第5話 二人の世界
六月が終わりに向かい、体育祭が近づいていた。
本格的な夏を前に開催するつもりなんだろう六月のイベントだが、もうすでにくそ暑い。
近年の気象の変化を考慮して、もう少し前倒ししたほうがいいんじゃないかと思う。
俺は球技は得意な方だったが、残念ながら脚力は超絶普通だった。力にも自信はないし、当然暑さにも弱い軟弱な男子だ。
秋の球技大会では多少活躍するから、どうかそれまではがっかりしないでいて欲しいと蓮にお願いすると、「じゃあ俺が頑張るから見ててね」と、得意そうに口角を上げた。
なるほど、女子だと運動ができない男はがっかり対象だが、男だと自分が活躍するからね、なのか。
俺は俄然体育祭が楽しみになった。蓮の雄姿を収めるため、スマホを最新機種に買い替えて、自らも少しでもタイムを伸ばそうと、家のランニングマシ―ンで毎日三十分走った。
一応腹筋ローラーも試したが、今のところ一回戻れたらいい方だった。
体育祭当日。予報通りくそ暑い。ただ、ささやかな努力の甲斐があって、今までで一番身体が軽く感じた。
二百メートル走では三位。クラスリレーでは、抜きもしなかったが抜かれもしなかった。超絶普通脚力民がやるべき使命は果たしたと言っていい。
蓮はと言うと、さすが自信があっただけあって、百メートルではぶっちぎりで一位。クラスリレーでは、みんなから「むったん頑張れー!」と叫ばれていた女子生徒が抜かれ抜かれて最下位に落ちたバトンを受け取ると、みるみるうちに距離を詰め、混戦まで順位を戻した。はっきり言って大盛り上がりだった。
俺は蓮の走る順番が後半だと聞いて、自分の走順を早めに変えてもらい、走り終わった後、「腹が痛い」とそのままトラックから外に出て、予定していたポジションでカメラを構えた。
まるで我が子を見守る親のように、完璧な画角で蓮が走る姿を動画に収めた俺は、我ながらどうかしているとはこの時は全く思っていなかった。
いそいそと木陰に移動して、撮ったばかりの動画を再生した。
体つきは俺と大差はないはずなのに、幼少期に培った運動神経は並ではなかった。
いつも腕の中にある蓮の身体が、その躍動感で大勢の生徒たちを沸かせている。ハッキリ言ってかなりときめいてしまった。
今まで同じ学校の子と付き合ったことはなかったけど、こうして行事のたびに恋人の活躍を見ることができるなんて、なんて最高なんだろう。
惜しむらくは、公にしていない二人の関係が香ってしまわないように、クラスの違う蓮を応援できないことだ。
「えーと、あとは」
プログラムを開いて、自分の出る二つ先の綱引きと、蓮が出る最後のメイン種目の選抜リレーを目でなぞった。
今は次に行われる借り物競争の準備を実行委員が整えている。クラスからは半数の男女が参加だが、俺はそこに入っていないため、殆ど空席の控え席でボケた写真を整理しつつ、BGMの流行り曲に鼻歌を乗せた。
体育祭の開催日は例年通りだったが、昨今の異常な暑さを考慮したらしく、今年から生徒席に日よけが設けられた。お陰でこうしてふんぞり返って初夏の風を心地よく感じることができる。
日よけの設置を決めてくれた誰か、ありがとう。
「良」
顔を上げる前に隣に蓮が座った。
「んあっ?」
鼻から変な声が出て、蓮が噴き出す。
「蓮、なんで——」
思わず前のめりになる俺を蓮が両手で押えた。
「たくさん写真撮ってくれてありがと! リレーの動画も。でも、あれどうやって撮ったの?」
さっき送った動画を見てくれたらしい。訝しむ蓮に笑って見せたものの、俺は突然現れた恋人にテンションが上がって、適当に首を傾げて誤魔化した。
「恋人が活躍してくれて、過去一楽しい体育祭」
こそっと告白すると、蓮はうんうんと満足そうに頷いて、「それにしても暑いねえ」と、おばあちゃんみたいにのんびりとした口調になり、持っていたスポーツドリンクのキャップを捻ってごくごくと飲んだ。
ああ、動く喉仏がエロい。
肌に触れる前髪と襟足が汗で濡れていて、週末の汗だくの行為を思い出す。
「視線がちょっとやらしい」
ペットボトルでちょいと突かれ、それにすらムラっとしてしまった俺は、気持ちを落ち着かせるため、背もたれに掛けてあったタオルを蓮に渡した。
「汗、拭いていいの?」
「もちろん構いませんよ」
口調のおかしい俺を蓮が半笑いで見ている。本当なら俺が拭きたいところだ。髪も首も、シャツの中まで。
「今日、一緒に帰れる?」
いつも通りに聞くと、「えっ」と蓮が驚いた声を上げた。
「クラスの打ち上げないの?」
「知らない」
嘘。本当はあったが、そもそも行くつもりはなかった。
「うちのクラスは焼肉食べ放題って言ってたけど……」
不思議そうな視線で俺を見る蓮に、「行きたいなら是非行ってきて、思い出だし」と大人ぶって頷いた。
いよいよ蓮は笑い出し、少しの間くつくつと喉を鳴らしていたが、タオルを椅子に戻して俺の大好きな笑顔を見せてくれた。
「じゃあ良と一緒に帰る。トトールのシェイク飲みたいな、限定のシチリアレモン」
大好きな蓮から、大好きなトトールに誘われて最高に沸いた。
「大活躍のお祝いに奢らせてくれる?」
「もちろん! やったね!」
八重歯と笑窪に気を取られていると、ふっと温かいものが膝に触れた。見るとハーフパンツから覗いた二人の膝がくっついている。ふふっと笑う音がして、目に映った蓮の唇が、「わざとだよ」というように意味ありげに微笑んだ。
瞬間、全身にぶるっと寒気が走った。
六月の熱気を置き去りにするほど、蓮に興奮させられてしまった。
口を開ける俺を放って、アナウンスが番外編プログラム、『借り物競争』の開始を告げた。
番外編我慢大会も開催中! と浮かれた胸の中で宣言して、蓮の汗を吸ったタオルを掴み、目を合わせたまますうっと匂った。
「ちょっと!」
笑う声が、吹いてきた爽やかな風と混ざり合って、ソーダ水みたいに俺の頬をパチパチと打つ。
あーこのまま二人でどこかへ行ってしまいたい。
太腿に置かれた蓮の手を掴んで、誰もいない校舎に連れ込んでキスがしたかった。
妄想が蓮の緑色のクラスTシャツを脱がし、ハーフパンツに手が入った辺りで、触れ合った膝が擦れた。
「またちょっと視線が良くない」
「気のせいじゃないよ」
言うと、また笑い声が頬で弾けた。
海にいるみたいだった。または、空に向かって途切れる丘陵地。
子どもの頃に弾いた、ブルグミュラーの牧歌が鳴っている。
ざわめきや人いきれが、波のさざめきや若草の放つ香りに変わって、俺の胸をふるふると震わせる。
絶えず心地いい風が吹いてきて、全ての生徒たちの気配が俺たち二人だけを残して、草花や、細やかな昆虫なんかに変わってしまったような気がした。
微笑む蓮の下唇が八重歯に噛まれて、眼差しがくすぐったそうに俺を見る。
胸が幸福で膨らんでいく。
誰も知らなくてもいいか、こうして蓮が俺を見てくれてるんだから。
——突然、横から熱が来た。
「あまぴ! 来て!」
獣のような勢いで現れた関田が、有無も言わさず太腿にあった蓮の手を取った。
「借り物、親友だった!」
「え、俺?」
蓮が驚いた声を上げたのに、「一番付き合いが長い!」と言うや否や、掴んだ蓮の手を引いて走り出した。蓮の足が座っていた椅子にぶつかって、さっきまで触れ合っていた俺の膝を打った。
「ごめん良!」
蓮が言ったが、俺は一言も発せられなかった。目のきわが引き攣れるほど目を剥いたまま、身動きすらとれなかった。
眉間が痛い。
こわごわ視線を校庭に向けると、蓮の手を引いた関田が、白いゴールテープをくぐって一着になったのが高画質で網膜に映った。
歓声が上がり、置いて行かれた俺のすぐ先で、スポーツドリンクのボトルが砂を付けて転がっていた。
いやらしい視線は送れるのに、手に触れられなかった。少数派だからいちゃつくのを遠慮したんだ。そんな俺の目の前で、関田が蓮の手を掴んで連れ去った。
二人が一位を取って盛り上がる映像は、俺のしょーもないプライドを中心核に近い辺りから吹き飛ばしてしまった。
気がつくと身一つでトトールにいた。
幸いスマホがあったから電子マネーでホットコーヒーを頼んでゆっくりゆっくり三杯飲んだ。
三杯目が終わりに近付いて、ようやく人の目に晒されているのに気が付いた。ハチマキを付けたまま、体育祭をサボって来たとしか見えない格好のせいだった。
「はぁ……」
ハチマキを首に引っ掛けて、通知が来まくってるスマホを開く。
一つ一つ通知を弾き飛ばしていく。
どうでもいい、体育祭なんて。
時間的には片づけに入っているところだろう。俺の椅子は置き去りにされてるかもしれないけど。
――と、通知に関田の名前が出てきて、思わずさっきの映像をリピート再生してしまった。
ゆっくりと頭を抱え、テーブルに突っ伏した。
あんなことでこんなに落ち込むなんて。
関田が引いた紙は『親友』だ、『恋人』じゃない。
馬鹿かよと笑いたいのに、それくらい特別なんだということまで否定するのは絶対に嫌で、俺から蓮を連れ去った関田が憎くて堪らなかった。そしてそれ以上に、引き留めることも立ち上がることもできなかった自分にがっかりした。
せっかく蓮が隣に来てくれたのに、膝をくっ付けてくれて、帰りにトトールでシェイクを飲むはずだったのに。
ちくしょう! 何で俺は一人でトトールに来たんだよ! せめて校舎で隠れていればよかった! 蓮の選抜リレーまで見逃した!
「あんた何してんのそんな格好で」
見上げると梨沙だった。
「うわ、酷い顔」
幼馴染の登場に、子どもっぽいプライドが顔の筋肉に力を込めたが、恐らくぶすくれた表情に変わっただけだった。
「梨沙こそ何してんだよこんなとこで」
「うちは午前授業だったから、友達とお昼食べてー、ここが二軒目。あんたんとこって今日は体育祭……聞くまでもないか」
梨沙がやれやれと言って向かいの椅子に座った。
「で? なした」
「…………」
ぶすくれたまま、ざっくりと恋人の親友の男に嫉妬したと話すと、案の定鼻で笑われた。
「それでここまで逃げてきたの? 器の小さい」
「情けないのは認める」
言い返す気のない俺を梨沙はそれ以上罵らなかったが、指先でトントンとテーブルを叩くと、「相手じゃないからね、自分に自信がないせいだよ」とキッパリ言った。
自信? 自信なんかあるわけがない。
俺が関田に勝てるのは、学力と身長と顔面偏差値がギリギリ勝ってるくらいだ。いや、それも好みで簡単に覆されるレベルか。
あいつはおしゃれに無頓着だが、日に焼けた筋肉質な身体はそれだけでファッションセンスを凌ぐ魅力になる。なにより蓮との付き合いが長い。サッカーという共通点もある。俺はギリギリ日本代表の顔が分かるくらいだ。そんなこと、ついさっきまでは気にならなかったのに、今はどうしてもっと興味を持ってこの間の親善試合を観なかったんだと後悔している。
「相手はただの友達なんでしょ?」
「そうだよ、ただの親友」
嫌味ったらしく言った俺に梨沙が目を細めた。しょうがない、親しい相手にはつい本音が出る。
男なら関田がいいかと聞いたら蓮は否定したけど、あの時まで蓮にもゲイの自覚はなかったみたいだし、冷静に考えたら、付き合いも長いうえに恩もある関田が対象になってもおかしくないんじゃないだろうか。
やばい、胸がざわざわする。
蓮は俺と付き合ってて楽しいのかな。寄り道しても俺が好きなトトール。外じゃいちゃつけないからって結局俺の家ばっかりだし、毎週末のセックスを楽しみにしてるいやらしいだけの男。
あれ、マジで全然いい男じゃないんじゃないか俺。やったあとすぐに、来週は土日どっちが空いてる? なんて聞いてた。冷静に考えるときもすぎる。うわぁ。
「ほんとに好きなんだぁ」
いつの間にか俯いていた顔を上げると、梨沙が呆れたように俺を見ていた。
「前は振られたってあっけらかんとしたもんだったのにね」
俺はまた俯いて、過去二つの終わった関係を思った。
そう言えばあの頃もムーブ的には今と同じだった気がする。向こうがしたいことや行きたいところを提案してきて、俺はノーとは言わないから楽しくやれていたと思っていたけど、俺の行動に絞ったら相当つまらない男だったんじゃないだろうか。
俺はまた頭を抱えた。
自分は自分であればいいと思っていた。友達作りに苦労したことはないし、勉強もそこそこだ。運動神経は並みだけど、球技は結構得意だし、体育で足手まといになるほどではない。ピアノを辞めてからイライラすることもなくなった。
でも今、久しぶりにあの頃に憑りつかれていた焦燥感が湧き上がってきている。
俺は自分を見直す時期にきているのかもしれない。なんで蓮と付き合う前にそう思えなかったのか。
自分がつまらない男だと自覚できたのは、それだけ必死なんだということは理解できた。
「すげー好きなんだと思う」
興味本位は言い訳だった。俺は蓮を一目見て気に入った。笑顔を見て、完全に落ちたんだ。
「じゃあいーじゃん」
梨沙が明るい声で言った。
「何が」
俺は眉を寄せた。
「好きで苦しむのは美しいじゃん?」
「嫉妬は美しくないじゃん」
「好きならしゃーない」
「嫌われちゃうかもしんないじゃん!」
梨沙はそーかもね、と適当に首を左右に振って俺をからかった。
「嫌われちゃう前に自分に自信付けて、嫉妬心に打ち勝てよ」
ああくそ、分かってるよそんなこと。でもほんのついさっき大体全部噴き飛んだとこなんだよ。
「筋トレでも始めるか……」
コーヒーカップに視線を落としたが、持ち上げる気力はなかった。
「ピアノは聴かせないの?」
「え?」
梨沙が珍しく気を遣った表情をしている。
「そんなに大切ならさ」
梨沙がピアノのことを持ち出すのは相当に久しぶりだった。
むっと噤んだ自分の口が、だんだんへの字に曲がっていく。梨沙の方が耐えられず噴き出した。
「まあ好きにすればいいけど」
じゃあねと立ち上がって、向こうの席にいた女友達のところへ戻っていった。
チラチラと梨沙の連れからの好奇の目が注がれて、俺はとぼとぼと店を出た。
「よ」
出口のすぐ横に蓮が立っていた。
「蓮、何で——」
蓮は黙って俺の胸にリュックを押し付けた。
「俺の……持ってきてくれたの?」
受け取ると、リュックにはガムテープでバカと書かれていた。
「みんな心配してたよ。担任の高瀬先生も、あと俺も」
「蓮……」
受け取ったリュックを地面に置いて、人目も憚らず蓮を抱きしめた。
「りょっ」
「関田が目の前で蓮をさらってったから! ちょっと我慢できなかった!」
どうすればいいか分からない時は、素直になるのがいいと母さんが言っていた。
俺は素直になって、子どもみたいな行動に出た理由を子どもみたいに白状した。
「自分でもバカみたいだって思うし、さっき梨沙にも自分に自信がないせいだぞって言われた」
「梨沙、ちゃん?」
「幼馴染。友達と中にいた」
情けない声で言って、しがみついているから蓮には見えやしないのに店内を指した。
「そっか、嫉妬か」
「そうだよ! 俺は触るの我慢してんのにさ!」
蓮の手が癇癪を起す俺の背中を摩った。
「俺が好きなのは良だよ」
「本当に? 足遅いし筋肉もない」
「遅くなんてなかったよ?」
「普通!! 超普通!!」
蓮の身体が揺れて、笑っているのが分かった。
「良は俺を楽しませるのが上手。あと、気持ち良くするのもね」
ぽんぽんと背中を叩かれて、腕を解いて蓮と向かい合う。
笑窪を見つけて、触りたいのを堪えた。
「俺といて楽しい?」
蓮はきょとんとして、子犬みたいにちょこっと首を傾げた。
「トトール! 俺の家! セックス! これしかしてないよな?!」
まあるくなった蓮の目が、素早く周りを確認した。そして、ふふっと笑った。
「トトールは俺も気に入ってるよ? インスタフォローして新作チェックしてるし、放課後に良の家に行くのも、週末だって楽しみにしてる」
「ほんと?」
「ほんと」
顔を両手で覆い、ようやく鳩尾あたりに溜まった不安をはーっと吐き出した。
「あーよかったぁ」
「そんなにかよ」
よしよしと頭を撫でられて、俺はなんとか子どもから高校生に戻った。
「帰ろ」
「シェイク、飲まないの?」
リュックを拾って蓮を見ると、少し日に焼けた左手が俺の胸に置かれた。
「俺さ、今朝寝坊しちゃって、朝ごはん食べ損ねたんだ」
「うん? うん」
蓮はなんだかのったりと喋っている。俺は空気を読もうとよく耳を傾けた。
「お昼ご飯食べようと思ったら、母さんが保冷剤を入れ忘れてて、ちょっと怪しい匂いがした気がしてさ、食べるのをやめたんだよ。今日は売店は閉まってるし」
「えっ?! じゃあめちゃくちゃお腹空いてるじゃん!」
俺は蓮のクラスが焼肉食べ放題だったことを思い出して戦慄した。
「ごめん俺のせいだ! 焼肉食べ放題行こ!」
大慌てでリュックを背負うと、近くの焼肉屋を調べようとスマホを取り出した。
「そうじゃなくて!」
画面が手で遮られ、俺はなにも分からなくなった。この話から飯以外のルートがあるだろうか。
蓮の唇がむにむにと動いて、ちょっと顔の距離が近くなる。
「……良の家に行って、アレしたいんだけど」
「アレ」
次の瞬間、太腿に膝蹴りが入った。
「アレだよバカ」
膝蹴りは痛くなかったけど、脳天に衝撃が走った。
走っていたタクシーを呼び止めて蓮を押し込むと、家の住所を告げた。
かっ飛ばしてくれと言いたかったがなんとか堪えた。
「あそこ最近ケーキ屋ができましたよねえ」
運転手がのんびりと言い、タクシーはさっそく信号に捕まった。
「ジゼルってお店です! 美味しかったですよプリンが特に!!」
早口になった俺を隣でクスクス笑う声がする。
「じゃあ今度奥さんに買って帰ろうかなあー」
優しい初老の男性運転手に見えないよう、リュックの影で手を繋いだ。
盛り上がった気持ちのまま家に着くと、こんな時に限って母さんの友人が五人も遊びに来ていた。
「あらあ良一くんお帰りなさーい」「またおっきくなったあ?」「ほんとねえ」「ごめんねえ、騒がしいのよお!」
あっという間に囲まれて、別に久しぶりでもないのに、「かっこよくなっちゃって」だの、「お友達紹介して」だの、やいのやいのと言うくせに、こちらの返事を待つでもない。
俺たちはひとしきりその場の話のタネにされた後、「お腹空いてるでしょ?」と、軽食やら菓子をお盆一杯に持たされ、それを見た蓮のお腹がぐうっと大きく鳴って、みんなを大笑いさせた。
結局蓮が食べ物の誘惑に負け、部屋で品のいい菓子を食べながら、俺のいなくなった後の体育祭の話を聞かせてもらい、存分にいちゃいちゃした。
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