Ⅰ-6.神経質な男
「どうやら、愛妾は三人いるようですね。二十一歳のミモザ・クリスティ。十八歳のリラ・フィオネッタ。十六歳のアネモネ・トアラーレ。三人とも国王が通い詰めていた娼館におり、規定の年齢になったら娼婦になる身として小間使いをしていたようです。
国王のお気に入りだった娼婦が性病で亡くなった後、そのオリヴィアという娼婦が妹同然に愛していた三人を引き取ったようです。これが、十年前の出来事でした」
レオンは簡潔に、国王の三人の愛妾の話をし始めた。
アナスタシアが見ている資料には、町で広まっているそれぞれの特徴が、噂レベルのものも含めて書き出されていた。
「今回も頑張ったねぇ、レオン。流石だよ。
えーと、ミモザ・クリスティは二十一歳、小柄で明るく、可愛らしい。
リラ・フィオネッタは十八歳の秀才で、恋愛よりも勉強が好き。
アネモネ・トアラーレ、十六歳は高身長でぶっきらぼうだが、誰よりも惚れっぽい。
…キャラ濃いね」
「でしょう。まぁ、今回の事件で、一番関わりがあるのはミモザ・クリスティでしょうが」
「どうして?」
『ミモザ・クリスティ、二十一歳。小柄で明るい性格。可愛いタイプ。好きなものは可愛いもの、異性のタイプは一途な紳士、嫌いなものは浮気性の親父』と資料に書かれているミモザのこの事件との関わりを、レオンは語り始めた。
「この国には、家族円満の為に、愛妾は他の妃や妾の産んだ娘の世話係をする事があるようです。リラとアネモネは下手だった為、三人で協力する予定を変更し、ミモザ一人で世話をしていたそうです。
愛妾という身分であった為、第二王女からは嫌味を言われていたそうです」
「あぁ、よくあるねぇ。そういうの」
アナスタシアはソファから立ち上がると、買ってきた食材を使って台所で晩御飯を手早く作っていく。
「私は愛妾の事聞いてもあんまり教えてくれなかったし、『呪われし王冠』の事でも聞いてこようかな」
「その方がよさそうですね。愛妾の話は、居酒屋の常連客がかなり知っていたので、俺が集めます」
二人はその後、アナスタシアが買ってきた魔導書の話と、レオンが知り合った居酒屋の常連客の話をしながら、晩御飯を取った。
入浴した二人は、それぞれの寝室で眠りにつく。
少しずつ、夜は更けていく。
♦︎
オリジス王国、王宮。
その白を基調として作られた豪奢な王宮は、貿易による王国ひいては王室の栄華を象徴しているかのようである。
しかし、貿易は全て差し止められ、緩やかに少しずつ、しかしそれでも確かに、オリジス王国は密かに衰退していた。
「まずい…。貿易が駄目ならと外交に乗り出したのはいいが、まさかこのタイミングでビアンカが病に倒れるとは…。
これでは外交など不可能…!どうにかしなければ…」
王宮の奥の方にある部屋で、中年の男が腕を組み、部屋を徘徊していた。時折譫言のようにぶつぶつと呟き、徘徊し続ける。側から見れば不気味な挙動の男の側へ、一人の女がやってくる。
「…リグル様、任務の結果の報告に参りました」
「何かわかったのか?信頼できる医者は、見つかったんだろうな!?」
小声ではあるが声を荒らげた男に、女は驚いたような顔をする。が、気を取り直し、息を整えた後、言葉を更に続けた。
「…医者は、発見できませんでした。現在、ハグリッド宰相が探しています。
しかし、怪しい人間はいました」
「何者だ?」
「国境付近の町・ダウリスに現れた観光客もしくは旅人と見られる、男と女の二人組です。男は十代後半から二十代前半と見られ、女の方は二十代後半と見られるそうです。男は居酒屋で、女は街の人間を相手に、王族や我々の話を嗅ぎ回っているようです」
「…何だと?」
神経質そうな相貌に違わず、女の言葉に苛立って貧乏ゆすりを始めた男に、女は更に言葉を続けた。
「以前王宮に来た男達の事もあります。緊急事態である以上、普段よりも警戒するべきかと…」
「分かっておるわ。…しかし、ダウリスか…。あそこには諜報員が居たはずだ。何故報告が上がってこないのだ?」
「申し訳ございませんが、存知上げません。…報告を催促する連絡を出しておきます」
「あぁ、頼んだ。…そろそろ戻れ」
「は」
女は男に恭しく頭を下げ、立ち去った。
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