第4話

次の停車駅で楓と久美は電車を降りた。

その後ろには国光と犯人が続いて降りてくる。

犯人は逃げ出そうと無駄な抵抗をしていたが国光ががっしりと捕まえている。

異常に気づいた駅員が近寄ってくる。

「何かありましたか?」

「痴漢です」

国光がそう告げると駅員の態度が一変する。

「すぐに警察に連絡します」

騒ぎを聞き付けた他の駅員も集まってくる。

犯人が「違うんだ。私は何もしていない」と最後まで主張していたがそれを聞く人は誰もいなかった。

連絡を受けた警察官がすぐにやってくる。

「被害者の方は?」

「この子です」

まだ恐怖で震えている私の代わりに久美が答える。

「可愛そうに。状況を聞きたいので少し付き合ってください」

やってきた警察官は優しくそう言ってくれた。

「ここではあれなので移動しましょう」

「はい・・・」

駅員室に移動する間も犯人は「冤罪だ」とか「私は被害者なんだ」とか言っていた。

私と久美、久美の護衛役である国光と呼ばれた男性は犯人とは違う部屋に案内された。

「すみません。学校に連絡しても?」

久美は担当している警察官にそう聞く。

「構いませんよ」

久美がスマフォを取り出して学校に連絡をはじめる。

「もしもし。3年A組の畠中です。富沢先生はいらっしゃいますか?」

富沢先生はベテランの優しい先生だ。

私達の担任の先生でもある。

「富沢先生。金敷さんが痴漢にあいまして。事情聴取で遅れます」

久美が2、3会話を続けている。

今だ恐怖心に囚われている私と違い落ち着いている。

その姿は私に安心感を与えてくれた。

「はい。わかりました。金敷さんにも伝えます」

久美が通話を終えて近づいてくる。

「富沢先生なんだって?」

「無理しなくていいからゆっくりきなさいって」

「うん・・・」

警察官の人が申し訳なさそうに語りかけてくる。

「もういいかな?辛いと思うけど状況を確認させてもらってもいいかな?」

「はい・・・。最初は何かあたったかな?という程度でした」

「それで?」

「でも、その後、何度もあたるようになって痴漢にあっていると思ったんです」

「なるほど・・・」

「恐怖で身動きをとれなかった私をそちらの方が助けてくれたんです」

「そうだったんですね。失礼ですがなぜ、こちらの方が痴漢にあっているのを気づいたんですか?」

国光は言いにくそうにしている。

所属がヤクザなのだ。

警察との相性はよくないだろう。

「彼は私の護衛よ」

久美がはっきりとそう口に出す。

「お嬢・・・」

「護衛・・・?」

「私は畠中組の1人娘だからね」

久美がそう言うと警察官の顔が強ばった。

畠中組は規模の大きな組織だ。

警察としても無視できない存在だ。

「なるほど・・・。状況はわかりました。ご協力ありがとうございます」

とはいえ、今回は犯罪者の検挙に協力したのだ。

何かされるということはなかった。

「すみませんが書類を作成しますのでしばらくお待ちください」

事情聴取はすんなり終わったのだがそこからが長かった。

警察官の人は申し訳なさそうにしていたが警察組織もお役所仕事ということで書類がどうしても必要なのだという。

国光さんはその間にどこから電話をかけていた。

全て終わったときにはかなりの時間が経っていた。

「お嬢。車を手配したので今日は乗って行ってください」

「ありがとう。楓。行こ」

駅を出ると黒塗りのいかにもお高そうな車が止まっていた。

久美は当たり前にように車に近寄る。

「お待ちしてました」

運転手は楓も何度か久美の家で見たことのある人だった。

後部座席を開いてくれたので久美と共に車に乗り込む。

シートベルトをしたのを確認して車がゆっくりと動き出した。

「はぁ・・・。この様子じゃ午前の授業は間に合わないわね」

「そうだね・・・。迷惑かけちゃってごめんね」

「もう。楓は悪くないでしょ?」

そこに運転手の人が話しかけてくる。

「お嬢達さえいいなら、毎日送り迎えしますが?」

電車通学をしていたのはできるだけ普通の生活を送りたいという楓と久美のわがままだった。

「どうする?」

「久美はいいの?」

「親友に嫌な思いさせてまで貫き通すようなことじゃないからね」

正直、電車に乗るのが少し怖くなっていた。

この申し出はありがたい。

「すみません。お願いします」

「わかりました」

手間をかけさせるが運転手の男性は嫌な顔1つしなかった。

車は何のトラブルもなく学校に到着した。

校門の前に止まると運転手の男性はドアを開けてくれる。

「いってらっしゃいませ。放課後また迎えにまいります」

「うん。お願いね」

楓と久美は靴を履き替えるとまずは職員室を目指した。

ノックをして職員室の中にはいる。

今は他の生徒は4現目の授業を受けている時間だ。

職員室にはパソコンを操作している富沢先生がいた。

「富沢先生」

「よかった。無事に到着しましたね。ここではなんですから移動しましょう」

富沢先生が案内してくれたのは生徒指導室だった。

「まずはこれでも飲んで落ち着いてください」

そう言って渡してくれたのは紙コップに入った珈琲だった。

「いいんですか?」

「他の人には内緒ですよ」

そう言って富沢先生は笑って見せる。

「とにかく大変でしたね。何か困っていることとかはありませんか?」

本当に心配そうな顔をして富沢先生がそう聞いてくる。

「しばらくは電車を避けてうちの人に車で送り迎えしてもらおうと思っています」

「そうですか・・・。それもいいでしょう。過去には電車が怖くて不登校になった生徒もいます」

富沢先生は否定せず車登校を認めてくれた。

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