第6話

久美が空気を壊すようにわざとらしい咳をする。

「ごっほん。そういえば、はじめ君はどこの学校を受けるの?」

「あぁ・・・。最初は自衛隊の学校を受けようと思ったんだけど、両親から猛反対されてね」

「自衛隊に高校なんてあるんだ・・・」

「正確には高校じゃないんだけどね。でもそこは陸曹を教育する場所だから・・・。自衛官を目指すなら将官を目指せって怒られたんだ」

「自衛隊について詳しくないんだけどそんなに違うものなの?」

「うん。かなり大きな差だと思う」

「そっか・・・。それで、結局どこを受験するの?」

「帝国高校に進学しようと思ってる」

「帝国高校かぁ。名門だね」

今通ってる学校も有名校だが帝国高校には敵わない。

帝国高校は歴史もある学校で将来、国の為に働く人材を育てることに特化した学校だ。

「それで、なんとかなりそうなの?」

「今のままだと厳しいかな」

そう言って、はじめ君は苦笑いしている。

「じゃぁ。楓の出番だね」

「えっ?私・・・?」

「何てったって楓は入学時からの優等生だからね」

楓は入学してからずっとテストでは学年1位の座を守ってきた。

勉強の出来る女なのだ。

「金敷さんが教えてくれたらすごい助かるよ」

そう言ってはじめ君は期待するような目をしている。

「えっと・・・。私に教えられるかな?」

「大丈夫だって。自信持ちなよ」

「うん。頑張ってみる」

「それで、何が苦手なの?」

「数学と英語が全然だめでさ・・・」

はじめ君はそう情けなそうに言う。

「う〜ん。どっちも普段からの積み重ねが大事な教科だね」

「そうなんだ。どうも暗記が苦手でね」

「ちょっと待ってね」

私は鞄から参考書を取り出す。

暗記が苦手な人向けのアドバイスがどっかに書いてあったはずだ。

「ええっと・・・。ここじゃなくて・・・」

私はペラペラとページを捲る。

「あった・・・。数学の方はとにかく公式を覚えること。後は問題を何度も解くだって。英語の方は単語を覚えるしかないかな?」

「それって、全然アドバイスになってないよ?」

「そうだね・・・。いくつか問題を出してみるから解いてみて」

「うん。わかった」

私はノートにさらさらと問題を書いていく。

まずは数学からだ。

「出来た。とりあえずこれやってて。その間に英語の問題作るから」

そう言って、はじめ君にノートを渡す。

私は別のノートを取り出して英語の問題を作る。

久美の方を見れば何やらにやにやしている。

「久美?どうしたの?」

「なんでもないよ。気にしないで」

そう言いながらも久美はずっとにやにやしていた。

後で聞きだすとして今は問題を作ることに集中しないと。

英語の問題を書き終わったがはじめ君はまだ数学の問題を解いていた。

真剣に問題を解いているはじめ君の横顔を盗み見る。

しばらくぼっ〜と眺めているとはじめ君が問題を解き終わったのか顔を上げる。

「ごめん。待たせちゃったかな?」

「ううん。気にしないで。これ、英語の問題」

「ありがとう」

数学のノートを回収して丸つけをする。

苦手と言っていただけあり結構な数が間違えている。

計算間違いというよりは使う公式がよくわかっていない感じだ。

対策としては1つ1つ公式を暗記して例題を繰り返すしかないだろう。

「はじめ君。ちょっと数学の教科書借りるね?」

「うん。どうぞ」

はじめ君から教科書を借りて覚えるべき公式の載っているページに付箋を貼っていく。

それが終わったら参考書の中から優しめの例題を書き写す。

はじめ君の方を見れば問題を解き終わったようだ。

「とりあえず採点しちゃうね。少し休んでて」

「手間を取らせちゃってごめんね」

「気にしないで。好きでやってることだから」

英語のノートを受け取って丸つけをする。

英語の方はスペル間違いが目立つ感じだ。

「ええっと・・・。数学の方は覚える公式のところに付箋を貼って置いたからそれを覚えてね」

「うん・・・」

「後は簡単な例題を書いておいたから何度も解くこと」

「わかったよ」

「英語の方はスペルが間違ってるから気を付けてね」

「先生にも同じこと言われたなぁ」

「少し待ってて」

私は鞄の中から以前使っていた単語帳を取り出す。

「私が前に使ってたやつだけどよかったら使って」

「いいの?」

「うん。私はもう覚えたから」

「ありがとう。助かるよ」

「他の教科は大丈夫?」

「うん。大丈夫だと思う」

「お二人さん。いい感じだねぇ」

久美がそう言ってちゃかしてくる。

確かにこの数時間でずいぶんと打ち解けた気がする。

でも、それを認めるのはなんだかしゃくで必殺の言葉をぶつける。

「もう。そんなこと言ってると教えてあげないよ」

「そんな〜、お大臣様〜。謝りますからそれだけは〜」

「ふふ。二人は本当に仲がいいんだね」

ふざけあう私達を見てはじめ君がそう言う。

「付き合いが長いからね」

「二人がちょっと羨ましいな」

「そう?人気者だからこういう関係の人が普通にいると思ってたけど」

「確かに誰かしらと一緒にいるけど何でも言い合えるような仲の人はいないんだよ」

「そうだったんだ・・・」

はじめ君の意外な一面を見た気がした。

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