第3話
「シズク様、馬車が到着いたしました」
まだ日が昇りきっていない頃に、使用人が部屋のドアを叩いた。
シズクは机の上に広げていた本を素早く片付け、コートを羽織って魔導書を持ち部屋の外に出た。
使用人に礼を言い、玄関までの長い廊下を歩く。
いつもよりいっそう上等な服を着たせいか、いつもの廊下が長く感じ息切れを起こしそうになっていた。
「お父様おはようございます、お待たせして申し訳ありません」
玄関に着くと見慣れた仕事着を着た父親と、シズクの家の紋章が刻印された鎧を着た数人の屈強な護衛、そしてアベルが立っていた。
アベルは昨日までのボロ布の服ではなく、簡素な上着とズボンを着ていて、腕には紋章の入った腕輪をしている。
「もう外に馬車を待たせている。着いてきなさい」
シズクが返事をして着いていこうとした時、アベルと目が合った。
初めて会った時と同じ様に、切れ長の目でこちらを見ていたが、シズクはもう怖いとは思わなかった。
ドアを開けると真っ白な雪が当たりを覆っていた。
父親とシズクは馬車に乗り、他の人達は周りを囲むようにして歩いている。
アベルはその中でも馬車に1番近い所を歩いている。
首や腕にはロープなどの自由を奪うものは何も無く、今にも逃げられそうだが、逆らわずに大人しく歩いている。
馬車の外を眺めていたシズクに父親が話しかけてきた。
「これを腕に付けておきなさい」
差し出されたのはアベルが着けている物とほとんど同じ腕輪だった。
唯一違うのは、シズクの腕輪には上位身分を表す白いペガサスが、アベルの腕輪には奴隷を表す逆さに描かれたドラゴンが刻印してある。
「これは身代わりの腕輪ですか」
「そうだ、もし2つの腕輪が離れたら奴隷は少しづつ衰弱していき死に至る。そして、主人の腕輪を付けた者が傷付けられると全ての傷が奴隷の腕輪を付けたものに降り掛かる。家に帰るまで外さないようにしなさい」
それだけ告げると、父親は鞄から取り出した本を読み始めた。
シズクは、腕輪を眺めてから腕に付けた。
太陽が真上から照らし、あたりの家から子供たちが外に出てくる時間に馬車は目的の場所に止まった。
馬車から降り医者達が集まる建物に歩きながら向かう途中、周りを見ると同じ歳くらいの子供が、友達や兄弟と一緒に雪で遊ぶ光景が目に入った。
たくさん作られた雪玉を魔法で一気に飛ばす子供や、それを魔法で作った雪の盾で防ぎ反撃する子供が、親に見守られながら楽しそうにはしゃいでいる。
シズクは護衛たちが父親の方を向き指示を聞いている隙に、魔法で小さな雪でできた人形を作った。
「なにをしているんだ、早く来なさい」
「はい」
人形から目を離し護衛と共に父親の方へ歩き出した。
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