Ⅰ-3.『呪われし王冠』

 ガタガタと音を立てて走る馬車に乗りながら、二人は今回の任務の概要を確認していた。


「今回の任務の最終目標は、王族の不調の原因を突き止め、国に伝わる『呪われの道具』を破壊もしくは回収する事。ここまではいい?」

「はい」


 アナスタシアは手元の書類をめくりながら、レオンに説明して聞かせた。


「王族、それももうすぐ結婚する女性王族たちが不調を訴えるっていう言い伝えがオリジス王国には伝わってる。しかも、それぞれそれを理由に嫁入りの時期を延期したり、酷い話だと縁談を無かったことにした事もあるんだって。この話は多岐にわたっていて、伝説レベルの話から、史実の話もあったり、いろいろ」


 アナスタシアは、レオンに伝承について書かれた別の書類を渡し、レオンはそれに目を通した。


「そして、六の月十八日に隣国に嫁ぐ第二王女が、言い伝え通りに不調を訴えたって事で、今回王室側から依頼が来たの。

 事前調査の結果、言い伝えとともに王室に伝わる道具が呪術具で、それが関わってるんじゃないかって話になって、うちにお鉢が回ってきたって事。

 ここまでで何か質問は?」

「いえ、特には…。」


 アナスタシアは、説明を理解したレオンに満足げに頷くと、さらに話を進める。


「で、現地に着いたら、まずは下町で件の第二王女について聞き込みをしようと思ってる。今手元にある情報とも照合しなくちゃだしね。

 ちなみに、今わかっているところだと第二王女の姉、つまり第一王女は既に北部のガルディア皇国の皇太子妃として国を出ている。彼女は結婚式の前後に体調を崩さなかったみたい。加えてこの姉妹はお互いに嫌い合ってたらしくて、第二王女は姉が結婚した時に『ようやくあの女がいなくなってせいせいする』って周りに言っていたみたいなの」

「随分と仲が悪いんですね。どうしてでしょう?」


 アナスタシアの言葉にレオンが不思議そうに尋ねると、手元の書類を何枚かめくり、アナスタシアはその理由について語り始めた。


「おそらく、その理由は二人の母親が違うことにあるんじゃないかなと思うんだけど」

「異母姉妹だった、という事ですか?」

「うん。第一王女は今年二十五歳で、第二妃の子。第二王女は数週間前に十九歳の誕生日を迎えたばかりの第三妃の子。

 残りの子供は三人とも王子なんだけど、第一王子は二十一歳で第四妃が産んだ子でね。第四妃はそのことで他の妃に恨まれて、いじめられてたっぽい。それの心労からか、それとも他の要因があったのか。ストレス性の病気で八歳の子を残して亡くなってる」


 アナスタシアは、当時の医師の診断書をレオンに手渡し、自身は更に王室の揉め事について語り続ける。


「第二王子と第三王子は第一妃の子供で。第一妃は位が一番上なだけあって後ろ盾もしっかりした女だし、母親も母方の後ろ盾もない第一王子よりも王太子になる可能性は高いみたい。

 国王は今年で四十三歳。国際協調の風潮には反発的で、どうやら戦勝国ということもあってかもっと領土を広げたかったみたい。当然私達も快くは思われてないはずだから、第一印象がマイナスだと思う。変なことはできないって事になるね」


 アナスタシアの語った王族事情に、レオンはため息をついた。


「問題ばかりの任務じゃないですか…」

「だよねぇ。本当はやりたくないんだけど。

「『これ』?」


 レオンはアナスタシアの意味深な言葉に首を傾げ、アナスタシアは別の書類を鞄から引っ張り出す。


「これ。気になるでしょ?」

「これが件の『呪われの道具』ですか…。王冠、ですよね」


 アナスタシアがレオンに見せた資料には、大きな写真とその説明が載っていた。

 その写真とは、大きい上に幾つもの宝石の嵌め込まれた王冠だった。


「これこそが『呪われの道具』。王冠を被った人間は、周囲に不幸を撒き散らし、自身も不幸になると言われているの」

「『呪われの道具』、つまり呪術具ということは。核が、あるはずですよね」


 呪術具の構造は、核となる濃い瘴気、即ち濁った魔力を纏った物体を中心に、その周りも少ないとしても瘴気を吸ったもので囲って作られる。

 核がなければ、呪術具にはなり得ない。その呪術具の構造を前提としたレオンの的を射た質問に、アナスタシアは写真を見せながら答えた。


「ぱっと見では分からないけど、事前調査に言った調査員の判断だと、この宝石が主な核で、周囲の宝石がそれを支える核になっているみたい」


 アナスタシアはトントン、と写真の王冠の、中央部についた大きい宝石を指し示した。


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