第6話

あの日、なんの気まぐれか治療を施され生きて帰れたアベルは、帰宅後にシズクの父親に呼び出された。

シズクを救った功績をたたえて、次の外出まで家で働くことを許された。

小さいが部屋や食事も与えられ、他の奴隷からするととても良い待遇を受けていた。

シズクより早くに傷が治り、今は使用人達の手伝いをしているという。

「この服は堅苦しくて好きじゃないんだが。まぁ、お前のおかげでマシな生活はさせてもらってる」

牢屋にいた時より髪が短くなり、服装もネクタイをしっかりと締めていて一見奴隷とはわからない容貌になっていた。

「よかった……。あの後、お父様に殺されてしまうのではないかと不安でした」

まだ止まらない涙をハンカチで拭きながら、安心したように微笑んだ。

「なんで殺されなかったかは俺にもよくわかんねぇな。おっと、そろそろ上へ戻らないとヤバそうだぞ」

上から複数の足音が響く。シズクかアベルのどちらかを探しているのだろう。

「そうだ。シズクって家にいる間は暇なのか?」

「暇と言っていいかはわかりませんが、大抵は部屋で勉強をしています」

「じゃあ仕事が終わったら俺に文字と計算教えてくれないか?」

その言葉にシズクは驚いた。大昔から奴隷とは人との殺し合いが好きな生き物だと聞かされていて、学習したいと考えることは無いと思っていたからだ。

「わかりました、僕でよろしければお教えします。理由をお聞きしてもいいですか?」

シズクは驚き戸惑いながらも了承した。だが、昔習った話しと違っていることについて理由を聞きたかった。

「それは、あれだよ。なんとなくだよ」

目を逸らし曖昧な返答をするアベルの事は気になったが、無駄に詮索することは止めて、そうですかとだけ返事をした。

その返事を聞いてアベルは、頭をかいて何か喋ろうとしているように見えた。

だが、地下への階段に人が近づいていることに気づきシズクに上へ行くように促した。

「じゃあ今日の夜にでも行く」

「他の人に見つからないように来てください。お父様にでも報告されれば……」

アベルは話の途中で、わかったというようにシズクの背中をポンっと叩いて、先に上へと戻っていった。

その後に続いて、地下から出たシズクは担当してくれていた医者に腹部の出血が見つかりとても怒られた。

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