第3話
私は将来、どんな人になりたいのだろうか?
考えてみるがわからない。
レインで久美に聞いてみる。
「久美は将来なりたいものってある?」
「なぁに?急に・・・」
「はじめ君になんで外部受験するか聞いたの。そしたら、なりたいものができたんだって」
「ふぅ〜ん。そうなんだ。でも、なりたいものねぇ。急に言われてもわかんないよ」
「だよねぇ・・・」
「で、はじめ君がなりたいものって何なの?」
「自衛官になりたいんだって」
「おぉ。立派な職業だ。でも、大変そう」
「大変なのかな?」
「だと思うよ。たまに特集テレビでやってるじゃん。皆、すごい筋肉してるよ。それに特殊な技能とかもいるっぽいよ」
「へぇ〜」
「へぇ〜って反応薄・・・」
「ごめんごめん。ちょっと想像できなくて」
「あ〜。楓の家ってテレビあんまり見ないんだっけ?」
「見ないってわけじゃないよ。ニュースとかそんなのだけど」
「名家は名家で大変ってわけだ」
金敷家は旧華族の流れを汲む家だ。
父親は地元の政治家に顔が利くし、規模は小さいものの会社の社長だ。
「久美がそれを言う?」
「私の家はあんまり威張れた家じゃないって」
「そうかな〜?極道とはいえ久美の家の人達って優しいじゃん」
そう。
久美の家は極道一家だ。
昔堅気な男前の強面の親父さんが久美のお父さんだ。
幼稚園の時にはじめて久美の家に遊びに行ったとき泣いてしまったことを思い出す。
「それは娘の友達にいい顔したいだけだよ?今日も馬鹿やった人達がお父さんに怒られてて大変だったんだから」
「想像できないなぁ。で、何やらかしたの?」
「喧嘩だって。最近、うちのシマが荒らされてるらしくてね。ピリピリしてんの」
「それ、久美は大丈夫なの?」
「平気平気。一応、護衛もいるしね」
「全然大丈夫じゃないじゃん。前は護衛なんて必要ないって大喧嘩してたじゃん」
あれは小学校低学年の時だ。
過保護な久美のお父さんは行き帰りに部下をつけていた。
それを同級生にからかわれて大喧嘩になったのだ。
折れたのは久美ではなくお父さんの方だった。
「まぁ、私のことはいいって」
久美はそう話を流そうとする。
あんまり触れられたくない話題なのだろう。
「将来かぁ・・・。全然想像できないなぁ」
「まぁ、はじめ君ははじめ君だよ。私達はゆっくり考えればいいんじゃない?」
「そうだね」
「それより、友達にはなったけど距離を詰める方法を考えた方がいいんじゃない?」
「えっ?」
「私達はエスカレーター式で進学だけど外部受験するなら勉強に時間取られてあんまり時間とれないかもよ?」
「確かに・・・。遊びに誘ったりしたら迷惑かな?」
「邪魔したくないなら勉強会に誘ってみるとかはどう?」
「勉強会かぁ。私達も定期試験があるしそれいいかも」
「決まりだね」
久美との会話を切り上げてはじめ君にメッセージを送る。
「試験に向けて勉強会をしようと思うんだけど一緒にどうかな?」
「いいよ。僕は放課後にいつも図書室で勉強してるから」
「ありがとう」
無事に約束を取り付けたところで久美にもその旨を連絡する。
OKのスタンプが返ってくる。
まだ寝るには少し早いので明日の勉強会に向けてノートを整理することにした。
そこで、重大な事実に気がついた。
告白に気を取られて今日は全然ノートを取っていなかった。
「久美。ごめん。今日の授業の分、明日見せて」
「そんなことだと思った。コピー取っておいたから安心したまえ」
「ごめんね。助かる」
気の利く親友である久美は本当に私にはもったいないぐらいの人物である。
いつものように家をでて久美と合流する。
私はきょろきょろと周囲を見てみる。
「何してるの?」
「いやぁ。護衛がいるって聞いてどんな人かなって思って」
「ふぅ〜ん。でも、残念。見つからないと思うよ?」
「えっ?」
「護衛をつけてもいいけど私に気づかれないって条件だからね」
「そうなんだ?」
「そんなことより早く行こ?遅刻しちゃうよ?」
「わかった」
電車に乗り学校の最寄りの駅に向かう。
いつものことだけどこのラッシュの時間は好きになれない。
ぎゅぅぎゅぅに押し詰められて嫌な気持ちになったことも一度や二度じゃない。
今日は一段と密集具合が酷い。
お尻になにか当たった。
この密集具合だ。
偶然だろう。
そう思っていたのに何度も何度も何かが当たる。
嘘。
痴漢?
そう思うと恐怖で体が震える。
「ちょっと。楓。大丈夫?」
近くにいる久美が心配そうに声をかけてくる。
恐怖で声がでない。
私はただ震えているだけだった。
近くではちょっと押さないでとか痛みを訴える声が聞こえる。
謝罪しつつその騒ぎはどんどん近くなっていく。
騒ぎの主は私の後ろまでやってきた。
「お前。痴漢だな?次の駅で降りてもらおう」
「ち、違う。私はそんなことしていない」
「弁明は警察にでもするんだな」
「痴漢を捕まえた声の主はそう冷たく言い放った。
「国光?」
久美がそう語りかける。
「お嬢。助けるのが遅くなってすみません。お友達に嫌な思いをさせてしまいました」
楓は彼のことを知らなかった。
「私の我が儘で距離を取ってたからでしょ?それよりありがとう」
「いえ。学校に遅れるかもしれませんが付き合ってもらっても?」
「当たり前でしょう」
そう言う久美は他の組員二は見せないような顔をしていた。
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