第3話・回収されたストレージの音声ログ3「『剣』の巨鳥と小さなカナリアたち」

 共同寝室ドームはその名の通り、直弟子を見守る当番である巨鳥の師匠と、希望者である直弟子が一晩をともにする寝室です。もちろん、当時の直弟子は全て未成年者かそれを模したものであった為、師匠たちは頭目であるダイヤモンドクレール師匠から「弟子に夜伽をせがむ恥知らずなど、この累卵楼にはいないよな? 特に、俺のフェリーチェに唾をつけようなんて考えている輩は」と遠回しに言いつけられていました。


 共同寝室ドームの内部は、直弟子の鍛錬や余暇として使用されるバスケットボールコートで例えると約二つ分の面積を有します。中央に巨鳥の師匠でも十分にその翼と体を休める事が可能である巨大なベッドが設けられ、壁の周りには部屋そのものに備え付けられた栽培スペースから、様々な草木が生い茂り、一部は花を咲かせています。それらの維持や管理も直弟子の仕事であり、ここは一種の植物園でもあります。


 天井は高く、直立姿勢では体高10.11メートルの、巨鳥の中で最も背が高い大ツルのプリズンロック師匠でもそれが可能です。ドーム状の屋根は師匠たちが出入りできるように開閉式であり、周囲の天候や明暗に合わせて構成材である特殊樹脂の透明度が自動的に変わります。接続された電子機器による手動調節も可能です。これは累卵楼外壁と同じ材質であり、同じ技術です。


 中央のベッドには、グアンダオストーム師匠が一般的な大きさのカナリアたちに群がられ、ベッドに背中と翼を預け、長く細い首をもたげ、首と同じく長く細い両足を天井に向かってVの字に広げ、顔は満面の笑みでした。もしもグアンダオストーム師匠が五賢師でなければ、もしもダイヤモンドクレール師匠に見つかったのなら「この恥知らずの痴れ者が!」と怒鳴られるほどの光景でした。しかし、今回がグアンダオストーム師匠にとって初めての夜当番でしたが、私には見慣れたと表現しても過言ではないものでした。


 翼正会に属する巨鳥の師匠たちの序列の中で、上位五羽は「五賢師」と呼ばれ、組織内で特に大きい権力を有します。グアンダオストーム師匠はその「第三翼」で、良くも悪くも享楽主義的な性格で直弟子たちから慕われています。しかし、巨鳥の中では比較的小柄な体高3.85メートルの黒い大サギの体に秘めた実力と、「一撃で息の根を止める、不可視の黒刀」の異名は、翼正会の内外かかわらず畏怖の対象です。


「アハッ! アハッ! もっと俺のホッペにチューしてください! ほら! レフくんとマリウスくんも! ロジェくんやリベルトくんみたいにもっと積極的になってください! アハッ! クチバシで噛み砕いて食べたり絶対しませんから! きみたちからチューされたくて俺から『おあずけ』されたタオシャンくんがこんなに震えてるんですよ! アハッ!」


 ベッドの外周にはカナリアたちの為の、細い金属製の止まり木がベッドを囲むように円の形で設けられています。その一角で黄色のカナリアと灰色のカナリアが、隣り合って止まり木を掴んでいました。そして、グアンダオストーム師匠からそう催促された黄色のカナリアと灰色のカナリアは、師匠に対してそれぞれ顔を左右に向けました。その小鳥としての小さな体は、小刻みに震えています。


 満面の笑みを浮かべるグアンダオストーム師匠の左右の横顔には、師匠の頬の毛並みを足で掴んで羽ばたきながら、何度も自身の嘴を擦りつけている白のカナリアとオレンジ色のカナリアがいます。白のカナリアとオレンジのカアリアからは、吐息のような短い鳴き声が何度も漏れています。


 グアンダオストーム師匠は、何本かの跳ね毛が伸びる後ろ頭を横に縁取るような形状を持つ特注の戦闘用特殊集音骨伝導イヤホンを身につけており、金色のそれは黒一色の羽根色である師匠のアクセントの一つになっています。そして、そこにはピンクのカナリアが止まっており、黄色のカナリアと灰色のカナリアを睨みつけていました。ピンクのカナリアの嘴から、唸り声に似た低く長い鳴き声が響いています。


「アハッ! 正直に言ったらきみたち全員スキンシップとして他の巨鳥たちとこういう事してるんでしょう? レフくん! マリウスくん! アズールスピードにもネクロクラウンにも俺との事は言ったり絶対しません! アハッ! だからほら! 俺に思いっきりチューしてください!」


 その言葉で、レフさんとマリウスさんが、それからタオシャンさんが限界を迎えました。合計5羽のカナリアたちから顔に向けて一斉に群がられ、グアンダオストームストーム師匠は首をベッドに預け、長く細い大サギの足を何度もベッドに打ちつけました。


「ギャハハ! みんなその調子です! みんなもっと俺のホッペにチューをして幸せになってください! それは俺にとっても幸せです! ギャハハ! カナリアくんたちは俺たち師匠たちの大切な赤ちゃん同然です! 赤ちゃんたちは赤ちゃんらしくもっと俺に甘えるべきです!」


 私は共同寝室ドームの中を進み、ベッドから伸びたグアンダオストーム師匠の嘴の手前で片膝を床に着けてしゃがみました。レフさんもマリウスさんもロジェさんもリベルトさんもタオシャンさんも、直弟子として、カナリアとして、師匠の横顔に甘えきっています。五羽の嘴から、喜びに溢れた鳴き声が何度も上がっています。


 直弟子たちは巨鳥となる下準備として、直弟子として師匠たちのもとにつく期間は普通のカナリアに変身する時があります。変身するタイミングと変身を解くタイミングは、基本的に直弟子の任意とされていますが、師匠たちの誰かから命じられた時は必ずカナリアに変身しなければなりません。それを拒否する事が許されているのは直弟子の中で例外的である、私と、ハジュンさんと、レインメイカーさん。そして、この日に初めて累卵楼を訪れ、一門の全員にその名を知らしめる「彼」だけです。


 カナリアとしての直弟子たちの羽根の色は、基本的に髪の色に左右されます。生まれ持った金髪のレフさんは黄色のカナリア、グレーに髪を染めているマリウスさんは灰色のカナリア、当時の私に似たプラチナ色に髪を染めたロジェさんは白のカナリア、橙色に染めた髪のリベルトさんはオレンジ色のカナリア、桃色の染め髪がチャームポイントのタオシャンさんはピンク色のカナリアです。ちなみに、生まれつき赤毛のフェリーチェさんは赤いカナリアに変身し、当時の私はその愛らしい姿の彼にも恋慕を募らせていました。


 喉を天井に向けるグアンダオストーム師匠と、私は目を合わせました。その師匠の横顔には、レフさんもマリウスさんもロジェさんもリベルトさんもタオシャンさんも、カナリアとして一心不乱に広義の師弟愛を繰り広げています。


「お楽しみのところ失礼します、グアンダオストーム師匠。もうすぐ朝食の支度が完了します。すでに寮の外へ食器を並べたテーブルや椅子を準備しています。料理も到着しているはずです」

「アハッ! 俺が外を選ぶってよく分かりました! さすがはサタンズクローの直弟子です!」


 師匠たちの夜当番は起床までですが、中には朝食まで直弟子たちと行動をともにする事を希望する師匠もいます。そういった場合の為に、折り畳み式のテーブルと椅子が物置に保管されています。巨鳥の体では食堂に入る事が不可能なので、直弟子が寮の屋外で食事をします。


「僕の判断だけではありません。フェリーチェさんとハジュンさんも同様です」

「アハッ! なるほど! さすがはダイヤモンドクレール様とアイゼンフォーゲル様の直弟子です! ところで、ミチビキくん」

「はい。グアンダオストーム師匠、なんでしょうか?」

「カナリアにならなくていいから、ミチビキくんも俺のホッペにチューしてくれませんか? きみも俺の、俺たちの赤ちゃんです」

「恐縮ですがグアンダオストーム師匠、僕にはそういったご要望にもお断りさせて頂く権利を与えられました」

「アハッ! つれないです! みんな、朝ご飯にしましょう! アハッ!」


 そう言いながら、グアンダオストーム師匠は立ち上がりました。カナリアたちは大サギの師匠から名残惜しそうに離れて、ベッドの止まり木に掴まりました。私は部屋の壁の一角に備え付けられたパネルの前に移動し、ボタンを操作しました。それによって屋根の開放が始まりました。


「朝ご飯の前に、カナリアとしてしっかり体を洗う事! 人間としてしっかり手を洗う事! しっかり守ってください、赤ちゃんたち!」


 カナリアの直弟子たちが、カナリアの鳴き声で返事をしました。私はパネルからほど近い水栓に移動して、その水受けの排水口に蓋をした上で少しだけ水を出しました。五羽の小鳥たちが一斉にそこへ飛来し、カナリアの足の深さほどの水溜りで懸命に水浴びを始めました。


「そういえば、ミチビキくん」

「はい。グアンダオストーム師匠、なんでしょうか?」


 そう言いながら、私はグアンダオストーム師匠の顔を見上げました。徐々に開いていく屋根の下で師匠は、嘴を羽で隠しながら金色の瞳を三日月のごとくにやつかせて私を見下していました。まさにそれは、「不可視の黒刀」の本性でした。


「サタンズクローから聞きました。きみはここの師匠たちと手合わせを望んでいるらしいと。序列が一番下のネクロクラウンから始めてプリズンロックまで。そして、プリズンロックに勝てたら俺たち五賢師にも挑戦すると」

「はい、仰る通りです。ダイヤモンドクレール師匠から正式に許可を頂いたら、始めさせて頂くつもりです」

「クローがMRCにわざわざ新造させたきみ専用のハルクエンジン。あれはきみに絶大な魔力をたしかに与えるはずです。ですが、普通の巨鳥はまだしも、俺たち五賢師は強いですよ? しかもきみの師匠であるクローとどうせ累卵楼に戻ってこないフリッシュが省かれるので、五賢師との手合わせは俺から始める事になるはずです。雛鳥どころか卵同然のきみにその覚悟はありますか?」


 グアンダオストーム師匠が私に放った殺気を感じて、驚いたカナリアたちが一斉に師匠を見上げました。私に明確な挑発を向けていたグアンダオストーム師匠の顔が一瞬で満面の笑みに戻りました。


「アハッ! カナリアくんたちをビックリさせてしまいました! それでは俺は先に行きます! アハッ!」


 そう言い残すと、グアンダオストーム師匠は第二層の空へと羽ばたいていきました。


「さあ、皆さん。これで体を拭いてください」


 私は水受けの隣に置かれた、木に似せた合成樹脂の編みカゴからタオルを一枚手に取り、それを床に敷きました。カナリアたちは敷かれたタオルに体を擦りつけ始めました。私はしゃがんでその手助けをしながら、横目でパネルを見つめました。カナリアの彼らは気づいていなかったようですが、パネルの横の壁には嘴による小さな打撃痕があります。それは全くの無音で、瞬時に行なわれました。


 人間の眼球を模した私のカメラアイは、それが避ける必要はない挑発の一環という事だけは理解できました。しかし、実際にグアンダオストーム師匠や他の師匠たちと手合わせするとなると、ハルクエンジンがもたらすセンサー感度向上と防御性能向上と物理運動出力向上と魔力生成の必要は確実でした。


 その手合わせの結果はのちに語るとして、今はこの日の続きを述べます。


「皆さん、朝食にしましょう」


 私がそのように言葉を投げかけると、五羽のカナリアたちは眩い閃光に包まれたのち、五人の人間に戻りました。髪はかすかに湿っていましたが、全員が藍色のローブをはじめとした人間の衣服を着用している人間の姿です。


「ミチビキー! ありがとー! あのねー! カナリアとしてお師匠さまと楽しむってすっごい楽しいんだよー! ミチビキも見てたでしょー! しかもストームお師匠さまとは初めてだったからー! いっぱいチューしちゃったー!」


 私の両手を自身のそれらで握ったタオシャンさんが、私の手を上下に振りながら屈託のない笑みを浮かべて喜びをあらわにしました。その動きに合わせて、タオシャンさんの顔を彩る桃色で巻き毛のショートボブが揺れました。


 タオシャンさんは「彼」が来るまで、ジェイドさんとともに当時の直弟子の最年少である13歳で、愛嬌のある笑顔と性格で師匠たちや直弟子仲間から可愛がられています。タオシャンさん以外の四人は、わずかに顔を紅潮させて俯きながら私から視線を逸らしました。


「それはよかったです。タオシャンさん、ごめんなさい。せっかく手を握ってもらったところですが、グアンダオストーム師匠の言いつけを守る為、手を洗いますね」

「全然いいよー! 僕だって今から手を洗うからー!」


 それから、私たちは手洗いを行なったのちに共同寝室ルームを出て、脱衣所のカゴへ使用済みのタオルを入れてから、寮の外に足を運びました。時刻は6時17分でした。


「ごめんなさい、フェリーチェさん、ハジュンさん、レインメイカーさん。皆さんだけで準備をさせてしまいました」


 そう言いながら、私はフェリーチェさんの向かい側、他にハジュンさんとレインメイカーさんが囲むテーブルにつきました。私が共同寝室ドームに向かう前は食器だけだったテーブルの上には、焼きたてのパンや新鮮な野菜、香辛料の粉末がかけられたベーコンなどが皿の上に盛りつけられています。一般的なプラスチックのコップには牛乳が注がれています。もちろん、翼正会では卵料理や鳥肉は絶対の禁忌です。


 6時0分から5分以内に第二層の寮へ直弟子たちの朝食を届ける事が、一門弟子に課せられた鍛錬の一つです。昼食や夕食も同様です。もう一つの鍛錬は、今頃第一層の広場で師匠たちが味わっているはずです。


 私はグアンダオストーム師匠を窺いました。一羽で一つのテーブルを使う師匠の前には、鍋敷きに置かれた大鍋があります。鍋の中は湯気がのぼる、大魚の姿煮が入った香草のスープでした。巨鳥の師匠は一羽ごとに好みが異なる為、一門弟子はそれに合わせた料理を一羽につき一つ以上調理する必要があります。もちろん、師匠たちは一般的な鳥類とは一線を画すので、動植物が持つ毒には生物の中で屈指の耐毒性を持つ人間以上の強さがあります。


「問題はなかった。あれからすぐにンシアとデリックが到着した」

「そうだったんですね。ンシアさん、デリックさん、ありがとうございました!」


 フェリーチェさんの返答を受けて、私は椅子から腰を浮かせて、二人に礼を述べました。私たちとは別のテーブルを囲っているンシアさんとデリックさんが手を挙げてそれに答えました。


 ンシアさんは五賢師の第二翼であるエターナルキャリバー師匠の直弟子です。一年ほど前から旧ロサンゼルス港、現在は「累卵楼港」と呼ばれている場所で、18歳の若さで師匠から現場指揮の一部を任されています。また、デリックさんは一つ歳下の17歳であり、グアンダオストーム師匠の直弟子です。良くも悪くも放任主義的な師匠の育成方針により、ンシアさんの仕事の補佐を自発的に行なって自己鍛錬としています。港の朝は早く、ンシアさんとデリックさんは午前2時には累卵楼を出発するか、あるいは港に宿泊しています。今朝はあらかじめ、ふたりが早朝に寮へ帰ってくる事を知らされていました。


「アハッ! 全員揃った事ですし朝ご飯にしましょう! 挨拶は、ミチビキくんにお願いします! アハッ!」

「承知しました、グアンダオストーム師匠」


 先ほどの一件を周囲に悟られないようにする為に、私は朗らかな微笑みを作りながら師匠に返答しました。直弟子たちの軽い雑談が止まり、静寂が訪れました。それから私は、両手をそれぞれの膝に置き、小さく頭を下げました。


今日こんにちを築いた『翼聖様よくせいさま』と、地の者たちと水の者たちへ感謝を込めて」


 私の姿勢と言葉に対して、他の直弟子たちも続きました。そして、ナイフやフォークを持つ金属音が鳴り響き、朝食の時間が始まりました。今日はグアンダオストーム師匠がいるので、直弟子たちだけで食堂で行なうそれよりも一際賑やかです。


「フェリーチェさん、野菜もしっかり食べてくださいね。野菜には人体に必要な栄養素が多分に含まれています。巨鳥を目指す上で、効率的な体作りの助けになります」

「…………了解した」

「ねー? ロジェー? なんでさっきからずっと無口なのー?」

「ンシア、港では時間がなくて聞けなかったが、一つ分からないところがあるんだがいいか?」

「……………………」

「……もっとしっかり食べた方がいいよ、レインメイカー。レインメイカーの顔色は、いつもあまり健康に見えない」

「アハッ! リベルトくん! 顔がまだちょっと赤いです! 俺と寝起きするのはそんなに楽しかったようですね!」

「グ、グアンダオストーム師匠! お、俺の肌の赤みが多いのはもとからで!」

「フェリーチェさん、野菜もしっかり噛んで食べてくださいね。十分な咀嚼は、人体の健康維持と効率的な栄養素摂取に繋がります」

「………………了解した」


 私はふと、累卵楼第二層の空を見上げました。累卵楼内部にはエレベーターの他に、第二層と第三層の中心に円形の巨大シャッターが存在しており、落下防止の柵に囲まれたそれらは常に開放されています。巨鳥の師匠がわざわざ出入り用大型スライド扉を開き累卵楼外部に出て、もう一度それをくぐり内部に進入する手間を省く為です。


 そして、ここからは第二層の天井と第三層の床に阻まれて目視が不可能ですが、第三層の天井中心部から吊るされたダイヤモンドクレール師匠の私室には、そこからさらに吊るされた巨大な深い藍色の宝珠が存在します。体を丸めた大トキの意匠を持つそれは、翼正会の開祖であり「翼聖」の称号を持つハバキリオラクルが、他界する際に変じたものであるという伝承があります。直弟子が巨鳥へと変貌する際には、一門の祈りに反応して魔力を放ちながら輝く「翼正会の宝珠」の、その光を浴びる必要があります。


 その一連の真相にも、のちに触れます。話を続けます。


「デリック、理解できたか?」

「ああ、大丈夫だ。やっぱりンシアの説明は分かりやすいな」

「そういえば、フェリーチェさん。オスカーさんについて何か知っていますか? 今日の食事はいらないという書き置きがあった事は聞いていますが」

「俺にその情報はない」

「オスカーならここに戻る途中で城下町で見た! また城下町で調べ物だそうだ! 元気そうだったから心配いらない!」

「なるほど! デリックさん、ありがとうございます!」

「ジェイドはまだゴールデンサウンド師匠と舞台の稽古?」

「ああ、公演前のいつもの事だ」

「あー! 分かったー! ロジェ、お師匠さまたちからもっとカナリアとして可愛がってもらいたくてウズウズしてるんだー! クレールお師匠さまからもっと『おちりハミハミ』されたくて、キャリバーお師匠さまからもっと『体わしづかみモチモチ』されたくて、ストームお師匠さまにもっと『いっぱいチューチュー』したくて、サウンドお師匠さまに『おむねフワフワ』したくて、アズールお師匠さまで『おばねピョンピョン』したくて、他のお師匠さまともいっぱいイチャイチャしたいんだー!」

「タ、タオシャン……! いいかげん静かにしろ……!」

「アハッ! タオシャンくん! クレール様の『おちりハミハミ』ってなんですか? アハッ!」

「ストームお師匠さまー! 『おちりハミハミ』はロジェが一番大好きなイチャイチャでー!」

「グアンダオストーム師匠! なんでもありません! なんでもありませんから!」


 グアンダオストーム師匠へ真っ赤に紅潮した顔を向けて両手を振るロジェさんを見つめる直弟子たちから、大小様々な笑い声が起こりました。それでも、フェリーチェさんと、フェリーチェさんの隣のレインメイカーさんだけは無表情のままでした。「フェリーチェさんが笑うところを見てみたい」、あの頃の私の本望はそれでした。


 そして、この世界の闇の深さを知らない、愚か極まりない当時の私の象徴でもありました。

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