第一章
Ⅰ-2.任務の通達
と、がちゃんと静かだった研究室の扉が音を立てて開く。
「アナスタシア首席研究員、レオン準研究員、おはようございます。本部から任務の通達をお持ちしました」
訪れた青年は、レオンに書状を手渡した。
『魔法の塔』が位置している研究都市は、どこかの国や組織に味方することのない中立組織である。その自治会である『ヴェルディ』の執行部には様々な依頼が世界中から集まってくる。
その依頼を解決するのは、『魔法の塔』などの研究都市内の研究組織である。
当然、アナスタシアとレオンの元にも任務は回ってくる。唯一の呪術具の研究者であるが故に、呪術具関連の任務は全て担ってきた。
「なになに…ふんふん…んー…」
レオンから受け取った書状を読み始めたアナスタシアは、四行目を読み始めたあたりで唸り始めた。眉根を寄せ、いかにも不機嫌そうな顔をしている。
「…これ、絶対に受けなきゃダメ?」
「そうですね。呪術具に関係する事件ですし、お二人にしか頼めない任務になります」
青年のあっさりした返答に、アナスタシアは更に顔を顰めた。
「めっちゃやりたくない…でも、仕方ないか。もうこれ以上ここにいても情報は入ってこないだろうし、情報収集もかねてだと思えば行くべきだね。…よし、行こう!レオン、準備して」
「はーい」
アナスタシアはそう言って机の中に通達書をしまうと、ジャケットを羽織り、通達書に同封されていた書類を入れたカバンを持って立ち上がる。レオンもシャツの上からジャケットを羽織ると、ショルダーバックを肩からかけた。
「通達ありがとう」
「滅相もございません。それが仕事ですので」
通達をした青年に謝意を述べた後、アナスタシアはレオンと共に部屋を出た。
『魔法の塔』から出た二人は、研究都市の市街地を歩き研究都市の境界門へ向かっていく。
「今回の任務はどこでしょう?」
「えっとね、オリジス王国なんだけど」
『魔法の塔』及び研究都市は中立組織である。故に、先の戦争によって生まれた大陸中央領に位置している。
中央領は戦争の末に生まれた国際協調の風潮によって完成したもので、中立地域として大陸中央部からやや南西部に位置していた。
研究都市全体を壁が囲い、さらに中央領全体をさらに高い壁が囲っている。研究都市を出た後は、更に長い距離を歩いて中央領から出る境界門を目指すのだ。
「オリジス王国ですか…、遠いですね」
「だよね?行きたくないなぁ…。最近は悪い噂しか聞かないし」
アナスタシア達の目的地であるオリジス王国は東沿岸部に位置する小国で、数年前まで極東の島国やルレシアス大陸などとの貿易で栄えた国だった。しかし、最近ルレシアス大陸で大戦争が勃発した影響で貿易は停止。極東の島国もルレシアス大陸に近いことからその戦争の影響を受け、同様に貿易は停止された事で国益は減少、現在財政難に頭を悩ませているという。
加えて財政難から来る国家事業の延期や停止が起き、民衆の反乱も少しずつ増えており、そちらにも困っているとか。
オリジス王国に滞在している友人からそのことについて話を聞いていたアナスタシアはしばらくは行きまいと決意していたのに、任務で行くことになって嫌がっているのだ。
「向こうでは宿に滞在しますか?」
「取り敢えずはそうしようかな。でも、王都に着いてからは向こうにいる友人の家に泊まらせてもらおうと思ってる。王都に住んでる人がいてね」
「そうだったんですか。向こうの料理には何がありましたっけ」
「えっと…海産物が多かったはず。沿岸部だしね」
沿岸部に位置するだけあってオリジス王国は海産物が特産品になっている。魚、海藻、貝、甲殻類、etc…。食通の中には、そのエキゾチックな味の海鮮料理を気に入り、永住する人間もいると聞くが、大陸の主食ではないがゆえに嫌いな者も多い。
「海鮮ですか…。ちょっと苦手なんですけど」
「大丈夫だよ。普通の肉料理も売ってるし、異国に行ったらその土地の郷土料理以外食べちゃダメなんてルールないしね」
研究都市は境界門付近にある為、こうして話しながら歩いていれば案外すぐに着く。
境界門の門番に外出許可証と身分証明書を提示した二人は、境界門のすぐそばから出ている馬車に乗り込み、オリジス王国を目指して旅立った。
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