祖母

不明瞭という美徳

 物心ついて間もない頃、遠くで暮らす祖母は目がほとんど見えないということを父から教わった。それがリョクナイショーという病気であることを認識するくらい物が分かる年になっても、僕はそのことに懐疑的だった。あの人は火も油も包丁も大胆に使うし、テキパキ掃除もやるし、僕たちが遊びに来ると「あーらーおかえりぃほら爺さんアイスあるでしょ早く持って──あら無いの? ごめんねえこんな暑いのにまあジュースは出しますよホホホ」とまくしたてるような人だからだ。


 あの人が外出することは全くないが、親戚の結婚式に招待された際はその限りではなかった。僕たちが会場に向かう途中、車から祖母が現れるのを見た。


 やはり──車の中と外の狭間を注意深く探るようにサイドシルを何度も踏んでいたのは、支えとなった祖父の肩を掴む手が微動していたのは、車を降りる直前の一呼吸の間は、やはり体の衰えのためだけではないのかなと思った。しかし駆け寄って声をかけてからのあの人は、「あらまあ久しぶりぃ元気ねえホホホ」と破顔し、頭をわしゃわしゃ撫でてくれる、見慣れた祖母だった。


 ひょっとすると、車を降りた瞬間のあの姿は「見知らぬ場所では不安になるに違いない」と決めつけた僕が捏造した記憶なのかもしれない。そう考えて申し訳なく感じた時期もあったが、何度か帰省して祖母の雰囲気にあてられるうちに、僕がどう思ってもこの人は気にしないだろうし別にかと思うようになった。変に悩んだことを馬鹿馬鹿しく思わせてくれる、祖母にはそんな、けろりとした空気があるのだ。

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祖母 @Ren0751

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