第8話 夏の思い出 1



 小学校に上がる少し前に始めたピアノは、姉に導かれて始めることになった。

 そして姉の予言したとおり、叩けば鳴る八十八鍵盤は俺をたちまち夢中にさせた。


 ピアノの先生は俺がよく取り組んでいると判断して、度胸付けのつもりでと、年に三つ四つのコンクールに挑ませた。

 姉がバイオリンでコンクールに出ていたこともあって、自分も当然のようにそれを受け入れ、姉に倣って練習曲と課題曲を弾き続けた。気がつけば休日もピアノにばかり向かっていた。

 子どもには遊ぶことも大切だと、レッスンにもちゃんと夏休みはあったが、寡黙に弾き続ける姉を見ていた俺は、そういうものなんだと思って毎日の練習を欠かさなかった。必然、家族でレジャーに出かける機会はあまり多くなかった。


 中二でピアノを辞め、翌年付き合った由衣ちゃんという隣の中学の子は、レベルの高い高校を受験すると決めていて、夏休みは塾で予定がいっぱいだった。

 高一の時に付き合っていた由利奈はピアノガチ勢だったから、夏休みは自主練と怪我に警戒していて会うことも稀だった。

 彼女が忙しくしている長期休暇中に俺が何をしていたかというと、何もしてなかった。なにもしなくていいという贅沢を存分に味わっていた。向こうが俺のことを考えていないと分かっているのは、驚くほど気が楽だった。


 蓮も小学生の頃の夏休みは、サッカー漬けの毎日だったそうだ。

 蓮がサッカーを辞めた後も、蓮の弟は続けていたから、やっぱり夏休みに家族で出かけることは稀だったらしい。

 意外な共通点があった俺たちの、付き合って初めての長期休暇。

 もちろん俺たちは何もかもをすることにした。



 まずは子どもらしい夏休みを経験すべく、子どもが行きそうなところから始めた。そう、プール。

 小学生なら市民プールだろうが、そこはもちろん高校生だから、ウォータースライダーがうねうねとそびえ立つ、立派な施設に行った。

 快晴のプール日和とあって、驚くほどの人出だった。泳ぐというよりも、浮き輪に乗ってただ流されながら、日焼け止めをばっちり仕込んだ青白い身体が眩しいとお互いを笑った。


 動物園に行って、博物館に行って、植物園にも行った。

 どこも夏休みの子どもに向けたイベントが開催されていて、俺たちにもイベントに参加させてくれた。

 スタンプラリーをして動物シールを貰い、クイズに答えて博物館のポストカードを貰い、またスタンプラリーをしてオオムラサキの缶バッジを貰った。


 科学館に行き、プラネタリウムで『夏の夜空』を見た。

 これはなかなか良かった。一瞬、寝そうになったけど。

 その日の夜は公園に行って二人で星空を見上げた。でも見上げてたのは数分で、ほとんどキスしてたと思う。

 蓮はその日はうちに泊りだったから、部屋に戻ってから更に盛り上がった。



 次に向かったのは海だった。

 早く出たつもりだったけど、電車が着いたときにはすでに激混みの満員御礼だった。

 週末だったのもあってか家族連れが多くて、子どもでいっぱいの海で泳ぐのは諦めて、貝殻や小さいカニの死骸を拾ったり、動画や写真を撮り合って歩いた。


 昼近くになり、日陰で涼みながらコンビニで買ったおにぎりを食べた後、俺がリュックから小ぶりなスイカを取り出すと、蓮が大笑いして砂地にひっくり返った。

 二人で丁度良さそうな流木を探してスイカ割りをしたけど、流木の方が砕け散ってしまい、また蓮が大笑いした。

 結局スイカは、近くにいた大学生のグループに頼んで切ってもらった。

 食べきれない分を貰ってもらうと、代わりに肉をごちそうしてくれた。

 アウトドアサークルだという半裸の男たちは、みんなとても気さくで、あれよあれよと勧められ、俺たちはお腹いっぱいにされてしまった。


 午後になり、少し空いた波打ち際で足を濡らした。

 足で水を掛け合うじゃれあいをカモフラージュに、ずっと手を離さなかった。


 電車に揺られて撮った写真を眺めていると、蓮はまたおばあちゃんみたいに、「楽しかったねえ」とのんびり言った。俺はうとうとするふりをして蓮に寄り掛かった。

「眠いの?」

「うん、少し」

「そっか」

 頭に蓮の頭が乗っかって、車窓の向こうでは、海がまだ明るい日の光に照らされている。目を閉じると、波音が耳に残っていた。


 ああ、またドビュッシーが聴こえる。俺ドビュッシーが好きだったのかな。

 大騒ぎで遊んでいたと思ったら疲れて眠り、突然起きてまた大騒ぎを始める子どもの曲。小さい頃に弾いたな。題名はなんだっけ。

 蓮の体温を感じる頭のてっぺん辺りで曲を鳴らしながら、そのままちょっとだけ眠った。


 


「それで? 次はどこに何しに行くの?」

 朝食を食べていると、母さんに夏休み後半の予定を聞かれた。

「小学生の夏休みはそれなりに楽しんだから、そろそろ年相応のカップルっぽいイベントに行くつもり」

 突然むせた蓮の背中を摩ってあげていると、母さんが、「うーん」と唸った。

「最近の高校生はデートで何するの?」

 それについては俺も「うーん」だった。

「確定なのは夏祭りと花火大会。クラスの奴が野外フェスに行くって言ってたけど、ちょっと遠いからなー。俺さ、夏休みデートの経験ないんだ。蓮は彼女と何かした?」

「へっ?!」

 蓮が鳥みたいな声を上げた。

「あら、蓮くんも彼女がいたの?」

「いえ! いや! はい! でも、うまくいかなくてすぐ別れたので……」

 慌てて首を振る蓮のコップにオレンジジュースを注いで、「女の子とキスしたけど、ときめかなかったんだって」と説明すると、蓮が、「わっ!」と俺を驚かした。

「ねえそれ、良一としたらときめいたってこと?」

 母さんが身を乗り出す。

「そりゃそういうことよ、な?」

 得意になって胸を張って蓮を見ると、蓮は耳を真っ赤にして俯いていた。

「あれごめん、余計なこと言った?」

 蓮がしぱしぱとたくさん瞬きをしている。

「蓮?」

「あの……はい……ときめきました」

「きゃーっ!!」

 はしゃいだ声を上げた母さんの頭が、椅子の背もたれの向こうにそっくり返った。もちろん俺も沸き上がって、蓮のこめかみに素早く唇を押し付けた。


「朝から盛り上がってるなー」

 見ると父さんが階段を降りてきたところだった。

「あれ、父さんいたんだ」

「えっ、あっ、おはようございます! 初めまして!」

 俺の声をかき消す勢いで立ち上がった蓮が、父さんに頭を下げる。

「おはよう蓮くん、やっと会えたねー」

 父さんは嬉しそうに蓮の手を取ってビジネス人っぽい固い握手をした。

「会社は?」

 向かいに座った父さんは、着替えてはいたが、仕事に行く格好ではない。

「真理に休めって言われてね」

「あー」

 なるほど、姉さんのお知らせがあったのか。確かにここ最近父さんを見ていなかった。

「それと、母さんがお似合いだって言うから、早く二人に会っておこうと思ってね」

 父さんは組んだ両腕をテーブルに乗せて、にこにこと俺たちを眺めた。

「ふーん、だってさ」

 横を見ると、蓮が両手でロールパンに齧りついている。なんだかハムスターみたいで可愛い。

「そんなに緊張するなら部屋で食べようか?」

「いや大丈夫!」

 短く言い切って、蓮はまた自分の口にパンを突っ込んだ。

「ごめんごめん、俺が見過ぎた!」

 笑う父さんにも朝食が運ばれてきた。

「今ね、夏休みにどんなデートしようかって話してたの。父さんいいデートスポット

知らない?」

「おー夏休みデートかあ」

 父さんはコーヒーを啜りながら、遠い記憶を思い出そうとしているのか、上へ目をやった。

「花火大会巡りしたな、友達とだったけど」

「巡るの? 隣町の大きいのには行くつもりだけど」

「探すと小規模なのが色んな所でやってるんだよ。それを自転車に乗って見に行った」

「自転車で? 元気だったね」

 父さんは、「確かに」と笑った。

「そうだ、うちの会社で押さえてる恵森めぐみもり湖畔のコテージに空いてる日がないか見てみようか」

 父さんが思いついたようにポケットからスマホを取り出した。

 湖畔のコテージ? ああ、なんとなく記憶にある。

「小学生の頃に何回か行ったとこ? まだあったんだあそこ」

「あるよ。今あそこら辺人気があるらしくて、みんな行きたがっててね、空いてないかなあ」

「湖畔のコテージ……」

 蓮が小さく呟くのが聞こえて、見ると目を見開いてまた固まっている。パンは無かった。

「湖畔つってもさあ、すぐ目の前に湖があるわけじゃないんだよ」

 かつての俺の想像では、湖の際に建てられたコテージのベランダから、桟橋がすーっと湖面に伸びていて……だったのに、普通に湖の近くにある別荘地の一棟だった。

「や! そんなとこに俺が行くのはさすがに図々しいんじゃない?」

 パッと俺のシャツの袖を掴んだ蓮に、あ、律義さが出たなと、変な顔になってしまった。

「父さんの会社のだからタダだよ」

「会社が維持費を出してるんだからタダじゃないよ!」

「社員はタダだって」

「俺は社員じゃないし!」

「俺は社長の息子だぞ!」

「高校生が行くには贅沢だって!」

 二人で押し問答をしていると、父さんと母さんが笑い声をあげた。

「ほんとだよく似合ってる」

「そうでしょ?」

 くつくつ肩を震わせている父さんの横で、母さんも笑っている。

「喧嘩してたんだけど」

「今のが? 仲良しにしか見えないわよ」

 母さんに首を振られて、俺たちの短い痴話喧嘩は終了した。


「あーやっぱり埋まってるな、一日だけ空いてる日があるけど、日帰りだと駅からはちょっと遠いしなあ」

「残念、蓮と行きたかったのに」

 椅子に背中を預けると、隣で蓮がほーっと息を吐いた。

「そんなに行きたくなかった?」

「行きたいに決まってるよ! 湖畔のコテージなんて!」

「じゃあなんでホッとしてんの?」

「贅沢だから!」

 言い切った蓮は、ようやく残りの朝食を食べ始めた。

「じゃあ高校を卒業してから行ったらいいわよ」

 母さんが言うと、蓮がハッと顔を上げた。どうしたんだろうと思っていると、唇がむにむにと動いて、頬にぽこっと笑窪ができた。

「……はい」

 嬉しそうにする蓮に、高校生と大学生でなにが違うんだろうと首を傾げた。

 どっちも学生じゃないか。成人するから?

「卒業といえば、蓮くんは進学希望?」

 母さんが青いぶどうを齧って蓮に尋ねる。

「はい」

「将来の夢とかあるの?」

 将来の夢。そういや聞いたことがなかった。何せまだ付き合って二か月のウキウキカップルだ。

「小学校の先生になりたいと思ってます」

「え、そうなの!?」

 何の想像もしていなかったくせに、俺はびっくりした。

「いいわね、似合う!」

「え、なんでなんで?」

 俺はフォークを握って前のめりになった。蓮は俺をチラっと見て、それから母さんに向かって語った。

「子どもが好きなのもありますけど、自分の担任の先生がみんないい先生ばっかりだったんです」

「へえ、いい思い出話がありそうだな」

 父さんがパンをちぎって口に入れた。

 蓮の頬の笑窪が更に深くなって、唇がまたむにむにと揉まれる。

「優しい先生もおっかない先生もいましたけど、どの先生も僕を褒めてくれました。みんな僕のいいところを見つけようとしてくれて」

「いいところ」

 父さんが不思議そうに繰り返した。俺も同じような気持ちだ。蓮は良いところがたくさんある。

 蓮は父さんを見て恥ずかしそうに俯いた。

「僕、小学生の途中までは、結構授業中にちょろちょろしちゃうタイプだったんです」

「え、蓮が!?」

「うん……勝手に身体が動いちゃうっていうか、注意されて初めて自分が席にいないことに気が付く、みたいな」

「へえ、そうだったの」

 母さんが意外そうに身を乗り出した。

「クラスメイトも気が散っただろうし、補助の先生も付いてくれたりして、結構周りに迷惑掛けてたと思うんです。でも、その頃は自分でもどうしてか分からなくて。毎日帰りに先生にごめんなさいって言いに行ったりして」

 なにそれ可愛い。

「それで?」父さんが続きを促す。

「先生は、どうしてかなって思ってるなら、もうすぐできるようになるって言ってくれました。周りじゃなくて、もっと自分のことをよく見ててごらんって。先生に言われたことを意識していたら、自分がなにに気を取られてるかに気が付けるようになって、立ち上がってしまう前に、それのどんなところが気になるのかを考えられるようになって、そしたら、授業が終わった後でも間に合うことだって思えるようになりました」

「わあ凄い!」

「成長だなあ!」

 二人は声を上げて蓮を褒めたけど、俺は感動で言葉が出なかった。

「いえ、凄くはないんですけど」

 蓮はあちこちに首を傾げながら顔を赤くした。

「自分がどんなことで困っていても、大丈夫だよって言ってくれました。急かされることもなかったし、比べられることもなかった。それで大きくなってみて、成長って人それぞれで全然違って、ああしてゆっくり見守ってくれる大人がいるって、凄く幸せなことだったなあって思ったんです」

「素敵な志望動機ねえ、感動しちゃった!」

「俺も」

 自分の両親が揃って泣きそうな顔をしていてぎょっとしたが、子を持つ親というのは血のつながりの有無に関わらず、子どもの成長物語に感動する生き物だ。

「ありがとうございます!」

 蓮はやっぱり恐縮して、でもさっき出てきた笑窪はまだ頬にあった。


「将来かあ、俺はどうしようかなー」


 つられて考えてみたものの、頭の中は空っぽだった。

 充実した今を維持するためには、蓮と一緒に成長していかなきゃならないと分かってるけど、蓮のような志望動機に繋がる出会いは今のところなかった。


「憧れもなーんにもなくてもやれる仕事ってなんだ?」

 俺の呟きに、父さんが噴き出して、母さんが首を折った。

「がっくりきちゃうわね」

「ごめん、でもなんにも思いつかなくて」

「取り合えず、人の命に係わる仕事には就くな」

 父さんが大切なアドバイスをくれた。

「蓮くんは大学は決めてるの?」

「国立の教育学部を目指してます」

「おおー」

「まあ!」

「なんだって!?」

 俺はびっくりして蓮を頭のてっぺんからじろじろと見下ろした。もちろんそんなのは初耳だった。

「いつ勉強してんの?! 俺邪魔してない?!」

 愕然とする俺を蓮がクスクス笑う。

「ちゃんと勉強してるから大丈夫だよ」

「だって塾とかも行ってないよな?!」

 俺が毎日家に連れ込んでる!! 課題こそやってるけど、土日のどっちかはセックスしてるし!!

「塾は必要ないんだ。うちの親が二人とも教師だから」

 さらなる新事実に、俺と母さんは同時に背もたれから頭を反らした。

「なんでアンタまでひっくり返ってんのよ」

「だって知らなかったから!」

「彼氏の親の職業くらい知っておきなさいよ!」

「だって!!」

 まだウキウキカップルだったから!!!

 揉め始めた俺と母さんを父さんは笑ったが、蓮が慌てて止めた。

「自分がなんか言いにくくて! 訊かせない雰囲気出してたので!」

「あら、そうなの?」

 たくさん頷く蓮はまたちょっと俯いて、太腿の上で両手の指先をきゅっと握っている。

「ご両親は小学校の先生なのかい?」

 黙った俺の代わりに父さんが訊ねた。

「いいえ、高校の教師です。隣の市の」

「どうしてそれが言いにくかったのかは、聞いてもいいのかな」

「はい、えっと……」

 蓮は俺と目を合わせてから、前に座る母さんたちのことも見て、それからやっと口を開いた。

「両親の職業が言い出しにくかったわけじゃなくて、関係性の問題というか」

「親と仲良くないの?」

「ううんそんなことないよ! 優しい両親。ただなんていうか、うちの両親は、子どもの頃のままの印象で俺を見てるというか」

「子どもの頃? 小学生のってこと?」

 蓮は小さく頷いた。


 落ち着きがなくて、突発的で、人に迷惑を掛ける――。


「でも今の蓮とは全然違うじゃん」

 俺が否定すると、蓮は、「ありがとう」と目を細めた。

「もちろん今も子どものままだとは思ってないと思うんだけど」

 蓮の言葉はそこで途切れた。でもそれが必要な間だと、俺も父さんたちも分かっていた。

「——きっと、自分の記憶に残ってないところでも色々と大変な思いをさせたんだろうなって思うんです。だからあんまり親を驚かせたくないっていうか、人と関わってると心配させると思うので」

 人と関わってると?

 俺は大いに疑問に思ったが、父さんが間を作らず、「そうだったんだね」と引き取った。

「ごめんね、友達としてでも紹介できたらって思ってるんだけど」

「いや、そんなのは全然いいけどさ」

 人と関わることを気にするんだったら、友達も? 息子に友達がいなくていいってことか?

 次々に疑問は湧くが、どれも正しい疑問じゃないような気がする。

 ふと、関田のことを思い出した。

「関田はいいんだ」

 俺の言葉に、蓮が困った顔をした。

「関田とは古い付き合いだし、親同士も知り合いだから……」

「そっか」

 心配そうな目が俺を見ている。

「いや、嫉妬してるわけじゃないよ」

「……そう?」

 俺は頷いた。


 そうじゃない。俺が気になっているのは、じゃあやっぱり蓮がゲイだってことは相当言い出し難いんじゃないかってことだ。俺たちの仲が深まっていくことは、蓮の不安を膨らませることになるんじゃないのかってことだ。

 心配性な優しい両親に秘密を抱えることは、楽しいことじゃないはずだ。かと言って好きは理性でどうにかできるものでもないし。

 俺は蓮と楽しいことばかりをしようとしているけど、もっと一緒に考えなくちゃならないことがあるんじゃ――。


「ねえ父さん、一日空いてるのっていつなの?」

 俺が作った間を破って、母さんが父さんに訊ねた。

「コテージのか?」

「そう」

「明後日の水曜」

「そっか、よし! 日帰りで行こう! 私が運転する!」

「え?」

 唐突な母さんの勢いに、蓮と二人でのまれた。

「天然氷の美味しいかき氷、蓮くんに食べさせたい! 車なら一時間ちょっとで着くし!」

「ああ、いいんじゃないか。蓮くん水曜日の予定は?」

「え、あ、大丈夫です!」

「父さん予約して!」

「任せろ!」

「マジか! 母さんありがとう!」

「温泉もあるし、湖でできるアクティビティもあるわよ! 良一予約して!」

「おっけ!」

 ポケットからスマホを出すと、隣で蓮が、「湖畔でデート」と呟いた。

「楽しみ?」

 蓮は笑窪を作って、うんうんと嬉しそうに頷いた。

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