世界一の魔法使いは、研究の邪魔をする世界の敵を絶対に許さない。
黒谷月咲(くろたにつかさ)
第一部
プロローグ
Ⅰ-1.『魔法の塔』の研究員
ここは『魔法の塔』。全世界から選ばれし優秀な魔法使いが集まり、それぞれが専門分野について思う存分研究する事のできる研究施設である。
所属している魔法使いの専門分野は多岐に渡り、同じ専門でも考えや専攻が違ったりと個性的な面々が集まっている『魔法の塔』でも珍しい分野の研究を行っている研究員がいた。
呪術具部門の研究員であるアナスタシアだ。
朗らかで明るく、人当たりの良い性格の彼女は自身の研究をしながら、塔の主人の代理人として管理や統括を行う首席研究員も務めていた。
そして彼女の助手は、黒髪の青年・レオン。雷属性の魔術を得意とする優秀な魔術師であり、魔法を会得する事で準研究員から正規研究員へ昇格することを目指している無愛想な性格の19歳である。
そんな二人は『古代の遺物』とも称され、古代に開発されて現代に至るまで世界中に散らばる世界を破滅へ導く呪術具の秘密を研究し続けていた。
「おはよー」
「おはようございます、アナスタシアさん」
出勤してきたアナスタシアは、呪術具部門研究室の一番奥にある大きな机の椅子の足元にカバンを置き、ハンガーラックにワンピースの上から羽織っていたジャケットをかけた。
先に出勤し資料を確認していたレオンは、顔を上げて会釈をするように頭を軽く下げた。
「ん、我が助手は今日も勤勉だねぇ。なんか見つかった?まだ見てない資料とか」
「いえ、また書庫や他の研究室を見てまわりましたけど、特には…。もう『魔法の塔』内の資料は見尽くしてしまいましたし、情報は町で収集するか、本部からの通達でしか得られなさそうです」
呪術具部門は、研究者が二人しかいないことからも分かる通り、かなりマイナーな部門に当たる。故に関連する資料や情報は、殆どない。おかげで二人は『魔法の塔』の資料館にある全ての情報を探り、僅かな呪術具に繋がる情報をかき集めるはめになったのである。
「分かった。ありがとうね」
アナスタシアは自身の椅子に腰を下ろし、端に積み上がっていた資料をパラパラと捲り始める。
しばらくの間、二人が資料を捲る音だけが部屋に響いた。
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