第4話 誰も知らない
正直、好奇心に導かれた。
でも多分俺には素質があったし、蓮はあっちの人だと思う。
俺が目覚めさせた。でも自慢するわけにはいかない。
そして相変わらず、俺と蓮の間には関田がいる。
「最近アレじゃん、関田の友達と仲良いじゃん」
「うん? 蓮ね」
「あまぴだろ?」
「俺は蓮って呼んでる」
彼氏なので。
「ふーん」
くそ、言いたいな、えええええ?! って言わせたい。
蓮と付き合う事になって今日で四日目。学校では一緒にお昼を食べて、放課後は真っすぐ俺の家に行く。
付き合うのとほぼ同時にやることをやったお陰で毎日いちゃついてる。まあ付き合いたてはこんなもんか。
盛り上がる二人の関係をよそに、世間にとって相変わらず蓮は俺の、ではなく関田のあまぴだ。
「関田の友達って言われるのムカつく」
「どうしたの?」
ティッシュの散らかるベッドで蓮とひっつきながら、笑窪の凹みを中指の腹でいじりつつ文句の続きを吐き出す。
「最近関田の友達と仲良いじゃんって言われた」
「なるほど」
「俺の蓮なんですけど?!」
「そうだよねえ」
蓮はあまり大したことだと思っていないのか、俺の髪に鼻を埋めてクンクンと匂いを嗅いでいる。
「関田の調子はどう」
しょうがなく訊ねると、「ようやく熱が下がったみたいだよ」と頭頂部で蓮がホッと息を吐いた。
安堵の声色に、つい妬ましい気持ちがする。
「解熱してから二日後だっけ、来られるの」
「そう」
蓮の両腕がするすると身体に纏わりついてくる。
「良がノートの写真送ってくれるって言ってたよ」
「まー、もうすぐテストあるから」
俺は毎日授業のノートを写真に撮って関田に送っていた。
授業を真面目に聞いて、テストに出すと言われたところは赤いペンで囲んで。
「優しいね」
嬉しそうにする蓮が俺に乗り上がってキスを仕掛けてくる。目を瞑って舌を吸われながら、あったかい腰を両手で抱えた。
俺は映像記憶がいい方で、テストの最中にも授業の黒板や教科書そのものを思い出すことができる。だから暗記系の教科でノートはほとんどとらない。そんな俺が関田に良くしてやる理由はもちろん蓮だ。
本当のところは関田を邪魔に思っている。どれくらい経てば俺たちの間から関田がいなくなるのか真面目に知りたい。それなのに、関田に優しくすればこうして甘いキスが貰えるんだからやってられない。
自分でも驚くが、たった四日で俺の中では大暴動が起こっている。これで関田がインフルエンザから生還したら、目の前で仲良くする蓮と関田のことを見なくてはならない。
俺は堪らなくなって、蓮をひっくり返してさっき散々舐め回した身体に吸い付いた。
「ねえ」
「うん?」
顔を上げると、蓮がなんだかもじもじとしている。可愛い。
「内腿にまたキスマーク付けてくれる?」
また? と思ってから、初めてこうなった時に自分が付けたのを思い出した。
「いいよ」
簡単なことだと思って布団に潜り、下着一枚の股間に顔を埋めてスリスリすると、布団の向こうから笑う声が聞こえた。
「左脚の内腿がいい」
言われてそこを強く吸った。
赤く鬱血したのを見届けて布団から出る。
「付けたよ」
「ありがと」
恥ずかしそうにひっついてくる蓮を抱き抱えて、「なんかのおまじない?」と顔を覗き込むと、蓮は言いにくそうに唇をむにむにとさせて、「あれ見ながら自分ですると気持ちいいから」と告白した。
うわエロ。
「それ今見せて?」
「しないよ!」
「じゃ想像しよ」
「やめてよ!」
目を瞑った俺のほっぺたを蓮の指が摘んで阻止した。
「ケチ」
笑って絡まり合ってキスをして、ただそれだけで楽しくて幸せだ。
前に付き合った二人ともこんな時期はあったはずだけど、いつしか終わりが来てしまった。
蓮とも終わりが来るんだろうか。
その時も俺は前の二人の時みたいに、「しゃーない」って思うのかな。
「なあ」
「うん?」
「嫌じゃなかったら、こっちもしたい」
言って蓮のお尻の割れ目の奥に触れた。
目を丸くした蓮がきゅっと身体を竦めて、俺の指はお尻の肉に掴まった。
「入れたいの?」
驚く蓮に頷く。
「……考えてみる」
真面目な表情になった蓮の顔を慌てて両手で掴まえた。
「無理は言わない! 今でも十分満足してる!」
蓮の瞳は揺れていたけど、「考えるのはもっとずっと先だっていいよ」と言うと、ようやく親指の下にへこみが現れた。
気軽に言ったが、本気ではあった。
少し前、クラスの辺見が中学から付き合ってる彼女とアナルセックスを始めたと言い、その場にいた男たちは力の限り奇声を上げた。
人生とセックスの上級者だけが挑むプレイだと思っていたが、辺見は「倦怠期だったから」とあっさりと言った。
もちろん男たちはありとあらゆる疑問をぶつけた。そして聞いただけで自分たちも上級者になったような気になった。
準備も大変そうだったし、入れるまでにもそれなりに苦労があったらしいが、まあそのプロセスも二人が倦怠期を乗り越えるには必要だった、のかもしれない。
苦労に見合う快感があったのかと聞くと、「まあ達成感みたいのもあるし、より相手のことを気遣うようになって良かったんじゃないかな」と、答えになってるんだかなってないんだか分からない口ぶりの辺見に俺はイライラしたが、周りのやつらは辺見を人生とセックスの上級者としてその位を最上位に置いた。
自分がやろうと思う日は来ないだろうなと思っていた。望まれたら考えるかもしれないが、世の中には色んなプレイがあるし、道具もあるし、わざわざあそこに入れる必要はない。そう思っていた。
でも来た。結構すぐ来た。
俺は人生の上級者でもセックス四天王でもなかったけれど、蓮の彼氏になった。そして俺には関田という倒したい相手がいて、あいつよりももっと深く強い蓮との繋がりを作りたかった。
二人の過ごした時間には永遠に敵わない。出会ったタイミングが遅すぎる。関田が回復するまでにも間に合わないだろう。それでもできるだけ早く、誰にも自慢できない蓮を全部自分のものにしたかった。
とはいえ、そんなに簡単に了承されるとは思っていなかった。まだ付き合ってたったの四日。とりあえずその気があると伝えておこうと思っただけだ。
ところがその翌週の週末に、蓮は準備を整えてきた。
俺は思わず大声を上げそうになったが耐えた。
そして俺たちはオーラスセックスからアナルセックスへと移行した。
予習しておいた通り簡単ではなかった。苦しそうにする蓮に止めてもいいと言ったけど何故か蓮が引き下がらなかった。
金土日と誰もいない俺の家で、部屋に籠りきりになって殆ど裸で過ごした。俺が慌てて買い揃えたアイテム全てを使って、ゆっくりゆっくり未知の世界の扉を開けた。
そして開け放ってみると、ハッキリ言って高校生には身に余る快楽だった。俺は自分のコントロールを失った。
「良、待って、俺ももう少しだから」
「ごめん止まんない」
「あっ、ちょっとねえ!」
手にある蓮への愛撫がおざなりになり、自分を止められなかった。荒い息と一緒に声を上げて、蓮の中で射精する快感に没入した。
いった後は当然懺悔タイムで、俺は執拗に奉仕して蓮の性欲を収めてもらった。
「女の子の時はもっと余裕あったんだけどなあ」
果てた蓮のものをしゃぶりながら言い訳をすると、「ふやける!」と怒られた。
でも、蓮との相性は良かったと思う。
本当は毎回したかったが、準備があるからとできるのは週末だけで、俺は土日を蓮とのセックスのためにキープした。
「辛くない?」
「うん平気、気持ちいい」
「俺も」
始めはちゃんと労わって気持ち良くできている筈なのに、蓮が顔を赤くして短い声を上げ始めると、ちょっとした罪悪感が湧いて、それが言いようのない快感に変わり、みるみる間に股間に集中して結局最後は突っ走ってしまう。
「俺は頑張ってる! 蓮の声がエロ過ぎるせい!」
開き直って文句を言ってみたが、蓮は「はいはい俺のせい俺のせい。さあ早くしゃぶれよ!」と勃起した竿で俺の頬を打った。
そして始めて数回。ようやく我慢が実って初めて一緒に果てた時、そのあまりの気持ちよさに俺はそれまでの独りよがりのセックスを心から恥じた。
「めちゃくちゃ良かった」
脱力した身体で蓮を抱きしめて、深くため息が漏れた。
「俺も気持ち良かった」
汗ばんだ蓮に微笑まれてキスをされると、今までに味わったことのない達成感が全身に満ちていった。
蓮だけが俺に催させる最上級の感情。きっとこれは愛に近い。口にするには早いけど、でも確かにこの胸の真ん中に強く湧き上がってくるものは蓮への情熱だった。
二人で汗だくでキスをして、シャワーの最中もずっと絡まり合った。
初夏の風の気持ちのいい日だった。窓を全開にしてベッドで寝転んで、揺れるカーテンを見上げながら一緒にソーダアイスを齧る。
俺が冷たい唇で蓮の首にキスをすると、蓮はくすぐったいと笑って、珍しく俺に引っ付いて甘えた。
「大好き」
冷えた唇と尖った八重歯で首を甘く噛まれて、俺は堪らなくなって、もう一回したいと言ったけど、蓮はちょっとでも食べ物を口にした後は絶対させてくれなくて、仕方なく蓮に見られながらオナニーをした。
気付くと六月にいた。蓮と付き合ってひと月が経った。
最近、カップルが目につくようになった。
平気で廊下の奥でキスしてるし、玄関前のホールだの、非常階段だの屋上だの、どこにでもいてくっ付いている。
何が面白いのか分からないが、くすくす笑う女を男が後ろから抱きかかえて、なんかちょっと揺れたりしている。いやもうそれセックスだろ! 絶対勃起しているだろ!
人目もはばからずいちゃつくカップルを以前は視界に入れていなかった。視線で邪魔するのは悪いよね、なんて思ってたくらいだ。でも今は湧き上がる妬ましさにガン見する。居心地が悪くなってどっかいけ! という気持ちで強い視線を送るが、もちろんほんわかハッピーな二人は気が付かない。
「良一、最近機嫌悪くね?」
俺のどんな気配を察したのか、前の席の三石が振り返って言う。襟から彼女とペアらしいネックレスのチェーンが覗いている。
「別に」
肘を突いた手に顎を乗せ、短く返す。
「なんかあったのか?」
「別にって言ってんだろ」
「こーわ」
三石がいーっと首を竦めて前を向いた。
「欲求不満ですかあ?」
右の席で寝ていると思っていた寺田がからかってくる。こいつも彼女持ちで、放課後は親が共働きの彼女の家に入り浸ってセックス三昧だ。
「溜まってねえよ」
人生で一番金玉が軽やかだわ。
「あれー、彼女できたんだっけえ?」
斜め前の宇佐美さんが肩越しに振り返ってにやにやと見てくる。薬指に彼氏とのペアリングが光っていた。
できたよ! 彼氏が!
どいつもこいつも余裕ぶった表情でからかってきやがって! 俺は恋人がいるし欲求は満たされてます! もうめちゃくちゃいちゃついてるから! 過去一充実した性生活送ってるから! 絡んでくんなよ! 機嫌は悪いよ!!!
言いたいことがいっぱいに詰まって、今にも溢れそうだった。
「黙秘する」
「なーにもったいぶってんだよ」
「強がっちゃってえ、女の子紹介してもらえー」
悪ノリのいいクラスメイト達があちこちからくすくすと笑って俺を煽ってくる。このノリに全く関心を見せないのは関田くらいだ。
「先生まだかよ!」
そう悪態を吐いたところで、ようやく先生が引き戸を開けた。
掃除が終わって教室に戻ると、蓮が待っていてくれた。嬉しい瞬間だ。
「帰ろ」
「うん」
掃除の割り当てがある時は先に終わった方が相手のクラスの前で待つ。それが付き合ってひと月経った俺たちの日常だ。
たまに待ってくれている蓮が関田と話しているのを見る。
クラスでは黙っていてもいじられるからか、関田は自分から人に話題を振らない。でも蓮と話している時は自分から色々と話しかけている。後でどんな話題だったのかと聞くと、サッカーの話や家族の話がほとんどで、しかも人に聞かせるほど面白い話でもないらしい。
でも蓮はいつも優しく微笑んで、目を見て関田の話を丁寧に聞いている。
関田はきっとホッとするんだと思う。普段の関田がいじられることを苦にしている様子はないが、何でもかんでも笑いに変えられるというのはストレスにはなるだろう。俺はもちろん蓮に言われてからは一度もいじってないけど、周りの奴らを止めることまではできない。
蓮を独り占めにしたい気持ちはある。あんな風に熱心に関田を受け入れている姿には正直かなり嫉妬する。でもどうしてそうなのかを俺は知っているし、きっとこの先もずっとそうするんだろうと分かっている。
もちろん俺は彼氏なんだからそんなことで妬む必要はないんだけど、何せ周りからの認知はゼロだから自信は持てなかった。
そこいら中にいるカップルのように手を繋いで帰りたい。あんなの手が蒸れるだけだと思ってたのに、今は少し切なかった。
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