第6話・黄金の秋の贈り物

 ミチビキとタオシャンが頭を冷やすまで、フェリーチェはしばらく単独行動を行なうつもりだった。しかし、その目論見は容易く破壊された。第一層はフェリーチェの予想をはるかに上回る人数で溢れかえっていた。青色のローブを纏う一門弟子はおろか、前世界時代と様式が変わらないという一般的な衣服を着用した城下町の市民も多数見受けられる。


「あっ、フェリーチェ様! 失礼致しました!」

「これはこれは、フェリーチェ坊っちゃん!」


 泣く子も黙る五賢師第一翼の、その直弟子に気づいた一門弟子や市民が彼の前から後ずさり道を譲るが、すでに遅かった。フェリーチェの右肩に鋼鉄の手が置かれた。自分に一切の痛みをもたらさないそれは、耳にした通り完全に制御されているのだろう。


 フェリーチェが体ごと振り返ると、そこには若干だけ顔をしかめたミチビキと、大いに眉をひそめたタオシャンがいた。


「フェリーチェさん……無言で置いていかれると僕は少し悲しくなります……機械だってそういう気持ちになります……」

「ミチビキの言う通りだよー! ひどいよフェリーチェー!」


 フェリーチェは再度後方を振り返ったのち、ミチビキとタオシャンに視線を向けた。その後、瞳を閉じ、小さく頭を下げる。


「謝罪する。すまなかった」


 フェリーチェの謝罪には打算が含まれている。先ほどまでのふたりが催していた小さな興奮は鳴りを潜め、第一層はそれを掻き分けて進む事が難しいほどの人混みで溢れている。無理を通すよりも、妥協が効率的だ。それはミチビキが普段から口にしている信頼関係にも繋がっている。彼はそう判断した。


 フェリーチェが顔を上げ、瞼を開けた。そこには四つの手を横に振るミチビキと、笑みに戻ったタオシャンがいた。


「そんなにしっかり謝らなくていいですよ。僕はただ、フェリーチェさんと一緒にいたいだけです」

「そうそうー! みんな一緒の方が楽しいよー!」

「了解した。引き続きミチビキとタオシャンとの行動をともにする」


 フェリーチェは周囲を見渡した。第一層のメインエレベーター出入り口付近には一門弟子の居住寮や調理棟、作業棟などの生活空間が広がっている。出入り口はそれらを輪郭とした、T字路の中心の小さな広場だ。ここからは「主通路」と呼ばれる、第一層で最も広いアスファルト舗装の道が始まっており、「闘技場」を経由し、反対側の壁に存在するエレベーターまで一直線で繋がっている。


 累卵楼とその周辺地域、延いてはアラスカを除く北アメリカ大陸西海岸を統治する翼正会において、フェリーチェたち直弟子は五賢師や巨鳥に次ぐ地位を与えられている。貴人と表現しても過言ではない。自分たちの半径約2メートルほどは、この混雑とは隔絶された「穴」となった。「五賢師や巨鳥の直弟子に失礼を働いて、怒りを買いたくはない」と考えたであろう、一門弟子や城下町の民衆がそう動いたからだ。自分たちを中心とした「穴」の周辺から、「フェリーチェ様、ミチビキ様、タオシャン様、ごきげんよう」という一門弟子の丁寧な挨拶や、「あれが本物のハルクエンジン! かっこいい〜!」といった市民の子どもの無垢な感嘆が聞こえてくる。


 第一層のメインエレベーター出入り口には多くの人間が行き交っており、その隅には即席で建てられた屋台が点在していた。


「フリッシュ師匠様が帰ってくるなんて滅多にないぞー! しかも今回はお弟子様も一緒だー! その見物にうちの牛肉串焼きはいらんかねー!」

「喉が渇いているならー! ここに自家製コーラがあるよー! 一杯たったの50ミューズ(1ミューズ=約5セント)だよー!」


 それらを見渡すフェリーチェの左右に、ミチビキとタオシャンが並んだ。顔には笑みが浮かんでいる。


「ダニオさんが言っていた通り、すっかりお祭り騒ぎになりましたね」

「でもー、やっぱり楽しい方がいいよー」

「そうですね」


 累卵楼第一層が現在の状況になった経緯は簡単だ。小会議に参加したミリオンラブが直弟子の共同寮を訪れ、「ゴールデンサウンドとフリッシュの弟子の手合わせ」の予定を告げたように、第一層や城下町にもそれが開示された。


 翼正会の大魔術師と並行して城下町の劇団に所属するゴールデンサウンドは、直弟子のジェイドとともに、一門の師弟として市民からの人気が特に高い。加えて、フリッシュが累卵楼に戻る頻度は極めて低く、フェリーチェが物心を得てから約14年ほどの間、それは一度も起こらなかった。


 つまり、「劇団で屈指の人気女優と幻の巨鳥の弟子が繰り広げる手合わせ」は、変わり映えのない生活を営む者にとって刺激的な催し物となる。累卵楼内と城下町において、出店でみせ諾否だくひはクレールの一存で決まり、今回はそれが許されたようだ。城下町で飲食の店を構えている者たちの一部が、今は即席の屋台で商売を繰り広げている。


 翼正会、延いてはクレールの金銭事情は、自身の勢力下における経済的状況とほぼ同義だ。それが活気づいて循環するならば、為政者としては歓迎すべき事象だろう。そもそも、あの「死を招く黒い鳥」にその気があるのならば、商売をしていようが屋内の隅に身を潜めようが、残らず皆殺しだ。小会議の前に累卵楼へ到着したフリッシュと彼の弟子の態度を見たクレールが、その「商機」を見出したのだろう。


 単純な戦闘能力では、クレールでさえあのフリッシュに劣るというのが通説だ。しかし、何年も行方どころか生死さえ不明であったフリッシュと比べると、やはり五賢師第一翼は統治者の才がある。


「フェリーチェさん、タオシャンさん。せっかくですから、一緒に何か食べませんか?」


 ミチビキが、フェリーチェとタオシャンにそう提案した。ふたりはミチビキの顔を見つめる。


「俺に異論はない」

「僕は大賛成ー! 何を食べよー? ミチビキやフェリーチェは何か食べたいものあるー?」

「実は僕、一度もあれを食べた事がないんですよ。一緒に食べませんか?」

「嘘ー!? 食べた事ないのー!? じゃあ食べようよー!」

「了解した」


 タオシャンはもとより、フェリーチェもまた、ミチビキの告白に驚きを隠せず、わずかに目を丸くした。あれは累卵楼城下町の名物であり、それを扱う店が、フェリーチェが知る限りでは手の指の数を超える。それに加えて、ミチビキがサタンズクローの弟子として累卵楼で生活をともにするようになって、2年以上の月日が流れた。その間に一度もそれを口にした事がないのは、にわかには信じられなかった。


 しかし、考えを巡らせると、その理由が理解できる。ミチビキが普段から話す通り、直弟子に提供される食事は栄養を重視している。それを踏まえた上で、料理として外見を整えている。ハジュンが毎日淹れる本物のコーヒーのような、遠方からの取り寄せになる嗜好品は、月に一度の巨鳥による直弟子たちへの要望の聞き取りによって与えられる。ミチビキは毎月、フェリーチェには理解が難しい専門書やその類いが収録されたデジタルメディアなどを求める。加えて、「将来はきっとナルコスカル師匠の後継者になる」と揶揄されるほど城下町の書店や古道具屋などで好奇心を満たしているオスカーや、累卵楼港で監督業務の一部を任されているンシアやデリックなどと対照的に、ミチビキの生活は累卵楼の中でほぼ完結している。


 ミチビキを先頭にし、フェリーチェたちは一つの屋台に近づいた。その屋根には串焼きに似たものの絵が描かれているが、ひさがれているものは串焼きではない。串に刺さっている事は共通しているが、あれは料理ではなく菓子だ。


「失礼します、こんにちは」


 ミチビキの挨拶に対して、質素なデニムのエプロンを着た20歳前後と思しき若い女性の売り子は、朗らかな微笑みをこちらに向けた。ミチビキは威圧的な鋼鉄の鎧を着装しているのにもかかわらず、その女性が動じる様子は一切なかった。人混みの中で円形に距離を取る通行人と同じく、自分たちが誰なのかを重々理解しているのだろう。


「いらっしゃいませ! ミチビキ様! フェリーチェ様! タオシャン様!」

「これを三つお願いします。ひとり一つでいいですよね? フェリーチェさん、タオシャンさん」

「いいよー!」

「異論はない」


 振り返ったミチビキに対して、フェリーチェは静かに答えた。ミチビキの「鋼鉄の上の右手の、鋼鉄の人差し指」は、屋台の店頭に並べられた菓子を指している。


 それは、穀物の粉末を水を加えて丸め、茹で上げし、複数個を串に刺し、仕上げとして小豆を甘く煮詰めた練り物である「アンコ」を乗せたものである。前世界から続く一般的なアメリカ料理や菓子とは外見も味も異なるそれは、「オダンゴ」と呼ばれている。翼正会が本部を累卵楼に置いて以降、「常春の街の名物」として扱われていると耳にした経験がある。


 オダンゴは、旧日本国の伝統的な菓子に由来するらしい。それがなぜ海を越えて旧アメリカ西海岸の累卵楼まで伝来したのか、詳しい経緯は不明だ。一説によると、翼正会開祖である翼聖ハバキリオラクルが関係しているとされているが、その断定はあのナルコスカルでも保留にしている。例のごとく、クレールがこれに言及した事はない。


 また、かつての旧ロサンゼルスとは対照的に、累卵楼城下町とその周辺地域は水源的資源が豊富だ。ゆえに、それを活用した、MRC生物科学部門が品種改良した稲作や小豆の栽培が他の農業と並行して行なわれている。暦の上での秋になると麦に似た変色が生じる稲は、その季節には「黄金の秋」と呼ばれ、累卵楼一帯の風物詩として数えられる。


「毎度ありがとうございます! ですが、直弟子の皆様からお代を頂く事はできません! どうぞ差し上げますのでお召し上がりください!」


 笑みを浮かべ続ける売り子の女性に対して、タオシャンが目を輝かせた。


「えー!? タダでいいのー!? やったー!!」

「待て、タオシャン」


 フェリーチェはタオシャンの胸の前に右腕を伸ばし、即座に彼を制止した。そして、かすかに表情を険しくさせ、売り子を睨みつけた。彼女の笑みは苦笑に変わり、屋台の奥で作業をしている彼女の両親と思しき中年の男女は、無言でこちらを観察している。


『金は誰にとっても価値があり、だからこそ厄介だ。この先、俺のこの言葉をお前のその頭に刻み続けろ。本物の恥知らずどもは、金の為なら恥も外聞も捨てるぞ』


 それはフェリーチェが翼正会における会計の一員に任命された際に、師から賜った「金言」だ。実際にフェリーチェは会計補佐の鍛錬を通じて、クレールがこの言葉の終わりに漏らしたため息の理由が理解できた。


 意識的か無意識かにかかわらず、翼正会に恩を売って便宜を引き出そうとする者は、彼の想像以上に多かった。加えて、頭目であるクレールの代理として巨鳥たちが累卵楼一帯や支部へ目を光らせているが、フェリーチェが精査する帳簿やデータには、一部の翼正会一般魔術師や市民による隠蔽や改竄が見受けられる事がある。


 自分の師が贔屓にするのは、巨鳥と直弟子のみだ。それ以外の者に正当ではない理由で便宜を図る事は許されない。だからこそ、フェリーチェはタオシャンを制止したのだ。


「フェリーチェー、何するんだよー!?」

「静かにしろ」


 憤りを見せるタオシャンに対して、フェリーチェは短く静かに、それでも強く注意した。混乱には大小かかわらず「隙」が生まれる。それは悪事を企てる者にとっては好都合だ。眼前の屋台の者たちがそうであると判明したわけではないが、これ以降の彼女たちが口にする弁明によっては、直弟子としての務めの一つを果たさなければならない。


 翼聖会は、司法教会において彼らから神聖視されている改変を禁じられた聖典や、医療兵団の一つである「医療憲兵団」のような執行部門が存在しない。ここでは最低限の明文化された典書とそれを書き換える権限を持ったクレールが法であり、フリッシュ以外の巨鳥たちや直弟子が番人だ。


「フェリーチェさん。ここは、僕に任せてくれませんか?」


 フェリーチェへと視線を向けたミチビキが、穏やかな口調で問いかけてきた。フェリーチェは彼を見つめ返して無言で頷き、タオシャンの前に出した腕を下げた。ようやく状況を察したのか、タオシャンが口を挟む様子はない。


「ありがとうございます、フェリーチェさん」


 静かに礼を述べたミチビキは、売り子の女性へと向き直った。ミチビキは自身の胸に「上の右手」を当てた。


「その申し出には、心から感謝します。翼正会の弟子として城下町の方々に慕われるのは、最大の名誉の一つです。しかし、同時に僕たちは直弟子として修行の身であり、そこには金銭の自己管理が含まれます。特に、第一翼であるダイヤモンドクレール師匠は、それにとても厳しいお方です。それを理解して頂けますか?」


 ミチビキからの問いかけを受けて、売り子は目に涙を滲ませながら俯いた。


「あっ……は……はい……私、直弟子の皆様に差し出がましい真似を……」


 絞り出すように呟かれた謝罪に対して、ミチビキは四つの手を小さく横に振った。


「そんな事はありませんよ。そして、先ほどの申し出もお気持ちだけは喜んで頂戴します。もしもこの『オダンゴ』が美味しかったら、師匠や直弟子の皆さんにこれを紹介しますね。お店の名前を教えてくれませんか?」

「はっ、はい! 城下町北通りの『ガスコ菓子店』です!」


 ミチビキからの質問に対して、売り子は精一杯の笑顔を浮かべながら答えた。


「ありがとうございます。僕は機械ですから、一度言われた事は決して忘れません。そして、特に、師匠たちの宴会では、それに出す美味しい料理やお酒をいつも探しています。では、あらためて、オダンゴを三つお願いします」

「ありがとうございます! 1本30ミューズなので、合計で90ミューズです!」


 売り子からそう告げられたミチビキは、「下の左腕」に備え付けられた小物入れの蓋を開けると、そこから数枚の硬貨を取り出した。


「はい、これで丁度ですよね?」

「はい! たしかに頂戴しました!」


 女性から横向きで手渡されたオダンゴを、ミチビキは三つの手で受け取った。ミチビキは残った「上の右手」を差し出した。


「ありがとうございます。今度は、宴会の幹事に選ばれた師匠からお声がけがあるかもしれません」

「ありがとうございます! ぜひよろしくお願いします!」


 売り子はミチビキの鋼の右手を両手で握り返した。屋台の奥では、両親と思しき男女が作業帽を脱ぎ、それを胸に当てていた。そこには、ダイヤモンドクレールの直弟子としてフェリーチェが口出しすべきものは消えていた。


「はいどうぞ、フェリーチェさん、タオシャンさん。それじゃあ、行きましょうか」

「ああ」

「うんー!」


 振り返ったミチビキからオダンゴを横向きのまま受け取ったフェリーチェは、ミチビキとタオシャンとともに「主通路」に向かって横一列に歩き出した。フェリーチェから見て左側のタオシャンは早速、串に刺さったオダンゴのひと玉を、そこに乗ったアンコとともに頬張った。


「ほのオハンゴほっへもおひしいよー!」

「タオシャン、口に食べ物を入れながらの発話は行儀が悪い」


 フェリーチェに注意されながら、振り返ったタオシャンは屋台に向かって大きく手を振った。同様にフェリーチェも振り返ると、売り子は同じ仕草で答えていた。ひと段落といったところだろうか。


「タオシャンさんの言う通り、とっても美味しいオダンゴです。僕は初めてですけど」


 その声で、フェリーチェは自分から見て右側のミチビキを見た。ミチビキのオダンゴも串に刺さった玉が一つ消えていた。


「…………」

「フェリーチェさん、僕がどうかしましたか?」

「ミチビキ、見事だった」


 フェリーチェは素直に、自身の胸の内で湧き上がった感想を口にした。ミチビキが一同に見せた一連の発言と所作は、翼正会と菓子屋の両者を「立てた」上で、直弟子として言うべき事を伝えていた。アズールスピードなどが自分へと語る「カタブツすぎる」とは、こういった話術や手順の欠如なのだろう。


「ありがとうございます。フェリーチェさんも、もっと僕に柔らかく話しかけてもいいんですよ?」

「努力はする」


 ウインクを伴ったミチビキの茶目っ気に、フェリーチェは短く返答した。自分は物心を得た時から翼正会に属し、その頭領であるダイヤモンドクレールの意思を注がれて生きてきた。自分の言葉はクレールが許したものであり、自分の心はクレールが育んだものである。


 そこから逸脱する事が、自分にできるのだろうか。フェリーチェには分からない。


「だったら僕は、フェリーチェさんのおそばで、フェリーチェさんが健やかに生きていける手助けを努力します。僕のハルクエンジンは、その為の力の一つです」


 そう言って、ミチビキがフェリーチェに笑いかけた。だが、フェリーチェから見て、その笑顔にはかすかな憂いが見て取れた。


 ミチビキもまた、秘密を抱えている。だが、この言葉はおそらく本心だろう。フェリーチェは分からない。なぜ自分が、ミチビキにここまでの好意を寄せられるのか。


 その時だった。オダンゴの玉が消失した事により露出した串の先端数センチをミチビキは音を立てて噛みちぎり、すり潰すように咀嚼し、そして飲み込んだ。フェリーチェも、タオシャンも、その驚愕の光景に絶句する事しかできなかった。


「ここは比較的硬いし、味覚機能があまり反応しません。この柔らかい玉と一緒に食べるものなのでしょうか?」


 ミチビキは首を傾げてふたりに質問する。それに対して、フェリーチェよりも先にタオシャンが言葉を取り戻した。


「ミ、ミチビキー! その串は食べないんだよー! 食べるのは串に刺さったオダンゴだけなんだよー!」


 叫ぶようにミチビキへと答えるタオシャンは、自身が持つオダンゴの玉を指で示した。ミチビキはというと、「下の両手」の手のひらを合わせて屈託のない笑みを浮かべた。


「なるほど、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。僕の歯はMRCで換装してもらった、表面にコーティング加工が施されたオスミリジウム系超硬合金製です。それに、僕に搭載されている特殊異化エネルギー炉は、どんな物質でも僕の動力エネルギーに変換する事ができます。究極的に言えば、全ての物質は粒子と波動の性質をあわせ持ち、エネルギーに変換可能です。そもそも、物質はエネルギーの形態の一つですから。これは現在の魔法科学における物理学や熱力学、化学などでも証明され、その基礎として扱われています」

「でも串まで食べるのは基礎じゃないよー!? そんなのビックリしちゃうよー!?」


 慌て続けながら食い下がるタオシャンに向けたミチビキの笑みが、己の無知を恥じ入るものに変わった。


「……覚えておきます」


 それを目の当たりにしたフェリーチェは、彼に対してわずかに可愛さを覚えた。





※「オスミリジウム」とは、オスミウムやイリジウムを主とした合金である。作中に登場した「オスミリジウム系超硬合金」は架空の物質だが、オスミリジウム自体は実在する。耐食性(腐食しにくい)や耐摩耗性(すり減りにくい)に優れた合金であるが、「オスミウムもイリジウムもプラチナと同列に扱われる貴金属である事」と、「耐摩耗性がダイヤモンドやサファイヤに劣る事(レコード針などで競合した末に負けた)」という二つの理由の為、オスミリジウムを材料とする物は一部の高級嗜好品などに限られる。

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