い探索したところ、敵艦が見当たらなかった。
オルフェア国のカネロームの漁港の手前2kmの海上へ浮上してカメラ型潜望鏡とレーダー監視を行ったが、敵艦は見当たらなかったので浮上した。
AI潜水艦空母艦橋後方の格納庫の1階にあたる扉が大きく両側に開くと、
格納庫からAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー3両と、
AI自律型水陸両用装甲車スキャウター4両がカネロームの漁港近くの海岸方面に海上を進んで上陸した。
AI自律型水陸両用装甲車スキャウター3台の各車両にはAIアーマーオムニガードを着た六名の部隊と、
AI自律型四つ足走行ロボットアルサターが6台乗っていた。もう1両は救出したメンバーを乗せるため空の状態で上陸した。
作戦は、AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー3両は海岸で待機して、避難時に敵の攻撃があった時のみ支援する立場をとった。
もう1両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターにはAIアーマーオムニガードを着た三人(大、美紗、沙羅)は、AI自律型四つ足走行ロボットアルサター1台を従えてジョン・サンチェスの家を訪ねた。
ジョン・サンチェスは、あらかじめ俺と美穂から救助隊が今日上陸してくることを聞いていたので、ドアを開けて早く家の中に入るように催促した。
大は、AIアーマーオムニガードを着たまま、自己紹介をして美紗と沙羅を紹介した。
沙羅は、インペリムの警備隊に捕まっていない八名の名前と潜伏場所が分かっていたので腕に装着されているブレスレッド型量子AIのサファイアからメッセージで、
「AI潜水艦空母霧島はオルフェアカネロームの漁港の海岸で待機しているので、艦に避難するよう」にと送り待ち合わせ場所の緯度経度を伝えた。
ジョン・サンチェスは俺と美穂そして捕まっているクルー達の刑務所場所の緯度と経度を話してくれた。
美紗が持つ量子AIのバイオレットに、
「スマートフォンからビッグデータにアクセスして、刑務所の位置と地形、立体図面、設備、重火器、警備兵の数から突入経路をシミュレーションして、成功確率が一番高い結果を各班のリーダーと各メンバーに伝えて」と話しかけた。
「YES」とバイオレットからの回答があって一時すると、
「伝達完了」のメッセージがスマートフォンから返ってきた。
「ありがとう」と美紗がバイオレットに言うと、
「YES」とメッセージ返ってきた。
大、美紗、沙羅はジョン・サンチェスの家で、救出が終わるまで待機の命令が出ていたので、AI自律型水陸両用装甲車スキャウター1両は車輛内部が空の状態で、収監されている人達が救出された後に安全な場所まで送る脱出車輛として、留置場のある建物の正面玄関で待機しているメンバーと合流するために移動していった。
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このカネロームインペリム刑務所は、街からの道路が一本あり、北側は険しい山があった。
西側と東側には川が流れていた。
3斑の役割は、東側と西側からA斑とB斑が突入して、最後にC班が正面から突入し3班が合同で十人を救出する計画だ。
救出チームが乗る2両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターはオルフェア国のカネロームインペリム刑務所に向かった。
AI自律型水陸両用装甲車スキャウターは、刑務所の建物前で静かに停車した。
この建物の周りは、金網で作られた高さ3mの柵が張り巡らされ監視カメラが設置されていた。
建物はコンクリート製2階建てで、監視塔が4か所ある。監視塔にはサーチライトと重機関銃が設置されていた。
AI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗った十八名の先鋭部隊は、選りすぐりのエリート集団だ。
そして装備は試験段階ではあったが、今までの戦闘の方法を全く変えてしまう、信じられない能力を実戦する場面がやってきた。
A斑とB斑は班員六名とAI自律型四つ足走行ロボットアルサター6台で構成され、C斑は班員六名とAI自律型四つ足走行ロボットアルサター6台で構成され3つの斑は美紗から送られてきた情報から3つの場所に分かれた。
攻撃態勢に就いて、午前8時30分になった瞬間に、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターのフォトンパルス砲と重力パルス砲が1秒間に10発パルスがプシュシュシュと光った。
発射されると刑務所施設の電源が落ちたと同時にコンピュータの電源も落ちた。これにより通信不能となり、外部との通信が遮断された。監視カメラや有刺鉄線バリケードに流れる電流やセンサーもすべて機能が停止した。
するとその建物にAI自律型四つ足走行ロボットアルサターがサーと入っていくと、その形と姿をインペリムの警備兵が
「なんだこれ」と思った瞬間に口元から重力パルスとフォトンパルスが発射された。
このパルスの威力で警備兵が所持している銃器類と自分の体が地面に吸い付いて、何か重いものが体に乗ってしまったように動きが取れない状態に陥った。まったく身動きができない自分がいて、意思と目だけは動かすことができたが無力だった。警備兵は、一人、二人、三人と、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターの重力パルス銃で自由を奪われていった。
そこに、3方から我々の先鋭部隊が突入してきた。
AI自律型四つ足走行ロボットアルサターと救出部隊は収監されている人を除いて、敵兵と思われる人にパルスを発射していった。
俺が収監されているエリアが騒がしくなったので、彼らが来てくれたと内心笑顔が溢れた。
この施設にいた警備兵がほぼ重力パルス銃で地面に横たわった状態となった。30分ほどで重力パルスの効力が失われるので、時間内にチームメイトは結束バンドで敵警備兵と看守、兵士の手足を拘束して行った。
拘束し終えると、刑務所に収監されていたすべての人を解放して行った。
収監されていた一部の人は、パルスを浴びてしまったが、解放された人達は体の自由が戻ると走って逃げて行った。
迎えに来てくれた救出部隊のメンバーに連れられてAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに俺は乗り込んだ。
車内ではマリア・サンチェスと美穂は手を取り合って、無事に救出されたことを喜んでいた。
俺は、誰も負傷しないで良かったと安心して彼女らの隣に座ると、美穂とマリア・サンチェスから手を握られ無事を噛みしめた。
救出したクルー十二名と留置されていた人、救出班十八名、AI自律型四つ足走行ロボットアルサター18台は4両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに分散して乗り込むと走り去っていった。
フォトンパルスと重力パルスで自由にならない体の当直の複数警備兵と看守は去っていく人影と、逃げていく囚人を目で追うしかできない状態だった。30分過ぎたころ警備兵と看守はようやく自分の体を起こすことができる状態に戻れたが結束バンドで手足を縛られていた。
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救出された美穂、マリア・サンチェスと俺が乗るAI自律型水陸両用装甲車スキャウターはジョン・サンチェスの家の前で止まった。後方ドアを開けて俺達が降りると、救出したクルーをAI潜水艦空母霧島に送り届けてから、この家に迎えに来るからと矢川隊長が言うので、ジョン・サンチェスの家で待つことにした。
マリア・サンチェスが玄関のドアを開けると、ジョン・サンチェス、サミイ・ロドリゲスとダック・ロドリゲスが待っていた。
そして大、美紗、沙羅とAI自律型四つ足走行ロボットアルサターの顔とエレナ・ロドリゲスの顔が見えた。
俺達の無事な姿を見て皆喜んでくれた。
するとジョン・サンチェスから俺達に提案があった。
「エレナ・ロドリゲスを含むオルフェアの若者十二人を、君達の母国に連れて行ってほしい。理由はインペリムの植民地支配から独立して国家を作るための全面支援をお願いしたい。独立国家になって平和に暮らしたい」と涙を流していた。
ジョン・サンチェス、エレナ・ロドリゲスは泣きながら懇願してきたので、美紗と沙羅は大に、
「艦長に説明して、お願いしてみよう」と言うと、大はAI潜水艦母艦霧島の沢田艦長に事情を説明して、
「母国へ連れて帰りたい」と訴えた。
10分ぐらいすると、沢田艦長からメッセージの回答があり、母国の上層部に確認したところ、
「了承」されたので、連れてきなさいと回答メッセージが届いた。
エレナ・ロドリゲスが奥の部屋のドアを開けると十一名の若者に、
「良い返事がもらえた。一緒にセレスティアへ行けるよ」と告げると、エレナ・ロドリゲスが振り返って、
「植民地から人々を解放するために、あなた方が私達の頼みの綱だった」と涙を流していた。
「本当に良かった」と部屋から出てきた若者達から小さな歓声が上がった。
あらかじめ、この流れになることを望んでエレナ・ロドリゲスを含む十二名の若者は家族を説得して旅支度をしてジョン・サンチェスの家に集まっていたのだった。
大は、AI潜水艦母艦霧島の沢田艦長に、
「AI自律型水陸両用装甲車スキャウター2両でジョン・サンチェスの家に迎えに来てほしい」とお願いした。
サミイ・ロドリゲスとエレナ・ロドリゲスは紅茶を入れてクッキーを焼いておいたので少し食べてと言ってテーブルに並べてくれた。
俺は、留置されてからお茶や甘い食べ物を口にしていなかったので、満足感でいっぱいだった。
20分位すると、家の前にAI自律型水陸両用装甲車スキャウターが到着し、オルフェアの若者を乗せるとダック・ロドリゲスとサミイ・ロドリゲスがエレナ・ロドリゲスを抱きしめて、
「気を付けて行っておいで」と別れを惜しんだ。
沙羅が、サンチェス夫妻とロドリゲス夫妻に、
「一緒にセレスティアへ行きませんか」と声をかけると、ジョン・サンチェスが、
「この家の住人が消えると、怪しまれてこの国に住んでいる私と妻の肉親に迷惑が及ぶので、ここに留まるよ」と返事が返ってきた。
大、美紗、エレナ・ロドリゲスと十一人の若者、美穂と俺は、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗り込むと、
「大切な若者をお預かりします。サンチェス夫妻、ロドリゲス夫妻ご健勝にお暮しください。またお会いしましょう」と沙羅は言い残して待機してくれていたAI自律型四つ足走行ロボットアルサターと一緒にAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗り込んだ。サンチェス夫妻とロドリゲス夫妻の四人は、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの姿が見えなくなるまで見送るのだった。
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霧島のクルーに襲撃されたオルフェア国のカネロームの刑務所のある建物で30分が経過したころ、電気が回復して警備兵達も自由に体が動かせる状態になった。
手足を拘束していた結束バンドを切ると、警備責任者はこの国を統括するオルフェアの首都ジルバーゼにあるインペリム管理統括本部に連絡をとり応援を求めた。
緊急偵察ヘリコプター出動後、この施設に到着して付近を探索し終えた頃は、襲撃後非常事態通信から90分の時間が過ぎていた。
偵察ヘリコプターが海岸線を飛行した時にはオルフェアの海岸からAI潜水艦空母霧島の姿は消えていた。
艦内では、俺と美穂、美紗、沙羅、大が肩を叩きあって、何事も無く生還できて良かったと喜んだ。
艦内の食堂に、エレナ・ロドリゲスとオルフェアの若者十一名がおり、俺は紹介しあって、
「お互いの国の架け橋になりたい」と話を聞くと仲間となって楽しい時間を過ごした。
少しすると美穂が俺の隣に来て、
「3回目の拉致だったが、仲間達の結束力により力強い絆が生まれ心の中にあったトラウマが消えたような気がする」と話しかけてきた。
「そうか仲間達の強い気持ちがこの結果を作ってくれて、経験がトラウマを消してくれたと思う」と言うと、
美穂の眼には涙があふれそうになっていたので、
「今は泣くなよ」と言うと、美穂は人の目があるからと空気を読んで、
「うん」と頷いた。
美穂と話をしていると、エレナ・ロドリゲスの視線を感じた。
俺はエレナ・ロドリゲスに、
「家族と別れて寂しいと思うけど、俺達と一緒にいれば寂しくないから、いつも一緒にいてくれ」と声をかけるとエレナ・ロドリゲスの目から嬉しさの一筋の涙が流れた。
「うん。ありがと」とエレナ・ロドリゲスが返事をすると、美穂がポケットからハンカチを取り出して、
「美人が台無しだよ」と言って微笑んだ。
するとエレナ・ロドリゲスは美穂にありがとうのハグをするのだった。
この時、エレナ・ロドリゲスは美穂の妹になりたいと強く思った。
俺達、六人とオルフェアの若者達は、艦内での食事や余暇の時間をできる限り一緒に過ごした。
オルフェアの若者に食事の内容が口に合うか心配だった。箸を使う文化が彼らに無かったので心配した。
彼らは箸に興味津々で、箸の使い方が上手になっていった。数日すると、俺達と同じように食事がマチドウシイと口にするようになった。
美紗はボードゲームをいくつか持ち込んでいて、オルフェアの若者と俺達はボードゲームを通して友情を深めていった。
俺は、微笑ましい光景を見て霧霞の故障によってオルフェアの現地で沢山の人達との出会いがあったと感じていた。
あの故障は出会いのための誰かに仕組まれた事象だったのかなと感じた。
行きついたのは運命と感じて内心これで良かったとぼんやり考えていた。
6
救出劇7日後、母港に霧島は着岸した。
救出された霧霞のクルー二十名とオルフェアの若者十二名が降り立った。
大学側はオルフェアの若者達向けに、大学近隣にある複数のアパートを借り上げてくれた。
この大学は、給料が毎月もらえるが当初の1か月分の生活費を準備金として、1か月分の給与に相当するお金がオルフェアの若者十二名に支給された。
エレナ・ロドリゲスは借り上げアパートが大学から一番遠い場所に割り当てられたため、毎日自転車で大学に通うと言い出したので、俺と美穂は交通事故にあったらどうしようと心配になって、大学事務局にお願いして美穂が暮らしている女子寮の4階に空き部屋があったので、美穂と同じ女子寮で暮らせるように大学事務局に根回しをして了承してもらった。
朝昼夜の3度の食事に食堂に行くと必ず六人のメンバーの誰かがいて、自然に六人で雑談をしながら食事をするようになった。
エレナ・ロドリゲスは、美穂を姉のように慕っていつも二人は一緒だった。
数日経過したある日、大学の大会議室に今回の救出作戦で参加したクルー、救出されたクルー二十名、オルフェアの若者十二名がテーブルを囲んで椅子に座った。
田村防衛庁長官と設計責任者の今村技術長も席に着いていた。
話の内容は、敵味方双方に負傷者が出なかったことが1番目の話題だった。
2番目の話題は、新しい技術を使った世界に類のない戦闘(救出)ができた事
3番目の話題は、この実戦経験が今後当たり前の戦術になる事
4番目の話題は、相談として、植民地であったオルフェアを独立国家にする場合、インペリムとの戦争が予想される事だった。
エレナ・ロドリゲスとオルフェアの若者十一名は防衛大学生として臨時入学が許された。
彼らは、量子コンピュータAIの知識と、開発中の攻撃防衛兵器の知識と使い方を学んでいった。
エレナ・ロドリゲスは、俺のチームメイト五人に溶けこみ、六人は一緒に勉強をして訓練に参加した。
エレナ・ロドリゲスとオルフェアの若者十一名は、防衛大学の良質な環境と食事に満足していた。
7
大学3年生の秋になると、俺とチームメイトは今村技術長から設計室に来るようにメモを受け取った。
今村技術長から、
「AI自律型無人戦闘機開発試験が上手く進んでいないのでもう一度再設計に着手してほしい」との説明を受けた。
今回は、五人で共同開発を進める事になり、リーダーは、町野副技術長だった。六人は会議テーブルに着席した。
町野さんから、無人戦闘機の仕様の説明が始まった。
・AIを搭載した自律型無人戦闘機
・飛行はエアージェット方式で、かつ垂直離発着ができる
・エアージェットは静粛性を追求し、音紋をできる限り最小限にする
・無人戦闘機の航続距離は10000km
・飛行時のスピードはマッハ8以上
・敵レーダーに映らないステルス性能
・赤外線カメラ内蔵
・サーモカメラ内蔵
・レーダー内蔵
・音紋スキャン内蔵
・各機の通信は量子ネットワーク
・重力フォトンパルス銃を装備
・機体のサイズは全長6m、翼幅2.5m
・戦闘と偵察を兼ねる機能を搭載
・電源バッテリーは大容量コンパクト化を図る
チームメンバーは、役割分担して量子コンピュータAIに相談しながら進めた。
AI量子コンピュータ4台は連携しながら全体最適化を考慮しながら、役割分担の課題の解決策として、全体で1000通りのシミュレーションを行い最適と思われる原理と構造を解とした。
翌日の放課後、チームメンバー五人は設計室テーブルで町野さんを待った。
5分後に町野さんが着席したので、AI搭載の無人戦闘機仕様を満足させる設計を行うための情報を伝えた。
「ひとつ守れなかった仕様は機体の大きさだった。全長は7mで翼幅3mになってしまった」と俺は説明した。
「機体が大きくなると潜水艦空母格納庫に収納できる機体数が少なくなってしまう事を懸念材料」として、俺は町野さんに話した。
「機体サイズ以外は仕様を守れそうなイメージができた。機体サイズは今後の検討課題として、実機開発製造に入ろう」と町野さんが言ってくれた。
「あんた達は、良い仕事をしてくれる」とお礼を言われた。
8
俺とチームメイトは、防衛大学4年生となりエレナ・ロドリゲスとオルフェアの若者十一名が臨時入学してから1年が過ぎようとしていた。
今村技術長から講堂に集まるよう指示があった。
俺とチームメイトは講堂に入り、今村さんが来るのを待った。
今村さんと町野さんがドアを開けて入ってきた。
「未確認情報ではあるが、中東の国フリオスにインペリムが攻め込んで植民地化を進めている」と田村防衛庁長官から、
「内密にフリオスに行き、植民地化の調査を行い必要であれば阻止してほしい」という命令が出たと今村さんが説明してくれた。
「同盟国のエクスカリバーは、経済大国で世界の平和を守るため、第7艦隊がフリオスを守る立場ではあるが、同盟国のルミアに侵略戦争を仕掛けてきているナイロクシアと応戦中との事で、フリオスの支援が出来ない状態から、我が国の戦略兵器に頼ってきた」と説明を受けた。
AI搭載の自律型無人戦闘機の試作を何度も繰り返して、ほぼ実践で運用可能な状態までこぎつけたと発表があった。
今回の実戦でAI自律型無人戦闘機ストライカーを作戦に組み込むと説明を受けた。
3日後に、4隻のAI潜水艦空母である1番艦霧霞、2番艦霧隠、3番艦霧深、5番艦霧島が向かう事になった。
4番艦霧海は本土防衛として残る事になった。
美穂とエレナ・ロドリゲスとオルフェアの若者十一名は、防衛大学で待機となった。
各艦には、艦長と副館長を含む二十名のクルーが乗り戦闘員は隊長を含む二十名が乗船と決まり名簿が掲示板に張り出された。
そして各艦に、試験段階のAI自律型無人戦闘機ストライカー5機、
AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー5両、
AI自律型水陸両用装甲車スキャウター5両、
AI自律型四つ足走行ロボットアルサター10台を積載した。
俺と三人の親友も、各艦に乗り任務はAI自律型水陸両用装甲車スキャウターで、偵察及び戦闘時における自分の部隊に最適な攻守を伝える任務だった。
フリオス植民地化の情報はほぼ間違いないので、目的地に到着するまで、4艦は量子ネットワークで情報共有しながら、敵基地のマップ情報、天気状況、各町の基地敷地情報と建物の構造と電力設備の内容、常駐兵の数、銃器の種類と数を把握して、戦略シミュレーションを1000通り行い各部隊は最短で高効率のルートを組み立てた。
4艦に乗船した4部隊は、地理的に離れている4カ所の海岸から上陸し首都にある指令本部攻略のため、本部を目指して住民を解放しながら進む作戦を立てた。
霧霞出港当日俺は、旅支度をしていると誰かがドアをノックするので、ドアを開けると美穂とエレナ・ロドリゲスが立っていた。
部屋に二人を入れると、美穂は俺の右隣に来て安全祈願のお守りを俺に握らせたと同時に耳元で、
「愛しい大切な弟よ。無事に帰ってくるのが義務だ」と耳元でつぶやくと、エレナ・ロドリゲスも俺の左隣に来て、健康祈願のお守りを俺の手に握らせて、
「私の愛しい人無事に帰って」と耳元で囁いた。
俺は考えてもいない場面だったので、
「大丈夫だから」と照れ笑いをするしかなかった。
ひと呼吸おいてから美穂とエレナ・ロドリゲスに、
「一緒に写真を撮ろう」と言うと、
「自撮り棒が無い」と美穂が言った。すると部屋のドアが開いたのでドアの方を見ると、大が立っていた。
大にスマートフォンのカメラモードで写真を何枚か撮ってもらった。
四人で朝食を食べに食堂に入ると、沙羅と美紗が食事を始めるところだったので、六人で朝食の楽しい時間を過ごした。
美穂とエレナ・ロドリゲスに見送られながら、俺達四人はマイクロバスに乗って潜水艦空母が停泊している軍港まで移動した。
軍港に到着すると、キャスター付きの旅行バッグを引きずりながら、各艦に分かれる桟橋の手前で俺は、
「四人で無事に帰ってこよう」と声をかけると三人から、
「おう」と元気な返事が返ってきた。
三人と別れて、AI潜水艦空母霧霞に向かう桟橋を歩いた。
船橋のハッチから艦内に入ると、北山艦長、宮下副艦長、佐々川隊長が待っていて、艦の基本点検が終わったところだから、手荷物をロッカーに入れてきなさいと進言されたので、
「はい」と返事をしてから男性クルー寝台の部屋でロッカーに荷物を収めた。
スマートフォンを取り出して、今朝方美穂とエレナ・ロドリゲスで撮った三人写っている写真を見て、母港に戻ってくるまでこの写真を励みにして元気に戻ろうと考えるのだった。
9
インペリムから侵略を受けているフリオスに行くには、右回りでオルフェアの海域からインペリムの海域を通過して、ようやくオルフェアの海域に入ることができる。この海域までは15日程必要となるようだ。
俺は、フリオスのマドーラ海岸から上陸して、マドーラ敵基地攻略後、
コナルガで美紗の部隊と合流し、コナルガ敵基地を攻略して、
首都のヘキセンにあるインペリムの軍司令部を攻略する命令を受けていた。
俺達4艦は深度600mに潜航して音紋スキャナとソナーを頼りに艦を進めた。
音紋スキャナのバックヤードデータベースには船舶の音が登録されており、音紋で船舶の国と船種の検索ができる優れた機能を持っていた。
オルフェアの海域では、インペリムの2隻の巡洋艦と3隻の監視艇が海上を航行していた。そして海中では潜水艦1隻が1km先を潜航していたのが聞き取れたので、通り過ぎるまで海底で沈黙してかわした。
母港を出て10日目にはインペリムの海域に入った。インペリム軍を刺激しないように、俺達4艦は静かに海中を進んだ。
インペリムの海岸線を270度程ぐるりと回り込まないとフリオスの海域にたどり着けない地形だった。
海上では、4隻の監視艇と6隻の巡洋艦、海底では3隻の潜水艦を音紋スキャンで確認したが、戦闘を避けたかったので息をひそめてフリオスの海域を目指した。
母港を出て15日後に俺達はフリオスの海域にインペリム軍に発見されることなく何とかたどり着いた。
インペリムとフリオスは陸地続きで陸地から侵攻しているようでインペリムの海上の警戒は甘かった。
フリオスの海岸を右回りで潜航していく。
大が上陸するアーガサが一番近い海岸で、
2番目は沙羅が上陸するシオン、
3番目は美紗が上陸するマヒロ、
一番遠い4番目は俺が上陸するマドーラだ。
大、沙羅、美紗の艦と別れて数日後に、AI潜水艦空母霧霞はフリオスのマドーラ海岸から1km手前にたどり着いた。
海底から、音紋スキャンとソナーで、近隣に敵艦を探索して安全を確かめた。
カメラ型潜望鏡とレーダーが使えるあたりまで艦を浮上させて、海上と空を探索した。
安全を確認できたので浮上した。
艦橋の階段を登ってハッチを開け、ハッチから外に出ると久しぶりの太陽の光が目も眩む程まぶしかった。
青空と海から潮の香がして海鳥の声が聞こえる。外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。穏やかな海を見ながら戦争が行われている事が信じられなかった。
深呼吸をしてから船橋のハッチから艦内に続く梯子を下りた。
クルーの寝台のある部屋に行き、俺はAIアーマーオムニガードに着替えてから格納庫1階のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗るために艦内通路を歩いていくと、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの前で佐々川隊長が待っていて
「さて行くか」とにっこりと笑った。
内心、佐々川隊長はいつも頼れると信じている人だった。
AI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗り込むと、格納庫1階の両開き扉が開いて陽が入ってきた。AI自律型水陸両用装甲車スキャウターは艦の進行方向に向かって垂直に駐車されていた。
クルーが車止めを外すと、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターは艦の外殻から海上に滑り降りた。ウオータージェットエンジンで海岸に向かって海上走行に入った。
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俺達が乗ったAI自律型水陸両用装甲車スキャウターは、フリオスのマドーラ海岸から静かに上陸して港街の偵察に出た。
乗員は味方戦闘員三名とAI自律型四つ足走行ロボットアルサター3台で、俺はAI自律型四つ足走行ロボットアルサターに偵察してきてほしいと指示を出すとAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアを開けると、それぞれが3方向に静かに偵察に出かけて行った。
AI自律型四つ足走行ロボットアルサター3台から送られてくる映像はAI自律型水陸両用装甲車スキャウター内で見る事ができて、4艦と本国に同時に量子ネットワーク経由で配信された。上陸部隊は4隊あったので、4つの街の情報が同時に配信されていた。
配信先の大、美紗、沙羅が乗っているAI自律型水陸両用装甲車スキャウターは個別の海岸で俺と同じ立場だった。
4つの街では、インペリムの軍服を着た兵士が二人1組で住民監視をしていた。
「偵察を終えて戻るよう」に各艦の艦長からメッセージが来たので、4部隊の各偵察隊は各艦に帰艦した。
偵察の様子から、フリオスは武力で完全に征服されているように見えた。
セレスティア母国では、防衛庁関係者と国会議員、有識者による話し合いが行われて、同盟国である大国のエクスカリバーの大統領及び軍部と映像情報を共有して、インペリムと戦闘すべきか緊急会議が開かれた。
その結果として1時間後に、
「フリオス住民を解放せよ」との指令が4艦に発令された。
マドーラの街に入る直前でAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー4両と
AI自律型水陸両用装甲車スキャウター3両は待機、
AI自律型無人戦闘機ストライカーにより敵基地上空から、電源シャットダウンをフォトンで行い、重力パルスを発射して敵兵を動けなくする戦法を採用した。
AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー4両が先頭を走り、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターは3両を向かわせるが、その中の2台の各車両には十人の戦闘員が乗り、10台のAI四つ足歩行自律ロボットアルサターが乗って戦闘に参加した。
残るAI水陸両用装甲車1両は、想定される故障時の交換パーツと食料や負傷時の救急設備を積載して奪回を展開する戦法を後方支援とした。
明朝4時に作戦開始となった。
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作戦当日、俺と佐々川隊長は同じAI水陸両用装甲車スキャウターに同乗していた。早朝なので格納庫1階の両開き扉が開くと外は薄暗かった。装甲車は艦の進行方向に向かって垂直に駐車している。艦の外殻を走行して海に浮かぶと、ウオータージェットエンジンで海岸に向かった。
海岸に上陸後、2両のAI水陸両用装甲車スキャウターの後ろの扉から10台の自律型ロボットが静かに出て行くと戦闘員が続いた。
AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダー4両とAIアーマーオムニガードを着用した戦闘員二十名が進んでいった。
路上で警備をしている敵兵にフォトンパルスと重力パルスを発射しながら進んだ。
路上監視をしていたインペリム兵士は、フォトンパルスと重力パルスを浴びせると地面に倒れていった。
チームメイトが敵兵の武装解除と拘束を始めると、フリオスマドーラの住民が寄ってきたので、
「フリオスを解放に来た」と伝えて、
「敵兵は30分で体を動かせるようになるので、武装解除と拘束をお願いしたい」と伝えた。
フリオス住民は、最初は我々を理解できなかった様子だったが徐々に状況を呑み込めてきたらしく、家に潜んでいた住民の目には、我々がインペリム兵士を捕獲していく行動が味方と映り、家から路上に出て応援してくれるようになった。
街を進むにつれて俺達の後ろにはフリオスの住民が、戦闘に巻き込まれない安全な距離を保ちながら、我々の後から敵兵を捕獲しながらついてくるようになった。
「捕獲したインペリム兵士の安全」をフリオスの住民にお願いして、
「敵兵をマドーラ警察の留置場に入れて、捕虜とするよう」に伝えながら解放前線を進んだ。
12
マドーラの住民から、インペリムがマドーラの街を監視している拠点を教えてもらうと、鉄道のマドーラ駅前にある5階建てのビルが拠点だと教えてくれた。
敵の拠点のビルまで10分ほどで到着できる距離に俺達は移動して行った。
俺は腕に装着している量子AIのラピスラズリに、
「霧霞からAI自律型無人戦闘機ストライカーを発艦させて鉄道のマドーラ駅前にある5階建てのビルを重力フォトンパルスで攻撃してくれ」と伝え緯度と経度を伝えた。
霧霞艦橋後方部の格納庫2階の天井が観音開きに開くとAI自律型無人戦闘機ストライカーが垂直離陸して、鉄道のマドーラ駅前にある5階建ビルに飛行して行った。
我々が敵の拠点ビルが見えた頃、空から黒い影が猛スピードで急降下してきたかと思うと、光のようなパルスが発射された。
黒い影は、急上昇してもう一度急降下してきて光のようなパルスを5階建てのビルに浴びせた。そして黒い影は海に向かって飛び去って行った。
「作戦完了」のメッセージをラピスラズリ経由でAI自律型無人戦闘機ストライカーから受信した。
霧霞艦橋後方部の格納庫2階の天井が観音開きに開くとAI自律型無人戦闘機ストライカーが垂直着艦した。
我々は、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭にビル内に突入した。
ビルは鉄筋コンクリート造で華やかなピンク色の外壁だった。
1階はパン屋さんと日用雑貨の店がテナントとして入っていた。
AI自律型四つ足走行ロボットアルサターに続いて階段を登って2階フロアに入ると、
レストランのようでインペリム兵士が朝食中に我々の攻撃を受けた様子で、テーブルに体をゆだねるように自由を奪われていた。手を付けた食べ物や飲み物がテーブルや床に散乱していた。
確認が終わるころ、フリオスの若者達がやってきて、
「武装解除と拘束は俺達に任せて」と言うので、
「お願い」と言って、俺達はAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に3階へ続く階段を登った。
3階フロアに入ると通路を中心に左右に4つの部屋があり、テナントオフィスのようだった。
各部屋を覗いてみると、監視センターらしく、壁にディスプレイが並んでいて、その手前には操作コンソールがあった。
椅子に座った状態で敵兵が自由を奪われていた、隣の部屋を覗いてみると通信室のようで、コンピュータ室、電話設備室、無線設備室があり、椅子に敵兵が座ったまま自由を奪われていた。また自由を奪われた状態で床に兵士が倒れていた。
先程のフリオスのリーダー役の若者が来てくれて、
「武装解除と拘束は俺達に任せて」と言うので、
「お願い」と俺は伝えてAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭4階に続く階段を登った。
4階も3階と同じ4部屋だったが、一番奥の部屋には、この拠点の管理者の部屋だった様子で、軍服を着た将校のような年配の男性が倒れていた。
フリオスのリーダー役の若者に4階の処理をまかせて、
俺達はAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭5階に行く階段を登った。
5階は、フィットネスクラブで無人だった。
これでマドーラの街を監視している拠点は陥落した。
13
先程のフリオスのリーダー役の若者が5階にやってきて、
「捕虜は俺達の仲間が留置場に連行します」と言うので、
「お願いする」と佐々川隊長が言うと若者のひとりが、
「あなた達はどちらの国から私達を助けに来てくれたのですか」と尋ねてきた。
「私は佐々川と言います。セレスティアから皆さんを解放にきました」と自己紹介をすると、
「僕は、ミカエル・スミスです」と若者は自己紹介をした。
「この解放戦線を見届けたいので付いていきたい」とミカエル・スミスは言いながら突然泣き出して懇願した。
「平和な街に突然インペリム兵士が攻めてきて、住民の殺戮や財産の貴金属を奪って行ったことは許せない」と泣きながら話すのだった。
俺は、ここにいるミカエル・スミスは、相当つらい時間を送ってきたのだなと、彼の気持ちを理解できた。
「フリオスの住民をまとめてフリオスチームとして解放戦線に参加したい」とミカエル・スミスが佐々川隊長に強く訴えた。
「ちょっと待って」と言うと、霧霞の艦長に許可を求めた。
ひと時すると、北山艦長と宮下副艦長から、
「ミカエル・スミス同行許可」の返事が来た。
佐々川隊長がミカエル・スミスに伝えると、不安そうな顔が一変して輝き、彼の頬にうれし涙が流れて光った。
エレベータを使って1階に降りて駅前のビルから外に出た時に、
「攻略時にエレベータを使わなかったのはどうして」と俺は佐々川隊長に尋ねると、
「エレベータの回数が表示され、フロアに停止してドアが開く時に音がする。誰かが1階から登って来ると敵に感づかれるのを、念のため防ごうとした」と教えてくれた。
「なるほど」と思わず呟くと佐々川隊長は、
「次の街に移動するか」と笑顔で声をかけてくれた。
ミカエル。スミスを中心とするフリオスチームは、何台かの乗用車に分散して俺達の後に続いた。
14
最初の街マドーラには、住人として暮らしているように見せかけて、インペリムの諜報員が住んでいた。
名前はブルー・ウィンドウと呼ばれていた。
ブルー・ウィンドウは展開される戦闘をスマートフォンで録画して、インペリム指令本部にメールで送った。
インペリム指令本部のエミリオ・ファルコン戦略本部長は、この映像を見て最初に何が起きているか理解できなかった。
繰り返して映像を見ると、兵士達は何かのパルスを浴びてしまうと身動きができない様子で死んではいないと見て取れた。
不思議なのは、戦闘で我が兵を殺戮していない事だった。
戦争だったら、殺し合いが当たり前なのだが、兵隊、住民、見慣れない服を着て攻めてきた敵部隊は、殺戮を行わないのは何故なのだろうかと疑問が残った。
インペリム指令本部では、フリオスの国内で、同じ時間帯に他の3つの街に滞在させていた諜報員から動画が送られてきた。マドーラの戦闘に似ていた。4つの街にある基地と通信ができない事で、4つのルートから個別部隊がこの司令部に向かっていることを予測した。
偵察用ドローンを指令本部から4か所に飛ばして様子を確認したところ、フリオスの国旗を振る住民の姿が動画で見ることができた。しかし、その数分後4か所の街に飛ばした4台のインペリム偵察ドローンは突然通信が途絶えて消えてしまった。
インペリム指令本部は、諜報員四人から送られてきた動画を参考にして地図から侵入ルート3つがこちらに向かっていると認識して、即座に自律型攻撃ドローン30機を、
沙羅が攻撃に向かう第二の街ソウジョウ、
大が向かう第二の街テンコウ、
美紗と俺が向かう第二の街コナルガの3つの街に10機をひとつの小編隊として飛行させた。
このドローンはデジタルマイクロコンピュータaiで飛行攻撃を行う最新テクノロジー兵器だった。
高速性で敏捷性があり、ロケット弾を8基搭載して世界最強の部類に入る戦闘ドローンで、ロケット弾を打ち尽くすと、神風飛行をして敵に突入して自爆するのだった。
そして、インペリム軍戦車、装甲車、歩兵からなる陸上3小隊を、敵が進んでくるソウジョウ、テンコウ、コナルガの3つの街に向かわせた。
15
コナルガの街に入る手前に大きな川が流れていて、コナリバーブリッジという大きな橋がかかっており、この橋を渡るとコナルガの街に入る。俺の部隊は、美紗の部隊とこの橋手前の河川敷公園駐車場で待ちあわせていた。
俺達は、この河川敷公園駐車場に駐車しAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアを開けると、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターが偵察に飛び出していった。安全を確認したとメッセージがあったので外に出ると青空が広がっていて雲が浮かんでいた。ミカエル・スミスのオルフェアチームの乗用車も駐車場に入って止めた。
河川敷公園は川沿いに整備されていた。
佐々川隊長と俺は川辺沿いのベンチで川の流れに見とれていた。
聞き覚えのある音が後方から聞こえたので振り返ると、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターとAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーが河川敷公園駐車場に入ってきて止まった。
AI自律型水陸両用装甲車スキャウター後方ドアから、矢川隊長と美紗が降りてきた。
俺は、美紗と矢川隊長に近づき挨拶していると、ミカエル・スミスと俺達に同行してくれたオルフェアの仲間達が挨拶に来てくれた。
美紗と矢川隊長は笑顔でミカエル・スミスと握手を交わした。
その時、コナリバーブリッジの欄干で何かが光ったと思うと、ミサイルがこちらに向かって飛んできたのが見えた。
「ミサイルだ」と言った瞬間にロケット弾は美紗が乗ってきたAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアに着弾して爆発し音とともにドアが吹き飛んだ。爆風で近くにいた俺達も吹き飛ばされた。
着弾した車輛の隣にいたAI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーから重力パルス砲が橋の欄干でロケットランチャーを持っていた兵士に発射された。
爆風に巻き込まれなかった俺達の戦闘員とAI自律型四つ足走行ロボットアルサターは河川敷から橋に駆け上り、敵と思われる兵士を捕獲に行った。
俺は意識がもうろうとしていたが何とか起き上がると、吹き飛んだドアの下敷きになっている人がいた。
佐々川隊長と俺はドアを持ち上げると、ミカエル・スミスが美紗をかばう様にドアを背中で受け止めていた。美紗は地面にうつ伏せ状態で倒れていてその上にミカエル・スミスが乗っている状態だった。
ドアを持ち上げて横に置いてから、ミカエル・スミスを芝生の上に寝かせた。
美紗も目を開けていたが、爆発のショックで起き上がる事ができなかった。
ドアがロケット弾の防壁となってくれた事と、美紗はAIアーマーオムニガードを着用していたのとミカエル・スミスがクッションになってくれたので、
「左肩から左側の腰あたりまで痛い」と言ったのが意識はあった。
ミカエル・スミスは呼吸をしていたが意識を失っていたので意識が戻るまで待った。
少しするとミカエル・スミスの意識が戻ったので、
「ミカエル、ミカエル」と何度か呼ぶと、彼は目を開けた。
「呼吸ができない。背中の右側半分が痛い」と返事をしてくれた。
一同は、ミカエル・スミスが死なずに済んで良かったと一安心した。
橋の欄干で敵兵を捕獲していると街の方向の空から敵ドローン小隊が近づいてきた。
AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーは河川敷から搭載されていたフォトンパルスロケットと重力パルスロケットを発射した。
発射したロケット弾は敵ドローンの手前の空間で爆発して強烈な光を放射した。この時500mの弾幕を張ったことにより、フォトンパルスは敵の自律型ドローンのネットワークと、搭載しているマイクロコンピュータのプログラムを消去し、電子を強制シャットダウンした。10機の自律型攻撃ドローンは地上に落ちて行った。
ドアが吹き飛んだAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗ってきた戦闘員は車両から降りていたので、負傷者がいなかったので、他のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターにAI自律型四つ足走行ロボットアルサターと分散して乗る事になった。
ミカエル・スミスの仲間は、後方ドアが吹き飛ばされたAI自律型水陸両用装甲車スキャウターが走行可能な事を確認するとミカエル・スミスと美紗を乗せて、マドーラにある病院へ連れていくことになった。
二人を乗せるとマドーラの街に向かって走り去った。
俺達が橋を渡り終えたころ、ドローンが1機飛行してきて俺達を監視しているようだったので、AI自律型水陸両用無人戦車デフェンダーからフォトンパルス砲が発射された。
フォトンパルスは電子の流れを停止させ、搭載されているRAM(ランダムアクセスメモリ)とROM(リードオンリイメモリ)、CPU(セントラルプロセッシングユニット)に記憶されているプログラムとデータ消去を瞬時に行い、搭載されていたマイクロコンピュータシステムのコントロールを奪い強制シャットダウンしていた。
「偵察ドローンだったと考えると、マドーラから俺達を監視して、この橋の欄干で待ち伏せしたと考えると筋が通る」と佐々川隊長が話してくれた。
橋を渡るとミカエル・スミスの仲間達が民家を回って、コナルガの街にあるインペリム基地について聞いて回った。
コナルガと首都ヘキセンの間に飛行場があってそこがインペリム基地になっていると聞くことができた。
ラピスラズリに敵飛行場の情報を入手してもらった。この飛行場から自律攻撃型のドローンが飛んできたと考えて。
そして、AI自律型無人戦闘機ストライカーの発信準備をラピスラズリ経由で緯度経度を合わせて霧霞に依頼した。
16
コナルガの街に入ると、インペリム兵が街の所々で警戒していたので、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターはインペリム兵を重力パルス銃で地面に倒してオルフェアの若者達が拘束していった。
ミカエル・スミスの仲間達は遠くから我々の行動を見ていたコナルガの住民達に説明すると、彼らは街を解放してくれると理解して敵兵士の武装解除と拘束を手伝ってくれた。
コナルガの街を過ぎ、1kmほどで飛行場があると住民が教えてくれたので、AI自律型無人戦闘機ストライカーの発艦をラピスラズリ経由で霧霞に依頼した。
15分ほどすると、AI自律型無人戦闘機ストライカー3機が飛来してきて飛行場がある方向へ向かっていった。
俺達は飛行場の入り口の手前で待機していると飛行場一帯が光に包まれた。
飛行場に俺達が到着するとAI自律型無人戦闘機ストライカーが基地の上空でホバリングしていた。飛行場ターミナル入り口のロータリー付近では戦車8両と装甲車10両は走行不能状態の様子で動く気配はなかった。
敵兵300人の1小隊の兵士があちらこちらの地面に倒れていた。
飛行場ターミナルの手前が旅行客用の専用駐車場で平面駐車場が広がっていた。
ターミナルの建物は3階建てで、グレーのアルミ板のような外壁で囲まれていた。
ターミナルの向こう側には、格納庫と旅客機、軍事用の大型飛行機や攻撃ヘリコプター、ジェット戦闘機が翼を休めていた。
重力パルスの効果は30分なので飛行場入り口前で、もう一度AI自律型無人戦闘機ストライカーにフォトンパルスと重力パルスの発射を飛行場内のターミナルの建物と管制塔、格納庫と軍の機体に向けて発射依頼をした。
飛行場内は大きく光ったと思うと、AI自律型無人戦闘機ストライカーは霧霞に帰艦していった。
コナルガの住民は、飛行場ターミナル入り口のロータリーで待ち伏せをしていた敵兵が重力パルスで動けないことを確認すると武装解除と拘束を始めてくれた。
矢川隊長部隊は、飛行場内に入り分散して格納庫と軍の大型輸送飛行機やジェット戦闘機の搭乗員捕獲に飛行場内探索を始めた。
佐々川隊長部隊は、飛行場ターミナル内の兵士と管制室の兵士の捕獲のため建物に突入した。
電力はすべて停止しているのでターミナル建物内は暗く、電気で動作するすべての機器や装置は停止していた。
AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に1階ターミナル内に入ると、複数の搭乗カウンターが並んでいて、航空会社の人達や旅行客、敵兵士と飛行場内で働いていた人達も地面に横たわっていた。コナルガの住民が何人か建物内に入ってきたので、敵兵士の武装解除と拘束をお願いした。
2階の搭乗口に行くエスカレータやエレベータは停止していたので、階段でAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に2階に登った。
搭乗口待合室で椅子に座ったまま動かいない人や、航空会社の人達や旅行客が床に倒れていた、敵監視兵も倒れていたので武装解除と拘束を進めた。
3階へAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に階段で上がると土産物売り場が広がっていた。売り場では店員さん、旅行客が床に倒れていた。
敵監視兵が数人倒れていたので、武装解除と拘束を行って、売り場を通過して管制室に続く階段を上った。
航空管制室のドアを開けると、机に覆いかぶさるように何人かの人が動けない状態になっていた。床にも数人倒れていたので、敵兵士らしき人達に対して武器を持っているか確認しながら武装解除と拘束行った。
階段で、1階に降りてから飛行場ターミナルから外に出ると、病院へ行った美紗からラピスラズリにメッセージが入った。
美紗は軽傷で薬の必要は無いと診断されたようだが、ミカエル・スミスは右側の肋骨が2本折れていた。
ミカエル・スミスは少しの間入院して様子見と診断された。美紗はミカエル・スミスの看護をすると矢川隊長に連絡をし、許可をもらったのでヘキセンにあるインペリム本部への攻撃をよろしく頼みますとの内容だった。
「忙しい毎日だったので良い機会だから、ゆっくりと養生するのが良い」と返事のメッセージを送ると、
「そうする。ありがとう」と返事が来た。
矢川隊長と佐々川隊長が、飛行場を解放したので住民達から祝福を受けていた。俺はロータリー脇にあるベンチに座ってスマートフォンを取り出して、美穂とエレナ・ロドリゲスの写真を見ながら、
「どうしているかな」とぼんやりとしていた。
インペリムの諜報員ブルー・ウィンドウは、飛行場が見える物陰からこの戦闘を録画した。飛行場ターミナルや駐機場全体が光に包まれてから30分ほど経過すると、捕獲された兵士は無抵抗で反撃できなかった様子と負傷者がいなかったシーンを撮影してスマートフォンに保存した。
この不思議な戦闘内容をスマートフォンに録画しデータをインペリム指令本部のエミリオ・ファルコンに送信した。
17
佐々川隊長から移動の声がかかったので、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアから乗り込んだ。
麦畑を見ながら首都のヘキセンに向かった。
ヘキセンの街に入る手前に、麦を貯蔵する大きな保管倉庫があった。大と沙羅の部隊と待ち合わせをするにはうってつけだった。
大きな倉庫が10棟ほど並んで立っていて、大型車両が麦を満載して行き来するので駐車場も広く大きかった。
俺達の部隊が、保管倉庫に到着するとすでに大と沙羅の部隊が到着していた。
保管倉庫の管理人に相談したところ、偶然5つの倉庫が空いているので我々の車両を倉庫内に格納することができると提案してくれた。俺達は提案を受け入れて倉庫内に車輛を格納した。
後で聞いた話だが、我々が解放軍としてインペリム軍を各街から撤退させて首都に迫っていることを仲間から聞いていて、我々の協力者として提案してくれたと石井隊長が話してくれた。
車輛を倉庫に格納し終えると大と沙羅がやってきて美紗の怪我はどうかと心配していた。
「美紗が乗ってきたAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアが開いていたため、そのドアにロケット弾が命中してドアが美紗に飛んできた。偶然ミカエル・スミスが美紗と矢川隊長と挨拶している時でミカエル・スミスが美紗をかばう様に飛んできたドアから美紗のクッションになってくれたので、美紗は驚いただけで怪我はしなかったがミカエル・スミスは肋骨を2本折ったようで、美紗が病院で看病にあたっている」と俺が伝えると、
「ミカエル・スミスはとっさに美紗をかばったのでは」と沙羅が言うので、
「沙羅の直感は当たっていると思う。あの時“ミサイルだ!”と俺が叫ぶと美紗は逃げようとしたが、間に合わないと判断したミカエル・スミスは美紗をかばう様に美紗を抱きしめたまま飛んでくるドアを体で受け止めた」と状況を話すと、
「ミカエル・スミスやるー!」と沙羅が明るく言った。
「ミカエル・スミスの顔を見たら大切な美紗を守ってくれてありがとう。よくやったミカエル・スミスと私が言うから」と沙羅は宣言した。
AI自律型四つ足走行ロボットアルサターが保管倉庫10棟の監視にあたってくれた。
AI自律型四つ足走行ロボットアルサターには、赤外線監視カメラ、サーモグラフィックカメラ、レーダー、音紋スキャナが装備されていた。
夕食は、この倉庫の関係者がフリオスの有志に声をかけてくれてトラックで食材を運びこんでくれた。俺達はフリオスの住民とささやかな夕食会を開いた。
ヘキセンにあるインペリムフリオス本部の場所を聞くと警察署が本部になっているという。
インペリム軍が我々の動きを察知していて、戦車16輌、装甲車8輌、2小隊の約六百人が待ち受けている。
この場所から警察署まで40分ほどで到着するとフリオスの有志達が教えてくれた。
隊長四人が話し合い、4方向から攻め落とす計画を立てた。
朝方6時に攻撃開始と決めた。
俺達は、4艦のAI自律型無人戦闘機ストライカーに首都ヘキセンのインペリムフリオス本部の場所について緯度経度を伝えて、午前6時に3機1編隊で攻撃するよう指示をした。
霧隠の3機と霧深の3機は制空権を確保する。霧島の3機と霧霞の3機はインペリムフリオス本部を攻撃するようメッセージを送った。
18
早朝4時に起床して朝食を軽く済ませた俺達はインペリムフリオス本部へ向かった。
佐々川隊長と俺達は、警察署の裏門から突入の予定だったので裏門手前の有料駐車場やホテルの駐車場に分散して車輛を駐車して6時になるのを待った。
警察署の敷地は広く倉庫、屋根付き車庫、車輛修理工場が並んでいた。建物は4階建てで濃紺のサイディングが張られていた。
裏門を覗くと戦車、装甲車、検問所が見えた。
すると上空で敵攻撃型ジェットヘリコプター3機と自律型攻撃ドローン18機に対してAI自律型無人戦闘機ストライカー3機が空中戦を始めたように見えた。AI自律型無人戦闘機ストライカーから発射されたフォトンパルスと重力パルスが空で光った。
AI自律型無人戦闘機ストライカーは、フォトン機能を使って敵と判断した自律型ドローンのネットワークと搭載しているマイクロコンピュータのプログラム消去と電子を強制シャットダウンした。18機の自律型攻撃ドローンは地上に落ちて行った。
攻撃ジェットヘリコプター3機は自律型攻撃ドローンにネットワークを介して信号を送って遠隔攻撃を仕掛けたようだが、フォトンパルスで電子機器が停止したため重力パルス制御で木の葉の様にユラユラと地面に着地していくと雑居ビルの駐車場や路上に降りていった。
攻撃型ジェットヘリコプター1機にはパイロットと兵士が乗っていたが、敵攻撃型ジェットヘリコプター3機とも無事に地面に降りて負傷者が出なかったことを確信した。
警察署全体が目もくらむ光に覆われた。AI自律型無人戦闘機ストライカーが空からインペリムフリオス本部に向かって、フォトンパルスと重力パルスを発射した。
光が無くなるとフォトンパルスによって警察署の電気は遮断され、通信機器を含む電子機器は使用不能になった。
俺達が突入しようとした警察署の裏門で待ち構えていたインペリム兵士達は、AI自律型無人戦闘機ストライカーの重力パルスとフォトンパルスの攻撃によって沈黙していた。
AI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗った状態で門から署内へ突入した。敵戦車と装甲車は沈黙していた。敵兵士は銃を構えるような体制で沢山倒れていた。
俺達が警察敷地内に突入すると、上空にいたAI自律型無人戦闘機ストライカーは、各艦に帰艦していった。
AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアを開けるとAI四つ足歩行自律ロボットが偵察に飛び出していった。
俺達も車輛から降りて、敵戦車、装甲車、兵士の武装解除と拘束を始めると、昨晩お世話になったヘキセンの住民が裏門から入ってきて、
「この連中の拘束は俺達がやる」と言ってくれたので、
「助かります。よろしくお願いします」と佐々川隊長がお礼を言って、4階建ての警察署建物に向かった。
警察署裏口からAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に建物内部に入ると、管理人室、トイレ、給茶室、階段が見えた。通路から事務室に入ると、カウンターの向こうの正面玄関から白沢隊長と大の部隊が突入してきた。事務室と各部屋では、机にうつ伏せになっている兵士や床に倒れている兵士が見えた。拘束を始めようとすると、白沢隊長の後をヘキセンの住民が続いて玄関から入ってきた。
早朝だったので、1階は事務室、通信設備室、コンピュータ室があり敵兵士の数は少なかった。
「1階の敵兵拘束はヘキセンの住民に任せよう」と佐々川隊長と白沢隊長は頷きあって、2階へ階段でAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に上がっていった。
2階は、会議室、作戦指令室、交通監視センターになっていた。一部屋ずつドアを開けて確認すると交通監視センターには、数人の敵兵が椅子に座って自由を奪われていた。また敵兵が床に倒れていていた。他の部屋は空だった。
奥に進むと女性の留置場だった。俺は監視部屋に入ると兵士が一人床に倒れていたので、拘束してから留置場管理室に行きキーボックスから留置場の鍵を手に取ると、佐々川隊長と女性の鉄格子の扉を解錠してまわった。
大と白沢隊長はAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に3階へ階段を上がって行った。
ヘキセンの住民が2階に来てくれたので、
「あとはお願いします」と佐々川隊長が言うと、彼らが返事を返してくれたので、
3階へAI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭にして階段を上ると、空調制御室と研修室があった。保守要員と思われる兵士がすでに拘束されて倒れていた。
奥に進むと男性の留置場があった。留置場管理室から鍵を持ち出して白沢隊長と大は鉄格子を鍵で開ける作業をしていた。
「4階へ行こう」と佐々川隊長が言うので、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターを先頭に階段を上がった。
4階は、仮眠所と食堂となっていた。仮眠所は男性用と女性用があったが、男性用のベッドでは四人が重力パルスで身動きができない状態だった。女性用仮眠室は空だった。
厨房では、三人倒れていたので、拘束をした。食堂でトレイを持って倒れている兵士と朝食中だったのか机にもたれかかるように六人の兵士が自由を奪われていた。
俺達は仮眠室と食堂、厨房の兵士を武装解除して拘束した。
ヘキセンの住民が4階にきたので、
「厨房に三人倒れているので敵兵か判断してほしい。拘束してあるので住民だったら拘束を解いてほしい」と伝えた。
留置されていた住民は、ヘキセンの住民の手で保護された。
俺達は階段を4階から1階に降りて正面玄関から外に出ると、矢川隊長と白沢隊長が待っていた。
倉庫、屋根付き車庫、車輛修理工場の確認を終えたとのことだった。
インペリム軍戦車16輌、装甲車8輌、2小隊の約六百人以上が捕獲された。双方に死傷者は出なかった。
ヘキセンの住民からは、喜びの大歓声が警察署建物前で上がった。
厨房で倒れていた三人は、一人が兵士で二人は住民との事で強制的に厨房に入れられ働いていたとの説明を住民から聞かせてもらった。
インペリムの諜報員ブルー・ウィンドウは、物陰からこの戦闘をスマートフォンで録画した。
警察署全体が光に包まれてから30分ほど経過すると兵士は、捕獲されていた兵士は動けなかったが少し時間が経過すると動けるようになり負傷者はいなかった。
この不思議な戦闘内容の録画データを、インペリム指令本部のエミリオ・ファルコン宛にスマートフォンからメール送信した。
エミリオ・ファルコンはインペリムフリオス本部の司令長官だったが、早朝だったのでヘキセンの街中にある一戸建て住宅で朝食中だった。
エミリオ・ファルコンは、送られてきた録画を見て圧倒的な敵の戦力により戦争スタイルが変わったことに気づいた。
それは、敵味方双方に負傷者が出ない戦闘が行われた動画だった。
インペリムが送り出した他の2つの小隊も、ブルー・ウィンドウが送ってくれた動画戦況と、他の街で諜報活動をしていた二人から送られてきた動画も同じ武器で無抵抗のまま部下達が短時間で捕虜となっていた。
この戦闘捕虜は数千人規模に及んだが、戦闘での敵味方の負傷者は0だったのにも驚かされた。
19
エミリオ・ファルコンの本音は、インペリムの攻撃力と戦闘技術は世界で第1位と思っていたが、今回の動画から新しい戦闘兵器技術の差から、我らの兵器の攻撃力、兵器開発技術力、戦争のやり方について劣ってしまった現実がこの動画であり、この戦闘力の差と攻撃してくる敵の兵器は殺戮を行わないという事実が今までと違う戦闘方法について、インペリム本国の軍司令部を通して、人命を軽く考えているインペリム本国軍部に理解してもらうために戦闘の録画を送る事だった。
ヘキセンのインペリム指令本部を守った2小隊は、敵が我々に攻撃を仕掛けて一瞬にして無力化してくる。
「殺されない」、「負傷しない」と敵兵はこの現実を見聞きして理解していたので、命がけで戦争をしなくて良い本音から彼らの士気はかなり下がっていたようで、上官達への見せかけの姿勢のように見て取れた。
エミリオ・ファルコンは、親衛隊に連絡を取って集合させた。
六人(エミリオ・ファルコンと親衛隊)は、車でフリオスのヘキセンからインペリムの首都モンテブールに移動して、インペリム軍戦略会議に出席して、フリオスの戦闘動画を政府高官と軍幹部に見せて熱く語った。
20
インペリムからフリオスは国家として主権を取り戻したのだった。
俺達は、隊長の許可を得てマドーラ街で病院に入院しているミカエル・スミスと、彼の看護にあたっている美紗の顔を見に、1両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗って大、沙羅と俺は病院へ向かった。
マドーラの街に入ると、横断幕がビルから掲げられており“独立おめでとう”と書かれていた。
インペリム監視兵の姿も消えて、お祭りムードとなった街を歩く住民に笑顔が戻ったように見えた。
病院の駐車場にAI自律型水陸両用装甲車スキャウターを止めると三人は徒歩で病院に向かった。
病院は8階建ての建物で外壁は白いタイル張り風だった。
病院玄関から1階に入りナースステーションに行って、ミカエル・スミスの病室を聞くと、西棟5階の511号室とのことだった。
俺達は西棟エレベータ乗り場まで歩いて、エレベータに乗ると5階で降りた。
5階は男性専用フロアだった。511号室は個室でドアをノックすると、美紗が部屋から出てきたので病室に入るとミカエル・スミスが笑顔で迎えてくれた。
俺は、大と沙羅を紹介すると、
「私の大切な美紗を助けてくれてありがとう」と沙羅が頭を下げた。
「入院中は、美紗さんとお話が沢山出来て楽しかった。皆さんの力でフリオスが解放された。こちらこそ礼を言います」とミカエル・スミスはコクリと頭を下げた。
「怪我の回復が良くて退院できそう」と美紗が言うと、
「入院中に仲間五人と一緒にセレスティアに行きたいと何度も訴えるので、矢川隊長にお願いして許可をもらった」と説明してくれた。
「痛みはどうか」とミカエル・スミスに聞くと、
「笑うと右側の肋骨が痛む」というので
「俺達の潜水艦空母でセレスティアに行ける?」と尋ねると
「何があっても一緒に行きたい」と返事をくれた。
美紗と俺はナースステーションで事情を話すと、
「医師の見解を聞いてから退院の許可が出る」との回答だった。
ミカエル・スミスの病室に戻って雑談をしていると医師と看護師が沢山やってきて、
「フリオスを侵略者から解放してくれてありがとう。君達の働きに深く感謝する」と、病院スタッフから花束をもらった。
「診断書とセレスティア横須賀総合病院宛の紹介状です」と言うと封筒を美紗に渡した。
痛み止めとシップ薬を看護師さんが美紗に渡した。
「寂しくなるけれど、退院を許可します」と医師から許可をもらった。
21
病院スタッフにお礼を言って、俺達五人は駐車場に止めてあった後方ドアが無いAI自律型水陸両用装甲車スキャウターと後方ドアがあるAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに分乗してマドーラ港に向かった。
港に到着すると4隻のAI潜水艦空母の1番艦霧霞、2番艦霧隠、3番艦霧深、5番艦霧島が桟橋に繋がって停泊していた。
後方ドアが無いAI水陸両用戦車を霧島の格納庫に格納して、後方ドアがあるAI水陸両用戦車を霧霞格納庫に格納した。
港では今回の作戦に参加してくれて、セレスティアに行きたいと願っていたミカエル・スミスの友人五人が出迎えてくれた。
彼らは霧隠でセレスティアに行くことになったと話してくれた。
桟橋の前で、セレスティアで会おうと手を振って別れると、美紗はミカエル・スミスの右側にまわってミカエル・スミスを支えながら霧隠にかかる桟橋を五人も一緒に渡っていった。
俺は桟橋から霧霞に戻るときに、マドーラ港を振り返ってみると気づかなかったが何人かのマドーラ住民が、
「ありがとう」と書かれた段幕を持ってお別れの手を振っていた。俺は彼らに手を振ってお別れをした。
霧霞はオルフェアを出港して約15日の潜航を経てセレスティア母港に帰港した。
衣類の入った荷物を持って霧霞に渡された桟橋に立つと海の潮風の香りがした。大きく深呼吸して空を見ると、曇ってはいたが少しだけ青空がのぞいていた。桟橋を降りるとエレナ・ロドリゲスと美穂が迎えに来ていた。
美穂は、無事に帰ってきてくれた五人の顔を見て涙目で再会を喜んでくれた。
エレナ・ロドリゲスは、俺の顔を見てから美穂の顔を食い入るように見つめると、
“行っておいで”と美穂は目で合図した。
エレナ・ロドリゲスは、美穂に笑顔を見せると、嬉しさのあまり感極まって俺に抱き着いてきた。
俺は、この時にエレナ・ロドリゲスの胸の大きさに圧倒された。見た目では分からなかったが、相当大きい感触が自分の胸から伝わってきた。
「元気いっぱいで良かった」と俺は照れ臭そうに言って抱きしめた。エレナ・ロドリゲスの大きな目から涙が流れていた。
それを見ていた、親友達は笑顔で見守ってくれた。
美紗はミカエル・スミスを美穂とエレナ・ロドリゲスに紹介して挨拶すると、ミカエル・スミスに同行してくれたオルフェアの五人を紹介した。
2週間ほど霧島艦内で過ごしたので、ミカエル・スミスの右側の肋骨2本もかなり良くなった様子だった。
矢川隊長がやってきて、取り急ぎ近隣のアパートを国が借り上げてくれた様子で、オルフェアの六人はアパートに取り敢えず行くことになり、マイクロバスに乗って移動するとのことで、美紗はミカエル・スミスと同行してから、大学女子寮に戻るとのことだった。
港から防衛大学の寮まで俺達は大型バスに乗って戻った。
そして大学構内を久しぶりに5人で歩いて食堂でお茶をすることにした。
大学内の食堂で紅茶を飲みながら美穂は留守中エレナ・ロドリゲスと過ごした話を聞かせてくれた。
ある日、美穂とエレナ・ロドリゲスの二人は女子大浴場で湯船につかっているときに、何かのはずみで怜央の事を愛しているとエレナ・ロドリゲスから告白された。
エレナ・ロドリゲスは、美穂が怜央の姉であることを理解していたが、エレナ・ロドリゲスからすると美穂は俺を愛している事を感じ取っていた。
帰港時霧霞から降立った時、エレナ・ロドリゲスが美穂に目で確認を取ったのは、怜央の帰還を全身で表したいと言う気持ちを美穂がくみ取って、
“行っておいで”と妹と認めたエレナ・ロドリゲスに伝えたとの事だった。
エレナ・ロドリゲスは、顔を赤くしていたが美穂と手をつないで紅茶を飲んでいた。
俺は、留守の間に美穂とエレナ・ロドリゲスは仮想的に姉妹となった事と、美穂とエレナ・ロドリゲスの二人に愛されていることを知った。
この時、美人達に愛されて俺は運が良いと思った。
美穂とはいつまでも一緒にいられないので、やがて別れがやって来る予感がした。
22
翌日、防衛大学に戻ると講堂に集まるように掲示板に張り紙がされていた。
俺、大、美穂、沙羅、美紗が講堂に入ると、学生のみんなから祝福の拍手が湧き上がった。
今村技術長が壇上に立つと、四人の行動は我が国の軍部に正当に評価され、学生ではあるが四人は3等海尉として任命された。
美穂は3等海尉補の役職が付いた。
そして、潜水艦空母は新たに5艦建造され、近日中に順次就航していくと発表があった。
艦の名前は
6
7
8
9
10
大学転入生として、フリオスのミカエル・スミスと若者五名が紹介された。
集会が終わった後、俺はミカエル・スミスと若者五名に声をかけて、一緒に食堂へ行って昼を食べる事にした。
ミカエル・スミスは食堂に行くことを快諾してくれた。
食堂では、オルフェアのエレナ・ロドリゲスと一緒に入学した若者十一名、ミカエル・スミスと若者五名、大、美穂、沙羅、美紗で、自己紹介をおこない、雑談をしながら昼を食べた。
ミカエル・スミスは、美紗と霧島に乗船した時から、
「この美しい女性を妻にしたい」と考えていた。
美紗の身長は約155cmで、大きな目をした顔は東洋人らしい童顔をしていた。
黒髪はボニーテールでスタイルはスラリとしている女性だった。
性格は底抜けに明るく、みんなの母親のような存在だった。
ミカエル・スミスは積極的に美紗の隣に座った。
「セレスティアの四季ははっきりしており、夏のひまわり、秋の紅葉、冬には雪景色に現れるスターダスト、春の桜や菜の花の美しさ」の話を美紗が語ってくれた。ミカエル・スミスにとって、夢のような時間が過ぎて行った。
そんなある日、俺に特別警察から連絡がきて、収監されているマリアンナ・ヴァレリウスから俺が帰国したら逢いたいとの事だったので連絡したと特殊警察から伝言を受けた。
美穂と相談して来週の木曜日に二人で面会に出かける事にした。
23
マリアンナ・ヴァレリウスが収監されている刑務所は横浜市街の外れにあったので、美穂は横浜駅の売店で差し入れのモンブランショートケーキを買った。
横浜駅前からバスに乗って郊外にある刑務所前でバスを降り、正門を通って受付カウンターで誰とどのような用件で会うか等の申請書を記入すると私服警察官がやってきて、
「オルフェアの件ご苦労様」と労いの声をかけてくれた。
刑務所内の面会室に入ってテーブルに座ると私服警察官は少し離れたテーブルに座った。
マリアンナ・ヴァレリウスが留置場に通じているドアから面会室に入ってくると、彼女は俺達のテーブルに歩いてくると、
「会いたかった」と言って座った。
彼女は薄緑色の上下作業服姿だった。
私服警察官にモンブランショートケーキを、マリアンナ・ヴァレリウスと食べていいか聞くと、
「いいよ」と返事をくれた。
マリアンナ・ヴァレリウスはケーキを見るとウルウルした目で、
「モンブランね。嬉しいよ。ケーキを食べられるなんて夢のよう」と呟いた。
美穂はお茶のペットボトルとケーキを三人分並べて食べながら話しを始めた。
「私は、あのフリオスの戦闘ニュースを見て、敵部隊をあっという間に武装無効化して有利に戦闘を繰り広げたかと思うと、少しすると敵の兵士達は無傷な状態で捕獲されていった。敵も味方も負傷者がいない戦い。誰も傷つかない戦闘だった。戦争のやり方が変化したと確信した。今までは殺し合いをすると、肉親や家族は恨みを抱いて、恨みの根深さは世代を超えて伝えられていく。どうやったらあのような戦い方、恨まれない戦いができるのか聞いてみたかった」とマリアンナ・ヴァレリウスが言うので、
「詳細は機密情報なので話せないけれど、量子理論を応用している。量子はフォトン(光の粒子)でできていて、粒子はスピンと言う動きをする。このスピンは、垂直方向と水平方向の4パーターンの組み合わせで動く。この理論を使うと、あのように一時的に自由を奪うことができる」と説明すると、
「報道されたニュースでは、攻撃型ドローンや戦車の動きを止めたようだが、そんな夢のような事が何故できるのか不思議でたまらなかった」とマリアンナ・ヴァレリウスが言うので
「僕達の量子AIは、命は何よりも大切な物で、命ある物を生かすことを最優先としていて、いつも人々の平和を願いマリアンナ・ヴァレリウスを含めて僕らに豊かな暮らし、飢餓や戦争を無くすために僕らを量子AIは選択してくれた。僕らの使命は人々の平和な暮らしが早く来る仕組みを創り出すことにあると量子AIは僕らを選択した理由を話してくれた。量子AIは人の命を奪う行為や、その力で恐喝や脅しは絶対やらない。悪意の人がそのような事に使おうとすると、搭載されている量子AIは、動作停止する仕組みなのさ」と俺は説明した。
「なるほど、なんとなく理解できたような気がする。あと少しで刑期が終わるので、身の振りかたを考えてみる」とマリアンナ・ヴァレリウスは言って俺と美穂にウィンクをしてみせた。
「面会時間が終わる」と私服警察官が伝えてきたので、
「お二人さん、わざわざ私のために面会に来てくれてモンブランケーキを食べさせてくれて、サンキュー」と言ってマリアンナ・ヴァレリウスは立ち上がるとバイバイと手を振りながら留置場に戻って行った。彼女なりのお礼だった。
俺を美穂は私服警察官に刑務所玄関まで見送ってもらって、横浜駅行きのバス停まで歩いた。
24
フリオスとセレスティアは同盟国として、調印を結んだ。
インペリムに対して、エクスカリバーとセレスティアが後ろ盾になって、フリオスはインペリムから完全独立宣言を行った。
3か月後、フリオスでの戦闘で捕獲されたインペリムの兵士達は、本国のインペリムへ戻って行った。
エミリオ・ファルコンは親衛隊と共にフリオスを脱出してインペリムに戻っていた。
エミリオ・ファルコンは、諜報員のブルー・ウィンドウを筆頭にフリオスの各街に諜報員を残した。
インペリムでは、戦争に出かけた兵士全員が無傷で帰ってきたという今まで経験の無い不思議な戦争だったとインペリム国民は歓喜と驚愕するのだった。
兵士として送り出した家族や肉親は、元気な姿で帰ってきた兵士達を温かく迎えた。
市民と兵士達は、共通してインペリムの敵国である我が国の政策に対して不思議な気持ちが芽生え始めていた。
それは、肉親や同胞が一人も死ぬ事無く、全員が無傷で凱旋できた今までの戦争と全く違う戦闘と結果だったからだ。
エクスカリバーとセレスティアは、インペリムが植民地として統治している”オルフェア”、”エクソプラナ”、”リベルティア”、”ラグナリ”、”インディゴス”、”エンデュラ”の6つの植民地を独立国家とみなして、各国からの撤退をするようにインペリム政府に対して正式文書で通達した。
期限を定めて撤退を求めたが、インペリム政府は6つの植民地国家を独立国とは認める事無く、エクスカリバーとセレスティアの正式文書は無視されインペリムの統治が続いていた。
25
そんなある日、今村技術長から設計室に集合のメモが部屋に届いていた。五人は設計室に集合した。
ここは狭いと言う事で、大会議室へ移動すると、フリオス解放戦線で隊長を務めてくれた、佐々川隊長、矢川隊長、白沢隊長、石井隊長が待っていた。
俺、美紗、大、沙羅にとって馴染みの隊長だった。
そこに、エレナ・ロドリゲスとミカエル・スミスが入室して席に座った。美穂は二人に手を振って挨拶した。
「矢川隊長から話があるので聞いてほしい」と今村さんから一言あって、矢川隊長の話が始まった。
「これから説明することは、私達の政府とエクスカリバーの政府の決定事項で、君達の同行を許可されたので説明を始めます。皆さんもご存じの通リインペリムが植民地として統治しているオルフェア、エクソプラナ、リベルティア、ラグナリ、インディゴス、エンデュラを、インペリムから解放することに決まった。最初に、オルフェアを解放する。
この作戦には、霧霞、霧深、霧隠、霧島が実行部隊として参加する。
インペリムに対してオルフェア制空権確保の立場でエクスカリバー第8艦隊は後方支援として海上で戦況を監視する。
第8艦隊は空母ヴィクトリーオデッセイ、空母レジェンドスター、巡洋艦グローリアスレジェンド、巡洋艦ブレイブハンター、巡洋艦エンドレスヴォヤージ、巡洋艦ノーブルガード、原子力潜水艦シルバーシャーク、原子力潜水艦グレースフルディープ、潜水艦マーチャントマーモット、潜水艦サンライトセレナーデ、潜水艦インフィニティアローで組織されているオルフェア解放にあたって、第8艦隊が後ろ盾になってくれた」と作戦が明かされた。
26
俺達は1週間後霧霞に乗船して母港を出港の命令が出た。
出港当日、美穂とエレナ・ロドリゲスとオルフェアの十一人の若者が一緒だった。
横須賀の港に停泊している霧霞まで大型バスで移動した。
俺達は、キャスター付きの旅行鞄を引きずりながら桟橋から艦内に入ると発令所に、北山艦長、宮下副艦長、佐々川隊長が俺達を待っていてくれた。
艦長から今回の任務について4班で6時間ワッチを行う。今回は実戦訓練となり不慣れな俺ら幹部候補生を指導する先輩クルーに気を使わせないよう俺達は先輩クルーに沢山のことを聞いて失敗しないように教えてもらった。俺は手の懸かる若造を根気よく指導してくれる先輩に感謝して時間を過ごした。
俺と美穂、エレナ・ロドリゲスは別の班となったがリフレッシュルームで、顔を合わせると一緒の時間を過ごした。
母港を出港してから6日目に、エクスカリバー第8艦隊と合流した。
浮上して挨拶を済ませると、潜航してオルフェア海域に移動した。
オルフェアの海域では、インペリムの潜水艦や駆逐艦に出会う事は無かった。
母港を出て8日目に4艦は、オルフェアの美しい自然が残るカネローム海岸、コレターノ海岸、ヒマロカ海岸、シルステア海岸近くに到着した。
カネローム海岸約700m手前で霧霞は海中で佐々川隊長チームは待機、
コレターノ海岸約800m手前で霧深は海中で石井隊長チームが待機、
ヒマロカ海岸約800m手前で霧隠は海中で白沢隊長チームが待機、
シルステア海岸約700m手前で霧島は海中で矢川隊長チームが待機した。
俺が乗る霧霞は音紋スキャナとソナーで海域に敵艦船がいないかを確認してから、カメラ型潜望鏡とレーダーが使える海面まで浮上して敵艦の探索を行った。
カネローム海岸の安全の確認ができたので、俺達は艦を浮上させ船橋後方の1階格納庫へ移動して偵察隊としてAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアから乗り込んだ。1階格納庫の扉が観音開きに開くとこのドアを海上に向かう仮橋として通過するとAI自律型水陸両用装甲車スキャウターは海面に着水してウォータージェットで海面走行を始めた。
そしてカネローム海岸に上陸した。
この時、4艦の偵察隊は、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターにそれぞれ乗って、別々の海岸から偵察のために上陸していた。
ヒマロカ海岸には、大と白沢隊長が乗る偵察隊のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターは、無事に海岸に上陸した。
俺達の上陸したカネローム海岸の隣がヒマロカ海岸だった。
今回は、オルフェア国内の首都に存在するインペリムオルフェア管理統括本部攻略を最終目標とした。
矢川地長と美紗の部隊は、シルステア海岸に偵察隊として無事に上陸した。
石井隊長と沙羅の部隊は、コレターノ海岸に偵察隊として無事に上陸した。
27
佐々川隊長と戦闘員、エレナ・ロドリゲス、美穂、俺の乗ったAI自律型水陸両用装甲車スキャウターは、カネローム海岸からマリア・サンチェスとジョン・サンチェスの家に向かった。
家の前に到着するとエレナ・ロドリゲスが、AI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方ドアを開けると、AI自律型四つ足走行ロボットアルサターが偵察にドアから出て行った。少しすると安全とメッセージが来たので、俺と美穂、エレナ・ロドリゲスはAIアーマーオムニガードを着用した姿で車輛から降りると、家の扉をノックした。
家の中から、聞き覚えの無い声で返事が返ってきた。ドアが開くとそこには、80代のお爺さんが立っていた。
「この家に住んでいた人達を知りませんか」とエレナ・ロドリゲスが尋ねると、
「数カ月前に、インペリムの監視兵に捕えられて連れていかれたので夫妻が戻るまでこの家を守っていた」とお爺さんは返事をした。
俺達はエレナ・ロドリゲスの両親の家に向かう事にした。
俺達はAI自律型四つ足走行ロボットアルサターとAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに乗り込んで少し走ると電気工事屋の建物が見えてきた。
モルタルの壁にベニア板やトタンを張り合わせた外壁と、屋根はトタンの上にヤシの葉が乗っていた。
1階は電気工事の資材が置かれていて、奥の部屋は事務所のようだった。
家の前でAI水陸両用装甲車は止め後方ドアを開けるとAI自律型四つ足走行ロボットアルサターが偵察に出掛けて行き帰ってきた。安全が確認できたので、俺達三人はエレナ・ロドリゲスの自宅の玄関から中に入ると1階は人影が無かった。2階は住居とエレナ・ロドリゲスが言うので、2階に階段を登りながらエレナ・ロドリゲスが父(ダック・ロドリゲス)と母(サミイ・ロドリゲス)の名を呼んだが返事が無く、リビングや寝室を覗いたが誰もいなかった。
俺達三人は、ジョン夫妻とダック夫妻の顔を見ることができなかったので落ち込んでAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後方扉を開けてAI自律型四つ足走行ロボットアルサターと乗り込んだ。
椅子に座るとエレナ・ロドリゲスの顔を見ると頬に一筋の涙が流れていた。
俺は、そっとエレナ・ロドリゲスの肩を抱いてあげるしかなかった。霧霞にジョン夫婦とダック夫婦の消息不明のメッセージを送ると連絡が入った。
「ブルー・ウィンドウという人物が、俺に話があるので海岸にある漁師小屋で待っている」とヒマロカ海岸で大と行動を共にしている白沢隊長からのメッセージだった。
「ブルー・ウィンドウは、どうやって俺達に連絡を取ったか知りたい」と白沢隊長に聞くと
「セレスティアの横須賀にある軍施設窓口に電話があって、会話の内容が具体的だったので信用したので軍司令部は俺達に連絡を伝えた」と説明してくれた。
カネローム海岸の青い屋根の漁師小屋で待ち合わせとの事だった。
AI自律型水陸両用装甲車スキャウターはカネローム海岸に戻り、青い屋根の漁師小屋を探して少し走ると海岸の漁師小屋の屋根は建物によって赤、黄、緑、白、青の色とりどりにペンキで塗られていた。この漁師小屋は漁で使う網などを修繕や保管する作業小屋で、青い屋根の漁師小屋の前で白川隊長と大が手を振っていた。
美穂とエレナ・ロドリゲスをAI自律型水陸両用装甲車スキャウターに残して、佐々川隊長と俺は外に出て、白沢隊長と大に合流し漁師小屋に向かった。
青い屋根の漁師小屋は木造で、潮風や雨嵐にさらされて外壁や屋根はかなり傷んでいた。
漁師小屋の脇には、オートバイが1台停まっていた。
28
この漁師小屋は薄っぺらな木製ドアがついていた。ドアを開けると女性が一人椅子に座って待っていた。
女性はウェーブのかかった長い茶色の髪をしていた。顔は卵型で目が大きく瞳はブルーだった。顔は彫りの深い造形で鼻筋もメリハリのある形をしていた。高身長で体系は普通に見えた。服装はモスグリーンのスリムパンツとジャンパーを着ていた。
俺達四人は、彼女を囲むように座った。
四人は自己紹介をすると、
「ブルー・ウィンドウです」と自己紹介をして本題の話しを始めた。
「私は、フリオスのマドーラ、コナルガ、ヘキセンに潜伏していたインペリムの諜報員です。フリオスの3つの街で、あなた達の戦闘をスマートフォンで録画して、上司であるエミリオ・ファルコンに動画を送った者です。
今回は、エミリオ・ファルコンの命令できました。
フリオスで使った新しい兵器と戦術でオルフェアにある我々の基地と管理統括本部を陥落させるのは時間の問題と考えました。現在の我がインペリムの軍事力では、核弾頭を使う以外にあなた達の侵攻を止める事はできないとエミリオ・ファルコンは判断しました。しかし、殺し合いの無い戦闘をしていたあの現場に立会い、インペリムの兵士が全員無傷で家族や肉親の住む家に帰れた事は、奇跡と感じました。
我が国の戦争の歴史は、人の命を軽く考えて民の命や財産を犠牲にして、自国だけが良ければ他の国や人々を奴隷化して、自国(権力の地位にある自分達だけ)が豊かになる事、それを最終の目的と考えるのは間違っていると気づいたのです。
あとひとつ気づいたのは、敵兵に対して温情(生きて帰還させてくれた)をかけてくれた行為です。その姿は、人であるために最高の行為でした。兵士達が帰還してから兵士の家族や肉親、市民の考え方が大きく変化していきました。
オルフェアにある基地や管理統括本部の兵士は、フリオスの戦闘で命を救ってもらったインペリムの兵士達が2割ほど着任しています。
この国の管理統括本部長に、私の上司のエミリオ・ファルコンが先般着任予定だったのですが、政権交代の情報が漏れた様子で
現政治体制の秘密組織に捕まってしまいました。それは私達の反対勢力です。
私も狙われています。実はエミリオ・ファルコンは私の叔父にあたります。
皆さんにエミリオ・ファルコンが捕らえられる前に託された伝言をお伝します。
オルフェア戦の時はフリオスと同じ戦略で私達を捕虜にしてください。
私達は、抵抗のしようも無いのですが。
この会談をエミリオ・ファルコンの反体勢力であるインペリムの軍部に知られないようにしたい。
そして、戦争後インペリムに捕虜の立場で送り返された我々の同胞は、インペリム国内にある軍事施設に入り込みます。
準備が整ったら、何らかの方法であなた達と連絡を取って、あなた達の力を借りてインペリム国内でクーデターを起こします。
このクーデターは、無血クーデターです。あなた達の力を借りないとできないのです。
クーデター後は、”エクソプラナ”、”リベルティア”、”ラグナリ”、”インディゴス”、”エンデュラ”の植民地の解放を行います。
植民地が独立国家となったら、インペリムという国名を変更します。
その理由は、本来の人としての命の大切さと住民が平等な暮らしを追求していく国になると言う事です。
貴方達に教えていただいた命の尊さを第一主義とする考え方に順じて、クーダテー後は現在インペリムで政権を握っている軍部や政治に係っている人を殺したり罰則を加えたりはしないで、彼らにも生きる権利がありますので法律を守った平凡な1市民として生活してもらいたいと考えています。
そして武器や核の廃絶を行う国を目指したいと考えています。
皆さんの力を貸してもらいたいので、正直にお伝えしました。
今は私達の申し出でを受け取ってもらいたい気持ちでいっぱいです。どうか私達の気持ちを組んでほしい」とブルー・ウィンドウは涙を流して頭を下げるのだった。
29
五人は立ち上がると、ブルー・ウィンドウが涙を流す姿に大は見かねてハンカチを渡した。
彼女は素直にハンカチを手に取り涙をぬぐった。涙で赤くなった顔に笑顔が戻ったようだった。
彼女はスマートフォンを出したので大と俺の三人はメールアドレス交換を行った。
「ハンカチは今度会った時に帰すから」と彼女が言って、スリムパンツのポケットにねじ込むと、長い髪を両手で束ねて黒いフルフェイス型ヘルメットをかぶった。
俺達は小屋から出ると、彼女はオートバイにまたがり、セルモータスイッチを入れた。キルキルと音がすると、ドコドコという単気筒エンジンの音がして、オートバイ全体に生命が宿ったように振動で揺れている。
彼女は、お願いしますと言わんばかりに頭を下げたと思うと一度手を振ってアクセルをひねって、街の方向に走り去っていった。
彼女が走り去った後、佐々川隊長と白沢隊長が話し合い一緒に霧霞へ戻って、ブルー・ウィンドウの話から戦略会議を開くことにした。
俺達は、2両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターの後ろ側のドアを開けて乗り込んだ。
佐々川隊長と俺は車両に乗り込むと美穂はエレナ・ロドリゲスの肩を抱いて手をつないで座って待っていた。
「どうだった」と美穂が言うので、
「俺達の味方になってくれる人だった」と答えた。
エレナ・ロドリゲスが沈んだ顔をしていたので、
「ダック夫妻とジョン夫妻の四人は生きているから」と言うと頷くエレナ・ロドリゲスだった。
身内の安否が分からないエレナ・ロドリゲスの心境を考えると、何とか生きたまま四人を奪還したいと思うが、今はどうしようもないというジレンマで胸が苦しくなった。
俺達と大と白沢隊長が乗っている2両のAI自律型水陸両用装甲車スキャウターはカネローム海岸から海面に着水して霧霞に帰艦した。
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